【獣医師監修】エキノコックスに猫も感染する?人獣共通感染症って本当なの?

2021.12.26

【獣医師監修】エキノコックスに猫も感染する?人獣共通感染症って本当なの?

エキノコックス症という病気をご存知でしょうか? エキノコックスと呼ばれる寄生虫が、何らかの拍子に体内へと侵入し、時間をかけて重い肝機能障害などを引き起こす病気となります。 エキノコックスは犬や猫といったペットに感染することもあり、そのまま何の治療もせずに放置してしまえば、死亡してしまうケースもあるので注意が必要な病気と言えるでしょう。 今回はエキノコックスに感染することによって発症する、エキノコックス症についてご紹介させていただきます。

エキノコックスとは

北海道

「エキノコックス」という言葉を、あまり耳にしたことのない方も多いことかと思いますが、エキノコックスとはテニア科エキノコックス属に属する包条虫の総称となります。

エキノコックスは20世紀後半になってからは「単包条虫」「多包条虫」「ヤマネコ包条虫」「フォーゲル包条虫」の4種類に分類され、この中でもとくに日本で重要視されているのが「単包条虫」と「多包条虫」といった2種類のエキノコックスです。

「単包条虫」の幼虫寄生に関しては輸入感染症として、ごく稀に国内での感染報告がある程度ですが、「多包条虫」の幼虫寄生が原因となるエキノコックス症は北日本(主に北海道)で増加傾向にあるため、感染拡大が懸念されている病気とも言われています。

なぜエキノコックスが北海道といった閉鎖的な地域で流行しているかは、以下のような理由が考えられているようです。

◆主にキタキツネに感染する寄生虫

エキノコックスが北海道で蔓延している理由は、主に北海道で生息しているキタキツネが終宿主となっていることが挙げられます。

そのため、道民の間では「キタキツネに触ってはいけない」などの危機管理が定着していますが、道外の人間にはそのような認識が定着していないこともあり、知らぬ間に北日本だけでなく、本州への拡大が懸念されるようになりました。

2005年には埼玉県で、2018年と2021年には愛知県(主に知多半島)に住む野犬の糞便から、エキノコックスの虫卵が検出されたことにより、道外の人でもエキノコックスを知るきっかけになったと言えるでしょう。

◆エキノコックス症の感染経路

キタキツネがエサとして捕食しているのが、エキノコックスの媒介者(中間宿主)となる「野ネズミ」なので、海に囲まれた閉鎖的な北海道での感染が拡がっていったと考えられているようです。

多包条虫は卵、幼虫、成虫といった成長期があり、最終期の成虫は終宿主となる動物の上部消化管に寄生して産卵し、便と一緒に体外へ排出され、自然界の汚染地域に散乱していきます。

散乱している虫卵を中間宿主の野ネズミなどが、水や食べ物を介することにより経口的に摂取していきますので、このようなライフサイクルがエキノコックス症の感染経路となっているようです。

◆人獣共通感染症(ズーノーシス)

エキノコックス症は終宿主のキツネだけに感染するのではなく、日本でも恐れられている所以として、人獣共通感染症であることが挙げられます。

人獣共通感染症とは別名「ズーノーシス」とも呼ばれ、動物の体内に潜んでいる寄生虫や細菌が何かしらの原因により人間に感染し、媒介者となったペット(動物)に異変が現れる前に、人間の健康に害を及ぼす感染症として知られています。

キツネ以外にも犬はエキノコックスの終宿主となることがありますが、ペットして人と一緒に暮らす猫は、野ネズミと接触する機会が少ない上に小腸の構造上、エキノコックスの発育が悪いとされていたため、猫が終宿主となることはほとんどないと考えられていました。

しかし、2007年に北海道内の飼い猫を調査したところ、1匹の猫からエキノコックスの虫卵が発見されたことにより、猫も少なからず終宿主となることが判明したようです。

エキノコックス症は人から人へ感染することはありませんが、私たちの身近に居るペットの犬猫が感染源となることが分かった以上、他人事として考えることのできない病気と言えるのではないでしょうか。


エキノコックス症の症状

実際にエキノコックスに猫が感染した場合は、以下のような症状が現れると言われています。

◆猫が感染した場合

猫はエキノコックスの中間宿主となる野ネズミを捕食することや、外で暮らす野良猫や外を自由に行き来できる飼い猫などは、キツネが生息している場所で何かしらの理由により、経口感染すると考えられているようです。

猫がエキノコックスに感染した場合、下痢や粘液状の軟便が稀に出るぐらいなので、これといって目立つ症状が出ないことからも、感染に気付かず放置してしまう飼い主さんは多いことでしょう。

◆人が感染した場合

人間はエキノコックスの中間宿主に分類されるので、エキノコックスに感染した場合は、体内に幼虫が寄生していることになり、潜伏期間が非常に長くなると言われています。

無症状のまま体内でエキノコックスは、5~20年もの年月をかけて体を蝕んでいくので、肝臓などの臓器に何かしらの異変が出始めたころには、治療が難しく肝不全を起こして死に至ってしまうこともあるそうです。


エキノコックス症の治療

死に至ることもある恐ろしい病気のエキノコックス症ではありますが、有効な治療法があるのかも知っておきたいところですよね。

猫や人間がエキノコックス症に感染した場合は、どんな治療法があるのでしょうか?

◆猫が感染した場合

猫は基本的に中間宿主になることはなく、エキノコックスにとって非好適な宿主であったとしても、何かしらの理由で終宿主になってしまった場合は、成虫が寄生していることとなります。

エキノコックスは成虫の場合、「プラジクアンテル」が配合された駆虫薬(ドロンシット錠)を投与することによって、ほぼ100%の駆虫が可能であると言われているようです。

◆人が感染した場合

猫と違い人間はエキノコックスの中間宿主となり、何かしらの自覚症状が出始めたころには、体内の至る場所に病巣が形成されていることも否めません。

理想はエキノコックスの早期発見による薬物療法ではありますが、効果が一定ではないことからも、患部の全切除といった外科的手術が唯一の根治を望める治療法と言われています。

無症状期の早期発見こそが鍵となりますが、とくに症状が出ないからといって放置してしまえば、90%以上の確率で死に至るとも言われています。

手術した場合であっても、病巣を全摘出できなかったのであれば、死亡率は5年で70%程度、10年で94%程度にも達しますので、日本に住んでいる以上、誰しもが気を付けておくべき病気と言えるのではないでしょうか。


エキノコックス症の予防

高確率で人間に寄生した場合、死に至るような恐ろしい病原体のエキノコックスではありますが、誰しも感染する可能性がある以上、普段からできる予防法があれば、実行しておきたいものですよね。

エキノコックス症に感染しないためには、どんなことに気を付けて日常生活を送れば良いのでしょうか?

◆猫を室内飼いする

猫と一緒に暮らしている方は、愛猫を室内で飼育することを徹底し、外へ自由に行き来できるような放し飼いをしないことが一番です。

外の世界にはエキノコックスだけでなく、そのほかの感染症や事故などの危険もありますので、完全室内飼いを心掛けるだけでさまざまなリスクの回避ができますよね。

そして、常に愛猫の健康状態を把握しておくためにも、定期的に動物病院で健康診断を受けるようにし、血液検査でエキノコックスに感染していないかの確認も大切となってきます。

北海道に住んでいなくてもエキノコックスの危険性がある以上、責任を持って愛するペットの命を守るようにしましょう。

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◆エキノコックス虫卵が体内に入らないようにする

私たち人間にとってのエキノコックス予防策は、いかにして体内に虫卵を侵入させないということです。

エキノコックスは目視では確認できませんし、条虫症を患っているかも数年経過しないと分かりませんので、日頃からエキノコックスに感染しそうな経路を警戒しておくに越したことはありません。

旅行などで北海道を訪れた際には、キタキツネに触れたり生息している場所には近付いたりせず、沢などの湧き水を飲むこと、果物や山菜といった自然の食べ物を口に運ぶ際はよく洗い、加熱できるものは十分熱を加えてから食べるようにしてください。

また、北海道以外でも感染の報告が出ていますので、野山に出掛けた際には衣服や靴などの泥をしっかりと落とし、うがい手洗いも怠らないようにしましょう。


まとめ

北海道でのキタキツネによる、エキノコックス感染率は40~60%とも言われていますので、可愛いから、珍しいからといって餌付けすることや接触することは絶対に避けてください。

自然界の生き物には本来人間が関与すべきではないのにも関わらず、人間を恐れずキツネが人間の傍に寄ってくるのは、身勝手な一部の人間が一時的に餌付けをしてしまうなどといった、生態系が乱れるような行為をした結果となります。

もしその身勝手な一部の行為により、エキノコックスが色々な動物によって媒介されれば、全国的に感染者は増え続け、感染源となる動物は感染症根絶のために駆除されてしまうかもしれません。

そのような未来を迎えないためにも、一人一人がエキノコックスに対しての認識を改め、大切な犬猫といったペットに感染させないための配慮を心掛けることこそが、恐ろしい感染症の抑止力となるのではないでしょうか。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に15医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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たぬ吉

たぬ吉

小学3年生のときから、常に猫と共に暮らす生活をしてきました。現在はメスのキジトラと暮らしています。3度の飯と同じぐらい、猫が大好きです。

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