【獣医師監修】犬の心臓病とは?心臓病の原因・治療・予防法

2018.12.13

【獣医師監修】犬の心臓病とは?心臓病の原因・治療・予防法

心臓の病気で「心不全」という言葉をよく聞きますが、心不全とは病名ではありません。犬の心不全とは、心臓の働きが不十分になった結果に起きた体の状態のことを指します。犬の心不全は、決して珍しい病気ではありません。 犬の心不全を引き起こす心臓病の原因、治療、予防法をご紹介します。

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犬の心臓病とは?原因は?

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犬の心臓は、全身に血液を送り出すポンプの役割をしています。まずは、この心臓の仕組みについて知っておきましょう。

◆犬の心臓の仕組み

犬の心臓の内部は、左右の心房と左右の心室、4つの部屋に分かれています。

心房は心臓内の上部(背部)にあり、右心房は静脈を通って全身から帰ってきた血液をいったん溜める部屋、左心房は肺で酸素を補給してきた血液を溜める部屋です。

心室は心臓内のそれぞれ下部(胸骨側)にあり、右心室は右心房からきた汚れた血液を肺へ送り出す部屋、左心室は左心房からきた血液を全身へ送り出す部屋です。

心臓の右と左は中隔という壁で仕切られており、血液は行き来できません。また、心房と心室の間には血液の逆流を防ぐための弁があり、右心房と右心室の間にある弁を「三尖弁」、左心房と左心室の間にある弁を「僧帽弁」と言います。

これ以外にも右心室から肺動脈が出る所に「肺動脈弁」、左心室から大動脈が出る所に「大動脈弁」があり、心臓は4つの部屋に応じて4つの弁を備えています。

血液の流れは、右心室→肺動脈→肺毛細血管(酸素の補給)→肺静脈→左心房という「肺循環」と、左心室→大動脈→毛細血管(酸素・栄養分の放出、炭酸ガス・老廃物の取り込み)→静脈→大静脈→右心房という「体循環」の2つに分けられます。

◆心臓病によって心不全の状態になる

犬が心臓病になると、心臓のポンプの役割に異常を来たし、正常に働くことが出来なくなります。そして、ほとんどの心臓病が行き着く先には「心不全」があります。

心不全とは、犬の心臓のポンプ機能が低下し、身体が必要とする血液を送り出すことができない状態のことです。

一般的に犬の心不全には慢性心不全と急性心不全があります。慢性心不全とはうっ血性心不全のことを指し、心筋の収縮力が低下し、全身の組織が必要とする代謝要求量に見合った十分な血液を供給できないために起こる病態のことです。

慢性心不全はじわじわと症状が表れますが、急性のものでは急激に心不全を起こし急死するケースも多々あります。

◆犬の心臓病の原因

犬の心不全とは、心臓がポンプの役割を果たせなくなり、身体へ血液を十分に送り出すことができなくなった結果、身体に浮腫やうっ血など様々な異常が起こる状態を指します。

したがって、犬の心臓の負担となるような多くの心臓病が、心不全の原因となり得ます。

心臓病やそのほかの疾患として、

・心臓の弁の異常
・心臓の周りの血管の異常
・フィラリア症
・心臓の筋肉の異常 などがあげられます。

これに加え、過度な運動、過食・肥満、呼吸器の感染、出血や貧血、妊娠などが更に拍車をかける原因となり、犬の心臓病を進行させます。

◆右心不全と左心不全

犬の心不全は多様な要因が関係しあって起こるもので、原因となる心臓病の種類や程度は様々です。

右心不全と左心不全では特徴的な症状が異なり、右心不全では腹水と浮腫(むくみ)が特徴的です。右心室の収縮力が弱まることで肺動脈へ血液を送り出すことが出来なくなり、右心室・右心房に血液が溜まっていきます。
そのため、静脈の血液が心臓に帰れなくなって全身にうっ滞し、むくみとなるのです。

左心不全では呼吸困難と咳が特徴的な症状です。左心不全になると、左心室から大動脈へ血液がうまく送り出せなくなり、左心側に血液が溜まっていきます。それに伴い肺からの血液も左心房に入りづらくなり、肺がうっ血、その結果呼吸困難を引き起こすのです。


犬の心臓病の種類は?

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左心房か左心室、もしくは両方に障害を与える犬の心臓病には、僧帽弁の異常(僧帽弁閉鎖不全症)、心筋疾患、心臓腫瘍、左心室の先天性疾患(大動脈狭窄、動脈管開存症、心室中隔欠損、大動脈弁閉鎖不全)などがあります。

それに対し、右心不全は左心不全の二次的なものとして起こります。右心の心臓病は、フィラリア寄生による肺動脈の異常、三尖弁閉鎖不全、慢性的な肺の病気、先天性心疾患(肺動脈弁狭窄、心室中隔欠損、三尖弁形成不全)などが原因となります。

心筋疾患、心臓弁膜疾患、その他の各種心疾患が長期にわたって持続することにより、その末期に両心不全が表れます。

◆犬の心臓病①僧帽弁閉鎖不全症

心収縮時に僧帽弁は完全に閉鎖し、血液を大動脈に送り出しますが、僧帽弁の閉鎖が不完全で血液が左心房へ逆流し、大動脈へ血液が十分に送り出されない心臓病です。

中・小型の犬に発生が多く、加齢とともに発生頻度が高くなります。

◆犬の心臓病②大動脈狭窄

左心室から大動脈への流出部の一部が先天的に狭くなっている疾患です。狭窄部位は3つに分けられます。

①弁膜自体が互いに癒着・融合して弁口が十分に開かなくなった弁性狭窄。
②弁直下において異常な結合組織が増殖し、繊維輪と呼ばれる組織が形成された弁下狭窄。
③大動脈腔が弁の上部において狭窄している弁上狭窄。

◆犬の心臓病③動脈管開存症(ボタロー管開存症)

犬の先天性疾患の中では発生頻度の高い奇形で、本来は閉鎖するはずだった肺動脈と胸部大動脈を結ぶ胎生期の動脈管が出生後も開存し続け、両大動脈を結ぶ短絡路として存在してしまう病態です。

◆犬の心臓病④心室中隔欠損

左右の心室間にある心室中隔に穴が開いている先天的心臓奇形です。小さな穴では成長とともに閉鎖することもありますが、通常は穴を通して血液がシャント(本来通るべき血管とは別のルートを流れること)するため、血液循環に異常が生じる疾患です。

◆犬の心臓病⑤大動脈弁閉鎖不全

心拡張期に大動脈弁が完全に閉鎖しないために、大動脈から左心室内へ血液が逆流する心臓病です。大動脈から血液が逆流するため、左心室に容量負荷がかかり、左房室が肥大・拡張します。

◆犬の心臓病⑥三尖弁閉鎖不全症

三尖弁口が完全に閉まらず、血液が右心室から右心房へ逆流する病態です。フィラリア症、三尖弁繊維症、肺性心(肺高血圧を引き起こす肺疾患によって生じる心疾患)による右心室拡張、先天的な三尖弁の異常などによって起きます。

◆犬の心臓病⑦肺動脈弁狭窄

右心室からの流出部の一部が狭くなっている先天的な疾患。狭窄部位は3つに分けられます。

①弁尖が互いに癒合して弁口が十分に開かなくなった弁性狭窄。
②弁下部における心筋の肥大、または結合組織の増殖により繊維輪とよばれる組織が形成され、流出部が狭窄した弁下狭窄。
③肺動脈幹の発育不全によって弁上に狭窄がみられる弁上狭窄。


犬の心臓病の治療法は?

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犬の心不全を治すためには、基礎となっている心臓病やそのほかの疾患を治すほかありません。

◆薬物治療

犬では、薬を使って血液のうっ滞や四肢のむくみを改善させることで、心臓への負担を軽くする「維持療法」が主に行われます。
心筋の力を強化する強心薬や、血管を広げてうっ血を改善させる血管拡張薬、おしっこを増やしてむくみを取る利尿薬などが使われます。

犬に呼吸困難が見られる場合には気管支拡張薬が使われたり、必要であれば酸素吸入も行われます。自宅に設置できるペット用酸素部屋を貸し出すサービスもあります。

◆生活習慣の見直し

心臓病の犬は、普段の生活において運動制限をしたり、興奮をさけたりすることが重要です。また、塩分を控えた療法食を与えることも有効です。

犬の心臓病は、症状や個体差によって薬の量や回数が増減されますので、犬の日々の状態や症状を注意深く観察し、獣医師に正確に伝えましょう。

心臓病の治療を開始した犬でも、症状が安定するまでに時間がかかることがあります。また、犬は心臓病を発症すると、一生治療が必要になることもあります。

見た目に症状が良くなっても、急に投薬を中止したりすることのないようにしましょう。


犬の心臓病の予防法は?

犬の心臓病予防には、栄養バランスの良い食事を与え、適度に運動させることが大切です。

◆肥満にならないよう健康的な生活をさせる

犬の肥満は万病の元となり、心臓にも大きな負担をかけます。犬の横腹を触り、あばら骨にかるく触れる程度の適正体重を維持するようにしてください。

犬も人と同じように定期的に健康診断を受け、異常が見つかったらできるだけ早期に治療を開始することで、予後が良くなります。

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◆フィラリア症予防をする

犬のフィラリア症は心臓にとって致命的ですので、予防期間内は忘れずにフィラリア症予防薬を飲ませることを徹底してください。薬の飲み忘れなどからフィラリアに感染し、心臓にまで異常を来たしている場合があります。

予防期間の初めには、フィラリア症の感染がないかどうか、病院で検査を受けるようにしてください。


犬の心臓病まとめ

犬の心臓病は、診断時の問診が重要になります。犬は自分で症状を訴えることが出来ない為、飼い主さんが正確に細かく伝えなければいけません。
どの程度運動するとどんな症状が表れて、安静時にはどんな状態か、という情報は診断のときに大いに役立ちます。

普段から犬をよく観察し、異変を感じたら病院で相談するようにしましょう。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に15医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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harunyan

動物の専門学校で看護の資格を取得後、6年間動物病院に勤務しました。5歳のシェルティと4歳の猫、0歳の息子と毎日楽しく過ごしています。ペットと過ごすうえで役に立つ情報をお届けできるよう、日々勉強しております。よろしくお願いします。

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