研究者も知らなかった、浮世絵の猫

現在の猫ブームに引き寄せられるように、浮世絵に描かれていた猫が江戸時代から引っ張られ、様々な美術館で展示会を開催しています。
浮世絵は明治の初め、パリの万博に出品して評判になり、博覧会終了後に現地で売られました。ヨーロッパの文化人がこぞって浮世絵を購入したために、大量の浮世絵が輸出されていきました。日本では評価されなかった浮世絵も高値で取引され、偉大な芸術家の作品として浮世絵は高く評価され、その研究の為に日本には逆輸入として入ってきました。その浮世絵の中にたくさんの猫がいたのです。
江戸時代には「日本猫」として定着し、庶民の家庭にペットとしてすっかり馴染んでいました。その様子が浮世絵の中に記録写真のように描かれています。
無類の猫好き、歌川国芳

猫の浮世絵と言えば、この人、歌川国芳です。
無類の猫好きで、常に複数匹猫を飼っていて、懐に猫を抱いて作画していたと伝えられるほどです。
猫が亡くなれば、回向院に葬り、家には猫の仏壇があり、猫の戒名が書かれていた位牌が飾られ、猫の過去帳まで記してあったそうです。
国芳はよっぽど猫がすきだったのか、猫と関係のない題材の浮世絵にも隅の方に猫をしっかり描いているのです。
その他にも・・・
ゴッホやモネなど世界中で知られるほどの画家に影響を与えた素晴らしい画家です。東海道五十三次、富士三十六景はあまりにも有名な作品ですが、広重も猫を浮世絵に登場させていました。
月岡芳年は歌川国芳の弟子で、幕末から明治前期にかけて活動した浮世絵師です。「狂気の絵師」「異才絵師」と呼ばれ、洋風を融合した独特の描法で歴史上の事件に取材した作品を多く制作しました。
彼の作品は谷崎潤一郎や江戸川乱歩、三島由紀夫など、大正・昭和に活躍した文学者たちに様々なインスピレーションを与えたといいいます。
日本各地で開催される猫の浮世絵展覧会

猫を描いた浮世絵ばかりを集めた、楽しい展覧会を太田記念美術館が2012年6月に開催しました。
歌川国芳や国芳の弟子、周辺の絵師が描いた作品243点が展示され、猫好きな人たちが連日押し寄せ大反響でした。
今年4月には、「あそぶ 浮世絵 ねこづくし」と題した展覧会が開催され、22日は猫の日にちなんで、猫グッズを持参した方は入場料が半額となるサービスがあり、大反響でした。
ネコノミクス効果で猫とつくだけで、今まで関心のなかった若い人や浮世絵を初めて見に来たという方まで幅広い客層で連日にぎわいました。
しかし、猫が描かれた浮世絵がこれほどあるのかと驚きです。
浮世絵の中の不思議な猫達

浮世絵で描かれている猫は隅で寝ていたり、遊んでいたりするだけではなく、様々な思考を凝らした浮世絵が沢山出品されています。
珍しいところでは、歌川国芳の作品で「猫の当字」です。窮屈そうに猫が様々なポーズで好物の魚を描き入れ、その魚の名前を絵文字にデザインしたのが秀逸です。
団扇に貼るための団扇絵「猫のすずみ」は、隅田川の夕涼みの様子を描いた作品です。
猫の芸者が桟橋から屋根舟に乗るところで、猫の船頭が手を差し伸べて誘導しています。舟の奥では猫の若旦那が待っています。人間だったらあたりまえのシーンを、猫が人間のように着物を着ているのが不思議な光景です。
猫の着ている着物の柄にも凝っていて、猫の好きなアワビを描いているのです。

国芳の猫絵の真骨頂は何と言っても戯画ではないでしょうか。江戸時代は「狂画」と呼んでいました。発想が豊かな国芳は猫をモチーフに数多くの狂画を描きました。広重の風景画「東海道五拾三次」が大当たりするとそれをパロディで描き、宿場名の語呂あわせで猫の日常の生態を描いた「其のまま地口猫飼好五十三匹」は大作です。
いかがでしたか?
猫ブームを追ってみたら、江戸時代まで行ってしまいました。
浮世絵と言われても、写楽や北斎くらいしか知らなかったのですが、これほどまでに猫を描いた浮世絵があったとは驚きです。
浮世絵に出てくる猫を見ていると、浮世絵は芸術作品ではなく、庶民の娯楽だったことがよくわかります。
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