ノーベル賞を受賞した大村智特別栄誉教授は 数え切れないほど多くの愛犬の命を救っています

2016.03.31

ノーベル賞を受賞した大村智特別栄誉教授は 数え切れないほど多くの愛犬の命を救っています

2015年12月5日、スウェーデンのカロリンスカ医科大学は、大村智(おおむらさとし)・北里大学特別栄誉教授、アメリカ・ドリュー大名誉研究フェローのウィリアム・キャンベル先生らにノーベル医学生理学賞を贈ることを発表しました。カロリンスカ医科大学が評価した研究のひとつが、寄生虫病の治療薬「イベルメクチン」。そしてこの「イベルメクチン」は、私たちの愛犬を「フィラリア」から救う発明でもありました。

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年間3億人が飲むだけではなく、数え切れない愛犬の命を救う大発明

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「イベルメクチン」は、「河川盲目症(オンコセルカ症)」の治療に使われ、年間3億人が治療と予防のために飲み、年4万人もの患者を失明から救ってきました。「河川盲目症」は、アフリカや中南米などの熱帯地方で流行している寄生虫による感染症で、激しいかゆみを起こすばかりか、感染者の2割が失明する恐ろしい病気です。「河川盲目症」は、ブユにかまれた人間の体内に、フィラリア線虫の幼虫が入り込むことによって感染します。
このフィラリア線虫、どこかで聞いたことはありませんか? そう、ワンちゃんが毎年春から冬の初めまで薬を飲んで予防する、あの「フィラリア」です。

フィラリアは死に至る恐ろしい病気です

犬のフィラリアは「犬糸状虫症」とも呼ばれます。蚊の体内で育ったフィラリア(糸状虫)の幼虫が、蚊の刺し傷から犬の体内に移動して成虫になり、犬の心臓の右心室から肺動脈にかけて寄生します。糸状虫の長さは、雄で15cm、雌で30cmにもなります。
そんな虫が犬の心臓や動脈に寄生するのですから、当然、血液の循環が悪くなります。そのうち、栄養不良や肝硬変、脳貧血などを起こし、最後には腹水がたまって死に至ります。犬だけでなく、猫やフェレットにも感染します。
「フィラリア」は、ワンちゃんが番犬として屋外で飼われていた80年代までは、犬の死因として癌などよりも恐れられていた病気でした。

フィラリアの画期的な予防薬が「イベルメクチン」

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「蚊から感染した幼虫が、発育しながら皮膚から心臓への移動を始める2カ月間に幼虫を殺す」というフィラリアの予防法を1966年に確立したのが、当時、東京農工大農学部獣医学科獣医内科学教室にいらっしゃった大石勇教授です。
そして、北里研究所抗生物質室長だった大村智先生が、1974年に静岡県伊東市の川奈ゴルフ場近くの土を持ち帰って分析し、カビに似た新しい放線菌を見つけたことが、「イベルメクチン」開発の第一歩でした。
大村先生は、動物薬の共同研究をしていたアメリカの大手製薬会社・メルク社にこの放線菌を送りました。そして、当時メルク社にいらっしゃったキャンベル先生が、この放線菌がつくる物質をマウスに投与し、寄生虫が激減することを確認しました。さらに、大村先生が見つけた放線菌の化学構造を変えて「イベルメクチン」を開発したのです。
イベルメクチンが線虫の神経に働き、まひを起こして死滅させることを発見した大村先生とキャンベル先生は、1979年に共同で論文を発表しました。そして1981年に、「イベルメクチン」は家畜用の抗寄生虫薬としてアメリカで発売されました。1987年4月からは、日本でもワンちゃんのフィラリア予防薬として発売されています。

「イベルメクチン」によって犬の平均寿命が長くなった

東京都家庭動物愛護協会会長・須田動物病院院長の須田沖夫先生が発表された論文http://nichiju.lin.gr.jp/mag/06401/a6.pdfによると、1980年における犬猫の平均死亡年齢は3~4歳でした。ところが、1998 年には14 歳に達し,その後10 年間は13 ~14 歳で推移しています。
その理由について、須田先生は「1980 年代はじめの死亡原因は,犬の場合フィラリア, 回虫,ジステンパー,レプトスピラなどの感染症,交通 事故,栄養失調などの幼獣の死亡が多かった.フィラリアの駆虫,混合ワクチンの普及,放し飼いの減少,ドッグフードの普及により幼若動物の死亡が減り,平均寿命が少しずつ長くなった」と分析されています。
ワンちゃんのフィラリアが激減したのは、「イベルメクチン」をフィラリア予防のため愛犬に飲ませるようになったことが非常に大きいと筆者は考えています。

愛犬のフィラリア予防が多くの人々の命を救う

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動物用に販売を開始した「イベルメクチン」は、人間の熱帯病「河川盲目症」にも効くことがわかりました。そして、メルク社は人間用の「メクチザン」を開発し、1987年から「河川盲目症」に苦しむ人たちへ無償提供を始めました。人に無償提供することができたのは、「イベルメクチン」が世界で毎年1500億円以上売れて、多大な利益をメルク社にもたらしたからです。その利益を、熱帯病に苦しむ人たちのために使ったメルク社も、とても素晴らしい会社だと思います。
この一連の研究が「人類に計り知れない恩恵をもたらした」とノーベル賞委員会から評価され、大村先生とキャンベル先生はノーベル賞を受賞しました。
最後に、フィラリアから私たちの愛犬を守ってくれた大村先生とキャンベル先生、メルク社、そして大石先生に、愛犬家のひとりとして心から感謝したいと思います。
また、フィラリア予防薬の購入と愛犬への投与は、愛犬の命を救うだけではなく、今も熱帯で寄生虫病に苦しむ多くの人々を支えることにもつながります。
ぜひ、毎年4月は愛犬の健康診断と狂犬病などの予防接種、フィラリア予防薬の投与開始をよろしくお願いいたします。

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石原 美紀子

石原 美紀子

青山学院大学卒業後、出版社勤務を経て独立。犬の訓練をドッグトレーニングサロンで学びながら、愛玩動物飼養管理士1級、ペット栄養管理士の資格を取得。著書に「ドッグ・セレクションベスト200」、「室内犬の気持ちがわかる本」(ともに日本文芸社)、「犬からの素敵な贈りもの」(出版社:インフォレスト) など。愛犬はトイ・プードルとオーストラリアン・ラブラドゥードル。

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