【獣医師監修】猫の伝染性腹膜炎(FIP)の原因、症状、治療法は?他の猫にうつる?

2019.04.22

【獣医師監修】猫の伝染性腹膜炎(FIP)の原因、症状、治療法は?他の猫にうつる?

猫伝染性腹膜炎=FIPとは、Feline Infectious Peritonitisの略で、猫がかかる恐ろしい病気のひとつです。一度発症してしまうと、ほぼ100%猫が命を失う病気であるため、飼い主さんは、伝染性腹膜炎についてよく知っておく必要があります。さらに、伝染性とあるので、猫にどのようにうつるのかも気になりますね。 猫伝染性腹膜炎(FIP)について、どのような原因でうつるのか、症状はどのようなものか、FIPの治療法、さらに予防法などについてご紹介します。

猫のFIPとは?

元気のない猫

◆猫がかかる恐ろしい病気「猫伝染性腹膜炎(FIP)」

FIPとは「Feline Infectious Peritonitis」の略で、猫伝染性腹膜炎という病気のことを指し、猫伝染性腹膜炎ウイルスによって様々な症状が出る免疫性の疾患です。

FIPに感染してしまうと、発症するまでの潜伏期間が数週間~数ヶ月あります。
そして一旦発症すると、効果的な治療法がなく、発症後には短いもので数日から10日前後ほどで、猫は死に至ってしまうとされています。

症状を一時的に和らげることはできますが、完治させることはできず、特効薬ワクチンもありません。

治療で症状が軽くなる場合もありますが、再び症状が悪くなって、ほとんどの猫が死んでしまいます。

◆猫伝染性腹膜炎(FIP)になりやすい猫は?

猫伝染性腹膜炎(FIP)になりやすい猫としては、雑種よりも純血種の方がかかりやすいと言われています。種類としては、アビシニアンラグドールロシアンブルーバーミーズヒマラヤンマンクスなどがあげられます。

この理由として、雑種猫の細胞性免疫が強いために、FIPを発症しにくいのではないかと考えられています。

しかしFIPにかかりやすい猫種は、調査する国によって若干違うため、単純に猫種だけではなく、猫の遺伝に関係している可能性もあります。

◆猫伝染性腹膜炎(FIP)は他の猫にうつる?

猫伝染性腹膜炎は、多くの猫がすでに持っている「猫腸管ウイルス」が何らかの原因で猫の体内で突然変異をして「猫伝染性腹膜炎ウイルス」になり、発症すると考えられています。

猫腸管ウイルスは、病原性が弱く、多くの猫に感染歴があるウイルスです。そして猫腸管ウイルスは、猫同士のグルーミングやトイレを共有することで、唾液や便、鼻汁、涙などが猫の口に入りうつるものです。

猫腸管ウイルスに感染しても、ほとんどの猫は無症状か、下痢が短期間起こる程度で、自然に回復します。
しかし、猫伝染性腹膜炎ウイルスに変異して発症すると、発熱したり元気がなくなったりし、下痢や嘔吐が見られ、その後に腹膜炎などの病気で症状が重くなり、死に至ることになります。

猫伝染性腹膜炎は、猫伝染性腹膜炎ウイルスに変異する前の猫腸管ウイルスがうつることで、結果的に発症すると考えられます。

また、すでに猫伝染性腹膜炎(FIP)ウイルスを発症した猫の便に触れることでも、他の猫に感染する可能性が指摘されています。


猫のFIPの原因は?

子猫を舐める母猫

◆猫腸管ウイルスの突然変異が原因

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫の体内の猫腸管ウイルスが突然変異して、猫伝染性腹膜炎ウイルスとなって発症すると考えられます。

猫腸管コロナウイルスが猫の体内で増殖する時に、遺伝子の一部に変異が起こって猫伝染性腹膜炎ウイルスが生み出されるという説と、もともと病原性の強いウイルスが猫腸管ウイルスにあったとされる説があります。

猫腸管ウイルスは、1匹で飼われている猫の30~50%、多頭飼いの猫のうち80~90%の猫に感染歴があると推測されています。そして、猫腸管ウイルスに感染した猫のうち、5%~12%の猫が猫伝染性腹膜炎(FIP)になると推測されます。

◆猫のFIPの感染経路

猫腸管ウイルスがうつるのは、すでに感染した猫の便や唾液などが口に入ることによる感染です。猫が直接便などを口にしなくても、感染猫の便が被毛や足の裏などにつくことで、猫同士のグルーミングによる唾液や、自分自身のグルーミングによって猫の口に入るということが原因となります。

そのため、猫腸管ウイルスは、生後2週以降からの子猫の頃から、母猫やきょうだい猫と一緒にいることで、感染する可能性があります。

もちろん、成猫になってからも、多頭飼いや外猫との接触により、感染することがあります。

◆猫のFIP発症の原因

どのような原因で猫腸管ウイルスが猫伝染性腹膜炎ウイルスになり、FIPを発症するのかについては、次のようなことが考えられます。

・猫のストレス
・他の病気により免疫力が落ちる
・猫の年齢
・猫の遺伝

・猫のストレス
猫のストレスは、猫伝染性腹膜炎(FIP)の発症に大きくかかわっていると考えられます。

多頭飼いを始めた時に、先住猫がFIPを発症したとすると、ストレスを感じた先住猫のすでに体内にあった猫腸管ウイルスが猫伝染性腹膜炎ウイルスに変異して、発症した場合が多いということです。

もちろん、すでに感染した猫と一緒に暮らすことで、猫トイレの便に接触する回数も増えますので、ウイルスの変異に影響を及ぼすという説もあります。

・他の病気により免疫力が落ちる
ストレスを感じるだけでなく、他の病気にかかることで、免疫力が低下することも猫伝染性腹膜炎(FIP)の発症の原因となります。

具体的な病気としては、猫白血病ウイルス感染症や猫汎白血球減少症、猫エイズウイルス感染症などがあります。

・猫の年齢
猫伝染性腹膜炎(FIP)は猫が何歳でも発症しますが、3歳未満で発症することが多いとされています。

これは、若い猫のほうがウイルスの増殖が活発に行われているためかも知れません。


猫のFIPの症状は?

ケージの中の猫

猫の猫伝染性腹膜炎(FIP)の症状は、その特徴から、ウェット型とドライ型の大きく2種類に分けられます。

全体の割合では、ウェット型が60~70%、ドライ型が30~40%となっています。ただし、はっきり区別できないことも多く、どちらの症状も現れることがあります。

なぜ症状が別れるのかという理由ははっきりしていませんが、免疫の反応具合によって異なるのではないかと考えられています。

◆ウェット型の症状

・発熱する
・元気がない
・腹部膨満、お腹に体液がたまる(腹水)
・胸に体液がたまる(胸水)
・心膜に滲出液がたまる(心嚢水)

ウェット型(滲出型)とは、血管からタンパク質が漏れ出て、周りにたまってしまう状態のことです。

滲出液は、主に腹膜腔や胸膜腔、心膜腔にたまり、たまった場所が大きく膨れてしまいます。

腹水や胸水は、発症して悪化すると実際に膨れて見えますので、飼い主さんでもわかるようになります。

◆ドライ型の症状

・発熱する
・元気がない
・黄疸が見られる
・腸間膜リンパ節の肥大
・リンパ球の減少
・眼球の症状(ブドウ膜炎、視覚障害、角膜沈殿物、虹彩炎など)
・神経の症状
・腎臓に腫瘤ができる

ドライ型とは、滲出液はありませんが、眼球や脳、肝臓や脾臓、肺などに症状が現れます。

ウイルスが隠れた感染細胞が上記の部位のまわりに免疫細胞を集め、免疫細胞から出される酵素がウイルス近くの正常な細胞を破壊してしまうためです。


猫のFIPの治療法は?

猫伝染性腹膜炎(FIP)を治療できる特効薬は、現在のところありません。

治療方法としては、抗ウイルス剤やステロイド、インターフェロンなどが使用されます。

しかし、投与することで一時的に猫の症状がおさまっても、再発して死んでしまうことが多くなっています。また、治療をしても効果が見られないまま症状が悪化していくこともあります。

そのため、一度FIPを発症してしまった場合は、猫の余命をどのくらい伸ばすか、どのくらい苦しまずに過ごさせられるかということが治療のポイントとなります。

FIPが完治したという話題がインターネット上に出回ることもありますが、それは奇跡に近く、また事実かどうかもわからないため、あまり期待はできないのが実際のところです。

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猫のFIPの予防法は?

猫伝染性腹膜炎(FIP)を予防するには以下のようなことが有効です。

◆猫のストレスを減らす

猫伝染性腹膜炎の発症には、猫が受けるストレスが大きくかかわっていると考えられます。

ストレスを感じているかどうかはわかりにくいものですが、できるだけよい環境で過ごさせ、不安や恐怖を感じさせないような生活を猫にさせてあげましょう。

十分な広さのある場所で運動ができるような、健康的な環境作りも大切です。

多頭飼いの場合には、それぞれの猫が喧嘩をせずに伸び伸びと暮らせる環境が必要です。

◆室内飼いをする

他の外猫との接触でウイルスがうつることや、病気がうつることで免疫力が低下してFIPを発症すると考えられるので、猫を室内飼いすることも予防につながります。

多島飼いの場合にも、お互いにストレスを与えないように気をつけることはもちろん、それぞれに病気にかからないよう、ワクチンがあるものは受けておくということが重要です。

◆飼い主さんは手をよく洗う

猫伝染性腹膜炎ウイルスは、消毒薬や市販されているアルコールなどで不活化することができます。飼い主さんは、猫に触る前や、外出から帰宅した時などは、手をよく洗うように気をつけると良いでしょう。

さらに、野良猫や外にいる猫はむやみに触らないようにして、触った後にはよく手を洗うことも大切です。

◆トイレを清潔に保つ

猫の便を介してウイルスがうつると考えられるので、猫トイレはいつも清潔にして、便をした場合には毎回できるだけ早く取り除くようにします。

多頭飼いしている時には、猫の頭数プラス1個の猫トイレを用意して、トイレが汚れ過ぎるのを防ぐようにしましょう。

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◆免疫力の低下につながる病気を防ぐ

猫白血病ウイルス感染症や猫汎白血球減少症、猫エイズウイルス感染症などの免疫が落ちる病気にならないようにすることが、猫伝染性腹膜炎(FIP)の予防になります。

ワクチンで予防できるものもあるので、受けられるものは必ず受けておきましょう。

定期的に健康診断を受けておくことも、猫の健康を保つことになるため、結果的に猫伝染性腹膜炎(FIP)の予防になります。

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【獣医師監修】猫にも予防接種は必要?ワクチンで予防できる病気と費用について

子猫から猫を飼うと、予防接種を勧められることが多いと思います。それは、子猫の免疫力が低くなる時期に感染症などの病気になりやすいからです。しかし、大人になった猫にも感染症のリスクはもちろんあります。外を散歩する猫や喧嘩しやすい猫は、感染率も高くなります。
この記事では、猫への予防接種の必要性、ワクチンの種類と費用、予防接種で防げる病気の症状、予防接種による副作用などの注意点をご紹介していきます。

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猫伝染性腹膜炎(FIP)のまとめ

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、発症してしまうと、効果的な治療法がなく、猫の命にかかわる病気です。

猫伝染性腹膜炎ウイルスが突然変異する元となる猫腸管ウイルスは、猫から猫へうつり、多くの猫が感染歴のあるウイルスです。

猫伝染性腹膜炎はワクチンや特効薬がないため、発症させないようにすることが予防となります。

特にストレスを感じることがよくないので、完全室内飼いをし、猫が安心して楽しく暮らせるような環境を作るようにしてください。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に14医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
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nekoninja

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ネコ、犬、インコ、金魚などと暮らした経験を生かし、飼い主さんに役立つよ うな記事を作成しています。 ペット情報を日々チェックしながら、ペットについて勉強中です。かわいいペ ットをメインとしたイラスト作成もしています。

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