猫エイズとは?
猫エイズとは、猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染することよって引き起こされる疾患のことです。
イエネコ以外のライオンやヒョウ、チーター、トラ、ボブキャットなどネコ科の動物が感染することがわかっており、人間に感染することはないとされています。
◆猫エイズはどのように感染する?
猫免疫不全ウイルスそのものは比較的弱いウイルスのため、空気感染や接触感染をすることはありません。
血液や唾液を介して感染するので、猫エイズの感染の仕方としては、猫同士の喧嘩による咬み傷や、母猫から子猫への感染などがあります。
完全室内飼いで、他の猫との接触がない場合には、猫エイズに感染する危険はほぼないと言えるでしょう。
また、母猫が猫エイズキャリアだったとしても、生まれてくる子猫が必ずしも感染しているとは限りません。
◆猫エイズは命に関わるの?
猫エイズにかかり、発症して体に様々な症状が出て免疫力がなくなると、治療することもできず、死に至ることがあります。
しかし、もし猫エイズウイルスに感染しても、健康な猫であれば、免疫の働きによってウイルスを抑え込み、発症しないで済むこともあります。
猫エイズウイルスキャリアであっても、健康な猫とおなじくらい生きたという事例も多くありますので、悲観することはありません。また、安易に安楽死を選ぶ必要も全くありません。
ただし、二次感染を防いで、猫が健康に生きられるように配慮した生活をさせる必要があります。
猫エイズの症状は?
猫エイズの症状は、大きく分けると3段階で進行します。
◆急性期
急性期は、ウイルスに感染した直後に、数週から4ヶ月ほどに見られる一時的な症状のことです。猫の血中にFIVに対する抗体=抗FIV抗体ができます。
次のような症状が見られるようになりますが、猫エイズ特有といったものではないので、猫エイズに感染したことに気づくのは難しいと言えます。
・発熱
・口内炎
・下痢
・結膜炎
・食欲不振
・白血球の減少
・リンパ節腫大
◆無症状キャリア期
潜伏期間とも呼ばれ、ウイルスは体内にありますが症状がない状態のことです。
猫の体内の白血球数が減少した後、免疫応答が始まって、ウイルスの抗体が形成されたり、ウイルスに対応する免疫を担当する細胞が増えたりします。
血中のウイルス量が減るため、一時的に症状がおさまりますが、免疫力は少しずつ低下していきます。
この潜伏期間は、猫の免疫力や年齢、他の病原体と接触するかどうかなどによって違いますが、数ヶ月から数年間ほど続くとされています。
猫エイズの症状が出ないまま、無症状キャリア期を維持したまま、寿命を迎える猫も多くいるとされています。
◆猫エイズ発症期
猫エイズの発症期には、免疫細胞が減少したことによって、ウイルスの増殖を防げなくなるため、以下のような様々な症状が現れます。
・元気がなくなる
・発熱
・貧血
・体重の減少
・口内炎
・鼻炎
・リンパ節腫脹
・ブドウ膜炎
・ウイルス感染症
・日和見感染
・悪性腫瘍(ガン)
日和見感染は、通常の健康な猫であれば自力で治ってしまうような病気でも、症状が悪化して命にかかわることになる状態です。
また、免疫力が落ちるので、ガン細胞を抑えこむことができなくなって増殖し、腫瘍になります。
その後、免疫が完全に機能しなくなって、「後天性免疫不全症候群期」が訪れます。
免疫機能が失われてしまうと、様々な症状が出てきて、治療することもできなくなり、最終的には命を落とします。
猫エイズの検査方法は?
◆血液採取、検査キットによる検査
猫免疫不全ウイルスに感染しているかどうかは、ウイルスに対する抗体(抗FIV抗体)ができているかどうかを検査して、診断します。
FIVは、動物病院で猫の血液を採取して検査キットで調べられ、末梢血液中の抗体を検出します。
◆検査の際の注意点
一般的には、感染から60日以降の検査で検出できるようになります。
ただし、抗FIV抗体は、感染した時期によっては正しく検査されない場合もあります。
・FIVに感染した直後の場合
猫がFIVに感染しても、抗体ができるまでには1ヶ月から60日ほどかかります。感染した直後では検査をしても陰性となることがあります。
・ワクチンを摂取している場合
猫がFIV用のワクチンを摂取している場合は、抗FIV抗体が体の中にできているため、検査をすると感染していなくても、結果が陽性になってしまいます。
ワクチンによって出来た抗体は人工抗体で、感染によって出来た抗体は自然抗体となります。人工抗体を持った猫を、猫エイズ陽性と判断すると、必要のない治療や隔離をしてしまうことになります。
このため、抗体の由来を間違えないように検査する必要があります。
・母猫が抗体を持っている場合
母猫が猫エイズに感染していたりFIVワクチンを受けていたりして、体内にFIV抗体を持っている場合には、胎盤や初乳を通して子猫にも抗体が移行していることがあります。
母猫が猫エイズに感染していても、子猫が必ずしもFIVに感染しているとは限らないのですが、感染していなくても、FIV抗体を譲り受けていることはあります。
子猫は生まれた最初の授乳の時に、母親から免疫を譲り受けます。この免疫機能が子猫の体内から自然消滅するのが生後6ヶ月を過ぎた頃になります。
このため、子猫のFIV検査は、生後6ヶ月以降に行うのが理想です。
猫エイズの治療法は?
◆猫エイズは対処療法が基本
残念ながら、根本的な猫エイズの治療法や特効薬は、今の所ありません。免疫力の低下に伴って様々な症状や疾患が現れますので、対処療法として治療していくことが主な猫エイズの治療になります。
また、発症した後に免疫力が低下することで、細菌感染や日和見感染などを起こさないように、抗生物質などが使用されることもあります。
免疫抑制剤を使用した治療が行われることもありますが、副作用があるので、症状に応じて使用するかどうかが決まります。他の対処療法が優先されることもあります。
◆発症を抑える方法もある
もし猫エイズに感染してしまっても、まだ発症していなければ、発症を抑え込むという方法があります。
治療しているわけではないため、必ず発症を抑え込めるものではありませんが、猫自身の免疫力が落ちないよう、清潔な環境で、ストレスをできるだけ感じないような生活をさせてあげることが大切です。
猫エイズに感染=死ということはなく、発症を抑えることによって健康な猫と変わらないような生活をし、健康な猫と同程度の寿命を全うすることもできるのです。
猫エイズの予防法は?
◆猫エイズに感染した猫との接触をなくする
まず、猫エイズに感染している猫との接触しないようにすることが一番の予防法です。そのため、完全室内飼いをして、野良猫や外飼いの猫との接触がないようにします。
オス猫は去勢手術をして、発情期によって外に出たがり、他のオス猫との喧嘩をする、といったことのないようにします。
また、去勢手術により発情期のストレスを感じないことで、猫エイズに感染した時の免疫力低下によることの二次感染を予防する効果も期待できます。
もし複数の猫を飼っていて、一匹が猫エイズに感染したとすると、他の猫とは隔離する必要があります。新しく猫を迎える時には、その猫が猫エイズに感染していないかどうか検査をするようにしてください。
◆ワクチン接種をする
さらに感染している猫と接触した場合のために、ワクチン接種をしておくことも大切です。
ただ、ワクチン接種をしても100%猫エイズの感染を防げるものではありません。
その理由は、猫エイズにはサブタイプがA、B、C、D1、D2、Eと種類があり、その中でもワクチンの効果が確認されているのがA、B、D1だけとなっているためです。
さらにワクチンを打ったとしても、抗体が作られない猫もいます。
また、ワクチンを打ったことによる副作用も無視はできません。
ワクチン接種後に一過性の発熱や下痢、嘔吐などの症状が出ることがあります。まれにですが肉腫ができたり、アレルギー反応やショック症状が現れたりすることもあります。
そのため、ワクチン接種をするかどうかは、かかりつけの獣医さんとよく相談して決めると良いでしょう。
完全室内飼いをしていて、他の猫との接触がない猫であれば、猫エイズワクチン接種の必要性は低いと考えられます。
◆メス猫の避妊をする
検査で猫エイズに感染していることがわかった母猫は、避妊手術をして、その後に猫エイズに感染した子猫が生まれないようにします。
猫エイズについてのまとめ
猫エイズは、根本的な治療法がなく、ワクチンも100%の効果が期待できないため、予防が大切な病気です。避妊や去勢手術をして猫同士の喧嘩を減らし、完全室内飼いにすることが予防につながります。
また、もし猫エイズに感染したとしても、発症を抑えることで、健康な猫と変わらない寿命まで生きることができます。
猫エイズにかかっても健康で長生きしてもらうためには、完全室内飼いにして他の猫との接触を断ち、ストレスのかからないような環境で過ごさせることが大切です。
猫エイズを恐れ過ぎずに、検査や定期的な健康診断などを行い、猫の体調管理に気をつけて、健康で幸せな生活ができるようにしてあげましょう。
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