猫の点滴とは?
点滴とは、体内へ針などを通して、直接栄養成分や抗生剤などを、一定時間で一定量投与する治療法です。「輸液」「補液」とも呼ばれます。
動物医療における点滴には、皮下点滴と静脈点滴があります。
◆点滴を必要とする場面
点滴は、一般的に体内の水分量や血液量が減っている時や、塩分やカリウムなどのミネラル分が不足している時に行われます。
これらは、様々な病気によって引き起こされますが、下痢、嘔吐、腎臓疾患、糖尿病、ホルモン性の病気などが代表的です。
また、以下のような場合には、栄養素の補給のために行われます。
・食べることができない
・消化管の病気などで栄養が摂取できない
この場合、輸液剤にビタミン類、糖質、アミノ酸、あるいは脂質などを混合して投与します。
手術の前後や重篤な病気の場合にも、栄養の補給や血圧管理などのため、輸液を行います。
◆猫の場合は腎臓疾患での点滴が多い
猫の腎臓は、飲み水が少ない環境で効率よく生活できるよう機能が強く、その分よく働きすぎています。その代償として、年齢が上がるにつれて、大きな負担がかかっていきます。
ほとんどの猫は高齢になると腎臓機能が低下していき、慢性腎臓病(CKD)になる子の割合が高いです。腎臓疾患になると、腎臓での水分の再吸収が不十分になり、進行すると脱水状態になります。
点滴を行うことで、口から飲ませることができない量の水分を補い、脱水症状の改善や尿毒症を和らげる効果があります。
下痢や嘔吐のように一時的な治療で行われる場合と異なり、腎臓疾患などでは長期的な治療の一環として行われることが多いです。
そのため、数日~数週間おきの定期的な点滴が必要になることもあります。
猫の点滴の種類
猫に行われるのは、主に皮下点滴と静脈点滴の2種類です。
皮下点滴は通院または自宅で行うことができる方法で、静脈点滴は病院で行われ、入院が必要となる場合もある方法です。
◆皮下点滴
皮膚と筋肉の間を、皮下といいます。犬や猫の背中の皮膚を摘まむと伸びるのは、人間と異なり、皮下にかなりのゆとりがあるからです。
皮下点滴は、この皮下に輸液(点滴の液)を注入する方法で、輸液は周囲の組織の毛細血管から少しずつ体内に吸収されていきます。
皮下の空間に輸液が一時的にたまるため、5~10分程度の短時間で必要量を注入することができます。
輸液の量は、体調や体重により変わりますが、おおむね50mL~200mLです。
動物病院の外来で処置される点滴の多くは、皮下点滴です。
・皮下点滴のメリット
メリットは、(1)短時間で済む、(2)猫の身体のペースで吸収されるので、体への負担が少ない、(3)技術が比較的易しく自宅で飼い主さんが行うこともできる などが挙げられます。
慢性腎臓病では、脱水、尿毒症の予防の為に定期的な点滴が必要になります。
しかし、猫は外出や病院が苦手な子が多く、頻繁な通院は猫に大きなストレスを与える可能性があります。
自宅で飼い主さんが皮下点滴を行うことは、猫のストレスの軽減につながります。
・皮下点滴のデメリット
一方、デメリットとしては、(1)毛細血管を通して吸収されるため、水分補給の効率はやや低い、(2)投与できる薬剤が限られること などが挙げられます。
また、自宅で行う場合、猫が点滴を嫌がって飼い主さんとの関係が悪くなる場合もあります。
◆静脈点滴
静脈点滴は、血管に直接輸液を注入する方法です。脚などの末梢血管から注入する場合と、首などの中心の血管から注入する場合があります。
猫を長時間じっとさせるのは難しく、暴れる事もある為、輸液を流すための細いプラスチックの針(静脈留置針)を血管に入れる必要があります。
症状が重篤な場合や緊急性のある場合に、病院内で行われる処置です。
・静脈点滴のメリット
メリットは、(1)水分補給の効率が高い、(2)様々な薬を同時に投与できるなどが挙げられます。
・静脈点滴のデメリット
デメリットは、(1)心臓に負担がかかることがあり、少量ずつしか注入できず数時間かかる、(2)点滴の管が繋がるため動きを制限する必要があり、病院でしか行えないなどが挙げられます。
猫の点滴治療の費用
猫の点滴治療にかかる費用のおおまかな目安を、ご紹介します。
◆動物病院で行う場合
動物病院の診療費・処置費などは、病院によって異なります。ここでは、公益社団法人日本獣医師会の平成27年度調査から、点滴1回のおよその価格帯を示します。
・静脈点滴
2,000円~5,000円の病院が、7割を占めています。
薬剤が追加される場合、別途料金が加算され、また、入院して行うことが多いため、入院費が必要です。
入院費は、2,000円~5,000円の病院が7割を占めています。
・皮下点滴
1,000円~3,000円の病院が、8割を占めています。
◆自宅で行う場合の費用
自宅で皮下点滴を行う場合、輸液バッグのほか、点滴セットと言われるライン、翼状針、アルコール綿等が必要になります。
輸液バッグは、種類により異なりますが、500mL入りで1,500円程度です。
点滴セットと合わせて、2,000円~2,500円程度で購入できる動物病院もあります。
自宅で点滴する方法は?
自宅でできるのは、皮下点滴です。以下、皮下点滴のやり方を、おおまかにご紹介します。
ただし、点滴のやり方は、病院によって異なります。必ずかかりつけの獣医さんの説明・指導を受けて、動物病院で数回行って慣れておきましょう。
◆点滴セット
・輸液バッグ
ほとんどの場合、乳酸リンゲルまたは生理食塩水が使われます。
容量は100mL~1000mLくらいまで幅があり、1回に何mL点滴するかにより、サイズは異なります。
ゴム面には、針を刺すための穴が3つあります。
・針
針の太さはゲージ(G) で表し、数値が大きくなるにつれて細くなります。皮下点滴では、18G~21Gの比較的太い針が使われることが多いです。
・翼状針
持つ部分がついた針です。翼状針にはチューブがついており、注射器(シリンジ)を使う場合に使用します。
持ちやすいため、重力落下方式(輸液バッグを持ったり壁にかけたりする方法)の場合にも使用される場合があります。
・ライン(点滴チューブ)
点滴と針をつなぎます。途中に、注射口がついているY字のものもあります。
ラインには、点滴筒とクレンメがついています。クレンメは、ラインの途中についている輸液の流れる速度や量を調節する器具です。ローラーを下に回すと、輸液の流れが止まります。
点滴をする前に、あらかじめ液体で満たして空気を抜いておく必要があります。
◆点滴セットの準備
(1)ラインを開封し、クレンメをチューブの中心部で閉めます(ローラーを下に回す)。
(2)点滴バッグのシールをはがして、アルコールで消毒します。
(3)ラインの先端についているプラスチックの白い針のキャップを外して、点滴バッグのゴム面に垂直に刺します(場所はどこでも構いませんが、同じ場所に何度も刺してはいけません)。
(4)チューブを繋げた点滴バッグは、持つか壁にかけます。
(5)点滴筒を左右から押して、点滴筒の中心部まで輸液を満たします(ライン内に空気が混ざることを防ぐため)。
(6)点滴を高い位置にかけたまま、クレンメを開けて液体をチューブの中に流します。
(7)先端から液体が出て、空気が完全に抜けたら準備完了です。
◆猫の確保
準備が整ってから、猫を確保します。テーブルなどに乗せるか、猫が落ち着くベッドなどで行います。可能であれば、猫を押さえる人と針を刺す人の2人で行いましょう。
上蓋が開くキャリーや保定袋(猫を押さえるための袋)を使うとよいでしょう。保定袋は、市販されているものもありますが、手作りする飼い主さんも多いようです。
作り方については、ブログなどで紹介されているので参考にしてみてください。
◆針を刺す場所
皮膚の下、筋肉と皮下組織の間に、水のタンクを作るイメージで針を刺します。
刺す場所は、首の付け根です。肩甲骨の前後どちらでもよいですが、経験的に肩甲骨の後ろの方が嫌がらないことが多いと感じる獣医さんもいます。
◆皮膚の持ち方
針を利き手で扱うため、利き手と反対の手で皮膚を摘まみます。親指、人差し指、中指の三本で、三角テントを作るように持ちます。
猫の皮膚は伸びるので、しっかり引っ張って、スペースを作るのがポイントです。
猫の皮膚をアルコール綿で、消毒します。
◆針の刺し方
針の穴を上向きにして、皮膚に対して垂直に刺します。この時、針を寝かせないように気をつけます。
針の長さは16mm(5/8インチ)または13mm(1/2インチ)あり、皮膚をしっかり引っ張っておけば根元まで刺しても筋肉には刺さらないはずです。
◆針の持ち替え
利き手でクレンメなどを操作するため、刺した針を逆の手に持ち替えます。針が抜けないように、皮膚を押さえた手を1度離します。
皮膚と被毛と一緒に、針のプラスチック部分を持ち直して、上に引っ張りスペースを作ります。
◆点滴を流す
・重力落下方式の場合
皮膚を通り抜けた感触があれば、クレンメを開けて、漏れがないかを確認します。
流れが悪い場合には、針先が抜けかけているか、針先の穴がどこかに触れている可能性が高いので、深さを確認し、針先の向きを少し変えてください。
皮下点滴では、どんなに早く入れても問題ないので、ポタポタ落ちるのではなく、水道の蛇口を開けた時のように流れている状態の方がよいです。
点滴バッグのラベルの端にある目盛りは1目盛り100mLを表しているので、あらかじめ目標ラインを確認しておきましょう。
・シリンジを使う場合
シリンジを使う場合には、あらかじめシリンジに輸液を満たして、チューブを繋いでおきます。針を刺したらゆっくり押して、漏れがないことを確認してから、残りを注入します。
◆針を抜く
必要量を注入し終えたら、針を抜きます。点滴した量が多いときは逆流して漏れることがあるので、抜いた後は数十秒軽く摘まみます。
背中や横腹が膨れ上がっていることがありますが、輸液が吸収されるとともに消えるので大丈夫です。
自宅で点滴する時の注意点は?
・使用した針・点滴バッグは動物病院へ
使用済みの針や点滴バッグは、医療廃棄物です。家庭ごみとして捨てることはできないので、必ず動物病院へ持っていき捨ててもらいます。
・点滴量を守る
点滴の量が多すぎると、肺水腫など深刻な状態を引き起こす可能性があります。量は必ず獣医師と相談して決め、指示を守りましょう。
・清潔に保つ
針を刺す以上、感染症のリスクもあります。飼い主さんの手指や器具、針、針を刺す場所の皮膚は、きちんと消毒しましょう。
・終了後の観察
点滴自体がストレスとなり、猫が、元気がなくなったり、ぐったりしたりすることはあります。
しかし、腎不全の場合、カリウムが不足しがちなので、点滴を行うことでさらにカリウムが低下して低カリウム血症になる可能性があります。
点滴後は、猫の様子を見守り、何かあればすぐ病院で診てもらいましょう。
まとめ
高齢の猫では腎臓疾患を患う子の割合が高く、慢性腎臓病になると脱水症状を繰り返すため、定期的な点滴が必要になります。
猫や飼い主さんの通院の負担を減らすために、自宅での皮下点滴を行うことも多いです。猫の寿命が延びた現在、自宅での皮下点滴が必要になる可能性は、誰にもあります。
猫の身体に針を刺すことに不安を感じる飼い主さんは多いですが、1ヶ月ほどで慣れることができるようです。
自宅で行うことで猫の負担が軽減されることも多いので、獣医師さんから提案された場合には検討してみてはいかがでしょうか。
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