1.猫の歯の役割
1-1.切歯
1-2.犬歯
1-3.臼歯
2.猫の前歯がない原因は?
2-1.歯の生えかわり
2-2.歯周病
2-3.口内炎
2-4.腫瘍
2-5.破歯細胞性吸収病巣(はしさいぼうせいきゅうしゅうびょうそう)
猫の歯の役割
猫の永久歯は、前から切歯、犬歯、臼歯と並び、全部で30本あります。
まず、猫の歯の種類と役割について解説します。
◆切歯
切歯とは、いわゆる前歯のことで、正面に並ぶ非常に小さな歯です。
切歯は門歯とも言い、間隔をあけず並んでいて、上の歯が下の歯に少しかぶるようになっています。
猫の切歯の数は、上下に各6本です。
猫の切歯は、肉を引きちぎったり骨から削いだりするために使われます。
また、毛づくろいをする時には櫛のような役割を、前足や後ろ足の爪をガジガジと噛んでいる時にはグリップの役割を果たしています。
◆犬歯
犬歯は、猫の歯の中で最も大きく目立つ歯です。
猫の犬歯の数は上下合わせて4本で、横幅が広くとがっています。
犬歯は、猫が獲物を捕らえる時に「くさび」の働きをします。
猫は犬歯を獲物の首筋にしっかりと刺しこむことで、脊髄を効果的に切断して獲物を仕留めるのです。
犬歯の根元には、歯の方向を微調整して、獲物の脊髄を正確に噛み切れるようにしている特殊なセンサーがあると言われています。
犬歯の表面には、「血溝」と呼ばれる小さな溝があり、獲物の血が歯に付着しないように効率的に流していると考えられています。
◆臼歯
臼歯とは、一般的に奥歯と呼ばれ、「前臼歯」と「後臼歯」に分かれています。
臼歯の数は、前臼歯が上に6本、下に4本の計10本で、後臼歯が上下各2本の計4本となっています。
猫の臼歯は、人間の臼歯と異なり、上下の歯の面がぴったりとかみ合いません。
猫の臼歯の先端はとがっていて、かつ上下の歯が前後にずれているため、ジグザグにかみ合っています。
臼歯は肉を噛み切ることに特化した歯で、特に上あごの第3前臼歯と下あごの第1後臼歯はハサミのようにかみ合っていて「裂肉歯(れつにくし)」とも呼ばれます。
また、猫草を噛みちぎる時に用いられるのも臼歯です。
上あごの後臼歯は非常に小さく、ほとんど見分けることができません。
猫の前歯がない原因は?
猫の前歯がない場合、歯が抜けてしまっていると考えられますが、歯が抜ける原因は猫の年齢によって異なります。
◆歯の生えかわり
猫も人間と同じで、生まれた時には歯がありません。
生後約2週間で乳歯が生え始め、3週~6週で生えそろいます。
乳歯は、切歯が上下左右各3本、犬歯が上下左右各1本、臼歯が上あごに6本、下あごに4本の計24本です。
3ヶ月齢ごろから永久歯に生えかわり始め、7~8ヶ月齢で完全に生えかわり、乳歯の時にはなかった後臼歯が加わります。
猫の場合、乳歯の隣に永久歯が生えてきて、永久歯が大きくなると乳歯の歯根が溶けて乳歯が抜けます。
乳歯が抜けた際に出血することもありますが、数分で止まれば問題ありません。
◆歯周病
高齢の猫で見られるのが、上の犬歯が伸びてきたり、急に歯が抜けたりすることです。
これらは、歯周病の進行によって歯の根元が緩くなり、歯が下がってきたり抜けたりするものです。
高齢と言っても、それぞれの猫の体質や全身性の病気の影響などもあり、具体的に何歳からとは言えません。
日頃からこまめに口の中を確認し、シニア期と言われる7、8歳以降、特にハイシニア期となる10歳以降は気をつけて見てあげましょう。
◆口内炎
歯垢や歯石が原因で起きることもありますが、ウイルスや細菌の感染による場合もあります。
代表的なウイルスは猫カリシウイルスや猫エイズウイルスで、これらが免疫力の低下を招き、さらに口内炎の治癒が難しくなります。
これらのウイルスはワクチンで予防することができるので、予防接種を年に1度必ず受けましょう。
また、完全室内飼育をすることで感染リスクを低下させることも大切です。
◆腫瘍
口の中や顎に発生する腫瘍によって、口の中の構造が破綻して歯が抜けることがあります。
猫の口の周囲に発生する代表的な悪性腫瘍は、扁平上皮癌や線維肉腫、メラノーマです。
エナメル芽細胞腫など良性の腫瘍もありますが、猫で発生することはまれであり、また良性腫瘍のために歯が抜けることはほとんどありません。
腫瘍は、4歳以降の猫に多く見られます。
悪性腫瘍は、周囲の組織への浸潤性や転移の可能性が高いです。
食事に時間がかかる、口臭がする、口の中から出血している、かみ合わせがおかしいなどの症状が見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。
◆破歯細胞性吸収病巣(はしさいぼうせいきゅうしゅうびょうそう)
永久歯との生えかわりのために乳歯を溶かす役割のある破歯細胞という細胞の働きが暴走して、永久歯も溶かしてしまう病気です。
4歳以降の猫に見られますが、詳しい原因はまだ分かっていません。
猫の前歯がなくても大丈夫?
猫の前歯の役割は、肉を引きちぎったり骨から削ぎとったりすることです。
現在の猫は、キャットフードを食べているため、前歯で肉を引きちぎる必要はありません。
そのため、前歯がない場合も、猫が食べ物を食べるのに支障が出ることはほとんどないでしょう。
ただし、臼歯が少ない場合は、粒の大きなドライフードは食べにくくなるようです。
それでも、粒が小さなドライフードやウェットフードは、口の中で少し潰すようにして食べることができるので、フードを変えてあげるとよいでしょう。
猫の歯に関係したトラブル
歯周病など口の中にトラブルを抱えている猫は、2歳以上の猫の8割以上と言われています。
ここでは、猫の歯に関係したトラブルについて解説します。
◆歯周病
歯肉、歯根膜、歯槽骨、エナメル質を歯周組織と言い、これらの組織が歯を支えています。
歯周病とは、歯周組織に現れる症状のことです。
・歯肉炎
初期の歯周病の症状は「歯肉炎」で、歯茎が赤く腫れて炎症が起きます。
歯肉炎は、治療で回復が可能です。
・歯周炎
歯肉炎が悪化すると、「歯周炎」になります。
歯肉炎が深いところまで浸食した状態で、口臭がきつくなり、歯茎から出血することもあります。
痛みがあり、ドライフードを食べることを嫌がり、口の周りを気にする仕草を見せるようになります。
歯周炎になると、正常な歯周組織に戻すことはできません。
・歯周病(歯槽膿漏)
歯周炎が悪化すると、「歯周病(歯槽膿漏)」になります。
歯槽骨が侵され、歯と歯茎の境目に溝(歯周ポケット)ができます。
歯周ポケットが広がっていき、次第に膿が溜まっていって、歯と歯茎の間に大きな隙間ができてしまい、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。
歯周病の治療と予防
◆歯周病の原因
歯肉炎の原因は、口の中の食べ物のカスを栄養源として細菌が繁殖することです。
繁殖した細菌は歯の表面に歯垢と呼ばれる塊を作り、歯垢に潜む細菌が毒素などを出して歯肉に炎症を起こします。
歯肉炎は、口の中の衛生状態や猫自身の免疫力などの影響で進行していくとされています。
歯垢を放置すると、唾液の中のカルシウムなどが沈着して、歯石となります。
歯石の付着率は、猫の年齢が上がるとともに増加していきます。
◆歯周病の治療
歯周病の治療としては、まず、溜まった歯石を取り除きます。
歯石の除去には、全身麻酔をかける必要があります。
麻酔をかけたうえで、スケーラーやキュレットと呼ばれる金属の器具や超音波洗浄機などを用いて、歯石を土台から完全に取り除き、歯周ポケットの洗浄をします。
この時、ぐらつきがひどい歯があれば、併せて抜歯することがあります。
麻酔をせずに外から確認できる歯石だけを取り除いても、歯周ポケットの汚れが残っていると炎症や細菌が減らないため、悪化することがあり、全身麻酔は必須と考えましょう。
さらに、歯石の再付着を防ぐためのコーティングを行って歯の表面を滑らかにします。
スケーリングが終わった後、炎症を抑える薬や抗生物質が投与されることもあります。
◆歯周病の予防
歯周病の予防には、歯磨きが一番効果的です。
正しい歯磨きを毎日してあげましょう。
大人になってから始めるのは大変なことも多いので、子猫の頃から慣らしておくといいでしょう。
永久歯が生えそろう生後4~6ヶ月ごろまでに慣らしておくことをおすすめします。
猫の場合、歯に残った食べ物のカスが歯垢となり、1週間以内に歯石になると言われています。
歯石になると歯磨きでは取り除くことができないので、歯垢や食べ物のカスの状態でいる間に歯磨きで除去しましょう。
そのためには、毎日歯磨きをするのが理想ですが、難しい場合は2~3日に一回はケアをしてあげてください。
◆歯磨きのやり方
歯垢は、歯ブラシでしか取ることができません。
しかし、最初から歯ブラシで歯磨きをするのは難しいので、まずは口元を指で触ることから始めるといいでしょう。
慣れてきたら、口の中に指を入れる、歯磨きシートで磨く、と段階的に進めていきましょう。
歯ブラシは、歯の根元部分に対しておよそ45度の角度で当てて、小刻みに揺らすようにして磨きます。
力を入れすぎると、歯ブラシが歯肉に当たって傷つけてしまうので、気をつけましょう。
特に歯石がつきやすいのは、奥歯(臼歯)です。
重点的に磨きたい歯ですが、少しコツがいります。
奥歯を磨くときは、猫の頭を上から手で軽く掴んで、上唇を親指で持ち上げて歯を露出させると磨きやすいです。
少し強引に見えるため嫌がる猫も多いので、難しい場合は、口の端から歯ブラシを入れて、口は閉じたままでもよいので、磨いてあげてください。
まとめ
家庭で飼育されている猫は、キャットフードを食べているため、肉を引きちぎったり骨から削いだりする歯がない場合でも、食べることに影響が出ることはほとんどありません。
しかし、乳歯から永久歯への生え変わり以外で歯が抜けている場合には、歯周病や口内炎など口の中に何らかのトラブルを抱えている可能性が高いです。
また、猫の歯や口の中の病気や異常は、他の全身性の病気と関連している場合があります。
猫の口の中の病気を予防するためには、口の中だけでなく全身をチェックする必要があり、全身性の病気を早期発見するためには、口の中を定期的にチェックする必要があります。
定期的な健康診断で歯や口の中のチェックをしてもらうとともに、毎日のデンタルケアを頑張りましょう。
猫の歯周病の治療費は、非常に高額になることもあるので、その点でも日頃からのケアで予防しておくことが大切です。
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