さくら猫ってどんな猫?
さくら猫は、耳の先を「さくらの花びら」のようにV字型にカットされた猫ちゃんのことです。「どうして耳の先がカットされているの?」と猫が好きな人なら心配になってしまいますよね。
実は、不妊手術や去勢手術が行われた野良猫の目印のためにカットされているのです。もしかして、花びらのような耳になっている野良猫を見たことがある…という方もいるかもしれません。
「耳をカットするなんてかわいそう!」「どうして不妊手術を行うの?」そんな気持ちになってしまう猫好きさんもいるかもしれませんが、実は背景には、さくら猫の活動により不幸な猫達を増やさないという猫の幸せを願っている理由があったのです。それには、悲しい日本の現実をまずは知り、受け止めることが大事です。
猫ブームの裏にある隠された事実…捨て猫の多さ
日本では「猫ブーム」という言葉も生まれているほど、猫ちゃん人気は爆発中です。ペットとしても犬に追いつくほどの勢いです。それだけ人間の身近に感じられるようになってきています。
しかし、その背景には悲しい現実があります。
◆捨てられる猫が多い
猫を飼うときの理由は「癒されたいから」という人が多いのではないでしょうか。小さくて可愛い猫は、一緒に暮らすと癒しを与えてくれます。
また、猫は散歩がいらないので一人暮らしで飼うという方も多くなってきていますよね。
猫を迎え入れるときには「一緒にずっといたい」という気持ちで飼うのかもしれません。しかし、一緒に暮らしている中で「もう飼えない」と捨てる人がいます。
◆どうして猫を捨てるの?
「猫を捨てることは無責任なこと」とすべての人が自覚をすれば野良猫が増えることはないでしょう。しかし、残念ながら一部の人間の一方的な都合が捨て猫に繋がっています。
・懐かない
・引っ越しで飼えなくなった
・赤ちゃん猫がたくさん生まれたから育てられない
・飽きた
こんな理由があるのでしょうか…。愛猫家としては「捨てる」という行動に疑問と怒りさえ込み上げてきます。
捨てられた猫の多くはかわいそうな暮らしを強いられることになります。
◆「野良猫」になったらどんな暮らしが…?
私達は道端でのんびり過ごしている猫達を見ると、「可愛いな」と無条件に思ってしまいます。無防備で眠っていたりするとなおさら可愛らしく感じるものですよね。
でも、その猫はもしかして人間に捨てられた猫かもしれません。今まで温かい家の中で暮らしてきたのに、人間の勝手で捨てられた可能性があります。
もともと人間に育てられていた猫は、当然ながら「外で生活する」ということを知りません。どうやって食べ物を探せばいいのか、どうやって眠ればいいのかが分からないでしょう。食べものを見つけた!と喜んで駆け寄っても、他の野良猫たちに食べられてしまうこともあります。
それに、冬場に捨てられた猫は寒すぎてどうやって過ごしたらいいかさえ分からないでしょう。寒さのあまり、命を落としてしまう危険性もあります。
外を歩き慣れていない猫たちは、人間だけでなく車が行き交う道路さえ「怖い」もの。どうしていいか分からず、道路に飛び出して命を失う可能性もあります。命を失わないまでもケガをしても動物病院に連れていってくれる飼い主さんはもういません。
そして野良猫ちゃん同士で繁殖をすれば、さらに野良猫が増えていきます。猫を捨てる…という人間の無責任な行動は、不幸な猫を増やすことにしかならないのです。
「野良猫」として一生を過ごす猫達もいますが、保健所に保護されてしまうと、悲しい結末が待っています。それが「殺処分」です。
殺処分で命を失う猫達
平成27年度の統計で見ると、年間9万匹もの猫が保護されています。中には迷い猫というケースもあり、飼い主さんのもとに無事に帰ることができる子もいます。また、新しい飼い主さんのもとへ貰われる子もいます。
しかし、残念ながら残りの猫たちは殺処分されるという辛い現実があります。全国で年間7万匹ほどの野良猫達が殺処分されているのです。
殺処分は、年々減少はしているものの、まだその数値は大きいですよね。1日に200匹近くもの猫ちゃんが命を落としていることになるのです。
殺処分ゼロを目指すう取組み「さくら猫」の活動
話はもとに戻りますが「さくら猫」の取り組みで、不幸な猫達を少しでも減らしていくことができます。さくら猫は、野生の猫の耳をカットすることが目印となっています。
それでは、具体的なさくら猫活動についてお話します。
◆さくら猫TNRの「TNR」とは
さくら猫の活動は2005年から「公益財団法人どうぶつ基金」がスタートさせた取り組みです。公益財団法人どうぶつ基金は兵庫県を中心に動物愛護の思想を持って活動しているというNPO法人です。
TNRとは次の英語の頭文字をとり繋いだ言葉です。
T=Trap・トラップ(捕獲する)
N=Neuter・ニューター(不妊・去勢手術とさくら猫の印の耳のカットをする)
R=Return・リターン(元の場所に戻してあげる)
では具体的にさくら猫の活動内容についてみてみましょう。
◆さくら猫の取り組みの内容…どうやって「さくら猫」になるの?
まずは、さくら猫の活動には野良猫を見守る活動をしている地域のボランティアの方々の存在が欠かせません。
猫を傷つけないように配慮しながら捕獲器で捕獲し、捕獲器に入った猫が取り乱すことがないように、捕獲されるまでは近くで待機して猫が入るのを待ちます。
その後、猫たちは動物病院で不妊および去勢手術をしてもらいます。手術をしたという証に耳をさくらの花びらのように「V字」にカットします。これでさくら猫の目印になります。
そして元いた場所に戻してあげる…という内容がさくら猫の活動です。
手術の後は大丈夫かな…と心配になりますが、ボランティアさん達の活動はまだ続きます。元の場所に猫達を戻してあげたら経過観察として、さくら猫達の様子を見守ってくれます。猫達へのエサやり、後片付けなどの管理までボランティアで行ってくれているのです。
ボランティアさん達の活動によって、さくら猫たちは守られているんですね。
◆さくら猫の印…耳カットは痛くない?
さくら猫の目印としてカットする耳ですが、耳先とはいえ「痛くない?」と気になりますよね。かわいそうなのではと気にされる方もいるようです。
しかし安心して下さい。不妊手術の際に全身麻酔をしたときにカットするので、猫ちゃん達は痛みに気づかないとのこと。
でも「麻酔から目覚めると痛みが増すのでは?」と心配になりますが、人間と違って猫ちゃん達は「痛み」というものに気づきにくいんだとか…。耳をカットする、と聞くととても痛そうですが、当の猫ちゃんたちは手術が終わっても気にならないようです。
それに、さくら猫のこの目印は猫ちゃん達のためでもあるんです。
耳のカットはそもそも「不妊手術・去勢手術が終わった猫なんですよ」という目印のために行われます。もし、目印がなかったらどうなるでしょう。「手術が終わった猫」と知らずにまた捕獲されるかもしれません。
猫は言葉を話せませんので、自分が手術済みであってもそれを告げることはできずにまた手術をされてしまうかも。全身麻酔は体に負担がかかるものです。それは人間でも一緒ですよね。さくら猫の印がなければ、その負担を何度も負わせてしまう可能性が大きくなるのです。
「耳をカットされた猫=さくら猫」と一目瞭然の印をほどこすことで、猫ちゃん達への負担を減らす意味もあるのです。
ちなみにさくら猫と言われる猫を見ると、右耳や左耳のどちらかがカットされているのに気付くかもしれません。
これはどちらかカットしやすい方をカットした訳ではありません。実は、右耳がカットされているのは「オス」、左耳がカットされているのが「メス」の猫なんだそうです。
さくら猫を通じて「命を守る取り組みが行われている」ということを知ってもらえるのではないでしょうか。
さくら猫活動で野良猫が増えないしくみ
◆猫の繁殖能力はとても高い…
猫の妊娠は人間のものとは違い、人間が約1年かけて子供を出産するのと比較すると、猫のお母さん達は1年に何匹も赤ちゃんを出産します。不妊手術を行っていない母猫は1年に3回の出産をすることができます。
飼い猫のように外にでかけない猫なら繁殖の機会もないでしょうが、野良猫になってしまえばオスの野良猫との出会いも多いです。そのため妊娠の回数も増えてしまいます。
ちなみに、メスの猫は1回の出産で5~8匹も産みます。多ければそれ以上。最低5匹出産で1年に3回の出産をすれば、1匹のメスの野良猫からは15匹の野良猫が産まれることになります。その子達の中にメス猫がいれば、さらに増えていきます。
猫は生まれてから、約4か月を過ぎれば出産ができる体になりますから、成長して出産を繰り返せばさらに増えていく…ということになるのです。
生まれた命は殺処分だけでなく、病気など他の事情で亡くなってしまうことが多いです。それを防ぐのがさくら猫の活動なんですね。
◆不妊・去勢手術には他にもメリットが
野良猫が多く見られる地域は全国にも結構ありますが、そういった地域の野良猫たちを一斉に不妊および去勢手術をすることで、さらなる増加を防ぎます。出産できなければ野良猫の増加を食止めることもでき、殺処分の数の減少に繋がるのです。産まれてくる命を減らすことで、命を落としてしまう猫たちを救えることに繋がります。
また、不妊手術や去勢手術は殺処分を減らすだけでなく、猫たちにとっても良い点があります。
メス猫ならば生殖器系統の病気のリスクが軽減することがあります。またホルモンバランスの影響から、ストレスも減るというメリットもあります。
オス猫の場合も生殖器系の病気が減り、ストレスが緩和されるとか…。ストレスで野良猫同士のケンカも起こるので、こういった行動が少しは和らぐのかもしれません。
さくら猫の活動があちこちで行われることにより、殺処分が減ってきています。ただ、ゼロにならない限り殺処分されている猫たちがいる事実は変わりませんが、多くの方々のさくら猫の活動によって殺処分が減っていることは心が温まります。
◆費用は寄付金から成り立っている
動物病院で手術を行うことは費用がかかりますよね。しかし、さくら猫活動で手術を受ける場合には、費用はかかりません。手術費用はどうぶつ基金への寄付金の中でまかなわれています。
さくら猫の取り組みには全国各地の多くの動物病院の賛同があり、この協力病院で猫たちの手術が行われています。
さくら猫にする手術をするためにボランティアさん達がチケット申請をし、そのチケットを持って協力病院で施術をしてもらいます。動物病院ではそのチケットをどうぶつ基金に送り、手術費用をもらうという形となっています。
さくら猫活動にはたくさんの人達の温かい気持ちが含まれているのです。
大切な命を守るために…
人間たち一人一人がいのちの大切さに向き合うことが殺処分を減らす一番の課題ですが、まだまだ無責任な飼い主が多いのが現状です。
なんの落ち度もない猫たちが人間の勝手で命を奪われてしまうのは悲しいこと。そんな殺処分を減らすための活動が「さくら猫」です。
「さくら猫」について知ることで、少しでも殺処分を減らそうとしている方々の温かい気持ちがあることを感じることができます。さくら猫の耳は「さくら猫の後ろには見守ってくれる優しい人がいる」というしるしでもあります。
活動では殺処分ゼロを目指していますが、現に数が減少していることは事実です。もし今後「さくら猫」を見かけることがあったら、そうした方々の温かい思いが詰まっている猫だと思い出したいですよね。
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