猫の保護活動の現状とは?
◆猫の殺処分は減っている?
保健所などの施設で殺処分を待つ野良猫や捨て猫を保護し、新しい家族の元に届ける保護猫ボランティア。彼らの懸命な活動により、年々猫の殺処分数は減り続け、10年前に比べるとその数はなんと1/3にまで減っています。
それでも環境省の発表※によると平成27年度に保健所等に収容された猫の数は90075頭、そのうち殺処分された数は67091頭に上り、犬の4倍近い数字になっています。
その中で飼い主が持ち込んだ猫、つまり「捨てられた猫」は14061頭。なんとも惨い事ですが、その半分近くは産まれたばかりの子猫が占めています。そして世話に手のかかる子猫は、持ち込まれたその日のうちに殺処分となってしまう場合がほとんどなのです。
◆捨てる理由の原因のひとつは「高齢化」
最近特に問題になっているのは、高齢者が安易な気持ちで「子猫」を購入してしまい、猫よりも先に亡くなってしまったり、飼い主が体調を崩して施設に入らざるを得なくなり猫を手放す、というケース。健康な猫なら10年以上生きるのは当たり前の時代。先々の事をよく考えてから猫を迎え入れる事を求められています。
さらに「猫自身の高齢化」が原因となっているケースも。動物医療の発達により猫の寿命も年々長くなっていますが、高齢化により動きが鈍くなる、目や耳が悪くなる、病気や認知症など介護が必要になってくる場合もあります。「世話をするのが面倒」「自分の手には負えなくなった」という身勝手な理由で高齢の猫を持ちこむ人も後を絶たないのが現状です。
猫の保護活動にまつわる3つの問題
①譲渡が決まりにくい成猫や老猫
猫の保護団体では捨てられた猫を保健所等の施設から引き出して命を救っていますが、子猫は里親がすぐに決まるケースが多い一方、成猫、つまり大人の猫や高齢の猫は引き取り手が見つかりにくいという悩みがあります。
子猫は見た目の可愛らしさに加えて「猫は子猫から飼わないと懐かない」という先入観が根強く残っているためです。
敬遠されがちな成猫ですが、「大人の猫はなつかない」というのは思い込みで、実際にたくさんの成猫が新しい家族の元で仲良く暮らしています。特に保護団体が開催する譲渡会に参加している成猫は、保護ボランティアの元でしっかりと「家猫修行」をしてきた猫達。
成猫を家族に迎える事にはじつは様々なメリットがあり、一番大きなメリットは「最初から猫の性格がわかっている」という事。「甘えん坊」「ちょっと臆病」など、その猫がどういう性格かよくわかっているので、理想に合わせて決める事が可能です。
子猫にするか、成猫を選ぶか、双方のメリット・デメリットをしっかり見極めて選ぶ事が大切です。
②猫の預かりボランティアの不足
保護猫の命を救うために活躍する「預かりボランティア」は、保護猫を一時的に預かり、健康管理や人馴れさせる訓練を行いながら安心して譲渡できる状態まで預かるボランティアのことです。
預かりボランティアは保護活動では欠かせない存在ですが、時間にも経済的にも余裕がなければ難しいため、なかなかなり手が見つからず、どの団体でも慢性的に不足しているのが現状。
預かりボランティアをするにあたって最も大切なのは、命に対する熱意と責任。そして現実的な話をすると時間とお金も必要になってきます。自らの日常生活を送りながらこれらの条件をクリアするのが難しいため、常に預かりボランティアは不足している状態です。
それでも捨てられる猫は後を絶たず、結果的に一人のボランティアがたくさんの保護猫を抱えることになり、負担はますます大きくなってしまいます。
預かりボランティアの不足は、保護活動を続けていく上での最大の悩みの種のひとつであると言っても過言ではありません。
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③高齢者への譲渡は難しい?
高齢者が猫を飼えなくなり保健所などに持ち込むケースが多いことから、多くの猫の保護団体では、高齢者へは猫の譲渡を断っている場合が多くみられます。猫の平均寿命は年々伸び続け、子猫から飼うと15年以上長生きする猫も珍しくありません。
そういった現状から、高齢者がこの先何年責任を持って猫を飼えるのか?結局は飼えなくなって捨ててしまうのではないか?という懸念があるため、高齢者への猫の譲渡はしないと決めている団体は多いようです。
実際に「猫が好きだから」「独り暮らしで寂しいから」といった理由で猫の譲渡会に訪れてみたものの、年齢を理由に断られてガッカリした…という高齢の方は少なくないようです。
高齢者の猫との触れ合いは効果大!?
高齢者が動物と触れ合う事によって様々な良い効果がもたらされる事が、近年さまざまな研究によって証明されています。
家族と疎遠になってしまったり、話し相手がいないなど、現代社会の中で寂しさを感じている高齢者は急増。そういった中で動物の世話、散歩やお世話で体を動かす事で運動やリハビリの効果を得たり、話すことにより脳の活性化につながったり、また、可愛らしいしぐさを見て笑顔になることも健康にいいのは言うまでもありません。
何より愛する対象がいる、誰かに必要とされる喜びは何物にも代えがたいものでしょう。それは家族を得る事ができた動物にとっても同じことなのではないでしょうか?
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保護猫を救う!?ツキネコの永年預かりシステム
そんな猫と人のミスマッチを解消する画期的なシステムを開始したのが、札幌で活動しているNPO法人「猫と人を繋ぐツキネコ北海道」。保護猫カフェを経営しながら、札幌のみならず北海道内で保護される猫達に新しい家族を見つけるために日々奔走しています。
◆きっかけはひとりの女性から
ある日、カフェにひとりの年配女性が訪ねてきて、代表の吉井さんに「猫をレンタルしてくれませんか?」と尋ねました。最初、吉井さんは「猫をレンタルなんて!」と、憤りを感じたそうです。
ですが事情をよく聞いてみると、その女性は夫を亡くした寂しさから大好きな猫を飼いたいと望みましたが、高齢のため家族からも反対され諦めかけているとの事。それでも最後の望みをかけダメ元で相談に来たという事だったのです。
◆始まった「永年預かりシステム」
ちょうどその頃、ツキネコ北海道では保護猫が飽和状態。伝染病が発生した場合一気に広まってしまう危険があり、吉井さんも頭を悩ませていました。そこで吉井さんは訪ねてきた女性に猫を「譲渡」するのではなく、まずは短期間「預かってもらう」事にしたのです。それが「永年預かり」の始まりでした。
始まってみると双方にたくさんのメリットがある事に気づき、ツキネコ北海道ではシステムとして正式に導入。現在では何匹もの猫がお年寄りの家で預かられ静かに余生を過ごしています。基本的に「期限を決めずに猫を預ける」というシステムなので、一見すると譲渡とほとんど変わりません。
この逆転の発想で生まれた画期的な新しいシステムは話題となり、ツキネコ北海道の永年預かりシステムは雑誌やニュースでも取り上げられました。
◆「永年預かり」は一石三鳥!
高齢者の永年預かりボランティアに預けられる猫は、基本的に猫も高齢の猫。じつは高齢の猫は人間の高齢者にとっても多くのメリットがあるのです。
子猫や若い成猫は、狭い家の中では体力が有り余り、走り回って物を壊したり手の届かない場所に行ってしまったりと、何かと心配事が絶えません。それを解消するためには毎日たくさん遊んであげなければなりません。これは子供や若い人にとっては楽しい事かもしれませんが、高齢者にとっては苦痛となる場合も多く、「やっぱり自分には世話しきれない」と子猫を保健所に連れてきた、という話すら聞かれます。
ですが若い猫と違い高齢の猫は、体力を使う遊びはほとんど求めていません。また、高齢の猫の方も一日を寝て過ごすことがほとんどで、人間の子供と過ごすドタバタとした暮らしよりも、静かで穏やかな時間を求めています。
なので、生活のパターンが決まっていてゆったりと暮らす人間の高齢者と、じつは相性が抜群なのです!
保護団体側から見ても、高齢の猫はなかなか譲渡先が決まりにくいという悩みを抱えており、永年預かりにより最後まで可愛がってもらえるのは、保護団体、猫、お年寄りの三者全てにとって願ったり叶ったりといえるでしょう。
永年預かりで猫も人も元気に!
永年預かりについて新聞で知り、カフェを訪ねた80代のご夫婦も、今では預かっている猫との生活をエンジョイしています。
このご夫婦は長年猫を飼い続けてきたそうですが、飼っていた猫「クロちゃん」が亡くなってしまい、寂しさから奥様が体調を崩してしまいました。新しく猫を迎えたいと希望しましたが行く先々で高齢を理由に断られ、最後の望みをかけてツキネコ北海道を訪ねてきたのです。
今では白猫の「シロちゃん」と毎日幸せな日々を過ごしています。じつはこのシロちゃんも、高齢の飼い主さんに先立たれて取り残された猫だったのです。奥様にも笑顔が戻り、それを見るご主人にとっては二重の喜びとなっているようです。
ツキネコ北海道の永年預かりボランティアになるのに年齢制限はありません。
もっとも大切な条件は「人としてきちんとコミュニケーションができる事」。つまりその方の人間性と命を預かるという事に対する責任感です。
「里親が決まりにくい高齢の猫」「猫を飼いたくても飼わせてもらえない高齢者」「慢性的なボランティア不足に悩む保護団体」この三つの悩みを一気に解消した、「預かりボランティアシステム」。預かりボランティアになった事で元気を取り戻し、さらに新たなボランティアを始めた高齢者の方もいらっしゃるそうです!
猫も人も幸せになれる、そんな素敵な「永年預かりシステム」。これからもっと広まっていくといいですね。
画像・情報提供:NPO法人ツキネコ北海道
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