ノロウイルスとは?
ノロウイルスは、寒い時期になるとニュースで報道され、たびたび耳にすることがあります。
ノロウイルスが発生のピークを迎えるのは、12月から翌年の1月と言われています。冬場のイメージがありますが、実は発生は年間と通じていて、11月くらいから発生件数は増加傾向にあります。
ノロウイルスは感染性の高いウイルスが原因で、胃腸炎などを引き起こします。
◆ノロウイルスはどんなウイルス?
今から50年前の1968年、アメリカのオハイオ州ノーウォークという町で小学生の間で急性胃腸炎が集団発生しました。この時、患者の便から検出、発見されたのが「ノーウォークウイルス(ノロウイルス)」です。
ノロウイルスには多くの遺伝子の型があり、培養した細胞や実験動物でウイルスを増やすことができません。つまり、食中毒が発生した時、ウイルスを分離して特定する事が困難なウイルスなのです。
特に食中毒が発生したと思われる食品を調べても、ノロウイルスを検出するのは難しく、食中毒の原因究明や感染経路の特定が難しいと言われています。何が原因でうつるのかわからないという、厄介なウイルスなのです。
ウイルスの研究が進んだ現在、ノロウイルスは2つに分類されています。ほとんどが「ノーウォークウイルス(またはノーウォーク様ウイルス)」と呼ばれるウイルスか、札幌で発見された「サッポロウイルス(またはサッポロ様ウイルス)」といわれています。
◆ノロウイルスはどんな症状がでる?
ノロウイルスに感染すると、嘔吐や下痢、腹痛、軽い発熱の症状を起こします。通常は2~3日で回復しますが、体力のない子どもやお年寄りなどは重症化することがあります。
感染は食物や水からですが、患者の吐瀉物や便にもウイルスが含まれ、乾燥した状態になると飛沫により他の人にうつる二次感染が起こります。
感染した場合は、症状が消えた後も3~4日、また長い場合では1~2週間便にウイルスが排出されることがあり、二次感染しないよう注意が必要です。
ノロウイルスにはワクチンがありません。治療も、輸液などの対症療法に限られています。
<過去5年で厚生労働省に報告されたノロウイルスによる食中毒発生数>
資料のように、国内のノロウイルスによる食中毒の患者数は徐々に減少傾向にあります。
2013年 | 2014年 | 2015年 | 2017年 | 2014年 | 事件数(件) | 328 | 293 | 481 | 354 | 214 | 患者数(人) | 12,672 | 10,506 | 14,876 | 11,397 | 8,496 | 死者数(人) | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
参考文献:厚生労働省HP
◆ノロウイルスが感染すると考えられているケース
ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒は、手指や食品などを介して経口でうつります。その後、体内に侵入したノロウイルスは腸管で増殖します。
経口によってうつるケース
・ノロウイルスに汚染されていた二枚貝を、生や十分に加熱調理しないで食べた場合
・ノロウイルスに汚染された井戸水や簡易水道を消毒不十分で摂取した場合
ノロウイルスがうつる経路は、ほとんどが経口感染です。さらに人から人では次のような感染元が考えられています。
人から人へうつるケース
・患者の吐瀉物や便の後始末による二次感染
・調理する人や食品を加工する人を介しての食品汚染
患者の便や吐瀉物には大量のウイルスが排出されています。患者に接する場合は、患者の便や吐瀉物を適切に処理し、感染を広げないように注意が必要です。
ノロウイルスを予防するためには、日頃から食事の前やトイレの後などの手洗いの徹底や、体調不良の場合は食品を扱わないなど対策が大切です。
特に抵抗力の弱っている時は、加熱が必要な食品はしっかり加熱して食べるようにしましょう。また、使った調理器具や食器も、洗浄、殺菌を心がけノロウイルスがうつることを予防しましょう。
ノロウイルスは猫にうつる?
人の間で流行するノロウイルスですが、一緒に暮らしている猫にうつることはあるのでしょうか。
◆人が感染するノロウイルスは猫にはうつらない
このように各地で流行しているノロウイルス感染症は、ノロウイルスが人間の小腸で増殖して引き起こす急性胃腸炎です。人が感染しているノロウイルスは、「ヒトノロウイルス」とも表現されています。
各研究機関で公表している結果において、「ヒトノロウイルス」が実験動物へうつる事例は確認されていません。つまり、「ヒトノロウイルス」に感染するのは、人間(ヒト)が唯一の動物と考えられています。
ノロウイルスの流行があっても、人が感染しているノロウイルスが飼っている猫や犬にうつることはまずないといっていいでしょう。
◆ノロウイルスに感染する対象
では、人以外にはノロウイルスに感染することはないのかというと、これまでに牛、豚がノロウイルスに感染したという報告がされています。
牛や豚が感染したノロウイルスは、ヒトノロウイルスと非常に似ていますが、感染した動物から人へのうつる事例は報告されていません。同様に、人を介して牛や豚にうつる可能性も報告されていません。
◆猫がノロウイルスを持ち込まないよう注意する
時にウイルスは、変異して抗生物質に耐性を持ったり、様々な亜種を生み出したりします。今後、猫にうつるウイルスが出てこないとも言い切れません。
ノロウイルスは、下水や河川・土壌からも検出されることがあります。猫や犬は感染する可能性が殆ど無いと言われていますが、こうした川の水や水溜まりの水を飲まないように注意しましょう。
家族がノロウイルスに感染しないことはもちろんですが、猫が持ち込まないようにすることも大切です。
猫と人の間で感染するおそれのある病気
ヒトノロウイルスが猫に感染する事例はないことがわかりました。
では、猫と人の間で感染する病気にはどのようなものがあるのでしょうか。次のようなものが確認されています。
◆人→人でも感染し、猫→人も感染する病気
1)カンピロバクター腸炎
主にカンピロバクター・ジェジュニという細菌が原因で発症します。国内で発生する食中毒の中では、サルモネラ感染症とともに、件数、患者数ともに毎年上位にランクされています。
カンピロバクターに感染すると、腸炎を引き起こします。主な症状は下痢や腹痛、発熱です。
カンピロバクターは、家畜や家禽、人の体内や腸管内といった一定の環境でしか発育・生存できません。そのため、汚染されている食品で増殖はできないのです。
牛や豚、鶏肉などの肉を生で食べたり、殺菌や加熱処理していない水や牛乳などを飲んだりすることで感染するケースがほとんどです。
猫からの感染は、カンピロバクターを保菌している猫に噛まれることで感染します。
ただし、猫の保菌率はそれほど高くありません。むしろ加熱殺菌していない食べ物を食べないことで感染を防げる病気です。
2)サルモネラ感染症
サルモネラ感染症は、食中毒としてよく名前が上がります。
サルモネラ菌に汚染された卵や肉、魚介などを食べたりすることで感染します。また、サルモネラ菌を保菌している猫の糞中の細菌が口に入ったりすると感染します。
サルモネラ感染症になると、下痢、嘔吐、腹痛、微熱などの症状が出ます。
このような症状は、1週間程度で回復することがほとんどでしょう。ただ、ひどい下痢が何日も続くようなら、病院へ行き、輸液などの処置を受けた方が安心です。
下痢や軟便を起している猫に接触したりするのは避けましょう。獣医さんに連れていき、感染症かどうかを検査してもらうのもおすすめです。
猫から感染しないために、猫がいる室内は清潔にして猫に触った後は手洗いするなどしましょう。
◆猫が固有に保菌していて人にうつる感染症
1)パスツレラ症
ほとんどの猫がパスツレラ菌を保有しています。猫に噛まれたり、引っ掻かれたりすると傷口が腫れ、重度の場合は呼吸器系の疾患や骨髄炎などを引き起こし、最悪のケースでは死亡することもあります。
パスツレラ症が重症化しやすいのは、高齢者や糖尿病のある人や免疫不全の人です。
通常はひっかき傷を消毒する、きちんと手当することで感染は防げます。とはいっても、猫との口移しや過剰な接触は避けたほうがいいでしょう。
2)猫ひっかき病
バルトネラ・ヘンセレという菌が原因で発症する病気です。猫に引っ掻かれたり噛まれたりした部分から菌が侵入し、リンパ節が腫れたり微熱や関節痛、倦怠感などの症状が出ます。
実際には、日本の猫の15%程度がこの菌を保有していると言われています。
しかし、保菌している猫にとっては悪さをする菌ではなく、病気の症状がでません。具合が悪くならないため、保菌しているのかわからないまま一緒に生活しています。
猫ひっかき病の感染は、ノミを介してうつると言われています。他の猫から感染しないように、ノミに関してのケアはしっかりしておく必要があります。
ご紹介した症状が出て医療機関を受診する場合は、医師に猫と接触があった事を伝え検査してもらいましょう。
3)Q熱
Q熱は、猫に限らず感染した動物の排泄物や乳などに接触することで人にも感染する病気です。
猫の出産時や流産時に人が感染する事例が報告されています。また、猫のほかにも、自然界にいる動物やダニも感染源と言われています。
Q熱の症状は、インフルエンザのような高熱や頭痛、筋肉痛などです。
4)トキソプラズマ症
トキソプラズマは、猫や動物の生肉に寄生する寄生虫です。猫に寄生した場合は、排出された糞を始末している人が感染するケースがあります。
トキソプラズマが感染した猫の糞に排出されるのは、感染してから1週間程度。その後は体外にトキソプラズマを排出することはほとんどありません。
また、糞の中に排出されたトキソプラズマが感染力を持つのは、排便されてから24時間~74時間まで。感染力が出ないうちに猫のトイレをすぐに掃除してしまえば、感染する可能性はありません。
特に注意が必要とされているのは、妊婦の感染です。トキソプラズマは妊娠中の胎児に悪影響が出るとされ、妊娠した時は猫と暮らさない方が良いとまで言われています。
なるべくなら妊婦は猫のトイレ掃除は避け、掃除をする場合は感染力のでないうちに手袋するなど糞に触れないようにしましょう。
5)猫回虫症
猫回虫は、猫の体内に寄生する回虫です。猫から人にうつると、内臓や目に寄生してしまいます。
猫は嘔吐や下痢などを起こします。回虫の駆除は投薬で簡単に体外に排出させることができるので、早めに獣医さんに連れていきましょう。
野良猫のほとんどが猫回虫を持っていると言われています。猫を保護した時は、必ず獣医さんに診てもらいましょう。
◆人→猫、また猫→人に感染する可能性のある病気
人が感染しても猫に感染しない病気がほとんどですが、水虫や結核などは、人から猫にうつる可能性があります。
また結核は、猫から人へうつる可能性もあります。2014年には、世界で初めて猫から人への感染がイギリスで報告されています。
イギリス保健省の執行機関の1つ「Public Health England」は、猫から人間への結核感染が認められたが、感染確率は非常に低いと発表しています。
参考文献:Public Health England/First documented cat-to-human TB infection revealed | Society | The Guardian
猫にもノロウイルスはうつる?まとめ
現在、人が感染しているノロウイルスが猫にうつる事例はありません。とはいえ、ウイルスの変容や亜種の発生により、今後猫が発症するウイルスが出てくるかもしれません。
ノロウイルスに猫から感染、また猫へ感染したという事例はありませんが、鳥インフルエンザのように家畜から人へ感染するウイルスへ変異しやすいものもあります。
猫から人にうつる病気は以下のような行動にも原因があります。
・トイレ掃除後に手を洗わない
・同じ食器を使う
・過度に触る
・キスをする
・引っかかれるなど
猫とともに健康に暮らすために、正確な知識と正しい対処法を知っていつまでも仲良く暮らしたいものですね。病気の感染予防と、感染後の対処の確認をしておきましょう。
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