1.またたびとは
1-1.植物の名称
1-2.成分
1-3.キャットニップとの違い
1-4.「ラクトン」と「ラクトール」
2.猫がまたたびに反応する理由
2-1.猫にとってまたたびは「媚薬」?
2-2.猫が多幸感を得る仕組み
2-3.マタタビ反応は蚊を忌避する行動?
3.またたびの使い方
3-1.フードやおやつのトッピング
3-2.爪とぎに振りかける
3-3.ストレス解消
3-4.愛猫とのコミュニケーションに
4.またたびの注意点
4-1.子猫には与えない
4-2.シニア猫や病気の猫には無理に与えない
4-3.大量に与えない
4-4.ご褒美程度に
5.まとめ
またたびとは
「猫にまたたび」ということわざは、おそらく誰でも聞いたことがあるでしょう。猫用のおもちゃにマタタビが使われていることが多いのも、飼い主さんにはよく知られていますね。
では、そもそも、またたびとはどんなものなのでしょうか?
◆植物の名称
またたびは、千島列島を含む日本全土と中国、朝鮮半島の山間部など、ごく限られた地域にしか自生していない珍しい植物です。
漢字では「木天蓼」と書き、マタタビ科マタタビ属のつる性落葉木で、学名は「Actinidia polygama」です。ちなみに、キウイフルーツも同じマタタビ科マタタビ属のつる性落葉木で、猫に対してまたたびと似た効果があります。
またたびは、初夏に梅の花に似た白い五弁の花をつけ、別名「夏梅」とも言われます。秋口には、3cmほどのどんぐり型の実をつけます。
つぼみの時期や開花の直前に、マタタビアブラムシという昆虫が花の中心にある子房に卵を産みつけると、果実はどんぐり型にはならず、こぶのようにデコボコとした「虫こぶ状」になります。これを「虫えい果」(ちゅうえいか)と言い、「木天蓼」(もくてんりょう)という人間用の漢方薬として古くから用いられてきました。
◆成分
またたびには「マタタビラクトン」「アクチニジン」「β-フェニルエチルアルコール」などの成分が含まれます。
猫が酩酊状態になるのは、上記の3つの成分に反応しているからだとされています。マタタビラクトンは、活性を持つ化合物群のようなもので、5種類ほどあります。
マタタビラクトン、アクチニジンは、通常の果実よりも虫えい果に多く含まれています。葉や枝にもこれらの有効成分が含まれていますが、効果の強さは粉末→液体→果実→枝→葉の順と言われています。
さて、猫が反応するのは主にマタタビラクトンであると長く考えられてきましたが、2021年、岩手大学農学部によって新たな研究成果が発表されました。
この研究発表によると、マタタビラクトン以外に、猫がより強く反応する「ネペタラクトール」という活性物質があることが分かったそうです。ネペタラクトールは、昔の分析技術では検出できなかったのですが、最新の分析手法で発見することができました。
ネペタラクトールには、猫が多幸感を得る効果だけではなく、蚊の忌避効果があることも分かったそうです。野生で暮らしていたころの猫は、蚊に刺されにくくするために、またたびの葉に頭部をこすりつけて被毛にネペタラクトールを付着させていたようです。
◆キャットニップとの違い
猫のおもちゃに使われているのは、またたびの他に「キャットニップ」があります。
では、キャットニップとまたたびは何が異なるのでしょうか?
キャットニップという植物は、学名を「Nepeta cataria」と言い、日本名では「イヌハッカ」と呼ばれています。シソ科イヌハッカ属のハーブで、葉の形状や香りはミントによく似ています。西洋では古くから使用されているハーブで、近年は日本でも徐々に浸透してきています。
西洋では古くから、料理のスパイスやサラダとしても使われていて、現在も人気があります。発汗作用や解熱効果があり、風邪をひいたときや、眠れないとき安眠効果のあるハーブティーとしても使用されます。
猫に対してはまたたびと同じような効果があり、「西洋マタタビ」とも言われ、西洋では、またたびよりキャットニップの方が有名です。
「ネペタラクトン」という物質が猫を興奮させるほか、ゴキブリや蚊などの昆虫に作用することも知られており、忌避剤の役目もあります。
◆「ラクトン」と「ラクトール」
ところで、またたびのネペタラクトールとキャットニップのネペタラクトンは、名前が似ていますね。では、この2つの物質には、どんな関係があるのでしょうか?
「ラクトン」(lactone)は「環状エステル」というもので、多くのラクトンには芳香があります。ロート製薬によると若い女性の甘くていい匂いの成分は、ラクトン類だそうです。
一方、「ラクトール」(lactol)は、酸化によってラクトンを形成します。
また、ネペタ属=イヌハッカ属ですから、ネペタラクトンとは「イヌハッカ属の植物に含まれるラクトン」に由来する名前でしょう。
猫がまたたびに反応する理由
猫がマタタビを嗅ぐと葉に体をこすりつけゴロゴロ転がる反応は、「マタタビ反応」と呼ばれます。これは「マタタビ踊り」とも言われ、江戸時代から知られている非常に有名な生物現象の一つです。猫に限らず、ヒョウやライオンなどのネコ科動物にも見られます。
では何故、猫はまたたびに反応するのでしょうか?
◆猫にとってまたたびは「媚薬」?
またたびによって陶酔した猫は、体をくねくねさせることがあり、発情期のメス猫のようです。
前述のマタタビラクトンは、ネペタラクトン、アクチニジン、「イリドミルメシン」、「イソイリドミルメシン」などの物質の総称です。
ネペタラクトンは、猫の性フェロモンと似た構造をしています。このため、性的な興奮を呼び起こしていると考えられ、これが、またたびが猫にとって媚薬であると言われる所以です。
イリドミルメシンは、い草の香り成分です。働きアリの肛門腺分泌物やマンゴーにも含まれていて、やはり猫を興奮させる作用があるとされます。イソイリドミルメシンはイリドミルメシンと似た構造を持った物質で、似た作用があると考えられます。
◆猫が多幸感を得る仕組み
上述の岩手大学農学部の研究では、ネペタラクトールを猫に与えてマタタビ反応を引き起こし、その前後の脳内神経伝達物質「βエンドルフィン」の血中濃度の変動を調べました。
その結果、マタタビ反応後に血中βエンドルフィン濃度が上昇することが分かったのです。βエンドルフィンは、ヒトで多幸感に関わる神経系の一種「μオピオイド系」(ミューオピオイド)を活性化させます。
さらに、μオピオイド系を阻害する物質「ナロキソン」を注射してからネペタラクトールを与えると、マタタビ反応を抑制することが分かりました。
この結果から、猫がまたたびに触れて陶酔状態になるのは、多幸感に関わるμオピオイド系が活性化しているためであると明らかになったのです。
◆マタタビ反応は蚊を忌避する行動?
同研究では、さらに、ネペタラクトールを壁や天井につけた場合には、猫は顔や頭を何度もこすりつけ、床につけた場合に見せるゴロゴロ転がる特徴的な反応を示さないことも明らかにしました。
マタタビ反応を示した猫の顔や頭にはネペタラクトールが付着していることも確認され、マタタビ反応で最も重要な行動は、ネペタラクトールを顔や頭にこすりつける行動であることも明らかになりました。
さらに、ネペタラクトールが蚊を忌避・殺虫する活性を示すことが分かり、ネペタラクトールを頭に塗られたネコは蚊に刺されにくくなることも確認されました。
蚊は、フィラリアなどの寄生虫やウイルスを媒介し、また蚊刺過敏症(ぶんしかびんしょう)などを引き起こします。猫は、マタタビ反応でネペタラクトールを体にこすりつけることにより、蚊から身を守っていると明らかになったのです。
またたびの使い方
◆フードやおやつのトッピング
下痢をしたときや元気がない時などに、猫の反応を見ながら調節して与えると、万能薬として役立てることができます。
食欲がない時などに、フードやおやつのトッピングとして少量を与えると、食欲増進効果が期待できるのでおすすめです。
直接食べさせた場合、刺激は強いですが効果は長く続きません。またたびの成分に反応するヤコブソン器官への刺激が、飲み込むことで途切れてしまうためと考えられます。
ただし、食欲不振や元気が消失している時には、何らかの体調不良や病気が隠れている可能性があるので、早めに動物病院を受診してくださいね。
◆爪とぎに振りかける
爪を研いでほしくない場所で爪とぎをされてしまうことに、頭を悩ませる飼い主さんも少なくありませんね。
対策として爪とぎを用意しますが、猫に爪を研ぐ場所として認識してもらうには根気がいることもあります。
新しい爪とぎにまたたびの粉末を振りかけると、またたびに惹かれて舐めたり嗅いだりしているうちに、爪とぎとして認識するようになります。
匂いを嗅がせる場合、刺激は弱いですが効き目は長続きします。
◆ストレス解消
マタタビには、猫のストレスを解消する効果もあるとされています。
またたびを与えると、猫は一定時間、活発に動き回ることから、運動不足解消の効果も期待できます。
あまり反応してくれないおもちゃに振りかけると、飛びついてくれる可能性もあるので、試してみてくださいね。
◆愛猫とのコミュニケーションに
またたびは、猫にとっては嗜好品です。
爪切りなど、猫が嫌がるお手入れをしたときのご褒美などに与えるのも良いでしょう。
またたびの注意点
最後に、またたびを与える際の注意点をご紹介します。
◆子猫には与えない
子猫は体内の器官が未発達なため、刺激が強すぎてパニック状態になる恐れがあるので、与えないようにしましょう。
市販されているおもちゃなど、またたびを含んだ商品には、対象年齢が書かれていることが多いです。必ず、対象年齢を確認したうえで与えてくださいね。
◆シニア猫や病気の猫には無理に与えない
シニア猫や、病気(特に心臓に関連するもの)のある猫にまたたびを与えると、身体に過度の負担がかかる場合があるため、無理に与えないようにしましょう。
◆大量に与えない
効果には、個体差があります。初めて与える場合には少し嗅がせる程度で、様子を見ながら慣れさせていきましょう。
そのうえで、愛猫にとって無理のない適量を判断するようにしてください。
大量に与えると、刺激が強すぎて体に負担がかかる恐れがあります。ひどい場合には、呼吸困難に陥ることもあるとも言われているので、注意しましょう。
◆ご褒美程度に
与える頻度は、ご褒美程度に留め、1度与えたら間をあけるようにしましょう。
毎日のように与えていると、慣れてしまい、効果が出にくくなることもありますが、依存性はないと言われています。
まとめ
「猫にまたたび」とは、大好きなものの譬えとして、よく耳にしますね。
またたびは、マタタビ科マタタビ属のつる性落葉木で、日本、中国、朝鮮という世界的に見れば限られた地域に自生しています。
木天蓼として古来、漢方薬としても使われてきたマタタビは、猫にとっては「媚薬」とも言われ、ゴロゴロ転げまわったり、体をくねくねさせたりと特徴的な反応を示します。
猫が、何故またたびに反応するのかは、長く明らかになっていませんでしたが、2021年にネペタラクトールという活性物質が、多幸感に関わるμオピオイド系を活性化しているためであるという研究発表がありました。
また、このネペタラクトールには蚊の忌避効果があるため、猫は蚊から身を守るためにネペタラクトールを頭や顔にこすりつけているということも分かりました。
またたびの効果には個体差がありますが、大量に与えると刺激が強すぎて体に負担を与える恐れがあります。また毎日のように与えると慣れてしまい、効果が出にくくなる場合もあるので、間隔をあけて少量を与えるようにしましょう。
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