【獣医師監修】猫のコクシジウム症とは?原因や治療法、予防法をまとめて解説

2024.03.30

【獣医師監修】猫のコクシジウム症とは?原因や治療法、予防法をまとめて解説

猫は様々な理由で下痢をしますが、特に寄生虫などの感染により消化管に異常が起こることが多いです。 猫に感染する寄生虫はたくさんの種類が知られていますが、寄生虫感染による下痢で特に治りにくいもののひとつに猫コクシジウム症があります。 猫がコクシジウム症になった場合、どのような症状に気をつけて治療を行えば良いのでしょうか? 今回は猫コクシジウム症の原因や治療方法、消毒方法などを解説します。

猫のコクシジウム症とは

ソファの上でくつろぐベンガル猫

コクシジウムとは、原虫という寄生虫の一種で多くの種類が存在します。

このうち、シストイソスポーラ属(Cystoisospora)というグループのCystoisospora feris、Cystoisospora rivoltaの2つの種が猫の消化管に寄生し、猫コクシジウム症を起こします。

では猫のコクシジウム症はどのように感染し、どんな症状が出るのでしょう。

◆原因

猫のコクシジウム症は経口感染を起こします。

コクシジウム症に感染している猫の糞便中には、オーシストというコクシジウムの卵のようなものが排泄されています。コクシジウムに感染していない猫が、このオーシストを口にすることで感染が成立します。

オーシストは、糞便中に排泄された直後は「未熟オーシスト」と呼ばれる状態で感染する力はありませんが、排泄後2-3日で「成熟オーシスト」となり、経口感染を起こすようになります。

猫は他の猫や自身の便を食べることは滅多にありませんが、便が付着した場所を歩くことで、足や体にコクシジウムのオーシストが付着して、毛づくろいすることで体内に入ります。

その他にも、コクシジウムが寄生しているネズミなどを捕食することでも感染します。

このようにして、猫の口から消化管内に入ったコクシジウムが小腸に寄生します。

外出などで他の猫と接触がある猫やネズミを採ってくる猫などは特に要注意です。

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◆症状

猫のコクシジウムは小腸で増殖して、腸の絨毛に障害を与えるため主に下痢、嘔吐、血便などの消化器症状を起こします。

また、コクシジウムの感染により炎症が起こることで発熱や衰弱が見られることもあります。下痢や嘔吐が重度の場合は食欲不振や脱水も見られます。

一方で、猫コクシジウム症に感染していても症状を全く起こさないケースも多く見られます。

特に成猫のコクシジウム症では症状が出ないことが多いです。子猫のコクシジウム症においても、消化器症状が見られる場合と無症状の場合があります。

他の寄生虫と重なって感染を起こしている場合に特に症状が見られやすくなります。

◆診断方法

猫コクシジウム症は糞便検査により診断を行います。一度の糞便検査ではコクシジウムのオーシストが検出されない場合もあるため、複数回検査を行う必要があります。

また、その他の寄生虫や細菌感染が無いかを同時に確認します。

◆コクシジウム症の潜伏期間

猫のコクシジウム症の潜伏期間は3~6日です。感染から数日で下痢などの消化器症状を起こしますが、上述の通り、症状の出ない猫も多いです。その場合、いつからコクシジウムに感染していたかは不明です。


猫のコクシジウム症の治療

動物病院で診察を受ける茶トラ猫

◆駆虫薬によるコクシジウムの駆除

猫のコクシジウム症の治療には駆虫薬を用います。

症状が無い不顕性感染の場合や、コクシジウム症によって下痢をしていても、元気や食欲などの全身の状態が良好な場合は駆虫薬による治療だけで十分です。治療の補助として整腸剤を用いる場合もあります。

◆消化器症状などへの対症療法

下痢、嘔吐や血便によって衰弱している場合には輸液などの対症療法が必要になります。特に子猫や免疫力の低下している猫は注意が必要です。

駆虫薬を投与し終えた後は、糞便検査を何度か行い、確実に駆虫できていることを確認します。場合によっては、一度の治療では駆虫しきれず、複数回の治療が必要になるケースがあります。

◆他の寄生虫の駆虫

他の寄生虫が重なって感染を起こしている場合には、そちらの駆虫も必要です。

後の項目で注意すべき他の寄生虫を簡単に解説しています。

◆環境の清浄化

再感染を起こさないように、環境の清浄化に努める必要があります。糞便中に排泄されたオーシストは環境中で数か月から長くて1年以上生存します。

糞便中に排泄されるオーシストは高温に弱いため、70℃以上の熱湯や高音スチーマーなどを用いた洗浄が効果的です。コクシジウムの予防には一般の消毒薬では効果が無いため注意が必要です。

繰り返しになりますが、猫コクシジウム症に感染している猫の糞便中には未熟オーシストが排泄され、数日で成熟オーシストとなり、感染力を持ちます。このため、猫の糞便は速やかに片付け、トイレ砂も全て交換することが望ましいでしょう。


猫のコクシジウム症の予防

花瓶に飾っている花とブリティッシュショートヘア

猫のコクシジウム症は、感染猫の糞便中のオーシストを口にすることで、経口感染を起こします。

外に出る猫の場合は、コクシジウム症への感染を完全に予防することは出来ませんので、下痢などが見られた場合は速やかに動物病院を受診して、診断・治療を受けましょう。

また、ネズミなどのげっ歯類を捕食することでコクシジウム症に感染するので、こちらも気をつけなくてはいけません。

自宅に感染している猫がいる場合は、可能であれば隔離して、同居猫も便の検査を受けましょう。隔離が難しい場合は、同居猫にも同時に駆虫薬を飲ませる場合もあります。

そして感染猫の糞便は速やかに掃除し、生活環境の消毒も行えると良いです。


他の寄生虫が原因の猫の病気

お腹に寄生虫がいる猫のイラスト

ここでは、コクシジウム症の他に寄生虫が原因となる猫の病気を簡単に解説します。

◆猫回虫症

猫回虫という寄生虫が猫の小腸に寄生するものです。虫卵を口から摂取した場合と、ネズミを捕食した場合、さらに感染した親猫の乳汁から感染する場合があります。
少数の感染では無症状であることが多いですが、多数寄生すると嘔吐、下痢、便秘、食欲不振などの消化器症状が現れます。嘔吐したものや便の中に虫が見られることもあるので、その場合は虫を獣医師に見せて相談しましょう。

◆鉤中症

猫鉤中という寄生虫が小腸に寄生します。鉤中は小腸の粘膜に噛みついて吸血を行います。このため、下痢や血便、重症時には貧血を起こします。

感染した猫の糞便中には猫鉤中の卵が排泄され、1週間ほどで感染可能な幼虫になります。

この幼虫が口から入ることで他の猫へ感染します。また感染幼虫が猫の皮膚から侵入する経皮感染や、感染している母猫から胎盤や乳汁を介して感染するケースもあります。

◆マンソン裂頭条虫症

マンソン裂島条虫は、猫がカエルやヘビなどを捕食することで感染します。腸内に寄生し、長期的な下痢の原因となります。成虫の虫体は、きし麺のような平べったい形で大きいため、大量に寄生すると腸の通過障害を起こす場合があります。
主な症状は下痢ですが、たくさん食べている割に痩せていたり、異常に食欲がある場合にマンソン裂頭条虫の感染が見られる場合があります。
また、肛門から成虫が出てくることもあり、驚いた飼い主さんが動物病院へ連れてくるケースも多いです。
マンソン裂頭条虫の幼虫は、人間に感染する場合がありますが、犬や猫から直接感染することはないと言われています。

◆瓜実条虫

ノミを介して感染する寄生虫です。瓜実条虫は小さい米粒のような片節がたくさん連なった形をしています。肛門や便にこの片節が付着していることが多く、飼い主さんが「お尻にゴマみたいなものがたくさん付いている」と来院されることが多いです。
寄生していても無症状のこともありますが、下痢の原因になったり、猫がお尻に不快感を覚えたりします。また、肛門や便に寄生虫が付着していると非常に不衛生なので速やかに治療を行う必要があります
寄生している猫は過去か現在においてノミが寄生していることがほとんどなので、ノミの駆除も同時に行う必要があります。

◆ジアルジア症

ジアルジアという原虫が猫の小腸に寄生することで起こります。主に下痢を起こしますが、感染していても症状が見られない不顕性感染であることも多く、ストレスや免疫力の低下や腸内環境の悪化などで発症すると考えられています。

感染している猫の糞便中にシストと呼ばれる状態のジアルジアが排泄されており、これが他の猫の口に入ることで感染します。子猫や高齢動物、状態の悪い猫などで重症化する場合があります。また、他の寄生虫との重複感染にも注意が必要です。

◆トリコモナス症

トリコモナスという原虫が小腸や大腸に寄生して慢性の下痢を起こします。子猫が症状を現わすことが多く、成猫は無症状であることが多いです。他の寄生虫同様に経口感染を起こすことがわかっています。

便検査で検出されないケースが多いことと、100%駆虫できる薬が無いため、診断や治療が難航する場合が多いです。
このように猫の消化管に寄生する寄生虫は多くの種類が存在します。下痢などの症状を起こさないケースもありますが、慢性的な下痢や血便、栄養状態の悪化などを起こして重症化する場合もあります。猫が下痢をした場合は動物病院で寄生虫の感染が無いか便検査で調べてもらいましょう。

これらの寄生虫は人間に感染するものも多いため、ご家族の健康のためにも注意が必要です。

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まとめ

今回は猫のお腹に感染する寄生虫疾患の中の、猫コクシジウム症について解説しました。
近年は、室内飼いの猫が増えてきており、野外での感染は少なくなっていますが、ペットショップやブリーダーの元で感染しているケースや、検査で見逃されているケースもあり、注意が必要です。

猫が下痢をしている場合は、こういった感染症が原因のことが多く、気づくのが遅れると思わぬ重症化を招いたり、生活環境が汚染されたりと問題が大きくなります。便に異常が見られたら早めに動物病院を受診してください。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に16医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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