【獣医師監修】猫には生理がない?出血時に考えられる病気と猫の排卵メカニズムについて

2022.05.24

【獣医師監修】猫には生理がない?出血時に考えられる病気と猫の排卵メカニズムについて

トイレの猫砂に血がついていると「生理かな」と勘違いしている方も多いでしょう。実は、人や犬と違って、猫には生理の出血がないという特徴があります。猫砂に残った血液は、血尿や血便、子宮のトラブルといった病気の可能性が高くなります。 今回は、猫には生理がない理由と、猫の発情や排卵のメカニズムについて、また出血を伴う病気についてお伝えします。出血を発見したら、まず病気の可能性を見逃さず適切に対処してあげてください。

猫に生理がない理由は?

犬猫集合

◆犬と人間には生理がある

メスの犬を飼っている方は、愛犬にも生理があるとご存知ではないでしょうか。人と同じように犬にも生理があります。
といっても、犬の生理と人の生理は出血のメカニズムが違い、出血するタイミングも違います。

一般的に生理といわれるものは、生理出血または発情出血のことを指します。卵胞の発育周期=排卵周期によって、体外に排出される出血のことをいいますね。

人の場合は、卵巣が発育してくると子宮内膜も発達していきます。そして排卵した後に受精しなかった場合、出血とともにはがれ落ちてくるのです。
つまり、人の生理は排卵の後、妊娠しなかった場合に生理出血が起こります。

一方犬の生理の場合、出血は妊娠のために発達した子宮粘膜の血管からにじみ出てきたものです。犬は、排卵する少し前に出血して、その後妊娠可能な発情期が訪れます。

◆猫に生理がない理由は「排卵のメカニズム」

さて、猫には生理がないと冒頭にお話しました。猫の生理がない理由は、猫の排卵のメカニズムにあります。

犬や人は、一定の間隔で自然に排卵する「自然排卵動物」で、猫は交尾の刺激があると排卵が起こる「交尾排卵動物」です。

自然排卵動物が子宮内膜を発達させるメカニズムを持っているのは、受精卵を受け入れるためのベッド作りと言われています。排卵された卵子が精子と出会い、受精した受精卵を子宮でしっかり受け止め、胎児に栄養を与えるため発達したものが子宮内膜です。

一方猫などの交尾排卵動物は、いつ排卵と受精が起こるか不明の環境で生息し、定期的に子宮内膜を準備しておくことができないため、排卵による生理がないと考えられています。

そのため猫は、「交尾排卵」という特殊な排卵メカニズムを持っているのです。

◆猫の排卵のメカニズムについて

この排卵メカニズムは、定期的に卵巣の卵胞が発達してホルモンを出し発情します。

猫の発情期は一般的には春と秋の年に2回、発情していないと交尾はしませんし、成人したオス猫とは一定の距離を保っています。
しかし、卵胞ホルモンによって発情を起こしたメス猫は、オス猫との交尾を受け入れるようになります。

排卵は前もってするのではなく、発情によって交尾をするとその刺激で卵巣から卵子を排卵するメカニズムなのです。


猫の発情期に見られる行動は?

三毛猫

◆メス猫の発情期のサイン

メス猫が発情期を迎えると、以下のような行動が見られます。

・身近なものや人に頭や首をこすりつける
・頭を低くして腰を持ち上げ、後ろ脚を足踏みしながら尾を一方に寄せる(ロードシス)
・外陰部が膨らみ分泌物がでるため、しきりに陰部をなめる
・尿の回数が増え、普段より匂いがきつくなる
・オス猫だけでなくスプレーするメス猫もいる
・落ち着きがなくなりやたらと外に出たがる
・普段の食事の量が減り食欲がなくなる

◆メス猫の発情期の役割

メス猫は、年に数回一定間隔で発情期を迎えます。独特の鳴き声で鳴いたり、すりすりまとわり付いて異常に甘えてきたり、外に行きたがったりするなどは発情期の行動です。

こうした発情期特有の行動は、妊娠可能な期間であることをオス猫に伝え、交尾を促すサインと考えられています。
発情期は、交尾が終わるか卵胞が自然に排卵されたり吸収されたりすると終了します。

メス猫は、発情していない期間は卵巣に卵胞が発達していません。そのため、発情期以外ではオス猫からのアプローチで交尾を受け入れることはないのです。

◆発情期があるのはメス猫だけ

発情期のあるメス猫に対し、オス猫には発情期がありません。メス猫の発情に合わせて「いつでも準備万端」状態なのです。

オス猫はメス猫と違い、常に精子を作っていつでも妊娠させることができます。そのため、オス猫には特に発情期というものが決まっていないと考えられているのです。

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生理のない猫が出血している時に考えられる病気

猫と猫トイレ

猫には生理がないため、出血もありません。ですから、出血しているということは病気の可能性があります。

猫の外陰部は生殖器の出入り口にあります。尿道も開口しているため、出血している場合は生殖器か泌尿器の病気の可能性があります。

◆生殖器の病気

基本的に避妊手術をしている猫は、生殖器の病気に罹る可能性が低く、陰部からの出血はほとんどありません。

避妊手術をしていない場合は、以下の子宮の病気が考えられます。

【子宮蓄膿症】
子宮蓄膿症は、子宮に血や膿が溜まる病気です。主に、避妊手術をしていない中年以降の猫に時々見られます。

典型的な初期症状は「多飲多尿」です。水をたくさん飲み、尿の量が増える特徴がみられ、病状が進行すると子宮に膿がたまっていきます。
その後、膿でお腹がふくれる、元気がなくなる、嘔吐や下痢などの症状が出ます。

子宮蓄膿症は、子宮頸管が開いているか閉じているかで症状が異なります。子宮頸管の状態から「開放型」と「閉鎖型」に分類されます。

「開放型」は、外陰部から大量に膿が出てきます。お尻や陰部、後ろ足などに悪臭をともなった汚れが見られるようになるのです。

「閉鎖型」は、「開放型」より深刻です。膿が外に出ないため、膿が子宮内にたまり手遅れになってしまうケースがあります。
膿でお腹がふくらみ、触ると痛がるなどの症状が現れます。放置すると、たまった大量の膿で子宮が破れ、腹腔に漏れ出すことも。

このケースは深刻で、などを起こします。残念ですが、多くの場合短時間で死に至ります。

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【膣、子宮の腫瘍】
膣や子宮に腫瘍ができて、そこから出血することがあります。腫瘍のための出血は比較的まれです。

腫瘍の中には、良性の場合と悪性のガンのこともあります。

◆泌尿器の病気

生殖器と尿道が近いこともあり、どちらからの出血なのか飼い主では判断が難しいこともあります。このような出血は、子宮などの生殖器の病気よりも泌尿器の病気のほうが多いです。

ちなみに、泌尿器の病気は、避妊手術の有無で発病するかどうかの可能性とは関係ありません。

【尿路感染症】
尿路感染症は、細菌などが尿道から膀胱へ上り、炎症や粘膜の損傷を起こす病気です。

感染の激しい症状には、全身症状が出ることも。尿が赤いだけではなく、白く濁ることもあります。

【膀胱炎】
出血で最も多い原因が膀胱炎です。膀胱に炎症を起こして、出血すると陰部に血が付くことがあります。
膀胱炎の原因としては、膀胱結石や膀胱腫瘍があります。

症状は、頻繁にトイレに行きますが尿の量は少量しか出ません。血尿が出たり、濁った尿が出たりする症状が起こることがあります。
また、お腹を触ると痛がる、排尿の回数が増えた、排尿するのに出ていない、発熱などの症状にも注意しましょう。

こうした排尿のトラブルはある時は、すぐに動物病院で検査をしてもらう必要があります。

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【尿路結石】
尿路結石になると、尿が少ししか出ないため何度もトイレに行き、結石の痛みや不快感で辛そうに鳴いたりすることもあります。排尿のときの鳴き声が、結石のわかりやすい兆候です。

尿路結石は症状が進行すると、突然血尿が出ることもあります。結石が膀胱や尿道を傷つけ、出血して尿に混じって血尿になるのです。
また、結石は大きくなったり、数が増えてしまったりすることも。

尿が出ないということは、命に関わる「尿毒症」を引き起こすこともあります。早期に発見してあげたい病気の一つです。

結石ができないようにするのには、お水を多めに飲ませることがポイント。
また、きれい好きな猫が汚いトイレを嫌がって我慢することがないよう、トイレはいつも清潔にしておくことも大切です。

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【溶血性貧血】
溶血性貧血は、血液が壊されるため、古い血液を体内から出す尿が赤くなります。陰部に血のような赤いものが付くことがあります。

また、猫白血病ウイルス(FeLV)の感染でも溶血が起こることがあります。このウイルスに感染するとリンパに腫瘍ができ、悪性リンパ腫になることが。

現在、根治させる治療法がありませんので、他の猫への感染を防ぐ対処と、対処療法による治療をします。

【腎臓からの出血】
膀胱や尿道のトラブル以外にも出血する病気があります。玉ねぎ中毒とヘモプラズマ中毒の場合は、血尿ではなく、赤い色の尿が出ます。

この赤い尿は、血色素(ヘモグロビン)尿といわれ激しい貧血を起こしてふらついてしまう、口の中が白い、また黄疸や嘔吐、下痢などを起こすことがあります。

猫は、玉ねぎや人間用の風邪薬、ヘモプラズマという赤血球につく小さな寄生体に対して中毒を起こします。中毒症状は深刻になると命に関わりますので、とにかく口に入らないよう管理が必要です。

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◆その他の原因による出血

その他にも、以下のような理由で出血が見られることがあります。

【交尾による膣からの出血】
外に行く猫や家に未去勢のオス猫と同居している場合は、交尾の後に陰部が荒れて出血することがあります。

また、外で交尾した場合、感染症に罹ってしまう危険も。感染症の罹患率が多い地域では、外に出さない対策を取るか、発情しなければオス猫を寄せ付けないため避妊を検討しましょう。

猫の妊娠期間は2か月。出産を望まない場合は早めに避妊手術をする必要があります。

【落下、交通事故など】
交通事故や落下事故などで、腎臓や膀胱などに損傷を受けると出血することがあります。

猫は本来落下しても体を水平に保てる機能を持っていますので、室内でそこまでのケガをすることはあまりありません。
しかし、住居環境によっては、猫特有の受け身が取れなかったりすることも。

体を触ると痛がる、歩き方がおかしいなどの異変があったら動物病院へ連れていきましょう。

尿が赤い場合や出血している場合は、病気やトラブルのサインです。拭き取った血や、血尿の出た砂などを持参して動物病院に行きましょう。


猫の生理と出血する病気のまとめ

生理の出血によって血を失うこともなく、外敵に血の匂いで襲われる危険が少ないように進化した猫。
メス猫の効率よく子孫を残せるようにできている排卵のメカニズムや、オス猫のいつでも準備万端の生殖のしくみによって、生殖能力が高いのもうなずけます。

一方で、猫のトイレを確認したとき、猫砂に血が混じっているのを発見したら、病気のサインの可能性が高いことがおわかりいただけたでしょうか。

生殖器系の病気なのか、腎臓や膀胱といった泌尿器系の病気なのかは判断が難しいものです。どちらも早期に対処する必要がありますので、すぐに動物病院に連れて行ってあげましょう。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に15医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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にゃんこ

にゃんこ

長年一緒に暮らした長女猫(17歳)と長男猫(11歳)を看取り、今は脱走癖のある次男猫とちょっとどんくさい次女猫と暮らしています。

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