【獣医師監修】猫パルボウイルス感染症の原因、症状、治療法は?ワクチンで予防できる?

2019.02.12

【獣医師監修】猫パルボウイルス感染症の原因、症状、治療法は?ワクチンで予防できる?

猫パルボウイルス感染症という病気は、猫にとってとても恐ろしく、獣医さんも最も嫌う病気のうちのひとつです。感染力が高く、致死率も高いことから、猫の飼い主さんは必ず予防対策を取っておいて欲しい病気となります。猫パルボウイルス感染症は、猫カフェで多くの猫が感染したことからも話題になりました。 猫パルボウイルス感染症について、どのような病気なのか、どのような原因で感染し、どのような症状が出るのか、さらに治療法やワクチンといった予防法についてもご紹介します。

猫パルボウイルス感染症とは?

横になっている子猫

猫パルボウイルス感染症は、猫伝染性腸炎、猫汎白血球減少症とも呼ばれる感染症です。

◆激しい下痢や嘔吐などの症状を引き起こす

パルボウイルスに属する猫汎白血球減少症ウイルス(Feline Panleukopenia Virus=FPV)によって引き起こされます。

猫が猫パルボウイルス感染症にかかると、潜伏期間の後、急性胃腸炎を起こし、下痢や嘔吐などの激しい症状が出ます。

また、白血球の減少が生じることがあり、症状が進むと、細菌の二次感染によって敗血症などを起こして死亡することもあります。

◆非常に感染力の強い病気

猫パルボウイルス感染症は他の猫への感染力も高く、感染した猫に触れたり、感染した猫の便や尿、嘔吐物などで汚染されたものに接触したりすることでも感染します。

さらに、便や嘔吐物で汚染されていなくても、猫パルボウイルス感染症の猫が使っていた毛布やおもちゃに触ることでも、感染する可能性があります。

猫パルボウイルスは猫の体外でも長期間(数週間~1年ほど)生きることができるため、人間の手や服などを通して関節的に猫に感染することもあります。

◆ワクチン接種や早期の治療が必要

猫パルボウイルス感染症は、ワクチンが開発されたことで、発症例は少なくなってきています。

ただし、猫パルボウイルス感染症にかかった場合には、治療に出来るだけ早く取り掛からないと猫の命にかかわるので、油断はできない病気です。


猫パルボウイルス感染症は人間にうつる?

パルボウイルス感染症は感染力が高く、猫から猫へは高確率で移りますが、人間や他の動物に感染することはありません。

ヒトパルボウイルスというものはありますが、猫パルボウイルス感染症のウイルスとは型が違っています。同様に犬パルボウイルスもありますが、こちらも猫パルボウイルスとは別物です。

ただし、人間が猫パルボウイルスを運ぶことで、飼っている室内猫に感染させてしまうこともあるため、猫パルボウイルスに触れてしまわないように注意が必要です。


猫パルボウイルス感染症の原因は?

並んでいる猫

猫パルボウイルス感染症にかかった猫の排泄物や唾液中に猫パルボウイルスが含まれているため、感染している猫と触れ合ったり、排泄物を舐めたりしてしまうことで感染します。

また、猫パルボウイルスは猫の体外で、乾燥状態にあっても1年以上ほども生存できるほど抵抗力が強く、環境のどんな場所でも存在している可能性があります。

環境にある猫パルボウイルスに接触すれば、感染している猫と直接触れ合っていなくても、感染する可能性があるということですね。

そのため、多頭飼いの場合には、猫パルボウイルス感染症になった猫が使っていたおもちゃや毛布、猫ベッド、猫トイレなどに触れることでも、別の猫が感染することがあります。

2018年に都内の猫カフェで多くの猫が猫パルボウイルス感染症になるという出来事がありましたが、ワクチン接種を怠り、感染後の治療や処置も適切でなく、管理もずさんであったことから、広まってしまったのではないかと考えられます。


猫パルボウイルス感染症の症状は?

猫タワーの上の猫

猫パルボウイルス感染症の症状は、無症状のものから、半日から1日以内に急死してしまうものなど様々です。これは、感染した猫の年齢や免疫力などにより左右されます。

猫パルボウイルス感染症の症状は、数日の潜伏期の後に初期症状が現れ、その後も症状が悪化すると慢性期の症状が現れます。

◆猫パルボウイルス感染症の初期症状

猫パルボウイルス感染症の初期に見られる、急性期の症状は、次のようなものです。

・発熱
・食欲不振
・元気がない
・腹痛
・嘔吐
・下痢
・脱水症状

発熱は39℃~41℃にもなり、下痢や嘔吐が続きます。下痢は水のような状態で、血が混ざることもあります。

嘔吐は餌を食べた時間にかかわらず水のようなものが出て、胆汁が混ざっているので黄緑色に見えることもあります。

腹痛があるため、あまり動かなくなり、うずくまった状態でじっとしているようになります。

猫パルボウイルス感染症の症状が出初めてしまうと、5日~7日ほどで死亡してしまうことも多くあります。

◆猫パルボウイルス感染症の重症化した場合の症状

猫パルボウイルス感染症がさらに重症化すると次のような症状が見られます。

・白血球の減少
・貧血
・下痢
・血便
・脱水

白血球の減少が生じて手当てが遅れると、細菌の二次感染によって敗血症などを起こし、死亡につながります。

子猫や新生子のうちに猫パルボウイルス感染症になった時には、中枢神経や胸腺が障害を受け、運動失調や震えが見られて、多くは死亡してしまいます。

また、妊娠初期の母猫が猫パルボウイルス感染症になると、胎盤を通じて胎子にウイルスが移行するため、死産や流産につながります。

◆重症化する前に適切な治療を

猫パルボウイルス感染症の症状が出ても、すぐに動物病院で適切な治療を始めて、重症化を防ぐことができれば、回復する見込みもあります。回復してしまえば、特に後遺症などもなく、普通に生活ができるようになります。

しかし、回復した後でも1ヶ月ほどは猫パルボウイルスが便の中に排出される可能性があるため、治ったあとすぐには他の猫とは接触させないようにしましょう。

猫トイレも別のものを使わせて、隔離して過ごさせてください。


猫パルボウイルス感染症の治療法は?

◆猫パルボウイルス感染症は対処療法が基本

猫パルボウイルス感染症に対して、直接効果のある薬は現在のところありません。そのため、猫パルボウイルス感染症の治療は、出ている症状を抑える「対症療法」を行うだけになります。

その対症療法も、症状が出たその日のうちから治療を始めないと、手遅れになることが多いので、できる限り早く行う必要があります。

猫パルボウイルス感染症になると、脱水、敗血症、播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群などによって命を落とすことが多いため、この状況になるのをできるだけ抑えたり、早く治療したりすることで、猫の命を守ります。

また、他の猫への感染を防止するために、まず猫パルボウイルス感染症になった猫を隔離して、治療を行います。

◆猫パルボウイルス感染症の治療法

・下痢や嘔吐の治療
状況によりますが、下痢止めや吐き止めの薬を投与します。症状がひどければ、他の治療を行います。

・脱水症状の治療
猫パルボウイルスは小腸や大腸の表面の細胞に感染し、上皮細胞の欠落が起こるので、出血性腸炎や腸絨毛の短縮化などが起こり、下痢や脱水や血便となります。

脱水症状の治療には、輸液療法をします。

・播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群の治療
猫パルボウイルス感染症で播種性血管内凝固症候群が見られた場合には、血漿輸血の治療が行われることもあります。

播種性血管内凝固症候群とは、本来は傷口などの出血した箇所のみで生じるべきである血液凝固反応が、全身の血管内で無秩序に起こる症状です。

小さな血栓が無数に生じて細い血管が詰まるので、血流が妨げられ、酸素や栄養が各組織に届かなくなって、腎臓や肺などの臓器障害を起こすため、命に関わる状態になります。

・敗血症の治療
敗血症は、感染症によって生命を脅かすような臓器障害が現れる状態です。

腸内細菌が血中に入り込み、敗血症になるのを防ぐために、抗生物質の投与を行います。抗生物質を投与することで、猫パルボウイルス感染症以外の感染症にかかることを防ぐ効果があります。

・栄養失調の治療
猫が餌を食べられない場合には、食べやすい餌を与えたり、カテーテルで栄養補給をしたりするなどして、体力の回復をはかることもあります。

・インターフェロン治療
インターフェロンとは、ウイルスや細菌などの病原体、ガン細胞などの異物に反応して、体内の細胞が分泌するタンパク質の総称です。

インターフェロンは、ウイルス増殖の阻止や細胞増殖の抑制、炎症の調節をするなどの働きをします。

猫パルボウイルス感染症の猫にインターフェロンを投与することで、免疫力を高めたり、症状が改善したりすることが期待できます。

猫用に開発されたインターフェロンの薬剤に、インターキャットというものがあるので、猫の症状によって、これを投与します。

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猫パルボウイルス感染症の予防法は?

ワクチンを打たれる猫

◆1年に1度のワクチン接種を必ず受ける

猫パルボウイルス感染症を効果的に予防するには、ワクチンを接種することが一番です。

たとえ室内で猫を飼っていても、外に出た飼い主さんの衣服や靴などに、環境内に生存している猫パルボウイルスが付着して、間接的に猫パルボウイルス感染症にかかることもあり得ます。

子猫を飼い始めた頃に病院へ行って、猫パルボウイルス感染症のワクチン接種をして、その後も1年に1度、ワクチン接種をすると良いでしょう。

猫パルボウイルスのワクチンは、どんな飼い猫でも受けておくべきコアワクチンの1つなので、3種混合ワクチンに含まれています。猫を飼ったら、3種混合ワクチンを必ず接種しておくようにしてください。

◆感染猫との接触に注意

多頭飼いの場合には、猫パルボウイルス感染症になった猫は必ず隔離して、他の健康な猫と接触しないようにしてください。

まだワクチン接種を済ませていない猫がいたら、すぐにワクチンを受けさせましょう。

ただし、他の猫がワクチンを受けていたとしても、100%感染しないわけではなく、まれに抗体がちゃんと増えない猫もいるので、同じ環境にはおかないようにしてください。

◆猫用品の消毒を徹底する

猫パルボウイルスは、石鹸で洗ったりアルコールで拭いたりした程度では死滅しません。

感染した猫が使った猫トイレや毛布、おもちゃなどは、塩素系の消毒薬を使って消毒するか、思い切って処分した方が良いでしょう。

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猫パルボウイルス感染症のまとめ

猫パルボウイルス感染症は、感染すると激しい下痢や嘔吐を起こし、命にかかわる病気です。

多頭飼いをしている環境では、猫パルボウイルス感染症にかかった猫はすみやかに隔離して、できるだけ早く治療を受けさせることが大切となります。

猫パルボウイルス感染症は感染力が高いのですが、ワクチンを受けていれば、予防できる感染症です。飼い猫には、動物病院で相談しながら、定期的にワクチンを受けさせてくださいね。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に14医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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nekoninja

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ネコ、犬、インコ、金魚などと暮らした経験を生かし、飼い主さんに役立つよ うな記事を作成しています。 ペット情報を日々チェックしながら、ペットについて勉強中です。かわいいペ ットをメインとしたイラスト作成もしています。

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