猫白血病ウイルス感染症とは?
猫白血病ウイルス感染症(英:feline leukemia virus infection)は、猫白血病ウイルス(FeLV)に感染することによって発症する病気のことを言います。
◆発症すると完治しない病気
猫白血病ウイルスは、レトロウイルス科オルソレトロウイルス亜科ガンマレトロウイルス属に属している1本2分節のRNAウイルスで、多くの種がガン遺伝子を有しており、主に肉腫や白血病を引き起こす恐ろしいウイルスです。
このウイルスはA・B・C・Tのサブグループに分けられ、猫に感染を引き起こすのはサブグループAに属するウイルスだと言われています。
シンプルな構造をしたウイルスとも言えますが、骨髄や小腸上皮などの活発に分裂をする細胞内でしか自己複製出来ないという点が特徴です。
この病気に感染してしまうと、単純に「白血病になってしまうことがほとんどなのでは?」と思われていますが、実際には免疫力を低下させ貧血や腫瘍などを引き起こすことが多いです。
そして一度発症してしまうと、完治することがないとも言われているので、常に意識しておきたい病気とも言えるでしょう。
◆猫白血病ウイルス感染症は人間にうつる?
猫白血病ウイルス感染症は感染後、すぐに症状が出る訳ではないのですが、病名が「感染症」と呼ばれている限り、うつることがあるのかも気になってしまうところです。
結論から言ってしまうと、種特異性の高い猫白血病ウイルス感染症は、人間や犬などのネコ科以外の動物にはうつることがなく、感染はしません。
ただし「仲の良い猫間で感染が広がりやすい」と言われている猫白血病ウイルス感染症は、感染していない猫にうつることがあります。
そのため、猫白血病ウイルス感染症と診断された場合、注意が必要となってきます。
猫白血病ウイルス感染症の原因は?
猫同士の感染が不安視される猫白血病ウイルス感染症ですが、どんな経路でうつるのか飼い主さんは知っておく必要があると言えるでしょう。
この病気の原因は病名の通り猫白血病ウイルスに感染し発症するのですが、猫白血病ウイルスの感染力はさほど強くはありません。ただし、感染力が弱いからといって安心出来ないのは、この病気で命を落としてしまう危険性もあるからです。
まずはどんな経路が原因となってしまうのか、理解しておきましょう。
◆傷口から感染する
猫白血病ウイルス感染症は、感染している猫の唾液や血液などに多く含まれます。
そのため、感染している猫と喧嘩などをした場合、喧嘩で傷ついた傷口から血を舐めとり感染してしまうケースが最も多いようです。
野良猫や去勢をしていないオスは放浪癖が強いので、不特定多数の猫と接触する機会も多く注意が必要と言えます。
◆食器などの共有で感染する
唾液から感染するという点で、食器の共有も感染リスクが高まります。
室内飼いの猫であっても外の出入りを自由にさせているのであれば、猫白血病ウイルス感染症の検査を動物病院でするようにしてください。
そして食器と同じく、トイレの共有も感染する恐れがあることを覚えておきましょう。
◆グルーミングで感染する
猫は綺麗好きな動物なので、一日の大半を寝て過ごし、起きている時間は必死にグルーミングをして清潔を保ちます。
仲の良い猫同士のグルーミングもよく見かけますが、グルーミングが原因となり猫白血病ウイルス感染症に感染してしまうことも。
唾液だけではなく涙や鼻水なども感染経路となりますので、注意しましょう。
◆母猫から感染する
母猫が猫白血病ウイルス感染症に感染していた場合、生まれてくる子猫はほぼ持続感染となります。
母猫の体内で感染する垂直感染は死産や流産、子猫衰弱症候群などのリスクを負って生まれてくることがほとんどです。
猫白血病ウイルス感染症は一度発生してしまうと完治が出来ない病気なので、生まれながらにして猫白血病ウイルスを持ち合わせてしまったのなら、しっかりと治療をしながら生活をしていくことが必要不可欠となるでしょう。
猫白血病ウイルス感染症の症状は?
猫白血病ウイルス感染症は感染から約2~4週間程度経過をしないと、症状が出てくることはありません。そのため、注意が必要な兆候をいち早く察知することが大切です。
体内に侵入した猫白血病ウイルスが起こす兆候には、以下のような症状が挙げられます。
・リンパ節の腫れ
・食欲不振
・体重減少
・下痢や脱水症状
・呼吸困難
・口内炎
・歯茎が白くなる
体内で赤血球や白血球の数が減少、あるいは過剰に増殖することによってこのような症状が現れてきます。
明らかに普段より元気が無くなったと思うようでしたら、早めに動物病院に受診しましょう。
猫白血病ウイルス感染症と併発しやすい病気は?
これらの猫白血病ウイルス感染症の症状が見られた際には、以下の病気の可能性も合わせて疑わなければいけません。
◆再生不良性貧血
猫白血病ウイルス感染症が骨髄に達してしまうと、造血幹細胞にさらに感染し、血液細胞の分化を妨げる働きをします。
骨髄の重要な役割は血液細胞を作ることなので、ウイルスがこの細胞の障害となると、正常な血液は造られなくなり、貧血を起こしてしまうのです。
貧血にも様々な種類があるのですが、一度造られた赤血球が破壊される溶血性貧血や猫伝染性貧血と異なり、再生不良性貧血はそもそも赤血球が造られることがないという特徴を持っています。
症状が重ければ死に至ってしまうこともあるので、貧血の症状が出ている場合は大変危険な状態であると言えるでしょう。
◆悪性リンパ腫(リンパ肉腫)
猫白血病ウイルス感染症に感染してリンパ節の腫れの症状が出ている場合、悪性リンパ腫(リンパ肉腫)も疑わないといけません。悪性リンパ腫(リンパ肉腫)は、全身のいたる箇所に存在しているリンパ組織がガン化してしまう、恐ろしい病気です。
「リンパ肉腫のうち、70%は猫白血病ウイルス感染症が原因」というデータが出ているので、見過ごすわけにはいきませんよね。
受動喫煙も発症率が高まると言われているので、喫煙者が居るご家庭では猫に煙が届かないように隔離する必要があります。
◆白血病
猫白血病ウイルスに感染したからといって、白血病を発症することは少ないですが、猫白血病ウイルス感染症の病名にもなっている通り、白血病も視野に入れておく必要があるでしょう。
猫の免疫に関わる白血球の生成が邪魔されてしまうので、免疫力はどんどん低下していき他の感染症にもかかりやすくなってしまいます。
適切な治療をしないと命をすぐ落としてしまうことになるので、獣医師と相談しつつ適切な治療を続けていくようにしましょう。
猫白血病ウイルス感染症の治療法は?
◆対処療法が基本となる
残念なことに、猫白血病ウイルスを体内から排除してくれるような特効薬は、現在存在していません。
猫白血病ウイルスに感染して発症してしまった場合、現れている様々な症状や疾患を抑え込むことこそが、猫白血病ウイルス感染症の治療法と言えるでしょう。
◆猫白血病ウイルス感染症の主な治療法
主な治療法としては、ウイルスや細菌などの病原体や、ガン細胞といった異物に反応し免疫力を高める、インターフェロン治療が一般的です。
重度の細菌感染には抗生物質を投与し、白血病やリンパ肉腫を発症した場合には抗がん剤を使用することもあります。重度の貧血であれば輸血も必要になってきますし、漢方などを用いることもあるようです。
苦痛を和らげながら病気の進行を遅らせるために、症状に合わせた治療法が必要となりますが、生活の質を保つことが重要と言えるのではないでしょうか。
猫白血病ウイルス感染症の予防法は?
猫白血病ウイルス感染症は、猫白血病ウイルスに感染したとしても、免疫力が高い状態であれば発症しないこともある病気です。
予防法を用いて猫の生活の質を保ってあげることさえ出来れば、寿命を延ばしてあげることも不可能ではありません。
まずは感染しないように、出来ることから始めていきましょう。
◆4~7種混合ワクチンを接種する
まずは猫と生活を共にするようになったのでしたら、ワクチンの接種が必要と言えるでしょう。
「完全室内飼いにするから大丈夫!」と思ってしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、脱走してしまうこともあれば、来客からうつる可能性も無いとは言い切れないからです。
猫のワクチンは3種から選べますが、猫白血病ウイルス感染症の予防を目的とするのなら、4~7種混合ワクチンまたは単体ワクチンを接種してください。
◆完全室内飼いにする
他の猫からうつることを考慮して、完全室内飼いにしてあげることにより、汗腺を防ぐことが出来ます。
猫同士の喧嘩やグルーミングで猫白血病ウイルスがうつることが多いので、ワクチンを接種した後は、外に出さないようにすることで感染予防に繋がります。
◆ストレスの元を排除する
猫のストレスは免疫力を低めてしまうので、生活の質を保つ目的でもストレスの元はなるべく排除してあげるようにしましょう。
併せて栄養のある食事や、トイレ周りを清潔に保つなどの毎日の気遣いもとても大切です。
◆定期健診を受ける
半年~1年ごとに健康診断を受けることによって、健康状態の変化を観測することが可能となります。
症状が悪化していたとしても、定期的に健診することによって症状を把握することが出来れば、症状に合った治療法を獣医師と相談しながら進めていくことも可能です。飼い主さんにとっても安心出来る予防法と言えるのではないでしょうか。
まとめ
完治の難しい猫白血病ウイルス感染症ですが、人間にうつることはないとはいえ、猫同士の接触で感染率が上がってしまう大変危険な病気です。
感染してしまった場合は、症状に合った治療をすることが寿命を延ばすための最善の方法と言えますが、猫が感染しないためにも事前に予防法を用いて対策をすることこそが重要と言えるでしょう。
大切な家族と一日でも長く一緒に居られるように、不安要素はなるべく排除をして生活の質を保つようにしてあげてください。
そして猫が安心して暮らせるように、ストレスを与えないような快適な空間を常に意識して生活することを心掛けていきましょう。
– おすすめ記事 –
・【獣医師監修】猫パルボウイルス感染症の原因、症状、治療法は?ワクチンで予防できる? |
・【獣医師監修】猫との人獣共通感染症に注意!感染で死亡例も…猫から人間にかかる恐れのある感染症8選 |
・【獣医師監修】猫に人のインフルエンザはうつる?猫のインフルエンザ「猫カリシウイルス感染症」とは? |
・【獣医師監修】猫カビ(皮膚糸状菌症)は人にうつる!症状や治療法は? |