猫の甲状腺機能亢進症とは?
甲状腺機能亢進症とは、甲状腺ホルモン(サイロキシン・トリヨードサイロニン)が異常に多く分泌されてしまい、猫の体の様々な臓器に負担をかける病気です。
◆猫の甲状腺機能亢進症の特徴
甲状腺は、首の付根にある小さな臓器のことです。この甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、全身の代謝をよくする働きをしています。
甲状腺機能亢進症になると、甲状腺ホルモンが異常に多く分泌されてしまうために、猫の体の様々な臓器に負担をかけることになります。
甲状腺機能亢進症の初期の症状は、猫が活発に動き、食欲が増すため、飼い主さんにしてみたら「元気」と感じられます。しかし、これらの症状は甲状腺ホルモンが過剰に分泌されているために猫が元気に見えているだけなので注意が必要です。
甲状腺機能亢進症の治療は、主に異常に多く分泌される甲状腺ホルモンの分泌を抑える飲み薬が使われることが多いです。
◆甲状腺機能亢進症にかかりやすい猫
甲状腺機能亢進症にかかりやすい猫の特徴は、高齢の猫です。年齢が7歳以上の高齢猫の10%以上は甲状腺機能亢進症といわれています。
甲状腺機能亢進症にかかりやすい猫の品種は、特にありません。すべての猫の品種にかかる可能性がある病気です。また、オスやメスの性別も関係がないといわれています。
◆その他の猫の甲状腺ホルモンに関する病気
他にも、猫の甲状腺ホルモンに関する病気があります。
甲状腺機能低下症は、甲状腺機能亢進症とは逆に甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンの分泌が減少することによって起こる病気のことです。
甲状腺ホルモンの分泌が減少することで代謝活性全般が低下してしまい、太りやすくなる、元気がなくなる、体温が下がってしまう、脈が遅くなってしまうなどの症状がみられます。
猫の甲状腺機能亢進症の原因は?
甲状腺機能亢進症の原因は、甲状腺ホルモンが異常に多く分泌されることです。
甲状腺ホルモンが異常に多く分泌される原因には、以下のようなものあります。
・甲状腺の腫瘍
・甲状腺ホルモンの過剰投与
・下垂体(甲状腺に甲状腺ホルモンを分泌するように働きかける場所)の腫瘍
甲状腺機能亢進症は、甲状腺の過形成が原因であることが多いです。過形成とは、組織の細胞が一定数以上に増殖する状態のことをいいます。
甲状腺が過形成を起こす原因は、はっきりとは明らかになっていませんが、遺伝的な要因、地理的な要因、キャットフードの成分(キャットフードに含まれるヨウ素の量)、建築物などの化学物質などが考えられるといわれています。
また、甲状腺に発生した腫瘍がある場合、腫瘍により甲状腺ホルモンが異常に多く分泌されることにより、甲状腺機能亢進症を発症することがあるといわれています。
猫の甲状腺機能亢進症の症状は?
猫が甲状腺機能亢進症の病気になると、様々な症状がみられます。
◆甲状腺機能亢進症の主な症状
・食欲が通常より増す
・水をよく飲む
・おしっこの量が増える
・嘔吐や下痢
・落ち着きがない
・攻撃的になる
猫が甲状腺機能亢進症になると、甲状腺ホルモンが異常に多く分泌されることで、基礎代謝があがります。そのため、動きが活発になります。
基礎代謝があがっている状態なので、動かなくてもエネルギーを消費してしまいます。食欲が通常より増すのに自然に体重が減ることがあるのはそのためです。
動きが活発になる、食欲が増すなど、見た目にはとても元気と勘違いしてしまうことがあります。また、落ち着きがなくなる、攻撃的になるなど、飼い主さんに対しての行動も変わってきます。
猫の身体の症状は高血圧になる、脈が乱れる、食欲があるのに体重が増えない(もしくは減る)などの症状がみられるようになります。これらの症状から、心臓や様々な臓器に負担をかけることがあります。
症状が進行すると、最終的には食欲が低下してしまい、食べる元気もなくなります。また、心肥大や呼吸困難がみられることもあります。
その他には、毛ヅヤが悪くなってしまい、毛がパサパサになって脱毛してしまうことがあります。嘔吐や下痢、水をよく飲むことやおしっこの量が増える多飲多尿もみられます。瞳孔が広がっている場合もあります。
飼い主さんは日頃から猫の様子をチェックして、いつもと違うことがないか気づくことで甲状腺機能亢進症の早期発見になります。
猫の甲状腺機能亢進症の治療法は?
猫の甲状腺機能亢進症の治療法は、薬の投与、外科手術、療法食などいろいろあります。猫に見合った治療法を行いましょう。
◆薬の投与治療
内科療法として、甲状腺ホルモンを異常に多く分泌しないための投薬を行います。
「メチマゾール(別名:メルカゾール)」という抗甲状腺薬の投与が一般的な治療法です。メチマゾールを使用し、甲状腺ホルモンの合成を抑えます。
メチマゾールの投薬を中止すると再び甲状腺ホルモンが増えてしまいますので、基本的には生涯メチマゾールの投薬が必要となります。
デメリットは、嘔吐や下痢、食欲不振などの副作用がでる可能性があることです。その場合は獣医師さんと相談して治療法を決めましょう。
◆外科手術治療
外科手術は、甲状腺自体を切除します。甲状腺を切除するため、根治できる可能性や食事制限がないことがメリットです。
体力がある若い猫、麻酔や合併症のリスク、腎機能に問題がない場合は、外科手術を受けることができるといわれています。
ただ、高齢猫の場合は体力が衰えているので、外科手術に耐えられるかという問題がでてきます。
外科手術を受けられない状態の場合は、猫の体調管理をして体調を安定させることで、外科手術を行うことができることもあります。
甲状腺以外の基礎疾患がある場合は、内科治療をします。甲状腺ホルモン測定を行い、その値に応じた内科治療や療法食治療を行います。その後、定期的に血液検査や甲状腺ホルモン測定を行いながら経過観察します。
猫の体調の安定が見られたら、猫の年齢や全身の状態、全身麻酔のリスクなども含めて、外科手術が可能な状態かどうかの検査を行います。猫の体調が安定していると判断した場合は、外科手術を検討することもあります。
甲状腺を切除することで甲状腺ホルモンが足りなくなります。そのために甲状腺ホルモンの投薬が必要になることがあります。
◆療法食治療
キャットフードに含まれているヨウ素の量を制限した専用のキャットフードがあります。これにより、甲状腺ホルモンの数値を下げることができます。
療法食治療を行うと、基本的には生涯療法食しか食べられなくなります。他のキャットフードやサプリメント、猫用のミルクなどは与えてはいけません。
甲状腺ホルモンの数値のケアをしてくれるキャットフードは、日本ヒルズ・コルゲートから「ヒルズプリスクリプション・ダイエット猫用甲状腺ケアy/d」の商品名で販売されています。
「ヒルズプリスクリプション・ダイエット猫用甲状腺ケアy/d」での療法食治療は、3週間で甲状腺の健康に役立つことが科学的に証明されています。特徴として、甲状腺の健康のためにヨウ素を非常に低く制限しています。
また、高レベルのオメガ-3脂肪酸とオメガ-6脂肪酸で、皮膚や被毛の健康を維持します。腎臓の健康のためには、リンを制限して低ナトリウムに調整しています。甲状腺の健康を通じて、全身の健康に役立ちます。
まとめ
甲状腺機能亢進症の症状として活発になるため、元気に見える場合があります。飼い主さんからも「歳のわりには元気」と感じることが多いでしょう。
ただし、いつもより必要以上にキャットフードを食べ、たくさん食べているにも関わらず、太ることなく痩せることがあります。また、冷たい場所を好むようになる、息が荒いなどの症状がみられる場合があります。
もし、甲状腺機能亢進症の疑いがあるのであれば、血液検査で甲状腺ホルモンの測定ができます。甲状腺機能亢進症の治療法は、いろいろな方法があるので、猫に見合った治療方法を見つけてあげてください。
甲状腺機能亢進症の予防法は今のところありません。飼い主さんは猫の健康診断を定期的に行うことで早期発見することができます。うまく甲状腺ホルモンのコントロールができれば、普通の生活を送ることができます。
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