1.猫の肥大型心筋症とは
1-1.心臓の仕組み
1-2.どんな病気?
1-3.原因
1-4.好発品種
1-5.その他の心筋症
2.猫の肥大型心筋症の症状
2-1.初期症状
2-2.咳が出る
2-3.後ろ足の麻痺
3.愛猫が肥大型心筋症と診断されたら
3-1.主に薬での治療となる
3-2.定期的な検査
3-3.心臓に負担のかからない環境を整える
3-4.寿命や生存期間
4.肥大型心筋症に気付くために
4-1.遺伝子検査を行う
4-2.健康診断に行く
4-3.普段から変わった様子がないか見ておく
5.まとめ
猫の肥大型心筋症とは
◆心臓の仕組み
猫の心臓は、右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋に分かれています。
これらの部屋の周囲は筋肉(心筋)に囲まれており、心筋が伸び縮みすることで、血液を全身と肺に循環させるポンプ機能を果たしています。
全身から大静脈に集まった血液は右心房から右心室を経て、肺で新鮮な空気を取り込み、左心房から左心室を経て大動脈から全身へ送られます。
◆どんな病気?
肥大型心筋症は、猫の心臓病の中で最も多く、最悪突然死を招くこともある病気です。
主に左心室を囲む心筋が内側へ向かって厚くなる(肥大する)ことで、心室が狭くなり血液を十分に取り込めなくなり、全身へ血液を送り出すことが難しくなります。
このため、全身に送りだす血液が不足し、また、血液の流れに異常をきたすため血栓を作りやすくなります。
肥大型心筋症は、猫の心筋症の2/3を占め、有病率は約15%と高いです。
5歳~7歳の中年齢のオスで多いと言われますが、発症年齢は数ヶ月齢~16歳と幅広く、どの猫でもなる可能性があります。
◆原因
原因は、はっきりと解明されていませんが、遺伝的な要因が疑われています。
また、心拍数が上がることから、甲状腺機能亢進症は肥大型心筋症との関係性が指摘されています。
甲状腺機能亢進症は、高齢猫に多い病気です。
腎不全が、肥大型心筋症を引き起こすこともあります。
◆好発品種
メインクーン、ラグドール、アメリカンショートヘアでは、家族性に発症する遺伝疾患であることが知られています。
家族性とは、血縁関係にある家族に同一の疾患が見られる場合を指します。
したがって、これらの猫種では、親やきょうだいに肥大型心筋症が発症した場合、発症する可能性が高いと考えられます。
ブリティッシュショートヘア、スコティッシュフォールド、ペルシャ、ヒマラヤン、アビシニアンなども、遺伝的になりやすい猫種とされています。
日本猫にはこれらの猫種の血が入っていると考えられ、肥大型心筋症のリスクを持っている可能性があります。
ミックス(雑種)での発症も少なくはなく、発症しやすいと言われる猫種以外の猫でも、気をつけたい病気です。
◆その他の心筋症
心筋症には、肥大型心筋症のほか、拡張型心筋症と拘束型心筋症があります。
拡張型心筋症は、心筋が薄くなり、収縮する力が弱くなることで、血液を送り出せなくなってしまう病気です。
心筋が薄くなることで心臓の部屋が広がったように見えることから、拡張型と呼ばれます。
猫の場合、タウリン欠乏が原因の一つですが、現在のキャットフードの多くには十分なタウリンが含まれているため、拡張型心筋症を発症する猫は少なくなりました。
現在は、遺伝的な要因で発症すると見られ、好発品種はアビシニアンやシャムなどです。
拘束型心筋症は、心筋や心臓内の「内張り」をしている薄い膜(心内膜)の中に、固く伸縮性に乏しい組織(繊維結合組織)が作られていく病気です。
正常であれば伸び縮みしていた心筋が固くなり、上手く動くことができなくなります。
症例が少なく、好発品種も不明です。
感染症との関連も指摘されていますが、ハッキリとした原因は分かっていません。
猫の肥大型心筋症の症状
◆初期症状
猫の肥大型心筋症では、約77%が無症状だと言われています。
初期にはほとんど症状が見られず、飼い主さんから見て目に見える症状が出た時には、重症化している場合が多いです。
このため、症状がなく健康診断で発見されるケースや、呼吸困難を起こして病院に運ばれて発覚するケースもあります。
少し進行すると、血液循環の悪化で体に酸素が十分に行き届かなくなることから、疲れやすくなり、あまり動かなくなって、食欲の低下も見られます。
心臓の内部が狭くなるため、1回の拍動で全身に送ることができる血液の量が減り、その分を「数」で稼ぐため、心拍数が増加します。
心雑音が認められるケースもありますが、症状や心雑音がない猫の11~16%に肥大型心筋症が認められるという報告もあります。
◆咳が出る
肥大型心筋症が進行すると、心臓が送り出せなくなった血液が肺の血管や大静脈で停滞して、そこから血液中の水分が血管の外へ染み出していきます。
この結果、肺の中に水が溜まる肺水腫を引き起こしたり、胸水、腹水が溜まったりして、呼吸困難になります。
咳をする、口を開けて苦しそうに呼吸をする(開口呼吸)、血混じりの泡を吐くなどの症状が見られる場合、肺水腫などの危険な状態である可能性があります。
◆後ろ足の麻痺
心臓の中の空間が狭くなって、本来は起こるはずのない「血液の乱流」が生じるようになり、これが原因で、血の塊(血栓)ができることがあります。
この血栓の塊やその一部は、心臓から出て大動脈の血流に乗っていくことがあり、全身のあらゆる血管に詰まる危険性があります。
これを「動脈血栓塞栓症」(どうみゃくけっせんそくせんしょう)といい、激しい痛みや苦痛、呼吸困難を急性に引き起こします。
肥大型心筋症の猫の約16%で併発するとの報告もある合併症です。
猫では、後ろ脚の根元の大動脈が両足へ分岐する部分に詰まることが多く、後肢への血液が遮断されて、後ろ足が麻痺したり壊死したりします。
程度によりますが、急に、激しい痛みを訴えて、後ろ足に力が入らなくなって、立てなくなります。
血流が遮断された足の肉球が青白く冷たくなって、全身の体温も下がります。
後ろ足が麻痺すると、前足だけで体を引きずって移動し、呼吸が荒くなったり興奮して瞳孔が開いていたり、明らかに普段とは違う様子を見せます。
また、詰まった場所が腎臓の場合は、急性腎不全を起こします。
動脈血栓塞栓症は緊急性が高く、発症すると非常に死亡率が高いので、すぐに動物病院に連れて行きましょう。
愛猫が肥大型心筋症と診断されたら
◆主に薬での治療となる
残念ながら、現在の医療では、肥大型心筋症そのものを治す治療法はありません。
主に、症状の進行を遅らせたり、負担を和らげたりするための投薬による内科的治療を施します。
心筋症の薬には、不整脈を抑える抗不整脈薬や血圧を下げる血圧降下剤など、様々な種類があります。
また、動脈血栓塞栓症を防ぐため、抗凝固薬(血が固まりにくくする薬)を使って、血栓をできにくくします。
猫は、薬を飲むのが苦手な子が多いので、どのような薬をどの程度使うかは、かかりつけの獣医師さんとよく相談しましょう。
◆定期的な検査
病気の進行具合や、血栓、不整脈の有無などで、薬の内容をこまめに見直さなければなりません。
このため、定期的にエコー検査や血液検査を受けることになります。
◆心臓に負担のかからない環境を整える
心臓が悪い猫には、夏の厚さや急激な温度変化、ジメジメとした湿気の気持ち悪さはよくありません。
温度や湿度には十分注意し、可能なら室温を一定(25℃前後)に保ち、湿度は50~60%を目安として調整します。
急な冷えや異常な暑さを防いで、快適な環境を整えてあげましょう。
また、激しい運動や興奮してしまう行動は、心臓に負担になるので、なるべく避けましょう。
◆寿命や生存期間
寿命は、病気の進行状態によって大きく変わります。
ある病気を持ったグループで半分の患者さんが亡くなるまでの期間を、「生存期間中央値」と言い、大体どれくらい生きられるか(≒余命)の目安となります。
肥大型心筋症では、無症状のグループで1830日以上、症状があるグループで92日、血栓塞栓症を起こしているグループで61日という報告があります。
肥大型心筋症に気付くために
肥大型心筋症は、症状が出づらく、予防が難しい病気です。
早期発見による早期治療が、予防法と言えるでしょう。
◆遺伝子検査を行う
遺伝子の変異が肥大型心筋症の原因の一つとされているので、早期発見の一つの手段として、遺伝子検査を検討してみましょう。
◆健康診断に行く
心筋症は、若いうちから発症することもあり、また、ゆっくりと確実に進行していく病気です。
若いころから、年一回の健康診断を受けましょう。
心拍数の測定や聴診器による心雑音のチェックのほか、好発品種では超音波検査(心エコー)やレントゲン検査なども含めて受けるとよいでしょう。
猫は、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症など全身性高血圧症になる病気にかかりやすいです。
その結果として二次的に心筋が肥大することも少なくないので、これらの病気を見逃さないことも重要です。
◆普段から変わった様子がないか見ておく
心拍数や呼吸回数は、肥大型心筋症をはじめとする心臓病になると増えます。
猫ちゃんは、緊張しやすく、病院では心拍数が上がったり、呼吸が激しくなったりする子が多く、診察では安静時の値が測れないことも少なくありません。
日ごろから、自宅での安静時の心拍数や呼吸回数を把握しておくことは、肥大型心筋症に気づくためにも、発症後の病状の把握のためにも重要です。
猫の胸に両手を当てると拍動を感じられるので、15秒間に何回拍動するかを数え、4倍して1分間の心拍数とします。
猫の場合、正常な心拍数は、1分間100回~240回、家庭での安静時には1分間約150回前後です。
心拍数が日ごろの回数より多くなった場合は、何らかの異常がある可能性があります。
猫の安静時の呼吸回数は、1分間で20~30回です。
安静時で1分間に40回を超えるような場合には、心臓病の可能性があるので、動物病院に連れて行きましょう。
また、上記のように、やや進行してくるとあまり遊ばなくなったり、食欲が低下したりします。
普段と違う様子が見られた場合には、早めに動物病院を受診することで早期発見につなげましょう。
安静時で1分間に40回を超えるような場合には、心臓病の可能性があるので、動物病院に連れて行きましょう。
まとめ
肥大型心筋症は、猫の心臓病の中で最も多い病気です。
心臓の左心室を囲む心筋が内側に異常に厚くなることで、心室が狭くなり、血液を十分に取り込めなくなって全身へ送り出すことが難しくなります。
このため、全身に送りだす血液が不足し、また、血液の流れの異常から血栓を作りやすくなります。
肥大型心筋症は初期には無症状のことが多く、飼い主さんから見て症状が認められた時には、重症化していることも多いです。
肥大型心筋症そのものを治癒するための治療法はなく、症状の進行を遅らせたり緩和したりするための薬を投与する内科的治療を行います。
早期発見・早期治療が重要なので、日ごろから愛猫の様子を観察し、安静時の心拍数や呼吸回数を把握しておくことで、異常に早く気付けるようにしましょう。
心臓の病気は、発症すると治療費が高額になりやすいので、ペット保険への加入も検討しておくとよいかもしれません。
– おすすめ記事 –
・【獣医師監修】猫の心臓に負担がかかる心筋症とはどんな病気なのか知りたい! |
・【獣医師監修】猫も癌になる?この病気から守ってあげる方法があるのか知りたい! |
・【獣医師監修】これって猫の歯周病?こんな症状が出ていたら病気のサインかも? |
・【獣医師監修】猫のフィラリア予防薬の投与方法、種類、時期は? |