1.トキソプラズマ症ってどんな病気?
1-1.トキソプラズマ原虫という寄生虫が原因
1-2.どうやって感染する?
2.トキソプラズマ症の症状
2-1.無症状の場合が多い
2-2.稀に症状が出る場合がある
【掲載:2021.03.21 更新:2023.04.12】
トキソプラズマ症ってどんな病気?
トキソプラズマは私たちに馴染み深い病気とまでは言えませんが、現在妊娠中の女性や、出産経験がある女性の方は、耳にしたことのある感染症なのではないでしょうか。
とくに猫と一緒に暮らしている妊婦女性は、注意が必要と言われている感染症としても知られています。
トキソプラズマと妊婦女性の間に、どのような関係性があるのかも気になるところですが、まずはトキソプラズマについての理解を深めていきたいと思います。
◆トキソプラズマ原虫という寄生虫が原因
「トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)」とはアピコンプレクサに属する、単細胞の原虫(寄生虫)となり、この原虫に感染された後に様々な症状を発症することを「トキソプラズマ症」と呼びます。
トキソプラズマは幅3µm、長さ5~7µm程度の半円、または三日月形をした原虫となり、虫というよりも細菌の大きさに近いと言われています。
サイズが小さいことからも、人間を含めた哺乳類や鳥類などの温血脊椎動物に感染すると言われているようです。
ブラジルやフランスなどを中心に、全人類の3分の1(数十億人)以上の感染が知られているので、いかに広く蔓延しているかがうかがえますよね。
◆どうやって感染する?
トキソプラズマのライフライクル(生活環)は、有性生殖期と無性生殖期によって循環します。
そしてトキソプラズマの最大の特徴は、ネコ科の動物のみが終宿主となり、有性生殖が行われるという点です。
終宿主とは原虫が体内で分裂し、卵のようなもの(オーシスト)を作って生殖(有性生殖)していく宿主を指します。
人をはじめとしたそのほかの動物は中間宿主となり、無性生殖が行われます。
中間宿主内で成長するトキソプラズマは、タキゾイトやシストと呼ばれ、生育の段階で宿主が変わるのも、この原虫の特徴と言えるでしょう。
基本的に有性生殖を行う生物は、中間宿主を介さず終宿主に侵入したとしてもライフライクルは完成しませんが、トキソプラズマだけはそのまま猫に移行しても、ライフライクルが完成するといった仕組みです。
このようなことからも、猫によるトキソプラズマ症の感染が懸念されているので、明確な感染経路を知り、対策をしていきたいものですよね。
主な感染経路は、以下のようなルートが挙げられます。
・生肉を食べることによる感染
終宿主となるネコ科の動物の場合、消化管内で有性生殖が行われて増殖することが知られていますので、その糞便中にオーストが排出されます。
排出された時点では感染する効力は持っていませんが、その後の環境内で感染可能なオーストへと成長していきます。
このオーストが含まれた水や土などを、別の動物が何かしらの形で摂取して体内に取り込み、その動物がまた別の動物に捕食されるといった食物連鎖の中、トキソプラズマのライフライクルは循環していくのです。
トキソプラズマ症の症状
驚異の感染力を持つトキソプラズマ症ですが、これだけ世界中に流行しているのに認知度が低いのはなぜなのでしょうか?
◆無症状の場合が多い
トキソプラズマ症に感染した場合、免疫力を持つ健康体な方であれば、とくにこれといった症状が現れません。
これは猫が感染した場合も一緒です。
無症状の場合が多いからこそ、そこまで重い感染症としての認識が、一般的にも低いのからとも考えられます。
◆稀に症状が出る場合がある
トキソプラズマに感染した方の中にも、稀に症状が出る方ももちろんいらっしゃいます。
ほとんどの場合は発熱や倦怠感、リンパが腫れるなどといった、風邪に似た症状が出る程度と言われているようです。
また、免役抑制状態にある方、もしくは免疫が低下している方が感染すると、重篤な症状を引き起こすことがあります。
とくに人へ感染した場合は、脳や眼などに原虫が寄生することが多く、脳炎や肺炎、視力障害などの病気に注意が必要です。
先天性トキソプラズマ症
トキソプラズマは前述した通り、妊娠女性が気を付けなくてはいけない感染症とお伝えしましたが、妊娠女性が感染した場合、産まれてくる胎児にも影響を及ぼすことが分かっているからです。
これを「先天性トキソプラズマ症」と呼びますが、どのような症状が出るのでしょうか?
◆初感染の時期によって母子感染してしまう
先天性トキソプラズマ症は、初感染の時期がとても重要で、その時期により胎盤を介して母子感染をすることが知られています。
トキソプラズマによる感染が妊娠前であれば、防御免役が成立しているために胎児への影響は起きないとされていますが、妊娠初期以降は注意が必要と言えるでしょう。
妊娠初期の感染は低いとされているものの、胎児に影響が出やすく、流産や死産の恐れや、無事に産まれてきたとしても水頭症などの先天性障害を引き起こすことがあります。
また、妊娠後期の感染でも胎児が成長したのちに、症状が出ることもあるので油断はできません。
トキソプラズマに対する抗体(トキソプラズマ抗体)を、もともと持っている妊婦さんであれば、よっぽどの免疫抑制がない限りは胎児には感染しませんので、抗体検査を受けておくと安心ですよ。
トキソプラズマ症を予防するために
蔓延しているのにもかかわらず、認知度の低いトキソプラズマ症ではありますが、予防をするためにはどのような対策が有効なのかも気になるところです。
普段の生活の中で私たちは、どんなことに気を付けていけば良いのでしょうか?
◆肉類はしっかり加熱する
私たちが普段食べている肉類などは、トキソプラズマの中間宿主である動物がほとんどです。
トキソプラズマは熱に弱いので、肉類を食べる際には生ではなく、必ずしっかりと焼いてから食べるようにしましょう。
妊婦さんが生肉の摂取を控える必要があるのは、このような背景があることを知っておき、十分体への配慮を心掛けることが大切です。
◆料理をするときはしっかり手を洗う
料理をするときはさまざまな食材を手で扱うことになりますので、調理の際にはしっかりと手を洗うようにしましょう。
基本的に経口感染となるトキソプラズマではありますが、手や食材に付着したオーシストをそのまま食べてしまうこともあるので、手洗いをして予防をするに越したことはありません。
とくに生肉や、土が付着した野菜などを扱ったあとは手洗いを怠らないようにし、少しでも感染経路を減らすように努めてください。
◆猫のトイレ周りの掃除の際には手袋をする
猫と一緒に暮らしている方は、猫のトイレ周りを掃除する際にも手袋をして、糞便からの感染を防ぐようにしましょう。
そして何よりも、オーシストが効力を持つ前に、掃除を心掛けなくてはいけません。
猫が排泄してから24時間以内の掃除を徹底し、妊婦さんは必ず手袋をするか、ご主人や同居人が居るのであれば、掃除はお願いするようにして、なるべく糞便に関わらないようにしましょう。
◆ガーデニングなどの際には手袋をする
土や水などもオーシストを媒介しますので、ガーデニングなどの土いじりをする際も、手袋が必要となってきます。
そして土いじりのあとは洋服や体も清潔にし、感染しないような心掛けも大切ですよね。
目に見えないものだからこそ、感染予防を徹底して、最悪な事態を招かないような努力も必要と言えるでしょう。
◆抗体検査をする
今後出産を望まれる方や現在妊娠中の方は、トキソプラズマの抗体検査を受けることをおすすめします。
妊婦さんにおいては妊婦検診の必須検査項目ではありませんが、希望があれば多くの医療機関での検査が可能です。
トキソプラズマIgGとIgMの抗体価測定を行うことにより、感染しているかどうかを調べられます。
陰性であれば感染したことがないといった結果になりますので、今後トキソプラズマに感染しないためにも、予防や対策に努めるようにしましょう。
まとめ
トキソプラズマは猫が媒介するといったイメージの強い感染症となりますが、注意するべきはトキソプラズマ症に初感染した猫の糞便であり、猫を触ったりかわいがったりすることで感染することはありません。
このイメージが先行してしまう理由として挙げられるのは、トキソプラズマが中間宿主であるほかの動物に寄生する際に、自分を殻に包んで守り、筋肉の中に潜むからです。
人間に感染するとしたら、この感染された動物の生肉を食べた場合のみとなりますが、ネコ科の動物の場合は、オーシストを体外へ排出し、そこから自然界の中で媒介させるからではないでしょうか。
だからといって私たちの身近に居る、猫と絶対に触れ合ってはいけないというわけではないので、トキソプラズマという原虫のことをよく理解し、感染しないように予防をすることが一番です。
そして現在妊娠されている方は、周囲の方にも協力してもらい、ご自身も感染しないように生肉は食べない、猫のトイレ周りの掃除はしないなどの対策を徹底してください。
猫には何も罪はありませんので、これらのことを理解した上で、共存していくことを心掛けてみてはいかがでしょうか。
– おすすめ記事 –
・【獣医師監修】猫との人獣共通感染症に注意!感染で死亡例も…猫から人間にかかる恐れのある感染症8選 |
・【獣医師監修】寄生虫が原因の猫の病気に感染した時の症状と予防法について |
・【獣医師監修】猫カビ(皮膚真菌症)は人にうつる!症状や治療法は? |
・【獣医師監修】猫のノミの駆除方法、取り方!ネコノミ駆虫薬の費用は? |