転位行動ってなに?猫が行う転位行動と対策、転嫁行動との違い

2021.04.07

転位行動ってなに?猫が行う転位行動と対策、転嫁行動との違い

「転位行動」をご存じですか?動物行動学で使われる言葉なので、少し難しい感じがして戸惑いますね。例えば、猫が高いところに飛び乗るのに失敗した時に、急に毛づくろいを始めることがあります。このような行動が、転位行動です。今回は、転位行動とは何か、猫が行う転位行動にはどんなものがあるのかを解説するとともに、猫が転位行動をした時に気をつけたいこともご紹介します。

転位行動とは

物陰から様子をうかがう子猫

「転位行動」(てんいこうどう)とは、動物行動学という分野で使われる用語です。
ある個体が相反する衝動が拮抗して葛藤状態になった時に取る無関係な第三の行動を指し、全ての動物に見られます。
恐怖や緊張、不安などのストレスを感じた時に、気持ちを鎮めるために何の関係もない行動をするということです。
本能的な行動の一つと考えてよいでしょう。
例えば、闘争中の鳥が突然地面をつつく、求愛中のイトヨ(トゲウオ科の魚)が急に逆立ちして水送り動作をするなどの行動が挙げられます。
人間で言えば、困った時に頭を掻く行動がこれに当たり、心理学における「代償行動」に相当すると考えられています。
猫であれば、苦手な猫に遭遇した時、攻撃するか、逃避するか相反する気持ちがほぼ同じくらいであった場合に、そのどちらでもなくグルーミングを始めるなどがこれに当たります。


猫が転位行動を行うのはどんな時?

まず、猫が転位行動を行うのはどんな時なのかを見ていきましょう。

◆失敗した時

例えば、キャットタワーに飛び乗ろうとして落ちた時や、獲物を捕まえようとして失敗したときなどです。
人間でいう「照れ隠し」のような行動ですが、実際は気まずさをごまかしているというより、気分転換のようなものと考えられます。
「落ち着いて、次へ行こう」というところでしょう。

◆行動を中断させられた時

気持ちよく眠っていたのに無理やり起こされたときや、自分が行きたい場所を遮られたときなど、何かをしようとしたのに邪魔されたときに転位行動を行います。
テリトリーのパトロール中に、他の猫と出会うこともストレスに感じるとされています。

◆仲が良くない猫と会った時

多頭飼育をしていると、全ての猫が仲良くなるとは限りません。
通常は相性が悪くても、無駄なケンカをしなくてすむように、お互いできるだけ近づかないようにして生活をしています。
しかし、仲の良くない猫の近くを通らなければならない時や、鉢合わせしてしまった時には、猫同士に緊張が生じます。
このとき、猫には攻撃するか、逃げるかという葛藤が生まれ、転位行動をすることがあります。

◆何かを我慢した時

飼い主さんにしつこく撫でられることや、新しいペットがやってきたことなどのストレスを我慢した時に転位行動を行います。
他にも、窓ガラスの向こうに鳥など獲物がいるのに獲れない時や、前日までなかった新しい家具など「障害物」が突然自分のテリトリーに置かれたときも、ストレスを感じて転位行動を示します。

◆興奮したり驚いたりした時

遊んでいて興奮したり、突如驚いたりした時、猫は突然グルーミングを始めることがあります。
これも、転位行動とされていて、気持ちを落ち着けるための行動と考えられています。


猫が行う転位行動

では、ストレスを感じた猫が取る転位行動とは、どんな行動でしょうか?

◆グルーミング

グルーミングする猫

猫は、綺麗好きでよくグルーミングをしています。
しかし、ストレスを強く感じた時にも、気持ちを落ち着かせるためにグルーミングを行います。
転位行動としてのグルーミングは、全身を満遍なく毛づくろいするというより、短時間に一部分を集中的に執拗に舐めるような動作になります。
転位行動としてグルーミングをするときに舐める場所は、鼻を舐める、肩や前足、後ろ足を舐めるなど、その猫によってたいてい決まっていると言われています。

◆爪をとぐ

爪とぎする猫

猫は、武器である爪を鋭く保つために、爪とぎをするとされています。
しかし、転位行動としても爪とぎをすると言われています。
何かストレスを感じた際に、何かに爪を立てたくなる気持ちは分かるような気がしますね。

◆あくびをする

あくびをする猫

飼い主さんに怒られたときや、日向ぼっこをしながら眠っていたところを邪魔されたときに、何度もあくびをしたり、伸びをしたりすることがあります。
これも、転位行動と考えられています。
のんびりしているのではなく、邪魔をされたことや叱られたことに対する抗議の意味があるそうです。

◆マウンティング

猫のマウンティングは、本来、自分の優位性をアピールする行動です。
しかし、転位行動の一つとして、マウンティングの体勢を取ることがあります。


猫の転位行動はやめさせるべき?

猫の転位行動は、やめさせるべき行動なのでしょうか?

◆基本的にやめさせる必要はない

転位行動は、猫が何らかのストレスを感じた時に、ストレスの原因と関係のない行動を取ることで、気分転換を図るために行います。
気分転換で上手くストレスに対処しているということなので、転位行動が見られても、特に深刻な問題を心配する必要はないでしょう。
したがって、基本的には転位行動をやめさせる必要はありません。

◆常同行動になっている場合

「常同行動」とは、一見すると目的もなく同じ動きを繰り返す行動のことです。
ストレスが溜まったり、どうしたらいいのか分からなくなったりした時に、全く関係のない行動を繰り返すことを指します。
人間にも多くの動物にも見られる行動で、行動が一時的なもので、すぐ改善されるならば、特に問題はありません。
しかし、継続的に同じ行動を取り続けていると、この行動がエスカレートして「常同障害」となります。
常同障害は、不安障害の一つとされています。
犬でも猫でも起こる障害です。
猫の場合、自分のしっぽを追う「尾追い」、過剰なグルーミング、タオルや毛布などに吸い付くなどの症状が現れます。
これらの行動が悪化すると、尻尾を唸りながら追いかけ回し続け、自分で尻尾を噛みちぎってしまったり、足を舐めすぎて赤く腫れあがり、出血したりします。
過剰なグルーミングによって、毛が抜け、ハゲができてしまうこともあり、さらに皮膚炎を起こすこともあります。
常同行動になってしまっている場合には、動物病院で相談してみましょう。


転嫁行動との違いは?

怒る猫

◆転嫁行動と転位行動の違い

よく似た言葉に、「転嫁行動」というものがあります。
転嫁行動とは、行動の方向が、本来の対象から外れて、不適切な別の標的に向かってしまうことです。
転位行動が、ストレスを解消するために、自分や物に当たる行動であるのに対し、転嫁行動は、別の猫や飼い主さんなどに対して当たる行動です。
つまり、ストレスのはけ口が第三者に向かっている状態です。
転嫁行動の例としては、

・お気に入りの昼寝場所を同居猫に取られたときに、その猫ではなく飼い主さんに噛みつく
・飼い主さんに赤ちゃんが生まれて環境が変わり、同居猫にケンカを仕掛ける
・外から野良猫の声が聞こえて興奮して、攻撃的になる

などが挙げられます。
転位行動は、上述の通り、一過性のものであれば、基本的に深刻な問題となることはありません。
しかし、転嫁行動は、問題行動に発展することがあります。
興奮状態が持続的になり、連続して飼い主さんや同居猫を攻撃するようになったり、外の野良猫を見ることが条件付けとなって、そのたびに飼い主さんを攻撃するようになったりすることがあります。
これがひどくなると、持続的に攻撃し続けることになる場合もあります。
このような状態に陥る猫は、遺伝的な素因があると考えられています。
しかし、遺伝的素因が原因である場合、現在のところ治療法が確立されていません。

◆転嫁行動への対処法

転嫁行動での猫の攻撃は、本気の攻撃になります。
したがって、飼い主さん自身がケガをすることのないよう、猫が落ち着くまで近づかないようにしましょう。
さらに、転嫁行動の原因を探して、取り除きます。
例えば、野良猫を見て興奮しているなら、カーテンを閉めるなどして見えないようにしてあげます。
特定の音が原因なら、その音を消してあげましょう。
それでも頻繁に攻撃的になる場合には、一度動物病院で相談することをおすすめします。


ストレスを感じない環境づくりをしよう

転位行動も転嫁行動も、ストレスを解消するための行動です。
転位行動自体は深刻ではありませんが、エスカレートして常同行動になってしまうこともありますし、転嫁行動は飼い主さんや同居猫にとってストレスになるだけでなく危険でもあります。
原因はストレスなので、愛猫がストレスを感じないような環境づくりを心がけましょう。
そのためには、愛猫が何にストレスを感じるのか、よく観察して理解することです。
例えば、シニアになって高いところに登ることが難しくなった子には、低いキャットタワーやステップを用意してあげるとよいでしょう。
外の野良猫などに興奮してしまう子なら、カーテンを閉めたり、窓ガラスに目隠しを貼ったりして、見えないようにしましょう。
多頭飼いの場合には、それぞれに寝床やトイレ、食事場所などお気に入りの場所を用意してあげます。
爪とぎでストレスを発散できるよう、複数の爪とぎを置いてあげるのもよいですね。
飼い主さんに無理に抱っこされたり、眠っているところを邪魔されたりすることでストレスを感じさせないよう、構いすぎないことも大切です。

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まとめ

転位行動は、葛藤状態になった動物が全く関係のない行動を取ることを指し、どの動物でも見られます。
人間で言えば照れ隠しのようなものですが、猫の場合、気持ちを落ち着かせたり、「次へ行こう」という気分転換をしたりしているようです。
転位行動自体は、深刻な問題ではなく、基本的にはそのままにしておいて大丈夫ですが、エスカレートして常同行動になった場合には、一度、動物病院で相談することをおすすめします。
転位行動に似た言葉に、転嫁行動があります。
転嫁行動は、ストレス発散の対象が第三者になる行動で、しばしば飼い主さんを攻撃することがあります。
転嫁行動が続く場合にも、動物病院で相談するとよいでしょう。
転位行動も転嫁行動も、原因はストレスなので、できるだけ愛猫がストレスを感じないような環境づくりをしてあげてくださいね。



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SHINO

SHINO

保護犬1頭と保護猫3匹が「同居人」。一番の関心事は、犬猫のことという「わんにゃんバカ」。健康に長生きしてもらって、一緒に楽しく暮らしたいと思っています。

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