1.猫の乳腺腫瘍とは
2.猫の乳腺腫瘍の原因
2-1.メスに多く見られる
2-2.12歳前後や避妊をしていない猫に多い
3.猫の乳腺腫瘍の治療
3-1.外科手術
3-2.再発や転移の可能性も高い
4.猫の乳腺腫瘍の予防
4-1.早期の避妊手術が効果的
4-2.スキンシップで腫瘍チェックしよう
5.まとめ
猫の乳腺腫瘍とは
猫の「乳腺腫瘍」とは乳腺に発生する腫瘍となり、良性と悪性の場合があります。
別名を「乳がん」と呼ぶこともあり、メス猫に多く見られる病気として知られています。
猫の乳腺は左右に4対あり、どの乳腺にも腫瘍が発生する可能性がある上に、同時に複数箇所に腫瘍ができる例もあるので注意が必要です。
猫が患う乳腺腫瘍は犬と比べると予後が非常に悪く、80~90%以上の確率で悪性と診断されることがほとんどとなり、猫が患うがんの中でも造血器や皮膚に続き3番目に発症率が高いと言われているので、とくに注意が必要な病気と言えるでしょう。
飼い主さんが猫の乳腺に、しこりなどの違和感を覚えて動物病院を受診する頃には進行していることがほとんどで、診断時にリンパ節転移や、肺などのほかの臓器に転位していることも少なくありません。
腫瘍の大きさや転移の有無によって4つのステージに分類できますが、腫瘍の直径2cm以内かどうかが決め手となることも多く、3cm以上にもなると発見から死亡までの生存期間が平均で1年程度となってしまうこともあるようです。
早期発見こそが鍵となる病気ではありますが、どのような原因により発症リスクが上がるのでしょうか。
猫の乳腺腫瘍の原因
猫の乳腺腫瘍の原因は、詳しいことは分かっていませんが、以下のような要因が考えられています。
◆メスに多く見られる
乳がんは人間でも女性の発症率が高い病気ですが、猫の場合は約99%の確率でメス猫が発症するとも言われているようです。
もちろんメス猫に多い病気だからといって、オス猫は発症しないといった根拠はなく、オス猫でも発症することはあるので、どの猫ちゃんも注意しておくに越したことはありません。
また、遺伝的な体質などの影響もあると言われており、猫種でいうとシャムや日本猫などに多く発症しているという報告もあるようです。
詳しい原因が分かっていない上に、メス猫の発症率が高いことが分かっているので、メス猫と一緒に暮らしている飼い主さんは普段から注意しておくようにしましょう。
◆12歳前後や避妊をしていない猫に多い
乳腺腫瘍はメス猫ほど発症しやすいとも言われていますが、10~12歳の高齢期に突入した避妊手術をしていないメス猫は、さらにリスクが上がると言われています。
その理由として乳腺腫瘍の発生は、ホルモンバランスが関係していることが分かっており、早期に避妊手術を受けているかいないかによって、発生率が下げられるようです。
避妊手術を受ける時期によって、乳腺腫瘍の発生率が低下させられることも知られていますので、以下の発生低下率を参考にしてみてください。
・7~12ヶ月齢に避妊手術を受けた場合 →86%発生率低下
・13~24ヶ月齢に避妊手術を受けた場合→11%発生率低下
・24ヶ月齢以降に避妊手術を受けた場合→効果なし
成猫になってからの避妊手術の実施ほど発症リスクは高まりますので、避妊が可能な月齢期に突入した際には、迅速に手術を実施することをおすすめします。
また「プロゲスチン」などのホルモン剤の投与により、リスクが上がることも確認されているので、使用の際には少なからずリスクがあることを覚えておきましょう。
猫の乳腺腫瘍の治療
飼い主さんが愛猫の乳腺に何かしらの異常を感じ、動物病院を受診した際には、腫瘍が悪性か良性かを調べるために検査を行います。
基本的には針吸引検査や血液検査などを行った後、病理検査を行うことにより、転移しているかなどの進行具合を診断することがほとんどです。
猫が乳腺腫瘍と診断された場合、どのような治療が行われていくのでしょうか。
◆外科手術
猫の乳腺腫瘍は浸透性が非常に高く、しこりなどの異常に飼い主さんが気付いたときには、すでにリンパ節に転移していることも少なくありません。
初診時に乳腺腫瘍と診断された場合、リンパ節への転移率は20~42%にものぼるといった報告もありますので、進行を抑える目的でも早急に治療を開始する必要があると言えるでしょう。
そして、猫の乳腺腫瘍はほとんどが悪性となるため、第一選択として腫瘍を切除する外科手術が挙げられます。
猫の乳腺はリンパ管ですべて繋がっているので、しこりのある一部分を切除するのではなく、腫瘍ができた側のリンパ節切除を含めた、片側乳腺の全摘出術を行うことが一般的です。
また、獣医師によっては乳腺がリンパ管で繋がっていることからも、両側乳腺の全摘出術を推奨する場合もありますので、飼い主さんが納得できるまでしっかりと話を聞くことも重要となりますよね。
両側全摘出術を行う場合は、まず片側の乳腺全摘出術を行い、術後の経過を診ながらもう片側の全摘出術を行います。
一度に両側全摘出術を行わないのには、ちゃんとした理由があり、すべての乳腺を一度に摘出してしまうと皮膚の張りがきつくなり、呼吸困難を起こす可能性が高くなるので、そのような手術を行わない動物病院がほとんどであると言えるでしょう。
◆再発や転移の可能性も高い
外科手術による全摘出術の目的は、あくまで根治を目指すことではありますが、前述している通り猫の乳腺腫瘍は、悪性の場合が多く予後も非常に悪い病気です。
進行ステージが低ければ低いほど根治の確率は上がりますが、術後の回復が思わしくなかったり、わずかに残った乳腺組織から再発したりすることも少なくありません。
遠隔転移性の高さを含めると、外科手術単独での根治は難しいと考えられているのも事実です。
原則的に局所への再発が認められた場合は、再手術が推奨されはしますが、猫ちゃんの体力や年齢、余命などを考慮しながら、どのような選択が猫にとって第一優先となるのかを、獣医師さんの考えや飼い主さんの希望を考慮しつつ、その後の治療方針を決めていくことが多いようです。
外科手術単独での根治が難しいことからも、補助的に化学療法が用いられることが多く、病状の悪化や生活の質(QOL)向上を目的として治療が進められていきます。
化学療法では「ドキソルビシン」といった、抗がん剤の使用を中心とした治療法が検討されることが多くあるようです。
猫の乳腺腫瘍の予防
猫の乳腺腫瘍は早期発見こそが鍵となりますので、発症させないためにも飼い主として何ができるのかを考えておく必要があると言えるでしょう。
愛猫に辛い思いをさせないためにも、飼い主さんは普段からどのようなことを心掛けて乳腺腫瘍の予防をするべきなのでしょうか。
◆早期の避妊手術が効果的
乳腺腫瘍の発生率を低下させるには、早期の避妊手術がもっとも効果的であると言えるでしょう。
メス猫は初めての発情期を迎える前の避妊手術が推奨されており、ある程度体が成長した時期である、生後6~8ヶ月頃に手術を受けるのが妥当となります。
もちろん個体によって成長の度合いが異なりますが、理想は生後6ヶ月前までの避妊手術ですが、生後12ヶ月までに避妊手術をするとしても決して遅くはないので、1歳を迎える前の避妊手術を実施するに越したことはありません。
猫の体に傷をつける避妊手術に、賛同できない飼い主様もいらっしゃるかもしれませんが、猫の不妊手術は発情期のストレス軽減、様々な病気の予防にも効果を発揮してくれる手術となります。
愛猫の寿命を延ばす目的でも有効となりますので、乳腺腫瘍を発症させないためにも早期の避妊手術を強くおすすめいたします。
◆スキンシップで腫瘍チェックしよう
猫の乳腺腫瘍は腫瘍が2cm以内の大きさで発見できるかが重要となるので、日頃から愛猫とスキンシップを図り、しこりはないか、猫の体に異常はないかの確認をすることも大切ですよね。
猫は自ら体の不調を訴えることはありませんので、やはり病気の早期発見は飼い主さんにかかっているといっても過言ではないでしょう。
そしてスキンシップは病気の早期発見だけでなく、愛猫との絆をより深める大切な時間でもあるので、信頼関係を築いていく上でも大切な行為と言えます。
日頃から愛猫とのスキンシップの時間を設けるようにし、病気の早期発見に繋げるようにしていきましょう。
まとめ
メス猫と一緒に暮らしている飼い主さんは、メス猫が患いやすい病気を知っておくことが大切ですし、どうすればそのような病気を発症させないのかを、日常的に意識しておくことも重要ですよね。
とくに猫の乳腺腫瘍は、発症率が高い上に悪性の可能性も非常に高いので、飼い主さんができる範囲でしっかりと予防をしておくべきです。
乳腺腫瘍を発症させないためには、1歳未満の避妊手術や、日頃からスキンシップを図って体に異常がないかを調べることこそが大切なので、愛猫のためにも飼い主さんが責任を持って、病気を回避する手助けをしてあげるようにしましょう。
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