【獣医師監修】猫の血圧、正常値はどれくらい?高血圧は危険!血圧の測り方も紹介

2023.12.02

【獣医師監修】猫の血圧、正常値はどれくらい?高血圧は危険!血圧の測り方も紹介

猫の正常な血圧値をご存知でしょうか?そもそも猫の血圧について、あまり知らないという飼い主さんの方が多いかもしれませんね。実は、猫にも「高血圧」があり、各種の臓器に負担をかけることが分かっています。では、なぜ血圧が高くなるのでしょうか?今回は、猫の血圧の正常値や高血圧の原因および危険性などをお伝えするとともに、測り方についてもご紹介します。

猫の正常な血圧値はどれくらい?

寝ている子猫

はじめに、猫の正常な血圧値について押さえておきましょう。
実は、どの数値を超えると高血圧と判断されるのかについては、世界共通の基準はありません。
アメリカ獣医内科学学会(ACVIM)のガイドラインでは、最高血圧(収縮期血圧)140mmHg未満を基準値としています。2018年の改訂に伴って、最高血圧だけを診るように変わりました。これは、猫の場合、最低血圧(拡張期血圧)で判断するには、まだ十分な根拠が不足しているからと言われています。
正常血圧は140mmHg未満で、140~159mmHgを境界線、160~179mmHgを高血圧、180mmHgを超えると重度高血圧と分類されます。
また、IRIS(International Renal interest Society;腎臓病に関する研究を行う国際組織)が設定している最高血圧の分類では、正常値は150mmHg未満、150~159mmHgを境界としています。高血圧、重度高血圧については、ACVIMの分類と同じです。


猫の血圧が高いのは危険?

黒猫

人間の場合、高血圧を放置していると、動脈硬化からの脳卒中や心疾患、あるいは腎疾患などの重大な病気につながります。
では、猫の場合、血圧が高いことは危険なのでしょうか?

◆高血圧は臓器に負担をかける

最高血圧が160mmHg以上は高血圧とされ、病気になるリスクが高いとされています。
高血圧症になると、血管内の血流への抵抗(全末梢血管抵抗;SVR)が上昇することによって、血管が豊富に分布している組織や心血管系に対して傷害を与えます。臓器に生じる傷害を、「標的臓器傷害」(TOD)と言います。
ダメージを受ける臓器(標的臓器)は、具体的には、眼、脳、心臓、腎臓です。

◆眼

高血圧症によって最も影響を受けやすいと言われているのが、眼です。
眼底の血管に圧がかかることで、眼底出血を起こすことが少なくありません。眼底出血とは、目の内側で出血が起こっている状態すべてを指します。
前房(角膜と虹彩の間の部分)に出血が生じると、二次性の緑内障につながることもしばしばです。
重度の高血圧症の猫の場合、網膜剥離と眼底出血の結果として、失明したり、片方の目だけが散瞳状態(瞳孔の開いた状態)になったりすることもあります。
ある日突然、眼が真っ赤になって気づくこともあり、気づいた時点では既に失明を避けることができない状態です。この症状が起きるリスクは、血圧が200mmHgを超えると、ぐっと高まると言われています。

◆脳

脳内の血圧調整機能を上回る程度の高血圧が長期的に継続すると、「高血圧脳症」を発症することがあります。
高血圧脳症になると、15~46%の猫で、失見当識(意識や記憶、注意力、判断力などの認知機能が損なわれた状態)、発作、運動失調、沈鬱、前庭神経障害(平衡感覚やバランス感覚を司る前庭神経に炎症が生じ、バランス感覚を失っている状態)などの神経学的な兆候が現れます。
また、高血圧の猫の脳内で、浮腫や動脈硬化症が確認された例もあります。
認知機能が損なわれると、徘徊したり無目的に鳴いたりすることがあります。また、運動失調によりふらつきなどの症状が現れる、前庭神経障害によるめまいから嘔吐をすることもあります。

◆心臓

高血圧により、左心室壁へのストレスが高くなり、心肥大(主に左室肥大;LVH)を引き起こすことがあります。
聴診をしたときに、ギャロップ音や心雑音などが聞かれた場合には、心臓に負担がかかっていると考えられます。
また、超音波検査で見つかることも多いですが、高血圧の度合いとLVHの度合いは、必ずしも連動していません。
心臓のトラブルによって高血圧になるのか、血圧が高いから心臓にトラブルが生じるのかの判断は難しいです。

◆腎臓

腎動脈圧の上昇は、腎尿細管の変性や間質線維症につながります。さらに、糸球体(腎臓の皮質に存在する房状の毛細血管網)高血圧から糸球体硬化症、糸球体委縮、増殖性糸球体炎が生じます。


猫の血圧が高くなる原因

ここでは、猫の血圧が高くなる原因について、ご紹介します。
猫の高血圧は主に、

(1) 状況により起こる高血圧
(2) 二次性高血圧
(3) 本態性高血圧

に分けられます。

◆状況により起こる

動物病院などで猫が興奮して、一時的に上がっている状態です。
人間でも病院で白衣を着た医師や看護師に測定された時に血圧が高くなる人がいて、「白衣高血圧」と言われます。これと似た感じですが、猫の場合は特に顕著です。

◆病気によって高くなる

病気の発症に伴って、高血圧が起こる場合があります。これを「二次性高血圧」と言います。
関連する病気は、「慢性腎臓病」「糖尿病」「甲状腺機能亢進症」など高齢猫に多い病気です。特に、慢性腎臓病を併発している場合が多いです。
慢性腎臓病の猫のうち、19~65%が高血圧症であると言われています。
甲状腺機能亢進症と診断された猫の10~23%で、高血圧が見られるとされていますが、慢性腎臓病との併発例も多く、単独で高血圧につながっているかは明らかになっていません。
糖尿病は、人間の場合、高血圧の危険因子とされていますが、猫で同様の関係性は確認されていません。しかし、糖尿病を発症した猫では、眼症(眼に出る症状)が多く報告されています。

◆加齢によって高くなる

猫も、年齢を重ねるとともに、高くなるという報告があります。
特に基礎疾患のない猫でも、中高齢期には高くなる場合があるということです。

◆遺伝などで起こる

遺伝などで起こる高血圧を「本態性高血圧」と言いますが、猫ではまれです。


猫の血圧の測り方

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ここまでお伝えしてきたとおり、高血圧は猫にとっても危険な状態です。
しかし、高血圧を示す症状は変化が分かりづらく、飼い主さんが早期に気づいて予防することは難しいようです。
そのため、定期的な測定を行って日頃の正常値を知っておくこと、測定値の変化に気づくことが大切になります。
ここでは、測り方についてご紹介しますので、参考にしてみてください。

◆血圧測定方法

まず、家庭でもできる簡易なチェック法として、「毛細血管再充満時間テスト」(Capillary refill time)と言われる方法をご紹介します。
飼い主さんの手についている細菌が猫ちゃんにうつらないよう、手を清潔にしてから行いましょう。
まず、猫の口を開き、歯茎を指で押します。この時、血液が押し出されるため、歯茎は白くなります。白くなったら、すぐに指を離し、血液が戻って歯茎が再度赤くなるまでの時間を測ります。
正常であれば、2秒未満で血液が戻ります。
2秒以上かかる場合には、血圧の低下や脱水、ショック、低体温の可能性が考えられるので、すぐに獣医師さんに相談してください。
この方法では、高血圧かどうかを知ることはできませんし、正確な血圧測定には使えません。

◆かかりつけの動物病院に相談

標的臓器傷害を事前に食い止めるためには、高血圧の早期発見が重要になります。
しかし、高血圧を示す症状は変化が分かりづらく、症状が出ている時点で手遅れになっているため、定期的に測定を行いましょう。
猫の測定頻度は、3~6歳ではできれば年に1回程度、7~10歳では少なくとも年に1回、11歳を超えると少なくとも半年~1年に1回が推奨されています(国際猫医学会;ISFM)。
さらに慢性腎不全や甲状腺機能亢進症、原発性アルドステロン症、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)など血圧が上昇するような投薬治療を受けていたり、標的臓器傷害の徴候が見られたりする「リスク猫」の場合は、少なくとも3~6ヶ月に1回の測定が推奨されています。

◆家庭で使えるペット用の血圧計もある

現在では、家庭で使えるペット用の血圧計が開発されています。使い方も簡単で、価格も数万円程度です。
専用の腕帯(カフ)を猫ちゃんに装着して、電源を入れ、測定開始ボタンを押すだけで、自動的にカフに空気が送られ、最高血圧、最低血圧、脈拍が測定されます。
カフは、猫ちゃんの体形などによって、前足、後ろ足、しっぽのいずれかの付け根に巻きます。一度装着する場所を決めたら、毎回同じ場所で測ります。
測定した血圧や脈拍をパソコンに取り込んで管理できるソフトウェアが、無料公開されている場合もあります。また、エクセルなどの表計算ソフトに記録していくのも良いでしょう。
測定値のデータは、体調不良で通院する際に持っていくと、獣医師さんの診断に活かすことができます。


まとめ

猫の血圧の正常値は、140mmHg未満が目安です。160mmHg以上になると、高血圧であり、臓器などに傷害を及ぼす危険性があります。
猫の場合、眼や脳、心臓、腎臓などが標的臓器であり、特に眼に症状が出やすいとされています。しかし、症状の変化は分かりづらく、気づいたときには手遅れになっていることが多いです。
高血圧自体を予防する方法はないため、基礎疾患にかかる可能性を下げること、定期的な測定で早期発見をすることが大切になります。
猫ちゃんに特に不調がなくても、最低でも年に1回、シニア猫の場合は年に2~4回は動物病院で測定してもらうことをおすすめします。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に14医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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SHINO

SHINO

保護犬1頭と保護猫3匹が「同居人」。一番の関心事は、犬猫のことという「わんにゃんバカ」。健康に長生きしてもらって、一緒に楽しく暮らしたいと思っています。

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