猫のてんかん発作とは?
てんかんの発症率は、犬では約1%、猫では約0.3%といいます。猫のてんかんは極めて稀と言われます。
普段はふつうに生活できているのに、何らかのきっかけで脳内の神経回路で異常な電気的ショートが発生し、周囲の神経回路にまで広がるとてんかん発作が起こります。発作が起こると猫は全身を痙攣させたり昏倒したりしますが、治ると元の正常な状態に戻ります。
てんかんのタイプには、内臓や血液の疾患、脳に異常(外傷や腫瘍、脳の奇形など)が原因の「構造性てんかん」、遺伝的要因または原因不明からなる「特発性てんかん」があります。そして治療を開始しても発作が治らない「難治性てんかん」があります。
ストレスを溜めやすい、神経質な性格の猫がてんかんに罹りやすいと言われます。
そらさんは特発性てんかんです。そらさんの優しく繊細な心が、生まれてからこれまでに受けた色々なストレスに耐えられなくなって発作を起こすようになったと、私は思えてしまいます。
我が家の猫の生い立ち
そらさんとうみちゃんを我が家に迎えたのは2014年のお正月でした。
里親募集サイトで近くに住む保護主さんを見つけ、応募しました。すぐに話が決まり、何匹かの候補の中からそらさんを、数日遅れてうみちゃんを引き取りました。
過酷な状況で飼育されていた様で、2匹ともワクチンは未接種、酷い猫風邪に罹っていて目ヤニ、鼻水、耳だれ、咳等の症状があり、真菌による脱毛もありました。栄養失調で低体重。今もお世話になっている獣医さんに連れて行くと「いつ死んでもおかしくない」と言われました。
すぐに投薬、点滴、点眼、点耳等の治療が始まり、慣れない環境で知らない人間に嫌なことばかりされて恐かったのでしょう。2匹はいつも寄り添っていました。いつも寝床に隠れていました。
何とか猫風邪が治り、やれやれと安心したのも束の間、うみちゃんがFIPを発症。2ヶ月の闘病虚しく死んでしまいました。転居や治療のストレスが原因と思います。
「私はうみちゃんを殺したのではないのか」「治療することは正しかったのか」と今も考えてしまいます。
ひとりぼっちになったそらさんは、娘にベッタリになりました。いつも娘のそばに寄り添い、トイレもお風呂も着いて回りました。
留守番の時は娘の布団の上で待っていました。普段は滅多に鳴かないそらさんでしたが、娘がそばにいるときだけ、よく鳴くようになりました。
同じ年の5月、うみちゃんが死んだ悲しみを埋めようとりんちゃんとすずちゃんを迎えました。母猫の母乳をたっぷり飲んで育ち、健康でよく鳴き、よく食べ、よく寝る子達でした。子猫とはこれほど元気でよく動くものなのだ、と感動すらしました。
数日間はそらさんと離れて生活していた子猫達ですが、お互いの気配が伝わるのか、ドア越しにそらさんと子猫達は呼びあうようになり、すぐに対面。子猫達はそらさんをお母さん代わりにして甘え、そらさんも最初は威嚇したり逃げ回ったりしていたのですが、すぐに仲良くなりました。
けれどこの時もそらさんは我慢していたのでしょう。子猫に寝床を取られたり、餌を横取りされても黙って譲っていました。
そらさんの去勢手術
翌6月、そらさんの去勢手術をすることにしました。日帰りで終わる手術でしたが、病院から戻ったそらさんは2~3日ベッドの下や押入れの中に隠れて出てきませんでした。
病院での様子も気になる事がありました。麻酔からなかなか醒めず、目が覚めた後もケージの隅っこにじっとうずくまり、飲まず食わずでいたようなのです。
病院に預けた時、そらさんは自分だけが捨てられたと感じたのかもしれません…。
てんかん発症のきっかけ
去勢手術のショックも治まった7月末、夏休みを利用して娘が祖母の家に遊びに行くことになりました。
そらさんの様子がおかしくなってきたのは娘が出かけて2日目の夜からです。二階の娘の部屋が見える階段の下から動こうとしません。視線は常に娘の部屋のドアに注がれています。まるで娘がドアから出てくるのを待っている様でした。
3日目の夜、仕事から帰ってきた私は、廊下やリビングの小さな水たまりに気づきました。粗相したのかな、と匂いを嗅いでみましたが無臭です。
この時点では解らなかったのですが、これがそらさんのてんかん発作の始まりだったのです…。
帰宅すると家の中のどこかに複数の小さな水溜りを発見するようになってから2~3日経った日のこと。
娘の部屋を見上げてうずくまるそらさんのそばに座っていました。暫くしてカタカタ、という音でそらさんに目をむけると…。
そらさんが震えていました。瞳孔が開き、顔がビクビクと痙攣し、目に見えない何かに怯えるように何度も後ろを振り返ります。そして口からは驚くほど大量の唾液がポタポタと垂れていました。家中にあった水溜りはそらさんの唾液だったのだと気付きました。水溜りの数イコールそらさんの痙攣の回数だったのです。
震えて怯えていたそらさんは、すぐに走って逃げて行きました。そらさんの居た場所はベタベタに濡れていて臭いました。そらさんはこの時失禁していたのです。
初めてそらさんの発作を目撃した時点ではまだ他の病気を疑っていました。脳の障害や泌尿器系の病気、娘が居ないストレスによる異常行動…。
けれどすぐにその考えは否定されました。何度かの痙攣発作の後、そらさんがついに大きな発作を起こしてしまったからです。
二階の寝室で休んでいた時、下から何かが猛スピードで駆け上がってくる気配がしました。あちこちにぶつかりながら寝室に飛び込んできたのはそらさんでした。寝室の壁に沿って家具にぶつかりながらぐるぐる走り回って、そらさんはバターンと倒れました。四肢が空を搔き、フッフッと息は荒く、体や頭は痙攣しながらドンドンと床に打ち付けられています。
私は呆然と見ていることしかできませんでした。一方で「ああ、そらさんは、てんかんなんだな」と冷静に考えてもいました。
そらさんの症状をネットで調べると必ずヒットする「てんかん」という病気。認めたくなくて、もしてんかんであっても年に数回のことかもしれないという思いもあり様子を見ていたのですが、もう猶予はないな、と発作の治まったそらさんを抱き上げて思いました。
そらさんが可哀想で、早く病院に連れて行かなかったことが申し訳なくて、泣きました。
治療開始
翌日、仕事を休んで朝一番にかかりつけの病院へ。
診察中にそらさんが小発作(部分発作と言います。脳の一部分で電気的ショートが発生した時に部分発作が起こります)を起こしました。
発作時のそらさんの状態を観察した先生は、今までの診察履歴ですでに血液検査等で内臓等に異常がないことを確認していたこともあり「てんかん様発作」ではなく「てんかん発作」と診断。すぐに投薬治療が開始されました。
抗てんかん薬のフェノバールが処方され、6mgを1日2回服用。薬の血中濃度が上がるまでは何回か発作が起こるかもしれない、もしかしたら薬の効果が得られないかもしれないと言われていましたが、そらさんの場合、服用を開始すると直ぐに発作は治まりました。
安心する反面、いつ再発するかヒヤヒヤの毎日。帰宅して一番にすることはそらさんの状態チェック。
お尻を触り、失禁していないことを確認。家の中に発作の痕跡がないか確認。発作の前兆がないか確認。そらさんの不安を解消するため、祖母宅にいた娘にも帰ってきてもらいました。
そらさんは薬の効果か1日中うつらうつらとしていました。
てんかん発作が起こったら
突然ペットがてんかんの発作を起こしたら飼い主さんはとても驚くことと思います。実際、私は血の気が引く思いで何もできないまま見ているだけでした。全身を痙攣させ、唾液を垂らし、失禁するそらさんはショッキングでした。
発作を起こした時、飼い主さんは何をすれば良いのか?病院の先生に教えてもらいました。
まずはペットの頭や体が家具などに打ち付けられないよう保護する。
嘔吐があった場合は窒息しないようにする。
以下のことを観察する。
・発作の強さ
・何分くらい続いたか
・発作が治まった後の状態
・発作を起こす前に何か変わった様子があったか
発作の前兆として、落ち着きがなくなる、そわそわする、隠れて出て来ない、やけに甘えてくる、などの行動があるようです。
治療開始から1か月、血液検査で肝機能低下が認められため薬の量を調整する必要がありました。発作の再発もないので問題ないと思っていました。
けれどそらさんの「てんかん」は終わりではありませんでした…。
投薬した途端に
フェノバールの服用を始めて1ヶ月、そらさんの体調は安定していました。発作が再発する気配も感じられず、不安はありましたが平穏な日常に戻りました。
ただし血液検査でフェノバールの副作用である肝機能の数値の悪化がみられ、薬の血中濃度も高かったため、病院の先生と相談して減薬する事にしました。
1回6mgを1日2回服用していたフェノバールを、1回あたり4mgに減らしました。
減薬して1週間が経過した頃には、日中いつもウトウトしていたそらさんが、他の猫と遊んだり話しかけるように鳴いたり、色々嬉しい変化がみられました。発作を起こす様子もなく、このまま少しずつ薬が減って、いずれは完全にやめられたらいいなぁと思っていました。
けれどその願いはあっさりと吹き飛ばされてしまいました。
トリガーは雷
ある日の夕方、スーパーで娘と夕飯の買いものをしていたときです。
何の前触れもなく大きな落雷がありました。バリバリバリという音と共にズーンと地響きを感じました。店内で悲鳴が起こる程の大きな落雷でした。私も娘も猫達が心配になり(以前、軽い夕立での雷の音に3匹ともアワアワしていたので)、買い物は中止して急いで帰宅しました。
そらさんが発作を起こしていました。
今起こしたばかりの様子でしたが、その激しさは発症当時より激しく、また時間も長くなっていました。恐れていた再発です。その日の夜は一晩中、何度も発作が起こりました。
翌日、朝一番に病院へ行き、フェノバールの増量とあらたにゾニサミドを追加する事になりました。
ゾニサミドは日本で開発された抗てんかん薬で、肝臓への影響も極めて少ないと言われている薬です。しかしフェノバールに比べて新しく、先生もフェノバールとの併用に慎重でした。
フェノバール8mg、ゾニサミド12mgを1日2回投与に増加。ゾニサミドのおかげか発作の強さは変わりませんでしたが、一時的にその回数は減っていきました。
けれど1日の中のどこかで発作は起こり、家具の上から落ちてきたり、他の猫を突き飛ばして滅茶苦茶に走り回ったりしました。りんちゃんとすずちゃんも異常な状態のそらさんに怯え、そらさんに近付かなくなってしまいました。
発作が起こると必ず尿失禁するため、私と娘は交代でそらさんと一緒に掃除のしやすいリビングでタオルケットを敷いて眠る事にしていました。
そらさんの病状と薬の使用量をメモにして残していました。日中は私も娘も不在ですが、床などの汚れからそらさんは留守の間も毎日2~5回の発作を起こしていたようです。
そらさんの状態は少しずつ悪くなっていきました。
9月6日
2:45 全身痙攣。脱糞。口から泡を吐く。すぐに1回分の薬を与える。
発作後はやけに甘えてきて落ち着きがない。
9月7日
4:00 眠っていた状態から全身発作。
8:00 眠っていた状態から全身発作。薬を2回分与える。
19:00 投薬。1回分。
19:30 全身発作。原因は近所の車の盗難防止アラーム音。
21:00 眠っていた状態から突然全身発作。原因はテレビのタレントの笑い声。
9月8日
1:00 眠っていた状態から全身発作。
6:00 投薬。2回分を与える。薬がよく効いたのか眠る。
8:00 眠っていた状態から全身発作。原因は登校時の小学生の声。
13:00 眠っていた状態から全身発作。本棚の上から落下。原因は近所の子供の遊ぶ声。
17:00 投薬。2回分を与える。やはりよく眠る。
18:00 小発作。眠っていた状態から。
22:00 小発作。眠っていた状態から。
9月9日
2:30 全身発作。眠っていた状態から。
6:00 投薬。2回分を与える。
7:00 小発作。眠っていた状態から。原因は隣家の掃除機の音。
8:00 全身発作。痙攣ではなくグルグル回りながら暴れる。
18:10 全身発作。眠っていた状態から。
19:00 投薬。2回分を与える。
22:00 全身発作。ゾニサミドのみ1回分投与。
9月10日 深夜からの雷のせいで発作が止まらない。30分おきに大小の発作が起こる。
この日、私たちはそらさんの死を覚悟しました。早期治療の大切さを身にしみて感じました。
9月10日
6:00 投薬。2回分与える。以下、すべて全身発作。
6:33
6:43
6:50
6:59
7:10 ようやく薬の効果が出たのか眠り始める。
病院に行く予定でしたが、そらさんは発作の疲れもあってぐっすりと眠ってしまいます。
目が覚めたら病院に連れて行こうと考えていました。無理やり起こすと発作を起こすかもしれない、とも思いました。
けれどこの判断は完全に間違っていました。早期治療の大切さを痛感しました。
そらさんは病院の午前の診察時間が終わった頃、発作で目覚めました。
12:45
13:08
13:29
13:42 発作後2回分の投薬。
13:55
14:08
14:18
14:31
14:42 発作後ゾニサミドのみ投薬
14:53
15:04
15:17
そらさんは体や頭を床に打ち付け、全身をこわばらせ、唸り声をあげていました。最初のうちは失禁が見られましたが、もう無くなっていました。体を触るだけでそらさんの体温が異常に高くなっていることがわかります。
午前中に病院に連れて行かなかったことを強く後悔しました。
もうダメかもしれないそらさんが頭や体を打ち付けないように、タオルで体を庇うことしかできない私は無力感で一杯でした。発作中のそらさんは白目をむき、唾液があふれ、痙攣を起こし今にも壊れてしまいそうでした。
そらさんの体を濡れタオルで包み、スポイトで水を少しずつ与えます。その間にも発作は容赦なくそらさんを襲います。
死んでしまうかもしれない。その方が楽になれるのかもしれない。そう考えてしまいました。
15:30
発作後に口を大きく開けて呼吸をする。
口を開けて意識を失ったそらさんを見て涙が溢れました。
ごめんなさい。生きていてほしい。
スーパーの買い物カゴにタオルを敷き、そらさんを入れて病院へ。夜の診察は17時から。留守かもしれない。その時はどうしよう、待っている間に死んでしまうかもしれない。
電話で確認できたのに、そんな簡単なことも気付かない程混乱していました。
先生、助けてください
病院に到着した時、先生の車はありませんでした。居ない…。絶望感。それでもチャイムを鳴らすと返事がありました。
先生の奥様でした。私は泣きながらお願いしていました。
「助けてください」
先生は外出中ですぐ帰ってくると、私たちを診察室に入れて下さった奥様は尿で汚れたそらさんの下半身を拭きながら教えて下さいました。そらさんは意識を失ったままで口はいつの間にか閉じていました。
先生が帰宅され、すぐに診察が始まりました。その最中そらさんが目を覚まし発作を起こすと先生は鎮静剤を注射。そらさんはまた意識を失いました。点滴の処置を受けている間に次のような説明を受けました。
この後どのような状態になるかはわからない。
目が覚めてまた発作が起こるかもしれない。
薬が効かなくなるかもしれない。
重積発作が脳に損傷を与えているかもしれない。
悲観的な話ばかりでしたが全ては私の判断ミスが招いた結果です。そらさんは生きている。それだけで有難いと思いました。そらさんに申し訳ない気持ちで一杯でした。
現在のそらさん
今も薬を飲んでいます。そして、元気です。
発作はあの日以来起こしていません。
あの日、病院から帰ってきたそらさんは丸2日間眠り続けました。意識が徐々に戻ってきた時、そらさんの目は見えていませんでした。下半身が動かず、しばらくの間は前足だけで這うように移動していました。
当時は色々不安な要素がありましたが、そらさんの生命力は逞しく、今ではりんちゃん、すずちゃんを従える我が家のボスです。てんかん発症以前より活発です。
今は抗てんかん薬のフェノバール8mgとゾニサミド12mgを朝晩2回服用しています。重積発作の後は薬の量も増えましたが、血液検査で肝臓機能と薬の血中濃度を確認しながら減薬、現在の量になっています。発作が起こった時に使用する鎮静剤を常備しています。私のお守りです。
今後減薬はあっても完全に薬をやめることはないでしょう。てんかんの治療の最終目的は根治ではなく「いかに生活の質を向上させるか」ですから。
特発性てんかんの原因はストレスという説があります。そらさんの兄弟猫のうみちゃんを亡くしたのもストレスが原因です。
うみちゃんとそらさんのことを心に深く刻み、決して人間本位にならず、言葉を話せない猫たちの気持ちを汲み取って健やかに育ててあげたい。これからまだまだ続く猫たちとの生活の中で、てんかんという病気とうまく付き合えていければ、と強く考えています。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
– おすすめ記事 –
・猫の好きな場所を家の中に作ろう! |
・猫の誤飲は防げる!注意すべきポイント |
・スコティッシュフォールドってどんな性格 |
・猫の突然の興奮の理由!落ち着かせるための対処法は? |