犬の骨格の特徴
骨格とは、分かりやすく言えば身体の「骨組み」のことです。関節で結合した複数の骨・軟骨によって形成される、構造のことを「骨格」といいます。
骨は筋肉や皮膚で覆われているため、直接目にすることはほとんどありません。そのため日常的に意識することは少ないかもしれませんが、愛犬の健康管理を行うためにも、骨格について知っておくことには大きな意味があるのです。
まずは犬の骨の主な特徴を紹介していきますので、しっかりチェックしていきましょう。
◆犬の骨の数
犬と人間の骨格は外見からも分かるように、様々な違いがあります。まずは骨の数について、解説していきましょう。
私達人間の骨は、成人で約206本あります。これに対して犬は、犬種による違いはあるものの約320本もの骨を持っているのです。人間と比べて約1.5倍もの数です。
この骨の多さが、犬の力強く運動能力の高い動きを補助しているといわれています。
ただし身体の大きさは人間よりも小さいので、多くの骨を持ってはいるものの、それぞれの骨が細かったり、小さかったりするため、骨折・脱臼などをしやすい構造になっているともいえるでしょう。
愛犬との生活では、怪我などをしないように配慮する必要があるのです。
◆骨の形
犬の骨格の構造は、動作・行動に関係して形が作られています。
例えば腕の動きですが、人間は肩をぐるぐると回すことができます。しかし、犬にこれはできません。犬は、前肢を前方に振り出す、後方に引き寄せるといった動きをしますよね。
これは肩甲骨と上腕骨の、骨と骨を繋ぐ靭帯と筋肉が強靭にできているからで、四足歩行に順応するためだといわれています。上腕骨が胴体に沿って作られているので、横に開くことができない分、縦に大きく開くことができ、走りやすい構造の骨格になっているのです。
◆犬の歯
人間の歯は親知らずを含めると、32本生えます。対して犬の歯は全部で42本と、人間よりも10本も多く生えているのです。
とはいえほとんどの犬は顎が長いので、歯が多いといっても窮屈な生え方をしているわけではなく、それぞれ上下左右に、切歯3本・犬歯1本・前臼歯4本・後臼歯上顎2本・後臼歯下顎3本ずつ生えているのです。
そして元々肉食動物であった犬はこれらの歯に加えて、裂肉歯という肉をかみ切ることが出来る歯がみられます。この裂肉歯を使うことで、肉を小さく噛み切り、飲み込みやすいサイズにするそうです。
犬の骨の役割
人間との骨格の違いは様々な点で挙げられますが、中でも主な三つについて、その役割を紹介していきましょう。
●肩甲骨が縦についている
人間は二足歩行のため、肩甲骨が横方向についていますよね。犬の場合は前述したように、四足歩行をするため肩甲骨が縦方向についています。
そしてその使い方も大きく異なっており、人間は歩行する時にほとんど肩甲骨を使わないのに対し、犬は歩行・走行の際に肩甲骨を常に大きく動かす必要があるのです。
犬にとっての肩甲骨は、人間以上に重要な役割があるといえるでしょう。
●鎖骨がない
鎖骨は、人間にはあって犬にはない骨です。犬に限らず、猫・牛・馬などの四足歩行の動物の多くには、鎖骨が存在しないのです。
しかし、現在においても鎖骨があった痕跡が認められているので、かつては存在していたものと考えられています。進化の過程で退化した、とみられているようです。
そもそも鎖骨には、胸骨と肩甲骨を繋いで腕を体幹に繋ぎとめる役割があるのですが、鎖骨によって人間は、腕を器用に動かすことができます。
一方、四足歩行の動物達にとっては必要な腕の動きが異なるため、自由に腕を動かすよりも歩行・走行の動きを柔軟にするために退化したのだと考えられています。
●つま先立ちをしている
犬の前脚の一番下にある関節を手根関節といい、後脚の場合を足根関節といいます。これらの関節が人間でいう「かかと」にあたるのです。
そして、そこから下が犬にとっての「手の平」であり、「足の裏」となります。犬の手の平と聞くと、肉球がある部分を連想しがちですが、実はそれは大間違いというわけですね。
人間が行うつま先立ちを想像するとバランスをとりにくいイメージが先行しますが、犬は常につま先立ちの状態で立っているのです。人間がもつ骨の役割と、大きく違う部分の一つだといえるでしょう。
犬と人間の骨格の違いは?
骨や歯の本数、骨格の形、肩甲骨や鎖骨など、犬と人間との骨格で違う部分や役割などを紹介してきました。しかし、他にも人間とは異なる部分があります。加えて紹介していきましょう。
◆骨格の形成期間
骨格の形成期間、すなわち犬の骨格が成犬のサイズにまで成長する期間は、人間と比べてとても短いです。
人間の骨格が完全に形成されるまでにかかるのは、15~18年だといわれています。
対して犬は身体のサイズごとに、以下の期間とされています。
◎中型犬…10~12ヶ月
◎大型犬…15~18ヶ月
◆顎を左右に動かせない
人間は食事の際に、歯を左右にすり潰すように食べ物を食べますよね。しかし、犬は顎の関節を左右に動かすことができないので、ドッグーフードなどの餌を口の中ですり潰すことができません。
このため、食べ物を十分に噛まずに飲み込んでしまう場合が多いので、喉に詰まらせないように注意しながらおやつやフードを与えることが必要です。手作りご飯や食材を与える際には、細かく刻んだり、柔らかく煮るなどの配慮を忘れないようにしましょう。
◆犬種による違いもある
犬の骨格は、祖先である狼の骨格と類似した特徴をもっています。獲物を追跡するための走りやすい真っ直ぐな四肢の骨があること、獲物の距離を把握しやすいように眼窩が前を向いていることなどがこれに当たります。
しかし、犬種によっては品種改良の歴史によって、遺伝学的な骨の形成異常が正当な犬種標準として認定されている犬種もいるのです。
例えば、短足のダックスフンドやコーギー、短吻のペキニーズ、らせん状に巻いた尻尾をもつボストン・テリアやブルドッグなどが、該当する犬種の一例です。
これらの遺伝性の要因や、生育環境、肥満などが原因となり、骨・関節の病気を発症するケースもあるため、事前にどんな病気があるのかを知っておいた方がよいでしょう。
犬の骨格や関節のトラブルになりやすいのは
骨格や関節に関わる、代表的な病気を四つ挙げていきましょう。発症しやすい犬種もあわせて紹介するので、愛犬が該当の犬種である場合は、特に注意が必要です。
股関節形成不全
股関節形成不全とは、股関節寛骨臼の発育不全や変形、大腿骨頭の変形や扁平化による股関節の弛緩のことであり、骨盤と大腿骨を結合している靭帯・関節包が伸びて脱臼しやすい状態のことをいいます。
軟骨部分の擦り減りなどによって痛みを伴うので、歩行や運動を嫌がる様子がみられるようになります。
普段と比べて腰を振るような歩き方をしていたり、横座りばかりするようになっていたら注意が必要です。
遺伝性の要因が影響して発症するといわれていますが、諸説の原因も挙げられており明確とはなっていません。
強い痛みがある時は股関節に負担のかかる運動を避けて安静に過ごすことがおすすめです。痛みが緩和されてから、毎日の散歩を続けるようにしてください。股関節への負荷を軽減するためには、個体によってはダイエットも有効的です。愛犬が肥満傾向にある場合は、挑戦してみるとよいでしょう。
発症しやすい犬種としては主に、ラブラドール・レトリバー、ゴールデン・レトリバー、バーニーズ・マウンテンドッグ、ジャーマン・シェパードなどの大型犬種が挙げられ、生後6ヶ月から1年くらいの間に発症する場合が多いといわれています。ただし、フレンチ・ブルドッグなどの小型犬種での発症例もあるようです。
膝蓋骨脱臼症候群
膝蓋骨脱臼とは、膝蓋骨が大腿骨滑車という部分から脱落して、膝関節の機能障害が現れる病気です。
膝蓋骨というのはいわゆる「膝の皿」のことで、アーモンド状の一つの遊離した骨と認められている部分であり、膝の曲げ伸ばしの際に働く靭帯をずらさずにスムーズに動く役割をもっています。実際には、大腿四頭筋・膝蓋靭帯という軟部組織と共に膝関節を伸ばす運動を行っているのです。
膝の皿が内側にずれる「内方脱臼」の方が発症率が高く、主に、ポメラニアン・チワワ・プードル・マルチーズ・テリアなど、脚が華奢な犬種が発症しやすいといわれています。生後4ヶ月から5カ月の子犬の時期に症状が出始め、成長段階で症状が顕著なることが多いようです。しかし、成犬になってから突然発症する場合もある病気だということも頭に入れておきましょう。
ちなみに、膝の皿が外側へずれる「外方脱臼」は、まれに大型犬種に発症するそうです。
いずれも原因の解明はなされておらず、信仰の予測も難しいといわれています。
初期段階では無症状ですが、片足に症状が出始めるとスキップのような歩行方法をとったり、両足に症状が出始めると腰をかがめたような角度の姿勢で歩行するような様子がみられます。
特にトイ系犬種の膝蓋骨は米粒ほどの大きさなので、飼い主さんが触って判断するのは難しいでしょう。
膝が緩いと獣医師の診断を受けた場合でも、運動過多とならないレベルで毎日の散歩を続け、無理しない程度に足腰の発育を維持できるよう努めるのがコツです。
椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアとは脊髄の病気ですが、神経の病気に分類されている場合もあります。
脊髄は脊椎の中を通る神経線維の束で、脳からの指示を全身に伝える、感覚などの情報を脳に伝えるといった役割をしています。ちなみに椎間板とは、脊椎を構成している背骨の間に存在する、円形の線維軟骨のことをいいます。
椎間板ヘルニアとは、椎間板が本来ある位置から飛び出して圧迫されている状態のことを指し、首から腰までの椎間板で起こり得ますが約8割が胸部・腰部の椎間で発生します。特に胸椎・腰椎の中間付近で、最も発生頻度が高いそうです。
この病気は発症状況によって、「ハンセン1型」と「ハンセン2型」に分類され、ハンセン1型は軟骨異栄養性犬種と呼ばれる遺伝的に発症しやすい犬種があり、主にダックスフンド、フレンチ・ブルドッグ、アメリカン・コッカー・スパニエル、ビーグル、シーズー、ペキニーズ、などが好発犬種だといわれています。大体3~6歳頃に発症し、その後繰り返し発症する度に重症化していく可能性が高いのです。
発症原因は過度の運動の他、くしゃみ・しゃっくりなどお日常的な動作にも起因するといわれています。
ハンセン2型は大型犬種の成犬や、老犬で慢性的に発症するといわれており、時間の経過と共に悪化している場合が多いです。
いずれも、抱き上げた際や、軽く背中を押した時に痛がる様子がみられるので、早期発見に役立てましょう。また、痛みが激しくなると背中を丸め、運動を避けるようにもなりますので、日頃から愛犬をしっかり観察する癖をつけておいてください。
変形性関節炎
変形性関節炎は、全ての犬種において、長生きすれば発症するリスクが高くなる病気だといえます。
主に、骨同士の間のクッションの役割をしている軟骨が、老化に伴い滑らかさを失うことで脆くなってしまうことが原因だといわれています。
また、肥満・怪我・病気の術後後遺症によっては、若年齢からの発症確率も高まるそうです。
骨と骨との摩擦によって関節に痛み・腫れが生じ、それが進行すると歩行異常の発症や変形が起こる場合おあります。
ただし、犬の体重は骨格の支持作用によって四足に分類されるので、1本の脚に痛みが生じただけでは完全に立てなくなる心配はないでしょう。
強い痛みがある間は安静が必須ですが、痛みが緩和された場合は毎日の散歩が大切です。肥満傾向のある個体の場合は、ダイエットも症状の改善にとってメリットとなるでしょう。
犬の骨格を守るための対策
基本的に犬は、高い身体能力を持っています。しかしその分、日常生活でも骨・関節への負荷がかかってしまうのです。
愛犬の身体に負担をかけないように、日頃から様々な対策をすることが重要です。
骨や関節のトラブルを未然に防ぎ、丈夫で健康的に過ごすための、対策方法を紹介していきますので豆知識として覚えておきましょう。
◎床の滑り止め対策をする
現代では、床材がフローリングの家が多いですよね。しかしこのフローリング、犬が滑りやすい材質の一つなのです。
床で滑ることが、犬の骨や関節に負担をかけることに繋がるので、床が滑らないように対策をとることが大切です。
フローリングの床にはカーペットを敷いたり、滑り止めスプレーを噴霧しておくなど、愛犬が歩いたり走ったりしても滑らない方法を探してみましょう。
滑り止め対策としてはネット上にも、ドッグトレーナーや獣医師監修の関連記事が沢山ありますので、参考にしてみるのもおすすめです。記事の目次をみて、自宅に応用できそうな方法がないかチェックしてみましょう。
◎肥満に注意する
肥満になると骨・関節への大きな負担がかかってしまいます。特に犬の肥満は、椎間板ヘルニアの原因となる場合も多いのですし、他の病気を誘発する可能性も高まるため十分注意しなくてはいけません。
犬の成長期・成長速度は人より早いですし、少し食べすぎたなと感じるレベルでもすぐに体重に反映されてしまいます。必要な栄養素を管理しつつ、十分な運動を怠らないよう、しっかり愛犬の毎日を支えるようにしましょう。
◎痛みのある時は安静に
多少の痛みを感じていても、元気に走り回ってしまう子も少なくありません。
片足を引きずるような動作が少しみられても元気そう、と飼い主さんが感じてしまう場合もあるでしょう。
しかし、犬が骨や関節に痛みを感じている時は、基本的には安静にしていることが一番です。早めに獣医師に相談し治療を受け、指示に従ってください。
傷みが緩和されてきた場合は、適度な運動を行うことも重要です。バランスをとるのは難しいですが、運動不足はストレスや無駄吠えなどの問題行動にも繋がりますし、骨や関節に悪影響を及ぼす場合もあるので注意しなくてはいけません。
まとめ
大好きな愛犬には、毎日を健康的で元気に過ごしてほしいものです。そのために飼い主さんは、出来る限りのことをしてあげたいですよね。
犬の骨や関節はトラブルが起きやすい部分だということを頭に入れておき、常に愛犬に異常がないか観察しておくことが重要です。
普段とは違う動作をしていたら、それは痛みを表現しているのかもしれません。犬の行動の全てには、必ず理由があります。
気になることがあれば、すぐに獣医師などプロに相談し、早期発見や症状悪化の防止に努めてくださいね。
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