雨が降っても濡れたまま、まるで誰かをじっと待つように我が家の門に、お座りをつづける彼をはじめ家族は無視し続けた。置き物のようにお座りスタイルの彼を、毎日またぐようにして父が出勤。私たち三姉妹もまたいで学校へいくようになって1週間。とうとう、向かいの八百屋のおじさんが「忠犬ハチ公みたいや、飼ってやったらどうや」と来たものの・・。
わたしたち家族にはまだ彼と住む気持ちになれなかった。というより、彼の方にわたし達の存在がない。彼が待っているのはきっとわたし達ではないそう感じていた。門でおすわりスタイルのままうとうと居眠りする姿はそれまできっちり可愛がって仕付けもされた証し。たまに、右に左に眠さで揺れるのをふんばる姿、水を出しても口をださない頑なさに、「なぜ そこまでして」ともとの飼い主を羨ましくさえ感じていた。そこまで待っている彼に、どうして迎えにくるもとの家族がいないのかは、わたし達にはわからない。正直、我が家の門でひたすら待ち続ける彼を見守るしかなかったのだ。
2週間たったころ、わたしは学校の文化祭でリーダーになり、どうしても時間が足りないので家で家族に手伝ってもらうことにした。たくさんの段ボールを持って帰り、玄関先で家族総出で段ボールを切る作業をする。気が付けば夜になっていた。父が、「あとちょっとでおわりやな」とわたしの方を向いた時、「あれ、うしろにおるで」と驚いてさけんだ。
振り向くとそこに ちょこんと彼が門から移動して座っていたのだ。
「あ!どうした!!」
声をかけると、だまってこっちをみている。家族全員で作業をしているところにきた。 わたし達を友人ぐらいには感じてくれたのだろうか?ぼーっとしているわたしを尻目に、母が急いで皿に用意した水を出してみる。
「飲むかも」と期待をした。
けど、彼は口を付けなかった。言葉には出せない「もう、前の家族はきっと迎えにこないから」とは。ただ「ね、せめて水だけでも飲んでよ」と懇願してみる。家族全員のだれも見ても、彼の体が痩せてきていた。
これが13年ともにした居候犬、いそろくとの今でも忘れられない出会い。
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