1.猫の肺水腫とは
1-1.肺胞などに液体が溜まった状態
1-2.肺水腫の症状
1-3.猫の呼吸数を測る
2.猫の肺水腫の原因
2-1.心原性肺水腫
2-2.非心原性肺水腫
3.猫の肺水腫の治療法
3-1.肺水腫の検査・診断
3-2.急性肺水腫
3-3.投薬治療
3-4.原因となる病気を治療する
3-5.肺水腫の治療費
4.猫の肺水腫の予後
5.愛猫が肺水腫にならないために
5-1.肺水腫になりやすい猫は?
5-2.定期的な検診を受ける
5-3.飼育環境を見直す
5-4.完全室内飼育
6.まとめ
猫の肺水腫とは
◆肺胞などに液体が溜まった状態
肺水腫とは、病名ではなく、病気の結果、肺に水が溜まってしまった状態のことです。
肺には、「肺胞」(はいほう)という酸素と二酸化炭素を交換する小さな部屋があります。
息を吸い込むと肺胞の中に空気が満たされ、肺胞を取り囲む毛細血管を流れる血液の中に酸素が取り込まれます。
血液の中の不要な二酸化炭素は肺胞内へ排出されて、息を吐くことで体外へ出されます。
肺水腫とは、血液の液体成分が毛細血管から肺胞の中に過剰に漏れ出て溜まってしまい、酸素と二酸化炭素の交換ができなくなっている状態です。
この範囲が広範囲、重度になると呼吸困難になってしまいます。
◆肺水腫の症状
肺水腫の症状は、
・口を開けて呼吸をする
・肩で息をする
・運動をするとすぐに息が上がる
・歯茎や舌の色が白い、または紫っぽい(チアノーゼ)
・横になると苦しく、座ったまま口を開けて呼吸する
・伏せたまま苦しそうに呼吸をする
・ゴロゴロと音を立てて息をする
・夜になると苦しくなる
・咳が出ることがある
などです。
呼吸困難のため、苦しそうな呼吸をしたり、浅い呼吸を繰り返したり、口を開けて呼吸をしたりします。
また、体を横にできずに座ったままで動かなくなったり、血の混じった液体を吐き出したりすることもあります。
呼吸困難により血液中の酸素が欠乏すると、チアノーゼを起こし、失神する場合もあります。
また、肺水腫を発症すると、症状が急激に悪化して、死に至ることもあります。
心原性では、症状が重いことが多く、早急な救急管理をしなくてはなりません。
一方、非心原性の場合の症状は、軽度から重度まで様々です。
◆猫の呼吸数を測る
肺水腫になると、上記のように呼吸が急に荒くなったり、苦しそうな様子が見られたりします。
猫の正常な呼吸回数を把握しておくと、猫の呼吸が速いかどうかを判断することができます。
猫の正常な呼吸回数は、毎分20~40回程度、寝ている時は15~25回程度です。
安静時の呼吸が速い場合は、肺水腫を含む病気が隠れていることがあります。
猫が安静にしている時(寝ている時など)に、1分間、胸の上下運動の回数を測ります。
胸が上下して1回の呼吸とカウントします。
10秒間測り6倍する、または15秒間測り4倍することで、1分間の呼吸とすることもできます。
日ごろから愛猫の呼吸数がおよそどのくらいかを意識しておくと、異常に気づきやすくなるかもしれません。
猫の肺水腫の原因
◆心原性肺水腫
「心原性肺水腫」とは、心臓病を原因とする肺水腫のことです。
猫の場合、心原性が多く、原因となる心疾患は、肥大型心筋症や拘束型心筋症、拡張型心筋症などの心筋症です。
心筋症になると左心不全を起こし、心臓から全身へと流れる血液の量が低下して、血液が心臓内に残ります。
そのため、血液が肺から心臓へ戻りにくくなり、肺静脈圧、肺毛細血管圧が上昇して、液体成分が逃げ場をなくして肺へと滲み出します。
肺の間質液が過剰になって代償的な除去ができなくなると間質性の肺水腫に、間質圧が肺胞内圧を上回ると肺胞性の肺水腫に進行します。
◆非心原性肺水腫
「非心原性肺水腫」とは、心臓病以外の原因で起きる肺水腫です。
原因は、肺炎や膵炎などの病気、火事などで煙を吸引する、電気コードを齧るなど室内での事故や交通事故で外傷を受けることなどです。
これらの原因がもとで、肺の毛細血管は病的な変化を起こし、液体成分が肺胞内へ滲みでやすくなります。
具体的には、下記のようなものが原因となります。
・外傷
・毒物や煙の吸入
・シスプラチン(抗がん剤)
・敗血症(血液中に細菌が増殖して多臓器不全を起こす状態)
・尿毒症
・炎症
・低アルブミン血症(腎疾患、肝疾患、消化器疾患)
・腫瘍
・急性呼吸器切迫窮迫症候群(ARDS)
猫の肺水腫の治療法
◆肺水腫の検査・診断
胸部レントゲン検査を行い、心原性か非心原性かを見分けたり、胸水や心嚢水または病気の重症度を判定したりするために、心臓の超音波検査、心電図検査、血圧検査、血液検査、血液バイオマーカーなどの検査を行います。
非心原性が強く疑われる場合は、疑われる原因疾患に応じて検査が行われます。
◆急性肺水腫
緊急的な急性肺水腫になった場合は、
・心電図モニターの装着
・利尿剤の投与(肺胞内の水分を排せつするため)
・気管挿管(酸素を通す管を口から気管へ入れる)
・人工呼吸
などが、原因に応じて選択されます。
突然死も起こりうる、生死を分ける緊急的な状態なので、検査と並行して、集中的な治療を行います。
状態によって異なりますが、3日の集中治療が必要です。
◆投薬治療
心原性の場合、入院管理が必要となります。
高濃度の酸素を吸入させるため、酸素室などで安静に過ごさせます。
その後、注射や内服薬などで、循環する血液の量をコントロールしたり、心臓の負担を和らげたりする処置を行います。
使われる薬は、強心剤や血管拡張薬などです。
重度の心筋症の場合、動脈血栓塞栓症を合併していることもあり、その場合、抗血栓薬が使われます。
非心原性の場合は、炎症を抑えるための内服薬などが使用されます。
◆原因となる病気を治療する
心原性の場合、心臓病(心筋症)の治療を行います。
心筋症自体は完治することはなく、肺水腫の再発を防ぐための管理をすることが重要になります。
非心原性の場合、原因となる病気や状態に合わせた治療を行います。
◆肺水腫の治療費
肺水腫になった場合の治療費の目安*1は、下記の通りです。
・X線検査:2,000円~7,500円
・心エコー検査:2,000円~7,500円
・注射(利尿剤):1,000円~2,000円
さらに、利尿剤を内服薬として処方されると、7日分で1,400円程度*2かかります。
また、原因や起きている状態によって、その後の検査は異なり、胸水や腹水が溜まっている場合はその検査を行うなど、その時に必要な検査が行われます。
*1:家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査及び飼育者意識調査 調査結果(平成27年度)/公益社団法人 日本獣医師会
*2:猫の肺水腫/価格.com
猫の肺水腫の予後
予後とは、手術や病気、創傷の回復の見込みを指します。
肺水腫の予後は、心原性と非心原性で異なります。
心原性の場合、原因となる疾患によって大きく異なります。
拘束型心筋症、拡張型心筋症、不整脈源性右心室心筋症の場合、数週間~数ヶ月以内が多く、予後は短いです。
肥大型心筋症が原因の場合、予後は様々です。
一方、非心原性の場合、各原因によって予後が異なります。
愛猫が肺水腫にならないために
◆肺水腫になりやすい猫は?
心臓病になりやすいとされる猫種は、心原性肺水腫にかかる可能性が高くなると考えられます。
具体的には、雑種やメインクーン、ラグドール、ラグドール、スコティッシュフォールド、スコティッシュフォールド、スコティッシュフォールド、ペルシャなどです。
また、心筋症は1歳未満から老齢期の広範囲でかかりやすく、年齢によらず肺水腫になる可能性があります。
非心原性の場合は、事故が原因となることが多いので、傾向としては子猫に多く見られます。
◆定期的な検診を受ける
心筋症にかかっている猫は、定期的に検診を受けて適切な処置を受けるようにします。
症状がない場合、心臓病になっていることに気づきにくいので、定期的な健康診断で心臓病の早期発見に努めましょう。
特に、中年齢以上になると様々な病気を発症する可能性が高まるので、定期的に健康診断を受けることをおすすめします。
肺炎などの病気が原因となる場合もあるので、異常を感じたら早めに動物病院に連れて行きましょう。
◆飼育環境を見直す
電気コードを齧ることで肺水腫になることも多いので、電気コードをイタズラできないように家具の配置を見直したり、コードにカバーをかけたり対策をしておきます。
紐状のおもちゃを使うことは避け、猫が電気コードなど長いものに興味を持たないようにするとよいでしょう。
◆完全室内飼育
交通事故などの外傷が、肺水腫の原因となることもあります。
屋外で外傷を受けるリスクを避けるために、完全室内飼育をして、外に出さないようにしましょう。
まとめ
肺水腫は、肺の中の肺胞という小さな部屋に、血液中の液体がにじみ出て溜まった状態です。
猫の肺水腫には、心臓病が原因となる心原性肺水腫と、心臓病以外の原因で起きる非心原性肺水腫があります。
猫の場合、心筋症など左心不全をひき起こす病気が原因の心原性が多いです。
肺水腫になると、呼吸不全になるため、呼吸が荒くなったりチアノーゼを起こしたりします。
肺水腫は急激に状態が悪くなることが多く、死に至ることもあります。
日ごろから、愛猫の様子をよく観察しておき、異常に気付いたら、すぐに動物病院に連れて行ってください。
心筋症の子の場合、定期的な健康診断を受けて、心筋症の治療を適切に行うことが肺水腫の予防につながります。
非心原性の場合、外傷が原因となることも多いので、室内環境を見直して事故の原因となるものを取り除き、外での交通事故や猫同士の喧嘩を避けるため完全室内飼育を行うことが、予防につながります。
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