【獣医師監修】猫が原因となるパスツレラ症とは?人間にも移るって本当なの?

2021.06.24

【獣医師監修】猫が原因となるパスツレラ症とは?人間にも移るって本当なの?

地球上にはたくさんの目には見えない病原体が存在し、それが作用して病気を患うことはよくある話として知られています。 そして動物はさまざまな常在菌を持っていますが、私たちの身近に居る猫も例外ではありません。 ほとんどの猫が保有する常在菌が原因となる病気の中に「パスツレラ症」といった感染症がありますが、この病気は人間にも感染する恐れがあるので注意が必要です。 猫のパスツレラ症とは一体、どんな病気なのでしょうか。

パスツレラ症とは

撫でられて気持ちよさそうにする猫

パスツレラ症とは「Pasteurella属」の「Pasteurella multocida(グラム陰性小桿菌=パスツレラ菌)」が病原体となって発症する病気です。

パスツレラ症は人間と動物の共通感染症(人獣共通感染症=ズーノーシス)となり、動物の中でも猫は約100%の確率でこの病原体を保有していると言われているので、猫と暮らしている方は普段から注意しておくべき病気と言えるでしょう。

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ほかにも猫だけでなく犬は約75%、ウサギは約45%と、ペットとして私たち人間の身近に居る動物の病原体保有率はかなり高くなっていますので、これらのペットと暮らしている方は、その危険性をしっかりと学ぶ必要があるとも言えます。

パスツレラ菌は約1μmの小さな短桿菌で多形成を示しており、これらの動物の口腔内や爪の間などに常在しています。

人間がパスツレラ症に感染する原因では、猫や犬に噛まれたり引っ掻かれたりすることによって発症することがほとんどです。

パスツレラ菌を常在する動物たちはこれが原因で、何かしらの症状を発症させることはありませんが、この菌は人間の体内に入ってはじめて発症します。

とくに高齢者や糖尿病患者などの、免疫機能が低下している方に発症しやすく、このようなことからも日和見感染症として警戒をすべき病気と言えるのではないでしょうか。


パスツレラ症の症状

私たちの身近に潜む病気であるパスツレラ症ですが、発症した際にどんな症状が出るのかも気になるところですよね。

人間がパスツレラ症を発症すると、体のどの部位に異常が出ることが多いのでしょうか。

◆皮膚症状

パスツレラ菌が常在している動物に、噛まれたり引っ掻かれたりすることによって発症する病気となりますので、まず受傷部が約30分から2日程度で赤く腫れてきます。

このような炎症は皮膚の表面だけでなく、皮下組織まで広がっていきますので、そこからリンパ節が腫れることや、発熱し激しい痛みを伴うこともあるようです。

ほとんどの場合は蜂窩織炎(ほうかしきえん)に進行することが多く、傷が深い場合や、糖尿病や免疫不全などの基礎疾患がある方は重篤化しやすく、骨髄炎や敗血症を患うことも。

また、関節付近を受傷した場合には、関節炎が起きることもありますので、早期に治療を開始することが大切です。

パスツレラ症の約30%は、皮膚にこれらの症状が出ることがあるので、注意が必要と言えるでしょう。

◆呼吸器症状

パスツレラ症は症状が受傷部だけでなく、呼吸器にまで及ぶことがあり、重症化すればまれではありますが死亡した例も報告されていますので、この病気に対する理解を深めておくに越したことはありません。

噛み傷や引っ掻き傷だけでなく、空気の通り道である気道を介しても感染することがあり、軽い風邪のような気管支炎や、鼻炎や鼻腔炎などの症状が出ることが一般的です。

症状が進行すると重い肺炎といった病気を引き起こすことから、免疫機能に問題のある気管支拡張症やHIV、そして悪性腫瘍患者がパスツレラ症に感染すると、より症状が重くなるとも言われています。

呼吸器系の症状が出るパスツレラ症は、約60%を占めますので、噛まれたり引っ掻かれたりしなければ安全という確証もないので、普段から予防しておくに越したことはありません。

◆猫の場合

病原体を約100%の確率で持ち合わせている猫自身が、この病気を発症するのかも気になるところですよね。

猫の場合は症状の現れない不顕性感染がほとんどですが、まれに猫同士のケンカなどで発症し、肺炎を起こす猫ちゃんも居るようです。

健康な猫ちゃんでも持ち合わせている常在菌となるので、症状が猫に出ないことは喜ばしいことではありますが、私たち人間には身近な感染症となりますので、発症したら適切な治療を行うように心掛けましょう。


パスツレラ症の治療

パスツレラ症の疑いがある場合には、受傷部をよく水で洗い、可能であれば消毒を行ってから医療機関に受診するようにしてください。

そして血清学的検査や動物の接触歴などから感染経路を洗い出し、適切な治療を行うことが一般的です。

パスツレラ菌に有効な「ペニシリン系」「セファロスポリン系」「テトラサイクリン系」といった、抗生物質を投与し症状を抑制していきます。

これらの抗生物質はパスツレラ症の治療効果が高いことでも知られており、早期に治療が進められれば重症化することがなく、ほとんどの場合が回復へと向かうようです。

しかし、猫による咬傷(こうしょう)の場合は、ほかの感染症を合併する確率が高く、重症化するリスクがありますので、発症していなかったとしても抗生物質を予防的に投与することがあります。


パスツレラ症の予防

飼い主を見上げる猫

昨今では猫と暮らす方が増えてきており、ペットという枠を超えて、とても身近な存在として認識されていますよね。

当たり前の存在として接している猫ではありますが、パスツレラ症の病原体を常に持っているのであれば、安易に可愛がることもできないのか心配になってしまうことでしょう。

病気にはなりたくないけれど、大切な愛猫とのスキンシップを図りたいといった飼い主さんは、どんな予防をしながら猫と触れ合っていけば良いのでしょうか。

◆こまめに猫の爪を切る

猫の爪には約20%のパスツレラ菌が常在していますので、こまめに爪のお手入れをすることも大切です。

「狩猟本能を掻き立てる爪を切るなんて可哀相」「毎日爪とぎやグルーミングをしているから大丈夫」などと考える、飼い主さんもいらっしゃるかもしれませんが、完全室内飼いの猫ちゃんにとって、鋭利な爪は必要ありませんよね。

爪が鋭く伸びたままにしてしまうと、先端が床や家具などに引っ掛かり、爪が取れて出血するなどの事故に繋がることもあるので、日頃から爪切りをしておくべきと言えるでしょう。

こまめに爪を切っていれば、たとえ引っ掻かれたとしても、皮膚の奥まで受傷することはないので、パスツレラ症予防のためにも、こまめな爪のケアを心掛けてあげましょう。

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◆過剰なスキンシップをしない

愛猫のことが大好きで、日頃から過剰なスキンシップをしてしまう飼い主さんは多いことかと思います。

しかし猫に常在するパスツレラ菌のほとんどは、口腔内に常在していますので、猫の唾液にはたくさんの病原体が混在していると考えるべきではないでしょうか。

愛情表現の一環で愛猫の口にキスをしたり、口移しで食べ物を与えたりするといった行為は、非常に危険な行為であると言わざるをえません。

また、猫はキレイ好きでグルーミングを怠らない動物でもありますので、唾液を利用して被毛の手入れを行いますよね。

猫に触れた手で食べ物を食べることや、猫のニオイを執拗に嗅ぐといった行為も、気道を介して菌を体内に取り込んでしまう可能性があるので、危険であると言えるでしょう。

ほかにも人間の食器と猫の食器は分ける、猫ちゃん自身や生活環境の清潔を保つことも有効となります。

免疫力が低下している方はとくに気を付けておく必要がありますので、過剰なスキンシップはせず、寝室も猫とは別にするなどの工夫をしておくと安心です。

◆猫が興奮しすぎるような遊びをしない

若い猫ちゃんであれば、飼い主さんと遊ぶ時間が大好きな子も多いですが、あまりにも遊びに夢中になってしまうと興奮して、爪が出しっぱなしになり、噛みつく力も強くなって攻撃的になりますよね。

毎回激しい遊びを繰り返していると、性格にもどんどん攻撃性が現れてきますので、温厚な性格に育ててあげるような配慮も必要と言えるのではないでしょうか。

猫と遊ぶ時間は大切ではありますが、過激にならないような遊びを心掛け、必要以上に狩猟本能を刺激しないようにしましょう。


まとめ

パスツレラ症は人間と動物の共通感染症でありながら、この病名を知らない医師がまだ多く居ると指摘があるほど、一般的な病気ではないと言えるのかもしれません。

とくに猫は病原体となるパスツレラ菌の常在率がほぼ100%となりますので、猫と一緒に暮らしている方や、猫が好きで野良猫と触れ合う機会が多い方などは、普段から気を付けておくべき病気と言えるのではないでしょうか。

もし猫と触れ合うことで受傷し、少しでもこの病気が疑われるのであれば、すぐに医療機関を受診し、猫といつ触れ合い、その後どれぐらいの時間で症状が出てきたのかをしっかりと医師に伝えるようにしてください。

猫がどんどん身近な存在になればなるほど、この病気を患う感染者は増えるはずですので、猫との適切な距離を保って触れ合っていくことを普段から心掛けるようにしましょう。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に15医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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たぬ吉

たぬ吉

小学3年生のときから、常に猫と共に暮らす生活をしてきました。現在はメスのキジトラと暮らしています。3度の飯と同じぐらい、猫が大好きです。

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