なぜ猫は身体が柔らかいの?
丸いイメージの強い猫ですが、両脇を持ちながらビヨーンと抱きかかえてみると、胴の長さに驚かれる方も多いはずです。
「猫は液体」と表現されることがあるように、身体がとても柔らかいので、その柔軟さを目撃した際に驚かれる方も多いのではないでしょうか。
猫の体長は通常時から比べると、約2倍まで伸ばせると言われており、そこまで身体が柔らかいと、さまざまな器官に影響が出るのではないかと心配になってしまいますよね。
容姿も完璧なまでにかわいらしい猫ではありますが、天性の柔らかさまで備え持っているとなれば、その魅力にどんどんハマってしまう方が居ても不思議ではありません。
身体が柔らかいとどんな体勢でも辛くなさそうですし、怪我の心配だけでなく肩こりや腰痛とも無縁な気もしますが、実際のところはどうなかも気になるところですよね。
私たち人間も柔らかい猫を見習いたいところですが、猫は一体どのような理由から、このように特徴的な身体へと進化していったのでしょうか。
猫の身体が柔らかい理由
猫の身体が柔らかい理由について考えていくためには、猫が歩んできた歴史からヒントを探る必要がありますよね。
動物は進化を繰り返し行う中で、より強い遺伝子を残してきましたが、猫がこんなに柔らかく進化してきたことには、しっかりと意味があるはずです。
猫の習性や生活スタイルから、秘密を紐解いていきましょう。
◆狭い所が好き
猫は狭くて暗い場所に入ると落ち着く性質を持っており、自分の身体の大きさよりも狭い場所を好んで入っていきますよね。
例えば猫を飼っている方であれば、「こんな小さな箱には入れないだろう」と、床に放置しておいた箱の中に、いつの間にかスッポリ愛猫がハマっている姿を、見たといった経験をしたことがあるはずです。
なぜこんなにも猫は狭いところが好きなのかを考えてみると、答えははるか昔に猫が砂漠で暮らしていた野生時代まで遡ります。
単独行動を好む猫は瞬発力に優れるものの、持久力は乏しいといった弱点のある動物でした。
できるだけ体力を温存しつつ外敵から身を守り、獲物に悟られないようにするために、身を隠す必要があったと考えられているそうです。
生き抜くために身についた習性が、現代の猫たちにも受け継がれ、どんな体勢も可能にしてくれるような、柔らかい身体が自慢の動物となったのかもしれません。
◆骨が多いから
赤ちゃんのような柔らかさを持つ猫は、まさに癒しのスペシャリストであり、その魅力に虜となっている方も多いことでしょう。
狭いところが好きな理由は分かりましたが、それだけではなぜそのような体勢を維持できるかが、疑問として残ってしまいますよね。
解剖学的な観点から猫の身体を見てみると、人間の骨格が約200個の骨で構成されていることに対し、人間よりも身体の小さな猫は約240個の骨で構成されているそうです。
骨が多いということはその分、可動する個所も必然的に多くなりますよね。
また、人間の骨は硬い靭帯をクッション材にして繋がっていますが、猫の骨は柔らかい靭帯で繋がっているといった、特徴的な構造も猫の身体が柔らかい理由と言えるでしょう。
ほかにも背骨と背骨の間にある椎間板は、クッションのように非常に柔軟なので、自分の顔や背中以外の個所を舐めることに役立ち、毛づくろいの際にも重宝します。
猫の身体が柔らかい所
猫の身体が柔らかい理由が分かりましたが、身体のどの部分が柔軟なのかも気になるところですよね。
意外と知っているようで知らない、猫の柔らかい身体の個所は以下の通りです。
◆お腹
水風船のように柔らかい猫のお腹は、急所にもなりますので、信頼関係が築けている相手の前でしかさらけ出しません。
猫自身もお腹が柔らかいと理解していることもあり、そのような危機管理能力が備わっているところが素晴らしいですよね。
猫の内臓はとても短く、脊柱が内臓を支える必要性が低い上に、外敵からの致命的な攻撃から内臓を守るため、内臓が移動しやすい構造をしており、皮膚も伸びやすくできています。
このお腹のたるんだ皮膚を「ルーズスキン」と呼び、上記のような役割のほかに、ルーズスキンが伸び縮みすることによって身体の柔軟性が増し、より遠くまで走ることを可能とするようです。
◆肩
猫は頭が入る場所であれば、どんなに狭かったとしても通り抜けられる不思議な動物です。
柔軟性を重視する猫の身体の構造は、基本的に4足歩行の動物と同じで胸骨と肩甲骨をつなぐ鎖骨の必要性がなく、鎖骨が関節を持たないことにより、常に宙に浮いたような状態となっています。
このようなことから空間の広さに合わせて、自在に肩幅を調節できるため、大きさの変えられない頭が入る幅であれば、どんな場所でも通り抜けられると言われているようです。
◆肉球
猫の好きな身体の部位で肉球を挙げる方はとても多いですが、猫の肉球はプニプニしていて、その上ポップコーンのようなニオイがするので、触れたり嗅いだりするだけでとても癒されますよね。
可愛い装飾のような柔らかい肉球ですが、しっかりと役割を担っており、クッションのような特性を持っているため、高い所から飛び降りた際の衝撃を優しく吸収してくれます。
ほかにも獲物に気付かれないように音を消す役割や、瞬発的に行動する際の滑り止めの役割など、猫の習性には必要不可欠な部位と言えるでしょう。
◆前足
肉球がついている前足も、自由自在な動きをするので、柔軟性の高い身体の部位となりますよね。
前足を自由自在に動かせることは、当たり前のように感じるかもしれませんが、霊長類以外の動物は手足を使った動きが苦手と言われています。
人間は霊長類となるため、手を使った動きが得意ですが、哺乳類の中でもネコ科の動物だけは、前足を使った動きが得意と言われているようです。
猫の前足の関節は回外(手のひらを外に回す動作)を得意とし、物を握って掴むグリップも得意としています。
グルーミングの際にも手のひらを広げ、関節の間をケアする姿をよく見ますし、顔を洗う際にも器用に前足を使っていることから、手の筋肉や骨が柔らかく発達したことも、猫には必然だったと言えるのではないでしょうか。
身体が柔らかい猫は高い所から落ちても大丈夫なの?
よく「猫は高い場所から落ちてもケガをしない」と言われることがありますが、こんなに柔らかい身体の持ち主であれば、あながちウソではないような気もしますよね。
一般的には猫が落ちても安全な高さは6~7メートルほどと言われていますが、猫の中には「7階の高さから落ちても無事だった」「2階から落ちて骨折をした」など、安全性にバラつきが見られるようです。
猫が無事に着地できるかどうかは、自ら意思を持って飛び降りたかどうかが重要となります。
身構えて体勢を整え高いところから飛び降りた場合には、三半規管が地面に着地するまでの距離を脳へ伝え、手足を開いて落下速度を調節し、身体をねじらせながら下を向いた瞬間に体を閉じて、肉球で衝撃を吸収しつつ足から着地をします。
2階程度の高さであれば、体をねじる時間が足りないこともあり、着地に失敗してしまう猫ちゃんが多いようです。
このようなことからも、猫は中途半端な高さから飛び降りることは苦手となり、後ろから落ちてしまった場合や、故意に落とされた場合は骨折する危険性が高いので、わざと高い場所から猫を飛び降りさせるようなことは絶対にしないでください。
猫ちゃんの年齢や健康状態、得意不得意なども大きく関係してくるため、すべての猫が同じような平衡感覚を持っているわけではないことを、しっかりと理解しておきましょう。
そして登ることが得意でも、降りることは苦手と言われることが多い猫ではありますが、こんなにもさまざまな能力を秘めた柔らかい身体を持つ動物ですので、リスペクトをするべき存在と言えるのではないでしょうか。
まとめ
猫は柔らかくて当然のように思われている動物ですが、猫が現世まで生き抜いてくるために何度も進化を繰り返し、柔軟な身体を維持し続けているとしたら、この先はどんな進化を見せてくれるのか、興味深いものがありますよね。
柔らかさというものは、触れるだけで気持ちを優しくしてくれますし、そこに魂が宿っているのであれば、尚更愛しい存在として認識するはずです。
当たり前のように傍に居てくれる猫という動物と、人間が共存することはきっと必然だったのかもしれませんよね。
また今日もどこかで柔らかい身体を持つ猫を見かけたのであれば、そんな歴史を繰り返して存在していることを、ほんの少し思い出していただけると嬉しいです。
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