【獣医師監修】猫の緑内障ってどんな病気?原因や症状とともに白内障との違いも解説

2022.08.31

【獣医師監修】猫の緑内障ってどんな病気?原因や症状とともに白内障との違いも解説

緑内障という病名を聞いたことがあるでしょうか?人間でも起こる病気ですが、猫でも6歳以上になると起きる確率が高くなる病気です。緑内障になると、眼圧が異常に上昇して強い痛みを引き起こし、進行すると視力を失うことも少なくありません。残念ながら、緑内障の多くは一度発症すると完治が困難です。今回は、猫の緑内障について、症状や原因、治療法などを詳細に解説します。

緑内障ってどんな病気?

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まず初めに、緑内障とはどんな病気なのかについて、解説していきます。

◆緑内障とは

緑内障は、何らかの原因によって「房水」(眼球の中を満たす液体;眼房水)の流れが阻害されて、「眼圧」(眼球内の圧力)が高くなってしまう病気です。
人の場合、眼のかすみや視野が狭くなるなどの自覚症状があり、早期発見が可能ですが、猫の場合は症状を訴えることができません。このため、飼い主さんが気づく頃には、症状がかなり進行してしまっていることが多いです。
眼圧が上昇すると、視覚にとって非常に重要な視神経や網膜が圧迫され、この結果、短期間のうちに高確率で失明に至ります。
眼圧は、眼球内にある眼房水の産生と排出により、一定に保たれています。
眼房水は、角膜や水晶体に栄養や酸素を運んでいる液体です。「前眼房」(角膜と水晶体の間のドーム状の空間)を満たしており、「毛様体」と呼ばれる部分で作られます。眼球の前方に向かって流れて、「隅角」(ぐうかく;虹彩の基部)と呼ばれる部位にある「櫛状靭帯」(くしじょうじんたい)から吸収されますが、何らかの原因でこの流れが悪くなると、眼圧が上昇してしまうのです。
さらに、緑内障から二次的に、水晶体脱臼や網膜の壊死、白内障などが起こってくることもあります。
視覚を保つために必要な眼圧は15~25mmHgで、31mmHg以上になると緑内障と診断されます。

◆緑内障の症状

緑内障には、急性と慢性があり、それぞれ下記のような症状が見られます。

急性緑内障

急激な眼圧上昇(40~60mmHg)の結果、

◎強い充血が起こる
◎散瞳(瞳孔が常に開いたままの状態になる;瞳孔散大)
◎角膜に浮腫(ふしゅ;むくみ)が生じて灰青色に変色する
◎目の強い痛みから、頭を触られることを嫌がったり、元気・食欲が低下したり、嘔吐したりする

などの症状が生じます。
この状態が2、3日続くと、失明してしまいます。

慢性緑内障

徐々に眼圧が高くなる場合(30~40mmHg)と、急性緑内障が慢性化した場合があります。
いずれも、

◎眼球が次第に大きくなる
◎角膜に内側からひびが入ったように見える
◎目の奥が異様に光って見える

などの症状が現れます。
しかし、初期には目立つ症状がほとんどなく、深刻な状態になってから気付く事も多いです。

◆緑内障の原因

緑内障は原因により、原発性と続発性に分けられます。
原発性は、猫ではあまり見られません。隅角に何らかの異常があるために房水の排出が妨げられて起きるもので、通常は両側の目で発症します。
原発性には、隅角にグリコサミノグリカンなどの老廃物が沈着して流れが悪くなり生じる「開放隅角緑内障」と、元々隅角自体が閉じている、あるいは狭いために老廃物で目詰まりを起こす「閉塞隅角緑内障」があります。
隅角自体が狭くなる原因は加齢で、このため6歳以上の猫で発症することが多いです。また、眼球の形成異常から隅角に異常がある遺伝性も考えられます。
続発性は、他の病気が原因となって二次的に発症するもので、猫の場合はこちらが殆どです。
続発性緑内障の原因となる病気としては、

●ぶどう膜炎
●眼内腫瘍(悪性黒色腫やリンパ腫)
●虹彩癒着

などがあり、外傷が原因となることもあります。
ブドウ膜炎を引き起こす原因としては、

●猫エイズ(FIV)
●猫伝染性腹膜炎(FIP)
●猫白血病ウイルス(FeLV)感染症
●トキソプラズマ症
●全身性真菌感染症

などが挙げられます。
この他、流出路の形成異常が原因で起こる先天性のものもありますが、猫では稀です。先天性緑内障は、生まれて間もなく発症し、成長期に及ぶ場合には眼球壁が未熟であるために、眼球が大きくなり飛び出してしまう「眼球拡張」(牛眼とも)が顕著になります。


緑内障は白内障と似てる?

緑内障と似た病名に、白内障があります。しかし、2つの病気は、病気の仕組みも症状も全く異なる病気です。
白内障は、眼球内のレンズである水晶体が変性して白く濁ってしまうことで視力が低下する病気で、タンパク質に不可逆的な(元に戻らない)変性が起こることで発症します。
水晶体の置換手術などにより、視力の回復が期待できるケースもあります。
重度の白内障が進行すると、「水晶体脱臼」を起こすことがあり、これに続いて緑内障を発症することがあります。水晶体脱臼とは、水晶体が本来の位置からずれた状態です。
逆に、緑内障から二次的に水晶体脱臼や白内障が起こってくる場合もあります。
緑内障の場合、一度視力を失うと、元に戻すことはできません。

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かかりやすい猫の種類

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基本的には、猫種による発症率に違いはないとされています。
しかし、シャム(サイアミーズ)やその血を引くバーミーズ、ペルシャ、ヨーロピアン・ショートヘアでは、先天性ならびに原発性の緑内障を起こしやすいという報告があります。
前述の通り、猫では続発性緑内障が多く、原因としてウイルスや寄生虫の感染によるぶどう膜炎、外傷が挙げられるため、屋外に出る猫はかかりやすいと考えられます。既に何らかの感染症に罹っているか、罹ったことがある猫もリスクが高いでしょう。


緑内障の治療法・治療費

では、緑内障の治療はどのように行われるのでしょうか?
視力低下や強い疼痛があるため、視力の維持や疼痛緩和のために、眼圧を適切な範囲まで低下させることが最も重要です。眼圧の低下には、主に点眼薬が用いられるほか、内服薬も使用されます。
内科的治療を行っても眼圧が下がらないこともあります。失明し、痛みがコントロールできない場合には、痛みから解放するために眼球摘出を行います。

◆点眼

眼圧を下げる効果のある目薬を用います。
眼圧を下げる成分には、仕組みが異なる薬剤が複数あるため、水晶体脱臼やぶどう膜炎の有無など目の状況に合わせて、適切なものを用います。
眼圧を下げる点眼薬には、

●炭酸脱水酵素阻害剤
●プロスタグランジン関連薬
●交感神経β遮断薬
●副交感神経刺激薬

などがあります。
房水の流出を促したり、産生を抑えたりすることで眼圧を下げます。併用すると効果が増す組み合わせもあります。
加えて、抗炎症薬の点眼や角膜保護剤を併用する場合もあります。このため、合わせて3~4種類以上の点眼薬を用いることも少なくありません。
また、眼圧が正常範囲まで下がったり、急性期を脱したりした後も、毎日、継続的に点眼を行う必要があることも多いです。

◆基礎疾患の治療

他の病気が原因の場合は、その基礎疾患の治療が優先的に行われます。

◆外科的治療

視力が残っていても、点眼や服薬といった内科治療だけでは眼圧が正常まで下がらないこともあり、レーザーなどを用いた眼内手術が適応となる場合があります。
しかし、眼科手術には専門機器や高度な技術が必要なため、手術ができる動物病院は限られます。外科的治療を希望する場合、治療中の動物病院で相談し、必要に応じて専門的な病院を紹介してもらいましょう。
完全に失明して、内科的治療では痛みが抑えきれないケースでは、眼球摘出も一つの治療法となります。痛みから食欲不振や活動性低下を起こす猫は多く、生活の質が著しく低下するからです。眼球摘出を行うことで、猫は痛みから解放されますし、毎日の点眼の負担もなくなります。
眼球摘出後に眼瞼縫合を行えば、特別なケアは不要です。ただ、顔つきが大きく変わるため、美容的な目的で義眼を挿入することもできます。

◆治療費

通院治療の場合は、主な費用は眼科検査、眼圧測定、点眼薬の処方料です。通院1回あたりの治療費は、平均7,600円程度というデータがあります。動物病院によりますが、眼圧検査は3,000円ほど、超音波検査は4,000円ほど、点眼薬は1,000~2,000円ほどです。
必要な検査が多く、点眼薬の種類や量も多い、治療を開始したばかりの時期は、平均より高額になるでしょう。
また、自宅で点眼できない、点眼の回数が日に何回にもなるといった場合には、入院費も必要です。
外科的治療の場合、高額な手術費が必要になると見込まれます。特に、視力が残っている場合、手術は非常に緻密で、専門的な設備も必要です。このため、10~20万円ほどの手術費用がかかることも考えられます。
手術を希望する場合には、あらかじめ費用についても確認することをおすすめします。


緑内障の予防方法はある?

緑内障で失明することは少なくなく、点眼などの継続的なケアが必要となるため、できれば予防したいですよね。
確実な予防は難しいですが、水晶体脱臼やぶどう膜炎などが原因で継発性緑内障を発症することがあり、これらを早期に治療することで継発リスクを減らすことができます。
早期発見で失明することなく治療ができる場合もあるので、愛猫の眼の大きさ、視覚障害による行動の異常、その他の眼の異常などのチェックをこまめに行いましょう。眼圧は、個体差があるほか、検査機器や検査する時間帯によっても変化するため、定期検診などで愛猫の正常な眼圧を知っておくことも、早期発見につながります。
屋外に出る猫は、感染症やケンカなどによる外傷のリスクが高いため、緑内障にかかる可能性が高まります。したがって、猫を完全室内飼いにすることも予防につながります。


まとめ

緑内障は、眼圧が上昇することで視神経や網膜が圧迫され、失明に至ることの少なくない恐ろしい病気です。
初期症状は非特異的で、他の眼の病気でも見られるような症状が出ます。目を痛そうにして、しばしばしている、結膜が充血して白目が赤く見える、目やにが増える、眼の表面が濁って見えるなどの様子が見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。
緑内障は、根治が困難なことが多く、確実な予防法もないため、早期発見・早期治療が非常に大切です。日頃から、愛猫の眼の状態や行動をこまめにチェックしておきましょう。
また、猫の緑内障のほとんどは、基礎疾患が原因の続発性です。完全室内飼育で感染症や外傷のリスクを避けることは、一つの予防法と言えます。
継続的な治療や外科手術が必要になるため、ペット保険に加入することも検討してみてくださいね。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に15医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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SHINO

SHINO

保護犬1頭と保護猫3匹が「同居人」。一番の関心事は、犬猫のことという「わんにゃんバカ」。健康に長生きしてもらって、一緒に楽しく暮らしたいと思っています。

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