1.猫が突然立てなくなる症状
1-1.後ろ足を引きずって歩く
1-2.身体を起こすことが出来ない
1-3.足が冷たくなる
1-4.立ち上がると転んでしまう
1-5.呼吸困難や意識がもうろうとする
2.猫が急に立てなくなる原因
2-1.骨折や脱臼
2-2.肉球のケガ
2-3.脳腫瘍
2-4.椎間板ヘルニア
2-5.心筋症
4.これらの病気から愛猫を守るためには
4-1.完全室内飼育で外傷を防ぐ
4-2.室内環境を整える
4-3.定期的な健康診断を受ける
猫が突然立てなくなる症状
猫がいつも通りの動きで、普段通りの生活をしていたのに、突然立てない状態になる場合の症状は、いくつかあります。まず具体的に、どんな症状が現れるのか見ていきましょう。
どの症状でも、突然立てない状態になった場合、緊急性が高いです。直ちに動物病院を受診しましょう。
◆後ろ足を引きずって歩く
前足だけで下半身を引きずるように歩く状態です。これは、後ろ足だけが麻痺しているときに見られます。
後ろ足に麻痺があるときには、排泄に障害が起こることも多く、自力での排尿が困難になる場合があります。
また、呼吸が苦しそうに見えたり、抱きかかえたときに痛がったりすることがあります。
◆身体を起こすことが出来ない
前足、後ろ足ともに麻痺が起こった場合には、体を起こすことができず、横たわったままになります。
この場合にも、呼吸が苦しい、抱きかかえたときに痛がるなどの症状が伴うことがあります。
◆足が冷たくなる
立てない状態の猫の足を触ると、冷たくなっている場合があります。
これは足の血流が滞っているためで、後述する「動脈血栓塞栓症」(どうみゃくけっせんそくせんしょう)によるものです。
◆立ち上がると転んでしまう
四肢は動かすことができるのに、平衡感覚がつかめずに転んでしまって立てない状態です。
これは、平衡感覚を司る「前庭」という器官に、異常が生じる「前庭疾患」を発症している場合です。
転んでしまうという症状の他に、以下のような症状が見られます。
- 首が傾いたままになる(斜頸)
- 眼球が左右または上下、回転性など規則的に揺れる(眼振)
- 嘔吐
- 流涎(よだれが出る)
- 食欲不振
◆呼吸困難や意識がもうろうとする
動脈血栓塞栓症の場合、急に呼吸が速くなり、口を開けて呼吸をするなど、呼吸困難になることがあります。
意識が薄れた状態を「意識もうろう」と言います。声を掛けたり、揺さぶったり、感覚に対する刺激を与えても応答がないような状態です。
意識がもうろうとする原因はさまざまですが、立てない状態に伴う場合には、ケガによるショック状態や熱中症、貧血、脳や心臓の病気が疑われます。また、糖尿病の猫の場合、低血糖になっている可能性があります。
猫が急に立てなくなる原因
猫に突然、立てないという症状が起きた場合に考えられる原因について見ていきましょう。
深刻な原因が多く、素人判断は危険です。様子見をせずに、すぐに動物病院で獣医師さんの診断を受けてくださいね。
◆骨折や脱臼
交通事故や落下事故などで、四肢のどこかで骨折や脱臼が起きている場合があります。また、内臓に損傷を受けていることもあります。
特に、脊髄の神経に損傷を受けると、麻痺が起こり、下半身が動かせなくなって、後ろ足を引きずるようにして前足だけで歩くようになります。
猫にはまれですが、膝蓋骨(膝のお皿)が内側にずれる「内方脱臼」が原因の場合もあります。軽度ではほとんど無症状ですが、進行すると痛みが出るため、足を引きずることがあります。
◆肉球のケガ
肉球は柔らかい組織なので、尖ったものや爪が食い込んでケガをすることがあります。他にも、皮膚炎、擦り傷、火傷なども原因となります。
痛みをともなうため、ケガをした足をつかないように歩いたり、引きずるように歩いたりします。また、足の裏をしつこく舐めることもあります。
◆脳腫瘍
脳自体に腫瘍ができる場合と、他の部位にできた腫瘍から脳に転移する場合があります。猫の脳腫瘍は悪性のケースが多いです。
歩行の異常(うまく歩けない、立てない、足がもつれる)や、元気・食欲の低下、痙攣(けいれん)、ふらつきやよろけ、失明、急に攻撃的になるなど性格の変化、斜頸などの症状が見られます。
脳腫瘍は、年齢に伴ってリスクが高まる傾向があり、高齢の猫に多いです。
◆椎間板ヘルニア
脊椎の椎骨と椎骨の間には、クッションの役割をしている「椎間板」という軟骨組織があります。椎間板ヘルニアは、椎間板が変形して歪み、正常な位置から飛び出してしまっている状態です。
飛び出した椎間板は、骨髄を圧迫して、さまざまな神経症状を引き起こします。
猫は痛みや体の不調を隠す生き物なので、初期症状では飼い主さんも気づきにくく、気づいたときには症状が悪化しているケースが少なくありません。
太っていると背骨への負担が大きくなり、椎間板にも負担がかかり、椎間板ヘルニアになりやすいです。
また、外に出る猫は、交通事故や高いところからの落下などで背骨に衝撃を受けて、ヘルニアになることもあります。
加齢によってクッションの役割をしているコラーゲンが減少して、椎間板が飛び出しやすくなることもあります。
◆心筋症
猫の心臓病の中では、心筋症が多いです。
心筋症になると、心筋(心臓の筋肉)が通常より薄くなったり厚くなったりすることで、心臓のポンプ機能が弱くなります。その結果、血液をうまく全身に送ることができなくなる「循環不全」を起こします。
急激に症状が悪化して、突然死してしまうケースもあります。
心筋症は、大きく「肥大型心筋症」「拡張型心筋症」「拘束型心筋症」の3つに分けられます。
猫では、肥大型心筋症が最も多いです。
肥大型心筋症では、心筋が異常に厚くなり、心臓の部屋が狭くなります。そのため、心臓内に溜められる血液量が減り、1回の拍動で全身に送ることができる血液量が減ってしまいます。
さらに、心臓の中の空間が狭くなることで、本来は心臓内で生じることのない血液の乱流が起きます。この結果、血の塊(血栓)ができてしまうことがあり、経過によっては数cmにまで大きくなることもあります。
心臓を飛び出した血栓またはその一部が、後ろ足に行くための血管の分岐で詰まってしまうことがあります。これを動脈血栓塞栓症と言い、後ろ足に行く血液が一瞬にして止まってしまう状態です。
血流が止まると、その先が硬直して冷たくなるのが特徴で、そのままでは足が壊死してしまいます。また、血栓が詰まることで激しい痛みを起こすため、猫がパニック状態になり、暴れて転げまわることもあります。
肥大型心筋症になる原因ははっきりとは分かっていませんが、原因の1つとして遺伝子の変異が挙げられています。
心筋症にかかりやすい猫種
遺伝子的に心筋症を発症しやすい猫種(好発種)は、
- メインクーン
- ラグドール
- アメリカンショートヘア
などです。
その他、
- ペルシャ
- ヒマラヤン
- ブリティッシュショートヘア
- バーミーズ
- スコティッシュフォールド
- アビシニアン
なども、かかりやすいという報告があります。
また、高齢の猫は猫種に関わらず、発症するリスクが高くなります。
これらの病気から愛猫を守るためには
◆完全室内飼育で外傷を防ぐ
骨折や脱臼、肉球のケガなどの場合、原因のほとんどは事故です。
外に出る猫の場合、交通事故や落下事故に遭う危険性が高くなります。これらの事故のリスクは、完全室内飼育を行うことで大幅に下げることが可能です。さまざまな感染症に罹るリスクも下げることができるので、室内飼育を徹底しましょう。
また、日常的に外に出していなくても、外に興味を持つ猫や、雷など突発的な原因でパニックを起こした猫は、窓の隙間などから脱走してしまうことがあります。
玄関や窓を猫が開けられないようにする、脱走防止用の柵を設置する、網戸を破れにくいものに替えるなど、脱走防止対策もしっかりしておきたいですね。
◆室内環境を整える
完全室内飼育をしていても、ベランダから転落したり、キャットタワーなど高いところから落下したりといった事故は起こり得ます。特に高齢猫では、筋力や運動能力の衰えから、リスクが高くなります。
ベランダには出さない、ベランダに落下防止のネットや柵を設置するなどの対策が必要です。高齢の猫の場合、室内でも高いところの下にクッションを置いておくなど、落下の衝撃を和らげる対策をしてあげましょう。
◆定期的な健康診断を受ける
残念ながら、脳腫瘍や心筋症の発症を予防することはできません。しかし、早期発見・早期治療により、重症化を予防したり、予後をよくしたりすることは可能です。
早期発見には、定期的な健康診断が有効です。若くても発症する病気もありますし、健康な時の状態が分かっていれば異変に気づきやすくなります。
若いころには少なくとも1年に1回、シニア期に入ったら1年に2回は健康診断を受けるようにしましょう。
まとめ
猫が突然、立てない状態になったら、骨折や脱臼などの怪我、あるいは脳腫瘍や心筋症など深刻な病気が原因かもしれません。
いずれの場合も、飼い主さんができる対処法はないため、すぐに動物病院を受診しましょう。
猫が立てない、ふらつくなど歩き方に異常が見られるときには、動画を撮影しておくことをおすすめします。診断の際に、役立つことがあります。
また、立てない状態が、急に起きた、あるいはいつから起きたなども、獣医師さんに伝えましょう。
愛猫を守れるのは、飼い主さんだけです。
日頃から愛猫の様子をよく観察するとともに、定期的な健康診断を受けましょう。誕生日やうちの子記念日などを、健康診断の日と決めておくのもいいですよ。
猫が立てない状態になった場合、手術や長期の治療が必要になり、治療費が高額になりがちです。万一の場合に備えて、ペット保険に入ることを検討しておくのもおすすめです。