1.「猫がアワビを食べると耳が落ちる」とは?
1-1.日本に昔からある言い伝え
1-2.本当に耳が落ちる?
2.猫がアワビを食べると起こる皮膚炎とは
2-1.光線過敏症という皮膚炎
2-2.光線過敏症の原因
2-3.光線過敏症の症状
2-4.アワビ以外に気を付けたい食べ物
3.猫がアワビを食べてしまわないために
3-1.欲しがっても与えない
3-2.食べ物の管理はしっかりと行う
3-3.万が一食べてしまった場合
4.まとめ
「猫がアワビを食べると耳が落ちる」とは?
「鮑(アワビ)」とはミミガイ科に分類される、大型の巻貝の総称となります。
独特のコリコリとした歯触りが特徴的で、お刺身はもちろん酒蒸しやステーキにしても美味しいですよね。
私たちは高級食材として嗜むアワビですが、猫は魚介類が好きな動物として知られているため、新鮮なアワビを手に入れた際には、愛猫にも与えてみたいと考えたことのある飼い主さんも多いのではないでしょうか。
しかし、アワビには「猫に食べさせると耳が落ちる」といった風説がある通り、食べさせたことによって愛猫の耳が落ちてしまっては大問題ですよね。
なぜこのような風説が現代にも伝わっているのかは、以下のような理由が考えられているようです。
◆日本に昔からある言い伝え
どこかで学んだわけでもない、いつどこで聞いたか覚えてもいないのに、風の噂で聞いたことのある話を誰しも1つや2つ、ご存じではないでしょうか。
とくに昔は現代のようにSNSやインターネットが発達していたわけではないですし、見たり聞いたりした話が人づてに伝わって、風説となったと考えるのが自然ですよね。
このような言い伝えの発端となったと言われているのが、江戸時代に発刊された「和漢三才図会(1712年)」という名前の百科事典内に記載された、以下の一節となります。
「猫、鳥貝の腸を食へば、則ち、耳欠落す、往々之を試むるに然り」
猫がカラス貝のはらわた(肝)を食べれば、耳が落ちてしまうので与えてはいけないといった文章が記されています。
カラス貝は淡水の二枚貝となるため、アワビとは種類が異なりますが、縄文時代の遺跡からアワビの殻が出土していることからも、古い時代から天然アワビがたくさん獲れ、日常的に人間だけでなく猫も口にしていたのかもしれません。
江戸時代には現代のように栄養バランスのとれたキャットフードはありませんし、人が食べ残した残飯を与えられながら、猫が生き抜いてきたことは容易に想像できますよね。
とくに魚や貝などの内臓は破棄される部分となることからも、猫の餌として与えていたと考えた方が自然ではないでしょうか。
また、江戸時代の初期には猫に餌を与える際に、アワビの大きな殻が器として利用されていたことも分かっているため、現代よりも身近な食材として親しまれていたのでしょう。
◆本当に耳が落ちる?
島国である日本ではアワビが猫にとっても、身近な食べ物であったことが分かりましたが、アワビを食べて本当に耳が落ちていたのかも気になるところですよね。
1728年に発刊された「俗説正誤夜光璧」といった医学書には、猫がアワビのはらわたを食べるといった話は、想像上のものではなく実際にアワビを食べて耳の先が焦げたようになり、最終的にはほとんど欠けて根本の部分だけが残ったといったような記述も残っているようです。
その後も挿絵の入った娯楽本などにも、カラス貝を食べれば耳が落ちるといった描写がされていたようですし、ただの噂話ではなくその状態の猫を見た方々がたくさん居たことが想像できます。
海辺では漁師さんのおこぼれをもらうために、たくさんの猫たちが生息していたと考えられますが、人が食べる身以外の肝は捨てられていため、その捨てられた部分を食べていた猫たちが次第に耳を掻きむしり、ただれていく様子を漁師さんたちが見て、どんどん噂が広まっていったのではないでしょうか。
猫がアワビを食べると起こる皮膚炎とは
猫がアワビを食べて耳が落ちるという風説の中には「春先のアワビを猫が食べると耳が落ちる」といった言い伝えがあり、どのようなメカニズムによって耳がただれていくかの原因は定かでなかったにしろ、猫とアワビには何かしらの因果関係があることは明確でした。
このような言い伝えが現代でも色濃く残っているのは事実のため、実際にアワビを食べ続けた猫の場合、どのような状態に陥ってしまうのでしょうか。
◆光線過敏症という皮膚炎
猫がアワビを食べて耳が落ちるといった現象は「光線過敏症(こうせんかびんしょう)」といった皮膚炎が発症した際に起こります。
別名「日光皮膚炎」などと呼ばれますが、その名の通り陽の光に当たることによってさまざまな症状を引き起こす病気です。
猫は太陽に一番近い頭頂部に耳が付いている上に、耳(耳介)の皮膚が薄いため、日光の影響を受けやすいことが考えられます。
◆光線過敏症の原因
光線過敏症の原因は主に陽の光を浴びることとなりますが、光を吸収する際に「葉緑素(ようりょくそ)」といった緑色の色素の働きにより光合成が行われます。
葉緑素は専門用語で「クロロフィル」と呼ばれていますが、この物質はもとからアワビが持ち合わせている物質ではなく、アワビを含めた貝類の餌となる藻類に含まれているため、食べられたあとにウロ(肝)といった部位の「中腸線(ちゅうちょうせん)」に蓄積されていきます。
2~5月頃の春先にかけて色が濃くなって強毒化していくため、食中毒を起こしやすいことから肝部分は食用には不向きとなって捨てられていましたが、磯の香りに釣られてその部位を猫が好んで食べていたのであれば、何かしらの症状が出たとしても不思議ではありません。
強毒化していく理由ははっきりと解明されてはいませんが、毒となる成分は酵素によってクロロフィルが分解された際に生成される、「フェオホルバイド」および「ピロフェオフォルバイドa」といった化合物質となります。
この化合物質(毒素)は光に強い反応を示して活性酵素を作り出しますが、この酵素が細胞膜を構成している脂肪酸などを酸化させ、過酸化脂質を作るといった仕組みです。
猫がアワビの肝を食べることによって、毒素は全身をめぐって皮膚に蓄積されていきますが、最終的には過酸化脂質が原因となって炎症反応を起こすため、より皮膚の薄い耳の先端が強い影響を受けやすいと言えるでしょう。
◆光線過敏症の症状
炎症反応が引き起こされると、強いかゆみや痛みをともなう上に、赤みだけでなく水ぶくれのような腫れといった症状が現れるようになります。
とくにかゆみや痛みといった煩わしさは、生理現象ともなりますし我慢が難しいため、猫は必然的に症状が出ている箇所を前足や後ろ足を使って掻きむしることでしょう。
皮膚が薄く毛細血管の多い耳はとくに影響を受けやすいため、光線過敏症の症状も強く表れやすいといった特徴を持っています。
何度も掻きむしるうちに耳介は傷ついていき、最終的には壊死して耳が落ちますが、さらに慢性的な皮膚への刺激や紫外線を浴び続けることにより、皮膚がんを発症するケースもあるため注意が必要です。
◆アワビ以外に気を付けたい食べ物
アワビ以外にも猫に与えるべきではない食べ物はたくさん存在しますが、貝類でまとめるとアワビと同じミミガイ科とサザエ科の貝(トコブシ・トコガイ・サザエなど)は、有毒成分となる「ピロフェオフォルバイドa」を含んでいるため、加熱をしたとしても絶対に与えないようにしてください。
また、ほかの貝類には「チアミナーゼ」という酵素が含まれている場合があり、この酵素が原因となってビタミンB1欠乏症を引き起こす可能性があります。
少量で加熱してあれば食べても危険性の低い貝類もありますが、少しでも飼い主さんが不安を覚えるようであえば、敢えて猫に貝類を与える必要はないということを覚えておきましょう。
猫がアワビを食べてしまわないために
アワビは毎日のように食卓に並ぶ機会はないとは思いますが、漁師町に暮らしている方や、安く買えたりもらったりすれば、美味しくいただこうと考える方は多いはずです。
しかし、猫と暮らしているご家庭では、アワビが危険だと分かっていても愛猫が催促してくれば、根負けして身の部分を与えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
そのような場合には、どのような対処が必要となってくるのでしょうか。
◆欲しがっても与えない
やはり、どんなに愛猫が欲しがってきたとしても、与えないことが一番の対処法となります。
肝の部分を与えなければ安全というわけではなく、身の部分にもさまざまな成分が含まれていますし、弾力もあるため喉に詰まらせてしまう危険性も否めません。
危険要素がいくつかある以上、猫には与えないことを常に心掛けておきましょう。
◆食べ物の管理はしっかりと行う
現代でアワビは高級食材となるため、港ですぐに捌いて肝をその辺に捨てるなんてことはありませんが、ご家庭で処理をする際にも注意が必要です。
魚介類の好きな猫ちゃんの場合は、磯の香りに釣られて廃棄されるはずの肝を、拾って食べてしまう危険性もあるからです。
調理をする際には猫をキッチンには入れない、処理した部位を流しなどに放置しないなどを徹底して、愛猫がアワビに興味を抱く隙を与えないようにしてください。
◆万が一食べてしまった場合
万が一愛猫がアワビを食べてしまった場合、すぐに光線過敏症の症状が出ることは稀ではありますが、別の中毒症状が出る可能性も否めません。
元気がない、嘔吐を繰り返すなどの症状が見られる場合には早急に動物病院へ連れて行き、アワビのどの部位をいつどれぐらい食べたかなどを獣医師さんに説明をして、適切な治療を行ってもらうようにしてください。
まとめ
嗜好性の高いアワビといった高級食材の肝には、毒性の強い化合物質が含まれています。
この物質が原因となって光線過敏症を誘発し、猫が掻きむしることによって耳が欠損するといった仕組みですが、そのような状態を「耳が落ちる」といって危険だという情報が現代まで残っていたのは、ありがたい風説であったとも言えますよね。
昔のようにアワビの肝はその辺に落ちてはいませんが、アワビをご家庭で扱う際には十分に注意するようにし、猫には絶対に食べさせないように心掛けながら、独特の食感を嗜んでみてはいかがでしょうか。
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