東日本大震災のときに起きたペット問題からガイドラインは生まれました
そもそも、災害時のペット対策が定められたのは、東日本大震災にさかのぼります。平成23年3月11日に発生した東日本大震災では、大規模な地震や津波、それに伴う原子力災害が発生したため、住民の皆様はすぐに避難しなければなりませんでした。そのため、自宅に取り残されたり、ペットオーナー様とはぐれたりするペットが多く発生しました。
ペットオーナー様とペットが一緒に逃げることができた場合でも、ペットと一緒に避難所に入れないなど問題が多かったことも事実です。
そもそも、東日本大震災まで、災害時に家族の一員であるペットをどう取り扱うべきかという公的な指針がありませんでした。そこで、環境省では、各自治体が地域の状況に応じた対策を決める際の参考となるように、ペットとの同行避難を基本とした「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を平成25年6月に定めたのです。
「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」のもとで発生した熊本大震災において、「ペットとの避難」で生じた問題点とは?
「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」のもとで発生した初めての大規模災害が、平成28年4月に発生した熊本地震です。熊本地震では、多くの被災者の方々がペットと同行避難をしました。
しかし、ここで多くの問題点が発生しました。
地方公共団体の職員の皆様は、住民の方々の対応で手一杯で、ペットどころではなかったというのが実態だったのです。
災害が発生すると、地方公共団体の職員は以下のようなお仕事をしなければなりません。
避難所を作る、避難所が過密な場合は新設を検討する
お風呂や洗濯などの衛生対策問題に対応する
仮設住宅の用地を検討して建設を準備する
お年寄りの被災者のため介護士を確保する
住家被害の認定をしたり、罹災証明を発行したりする
救援物資の受け入れ、仕分け、配送
保育園、幼稚園や学校などの再開や給食の手配、スクールバスなどの手配
人員不足のため、県外職員の受け入れを手配する などなど……
当たり前ですが、災害が発生すれば、「人間の安全」が最優先です。また、避難所運営の知識や、訓練をした経験がある職員や被災者の方は、ほとんどいませんでした。
これを「準備不足」と批判するのは簡単ですが、果たして、避難所を作って運営する訓練をしたことのある方や、地域の避難訓練に参加して「ペットと同行避難をすること」を町内会や地方公共団体に働きかけたことがある方は、どれくらいいるでしょうか?
熊本大地震では、ペットと避難所にいられるかは「避難所ごとの対応」となりました。ペットオーナー様と一緒に避難所で同居できたペットもいれば、外のケージでペットオーナー様と別居することになったペットもいます。また、外に繋がれていたペットもいます。
避難所では「ペット」がほかの方や「自分」のストレスになることもあります
私たちにとって、ワンちゃん、猫ちゃんは癒しであり、愛する家族です。しかし、当たり前のことですが、世の中には動物が苦手な方も数多くいらっしゃいます。こうした認識の違いから、トラブルになった避難所もありました。
また、みなし仮設住宅ではペット不可の民間賃貸住宅があるなどして仮設住宅に入れなかったり、避難所にペットを残して仕事に行くわけにいかなかったりと行動が制限されることにより、「ペットがペットオーナー様のストレスになってしまう」という事態も散見されたそうです。
ペットがほかの方の迷惑になることを恐れ、東日本大震災の際に「エコノミー症候群」を起こすなどして問題となった車中泊を、やむなく選ぶ方も多くいらっしゃいました。
そのほかにも、また、ホームセンターやスーパーなども被災して閉鎖してしまったため、フードやトイレシートなどのペット用品が手に入りにくかったという問題も指摘されています。
発生した多くの課題をふまえて改訂されたのが「人とペットの災害対策ガイドライン」です
以上の問題点をふまえて、平成30年3月に「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」は「人とペットの災害対策ガイドライン」に改訂されました。
ここで、「災害時における」が削除されているのが大きなポイントです。ペットに限らず、災害時の対策は平和なときの準備の延長線上にあるため、あえて「災害時における」を削除することで「平常時の備え」=ペットの適正飼養(ペットを飼うことが他人の迷惑にならないようにすること)などが一番大切だということを強調したのです。
また、「ペットの救護対策」を「人とペットの災害対策」と変更したのは、災害時にまず救うべき対象は人間=被災者であり、災害時にも被災者のペットに対する適正飼養を支援し、ペットを飼っていない被災者を含むすべての方々の生活環境を守るのは、あくまでも「被災者を救う手段として」であるという趣旨です。
「同行避難」と「同伴避難」はどう違う?
「人とペットの災害対策ガイドライン」では、「同行避難」と「同伴避難」を区別しています。「同行避難」とは、「飼い主が飼養しているペットを同行し、指定緊急避難場所等安全な場所まで避難すること(避難行動)」です。これに対して、「同伴避難」は、「被災者が避難所でペットを飼養管理すること(状態)」を指します。ただし、同伴避難についても、「指定避難所などで飼い主がペットを同室で飼養管理することを意味するものではない」「飼養環境は避難所等によって異なる」としています。
以前のガイドラインのもとでは、同行避難をしたペットオーナー様が避難場所でペットと一緒に過ごせるかのような印象がありましたし、私もそう理解していました。
「人とペットの災害対策ガイドライン」では、災害時はペットと安全な場所まで避難すること(同行避難)を基本としつつ、ペットオーナー様が愛するペットと過ごせるか(同伴避難できるか)は避難所によって異なるとはっきりと言い切った上で、状況によっては在宅避難(いったん避難場所などの安全な場所に避難し、安全が確認できて自宅で居住可能な場合は避難所ではなく自宅で生活すること)も選択肢としています。
また、ペットの災害対策は、「自己が所有し管理するペットの安全確保や飼養も自助(他人に頼らず、自分の力と責任で行うこと)が原則」だと宣言しています。
私たち飼い主にできることは「被災防止のための家づくり」と「適正飼養」
今まで漠然と「環境省のガイドラインがあるから、地震が起きたらペットと避難所に同行避難して、そのまま避難生活を送れる」と考えていた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、「人とペットの災害対策ガイドライン」では、「ペットと一緒に避難」(同行避難)はできても、「避難所でペットと暮らせるか」(同伴避難)は避難所ごとに異なるとはっきり示されました。
特に、東京で大規模災害が起きた場合、帰宅難民も多く発生します。避難所の数は十分とはいえず、避難所は多くの人であふれることでしょう。ペットの数も多いです。果たして、ペットと同伴避難ができるでしょうか?
避難所で生活できないことを想定することが、まず重要です。
そのために、「家庭の防災力を向上させる」ことを考えておきたいものです。家具が倒れないよう転倒防止対策をしたり、家屋の耐震補強を考えたりと、家族とペットの安全を守るためにも災害に強い家にしましょう。
また、スーパーやホームセンターが被災してペット用品が買えなくなることを考え、ペットフードやトイレシートを多めに備蓄しておくことをおすすめします。
後片付けなどに手一杯で、ペットの世話どころではなくなることも予想されます。万が一の場合に備え、親戚や友人など「被災圏外の預け先」を確保しておくといいでしょう。
同伴避難先の避難所や預け先では、クレートでの生活になることが予想されます。トイレのしつけとクレートの中で静かにしていられるクレートトレーニング、ほかの人や犬にある程度慣らしておくしつけは、やはりしておきたいものです。
ペットを通じて地域と連携できればベストです
東日本大震災のとき、私の息子はまだ1歳で、トイ・プードルのキャンディスとフレンチ・ブルドッグのハナがいました。余震が続き、水道水から放射性物質が検出されたためにスーパーやコンビニからはミネラルウォーターがなくなり、息子のミルクや犬にあげる水をどうしようと途方に暮れる中、助けてくださったのはご近所の皆様でした。
犬の散歩を通じて顔見知りになった方が「小さい赤ちゃんがいるのに、大丈夫? ミネラルウォーター、分けようか?」と声をかけてくださったり、近所に住む奥様方と励まし合ったり、情報交換したりする中で、少しずつ落ち着きを取り戻した日を昨日のように思い出します。
このときに、私は「災害時に頼りになるのは地域の皆様だ」と学び、町内会の活動や小学校のPTA活動、地域の避難訓練など、地域活動には家族ぐるみで積極的に参加するようにしています。
キャンディスとハナは亡くなりましたが、現在の愛犬・アニィは地域の皆様とのコミュニケーションをとても助けてくれています。
皆様も、ぜひ、災害時に地域社会と連携できるよう、ご近所の皆様とペットを通じてコミュニケーションをしてみてください。
参考文献
人とペットの災害対策ガイドライン
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h3002.html
※今回の記事では、2018年5月に東京都動物愛護推進員向けに行われ、筆者も出席した危機管理教育研究所・国崎信江先生の講演を参考にしています。
http://www.kunizakinobue.com/
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