犬は順位付けをするのか
「飼い主は愛犬にとってリーダーとならなければいけない」、これは多数のしつけ本や犬の飼い方として挙げられている項目の一つでしょう。
祖先がオオカミであることから、犬もオオカミ同様に群れの中で順位を付けると、長年考えられてきたことが影響されているのです。
では、本当のところ実際に犬は順位付けをするのでしょうか?
実は、専門家の中でも大きく二つの意見に見解が分かれているようです。
完全なる順位付けをしているという考え方
日本語で権勢症候群と訳される「アルファシンドローム」。これは犬が家族を群れと認識し、群れの頂点に立つために様々な問題行動を起こすことを指します。
犬が家族で自分が一番偉いと勘違いして考え、わがままな暴君状態にならないために、厳しくしつけて人間が犬より上位であると、上下関係を教え込むことが重要なのだという考え方です。
犬の順位付け肯定派に基づく見解でしょう。
愛犬が問題行動をとった際は徹底的に無視して、飼い主さんのいう事をきいた時だけ注目する、という徹底的なしつけが必要だと主張しています。
犬は家族だと意識しているという考え方
上記に対して、犬は人間に飼われている環境から人間に依存していることを理解している、という主張があります。生活を共にする仲間・家族として人間を認識しているという、順位付け否定派の見解ですね。
そのために、自分がトップ・リーダーとなり群れを守るために周囲を見張る、格下のものを従わせてリードするというよりは、いう事をきかないのは単なる甘えやわがままになっているためだと考えられています。
お腹をみせるポーズは服従の表現とも言われていますが、それは「大好き」「もっと遊んで」というサイン。
飼い主より同じ高さやより高い場所(ソファなど)に座りたがるのは、単に見晴らしがよい、また大好きな飼い主さんの匂いのある場所だからという理由からで、オオカミのような厳格な階級意識・主従関係は持っていないといわれているのです。
◆犬同士
それでは対人間ではなく、犬同士ではどうでしょうか。
オオカミが祖先であった時代からかなりの時を経てイエイヌとなり、環境・繁殖の工程で犬の性格や習慣などは変わってきたと、最近の研究ではいわれているようです。
しかし、犬同士の小競り合いや、犬が相手犬に乗り抑え込むような行動をすることもありますよね。これには順位付けが関わっているのでしょうか。
犬同士の遊びの場合は、お互いが順番に上に乗ったり、反対に下にいたりと、優劣に関係なく信頼関係を築いている場合があります。
このことから、上に乗る行動が直接犬の優劣に繋がっているとは言い切れないかもしれません。
そして犬のテリトリー意識。普段の散歩コースでのトイレ回数に対して、知らない場所へ行くとその回数が少なくなる、反対に家のトレイではあまりしないのに、散歩中にマーキングが増える、というように個体によって違いがあります。
マーキングはテリトリー意識によるものともいわれますが、犬同士の情報交換の意味合いももっているのです。
多頭飼いの場合は、それぞれの立場を自然と確保するようになっているのかもしれません。
先住犬の食べ物やおもちゃを子犬(新しく来た子)が取って先住犬に叱られると、その行動反復によって子犬は自分にとって不利になる行動を学習していきます。
逆に自分の物や食事を奪われそうになると去勢をはる行動をとるようになるケースもありますね。もちろん個体差があるので、先住犬が叱らない場合もあるでしょう。バランスよく受け入れられること拒絶されることを繰り返して、立ち位置を認識しているようにも思えます。
さらに実際の例をあげて考えてみましょう。
警戒心に優れた柴犬と、有効的で社交性の高いトイ・プードルでは、食べ物を奪われそうになると大きく不安を感じやすいのが柴犬の方です。
この犬種による特性のため、唸ったり歯を剝きだすような行動は、トイ・プードルと比べると柴犬に多くみられるかもしれません。これは、両者の行動に、結果に至るまでの許容範囲・寛容さの違いがあらわれているからなのです。
アルファ気質が強いとされる犬の行動は、支配的な欲求ではなく、不安を感じやすい神経質な性格、些細なことに反応する警戒心の強さなどが原因・理由となっているとのかもしれませんね。
犬同士がお互いの存在を上位・下位として認識するような、明確な順位付けをしているとは言い切れないのです。
◆家族
家庭内で、犬が相手によって態度・行動が変わるケースが見受けられることが実際にあります。
例えば子供のいう事をきかない、お父さんが近付くと怒る、お母さんのいう事はちゃんと聞く、たまにしか会わないのにドッグトレーナーには懐いている、など様々なパターンで愛犬の行動や態度の違いを感じたことのある方は少なくないでしょう。
このことから、犬は家族に対して順位付けをしていると思われがちです。しかし、犬同士のパターンと同様、よく考えるとそこに順位付けがあるという明確な理由は存在しないのです。
犬の行動の違いには、犬が許容できる範囲、また許容する順番が表れています。
子供のいうことを聞かない場合、愛犬は子供が自分を養護してくれる相手ではないと考えていたり、お母さんのいう事を聞く場合は、世話をしてくれて、ご褒美をくれる存在という認識から期待を持って指示を聞いている、といったように、上下関係というよりは頼れる相手がどうかで態度が変わっていると考える方が自然ですよね。
簡単に言ってしまえば、犬自身にとって相手との関わりに良いことがあるかどうか、が根本にあるということです。
実際に幼い子供が犬の世話ができる年齢になると、指示に従うようになったという事例も存在します。
特定の人に懐かない・問題行動を起こす場合は、その相手を脅威として感じていたり、関係性の薄さが表れているのでしょう。
一見順位付けのように見えてしまう行動には、その時自分が置かれた状況下で、単純に自分にとっての良いこと(嬉しい・楽しい)を選んだり、人によって許容している範囲が異なることが理由として隠れているのかもしれません。
犬にマウンティングをされたら
犬の優劣を表す行動の一つとして挙げられるマウンティング。しかしこれも、単に順位付けだと考えるには材料が足りないかもしれません。
犬のマウンティングを見たことのない方は、ネット上で情報を集めてみてください。動画をみつけると分かりやすいですよ。
まずはマウンティング行動の原因をしっかり理解していきましょう。
◆マウンティングとは
単語から想像すると、「相手に自分の方が強いんだ」という示威行為だと考えられますが、単にそれだけが理由だとは言い切れません。
確かに個体によっては権勢欲からマウンティング行動を起こす子もいますが、他にも発情や興奮が原因となってこの行動がみられる場合もあるのです。
例えば発情は本能的な行動であり性衝動の一つです。
この場合、発情期以外にこの行動が見られることはありませんが、交配経験のある雄犬にとっては発情が、最も強い衝動のマウンティングと言えます。
そして興奮ですが、これに至っては実際に目にしたことのある飼い主さんも多いかもしれません。
遊んでいる時などに突然愛犬の興奮スイッチが入り、猛スピードで走りだしてぬいぐるみなどにマウンティングをする、というケースがよく挙げられます。この場合、興奮が抑えきれずにバランスをとるための行動の一つがマウンティングだといえるでしょう。
また子犬の頃には、兄弟犬たちとの遊びの中でマウティングがみられることもあります。
されて嫌だと意思表示をすること、相手の反応を読み取ることも大切なことで、これは犬同士の行為としてとても自然なことなのです。
ただし見知らぬ犬同士のマウンティングはトラブルに発展するケースもあります。子犬の頃にマウンティングされない方法・回避する方法を学んでいない場合、マウンティングされることで落ち込んでしまったり、喧嘩に発展することがあるのです。
発情だけが原因ではないのでマウティングはメス犬にみられる場合もあったり、遊びやコミュニケーションの一環として行われる場合もありますが、散歩や外出先では基本的なマナーとしても、マウンティング行為を止めさせる必要があります。どのように対処すればよいのかをチェックしていきましょう。
◆対処法
愛犬がマウンティングをしているのを見つけたらすぐに止めること、これを繰り返しましょう。
単純なことですが、迅速かつ冷静に対応することが、大きなポイントとなります。すぐにまたやり始めても、その都度止めましょう。
大きな声で叱るのではなく、その行為が不快だという意思を、飼い主さんの無言の圧力をもって伝えるのです。
人に対して行う場合は、別の遊びを提案して回避し、ぬいぐるみにマウンティングをする場合は、そのぬいぐるみを片付けましょう。
何度も繰り返して時間をかければ、愛犬もこの行為を飼い主が望んでいない、と理解していきます。もちろん、強い言葉で怒鳴ったり体罰を与えるなどして止めさせるのはNGですよ。個体によっては、おやつで気を逸らせるのも良いかもしれません。
マウンティングは、犬にとっても無理な姿勢をとることなので、身体的にも負担がかかります。万が一、愛犬の身体に異変を感じた場合は一度獣医師に相談しましょう。
犬の家族内での好きな人ランキング
前述したように、犬が家族のメンバーに明確な順位のつけ方をしているとは言い切れません。
ただし、やはり相手によって態度が変わるパターンも存在しますよね。
これは紹介してきた通り、犬が損得を基本として相手に対する関わり方を考えているからでしょう。
愛犬が主人には懐かずにお母さんが一番好き、というケースが多いかもしれませんが、これはやはりペットを飼っている家庭内で、一番お世話をするのがお母さんである場合に見られるのではないでしょうか。
もちろん家族によってそのパターンは変わってきますが、世話をしてくれる、遊んでくれる人が自分にとって得をもたらすことの多い人、と考えているのかもしれません。
愛犬が懐いてくれない、下に見られている気がする、と感じている方は、主従関係というよりも信頼関係が成り立っていない可能性が考えられます。
一度普段の自分と愛犬の様子、関わり方を思い返してみると原因が見えてくるかもしれませんよ。
犬に順位付けをする意思がないとしても、飼い主さんとしてはやはり好きな人ランキングでは上位にいたいですよね。
愛犬にとって自分が一緒にいて安心できる存在になれるように、愛犬をまずはよく観察して気持ちを理解する努力をしてみましょう!
犬が家族に甘噛みをする犬の気持ち
犬は、相手がどこまでなら許し貰えるのかを知るために試してくることがあります。この行動の一つに甘噛みがあるのです。
犬同士がプロレスごっこのような遊びの最中に、お互い甘噛みをして力加減を確認しているのと同じように、人間に対してもどのくらいの力加減なら許してもらえるかを試して学習します。
遊びの一環として始めた甘噛みが、楽しくなりすぎてエスカレートしてくることもあり、強くなってしまうケースもあるでしょう。そんな時は、遊びを終わらせて一旦落ち着かせましょう。
強く噛むことがダメだと教えることはもちろん大切です。
甘噛みの行為も相手や物に対してやってはいけないケースもあるでしょう。
甘噛みが問題行動に発展しないように注意することも重要なことなので、そんな時は放置するのではなくきちんとトレーニングして教え、愛情溢れる円滑な暮らしができるよう努力しましょう。
まとめ
犬の習性や学習の仕方を改めて考えてみると、単に順位付けをしていると思っていた行動に対して、違う見方も見えてきます。
明らかな答えはありませんし、何が間違いであるともはっきり言えません。ただ一つ言えるのは、何を重要視するかが大きなポイントだということでしょう。
犬との関り方に関しては、諸説・俗説、専門家の様々な解説、沢山の情報や研究結果、ネット上での記事などと、様々な意見が存在しています。
しかしその数ある情報の中から、自分の愛犬に当てはまる事実はどれかを見極めることが大切だと私自身は考えています。
犬も人間同様、個体によって性格も違えば得手不得手も違います。
恐怖心を抱きやすい子、友好的な子もいれば、家族内で特定の人に特別な愛情を抱く子、犬が基本苦手とする子供と仲良しな子、理由は見当たらないがなぜか男性が苦手な子。本当にたくさんのパターンが考えられますよね。
まずは日々愛犬の様子を観察し、気持ちを理解することが、順位付けをしているかどうかを見極めるためにはおすすめです。
いずれにしても、家族全員が楽しく幸せに暮らしていけるように、信頼関係や絆を深めていくことが大切だという事実は変わらないでしょう。
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