【獣医師監修】猫も刺される?!日本で急増中のトコジラミが猫に与える影響について解説

2024.06.16

【獣医師監修】猫も刺される?!日本で急増中のトコジラミが猫に与える影響について解説

トコジラミに刺されると強烈なかゆみが生じます。それは、私たち人間も猫も同様です。 近年、トコジラミの流行が日本国内でも問題となってきました。駆除剤に対して抵抗性を持つものも報告されていて、非常に厄介な存在です。今回の記事では、トコジラミの特徴と、猫への影響を解説します。

トコジラミとは

トコジラミについて

トコジラミは一般的にはナンキンムシ(南京虫)とも呼ばれる虫です。学名は Cimex lectulariusで標準和名はトコジラミです。主に熱帯地方に分布しています。

シラミという名前がついていますが、髪の毛や衣服などに住み着いて吸血するアタマジラミ、コロモジラミとは異なるグループに分類されています。

トコジラミはシラミ目ではなく、カメムシ目に属する昆虫であり、ここには他にセミやカメムシやアメンボなどが含まれます。

・日本でも流行が始まっているトコジラミ

もともとは熱帯地方に分布しているトコジラミですが、海外からの旅行客の荷物に紛れて日本国内にも持ち込まれていて、近年非常に問題となっています。
ホテルなどから国内の一般住宅に広がってきていると言われています。

海外では、一流ホテルや高級ブランド品店がトコジラミの発生を理由に休業を余儀なくされ、訴訟問題にまで発展するケースもあります。

このように、私たちの身近な問題として取り上げられることが増えてきています。

お隣の国の韓国でもトコジラミによる被害が大きな話題となり、韓国語でトコジラミを意味する「ピンデ」と「パンデミック」を合わせた「ピンデミック」という造語が作られるほどです。
また、トコジラミに対する不安を訴える人が増えており、トコジラミ恐怖症「トコジラミフォビア」に苦しむ人もいます。

・トコジラミの習性

トコジラミは夜行性の昆虫で、日中は暗くて狭いすき間に潜んでいます。主に畳のすき間や裏側、家具と床との間、ベッドマットなどの下、ソファーのすき間です。とにかく日が当たらない暗い場所を好みます。特に布団の近くなどに潜んでいることが多いと言われています。

日が落ちて暗くなると出てきて、動物の呼吸に含まれる炭酸ガスなどを頼りに、吸血の相手を探します。

トコジラミは卵から幼虫、成虫と発育します。成虫の寿命は温度によって変化します。20℃前後では9~18ヶ月生存すると言われていますが、27℃では3~4か月と短くなるようです。トコジラミの雌は1日で5個ほど毎日卵を産みます。生涯では500個ほども産卵すると言われています。

栄養源は動物からの吸血で、雌雄に関わらず吸血することで生存します。

トコジラミは夏場に活発になりますが、暖房のある環境下では、冬でも活動的で、ホテルなどでは一年中被害が発生することもあります。15℃程度の温度では、産卵や孵化までの日数が延長されますが、それでも増殖は続けるようです。


トコジラミは猫も刺す?

ソファの上でゆったり過ごすハチワレ猫
・猫の血も吸うトコジラミ

猫の血も吸うトコジラミ
トコジラミが吸血の対象とする動物は人間だけでなく、猫や犬、ねずみや鳥も含まれます。
ご家族がトコジラミの被害に遭われている場合は同居の猫や犬も要注意です。

・人間と同様の症状が出る

トコジラミは吸血している間、吸血している動物に対して唾液を注入します。これは、吸血している血液が固まるのを防ぐためです。この注入される唾液に対して身体がアレルギー反応を起こすため、激しいかゆみや炎症が起こります。

吸血される動物の身体が生まれて初めて刺された場合は、アレルギー反応が起こらずにかゆみが起こらない場合があります。このため、トコジラミの発見が遅れることもあります。
皮膚のかゆみや炎症は、刺されてから数日で現れることが多いですが、何度も刺されていると、刺されて数時間でかゆみや赤みが出てくるようになります。

猫がトコジラミのに刺された場合も、人間と同様の症状が出ます。つまり、強いかゆみと皮膚の赤みが見られます。
現時点ではトコジラミがウイルスや他の寄生虫などの感染症を媒介するという報告はありませんが、血液を多量に吸うため、危険性はあります。エイズや肝炎などを起こすウイルスを感染させる可能性あるのではないかという懸念もされています。

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猫がトコジラミに刺されてしまったら

毛づくろいをする茶白猫

猫がトコジラミに刺されてしまった場合、主な症状は先ほど説明した通り、強いかゆみと皮膚の炎症です。
しかし、そこから派生して他の問題が生じる可能性もあります。
トコジラミは感染症を媒介するという報告はないので、トコジラミの吸血自体で全身の健康を損なうことはありませんが、精神的な問題が生じて、結果的に心身の健康を崩してしまうことがあります。

・痒みがストレスになる場合も

トコジラミに刺されたことで、強いかゆみが生じると、人間と同様に猫もストレスを感じます。日頃の生活の中で十分にリラックスすることができなくなり、神経質な様子をみせることもあります。

ストレスが強くなると、猫は特発性膀胱炎を引き起こす可能性があります。トイレに何度も入るようになったり、一度に出る尿の量が少なくなったりするので、日頃から注意してすぐに気づけるようにしましょう。

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また、かゆみによって、しっかり眠ることができなくなったり、常に気が張っているようになったり、元気や食欲の低下がみられるたりという場合もあります。
ストレスが強くなると、免疫力の低下を招く恐れがあり、猫ウイルス性鼻気管炎を過去に起こしたことがある猫は症状が再燃する可能性もあります。

さらに、かゆみによって強いストレスを感じた後に、トコジラミ自体がいなくなり、かゆみが落ち着いてからも、しきりに身体を舐め続け脱毛したり、炎症を起こしたりする、心因性脱毛症や舐性皮膚炎につながることも考えられます。

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猫が強いかゆみを訴えている場合は、たかが虫刺されと侮らずに、早めにかゆみや不快感を除いてあげるように対処しましょう。

・動物病院に相談しよう

トコジラミに刺されたことで猫の様子が日頃と違う場合には動物病院に相談してください。
かゆみをお薬で早めに止めてあげることで、ストレスを緩和し、その後に続く症状を避けられます。

また、ストレスを強く感じて上記のような症状が出てしまった場合も、ストレスを緩和するお薬やサプリメントなども使用することで改善を狙えます。


猫がいる家でトコジラミ対策・駆除はどうする?

モスグリーンのソファ
・薬剤を使用する際は要注意

トコジラミの駆除にはピレスロイド剤が使用されることが多いですが、ピレスロイド剤に対して抵抗性を示すトコジラミの存在もわかっています。
また、上述のようにトコジラミは、基本的に暗く狭いところに潜んでいるため、適切に薬剤で処理することが困難です。
薬剤を使用して駆虫するには経験や知識が必要となります。

いたずらに大量の駆除剤を使用すると、家で生活する猫自身が体調を崩すケースもあります。
猫はピレスロイド中毒を起こす例が知られていて、神経異常がみられ、重症例では痙攣発作などを起こして命に関わることもあります。猫は他の動物に比べて毛づくろいをすることが多いので、体表についた駆除剤を舐めてしまい体調を崩すことも多いです。猫の生活環境で使用する場合は特に注意が必要です。
猫に対して比較的安全な成分であっても、一緒に含まれるアルコールなどで体調不良になる猫もいます。

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猫の生活環境内で使用する際は、猫を別室に移して、換気を良くして使用するようにしましょう。また、使用してから数日は猫の体調に変化がないか特に気を付けてみてください。

カルバメート系殺虫剤や有機リン系殺虫剤は、猫が誤って口にすると、重篤な中毒症状が出ますので、使用しないように気を付けてください。

また燻煙剤の殺虫剤は、トコジラミの生息範囲を拡大してしまう危険性も指摘されているので使用しない方が良いとされています。

・布類は処分になる可能性が高い

トコジラミは熱に弱く、50℃のお湯に30分浸すと死亡します。熱いお湯での処理が可能であれば駆虫が可能ですが、洗濯だけでは駆虫することが出来ません。熱での処置の難しい布類は処分が必要になる可能性が高いです。

・専門業者に相談を

トコジラミを確実に駆虫するには、潜んでいる場所を的確に把握して、適切に駆虫剤を使用する必要があります。このようにしてすべてのトコジラミを駆除することは、専門業者でないと難しいことです。
トコジラミは1日に5個ほども卵を産むので、駆除に時間がかかると、どんどん数が増えてしまいます。被害が続くようなら、早めに専門業者に依頼した方が得策です。


まとめ

今回は日本や韓国で近年問題となっているトコジラミが、猫に与える問題について解説しました。
トコジラミに吸血されると、人間も猫の非常に強いかゆみとストレスに苦しむことになります。結果的に全身の健康を損なってしまうこともあるので、早めに動物病院へ相談しましょう。
また、トコジラミは暗闇を好み、完全に駆除することが難しいので、駆除に関しても専門業者を頼ると良いです。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に14医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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