【獣医師監修】猫が発症する猫エイズってどんな病気?多頭飼いでも大丈夫?

2022.04.17

【獣医師監修】猫が発症する猫エイズってどんな病気?多頭飼いでも大丈夫?

少し前までは不治の病として恐れられていた「エイズ」ですが、猫もこの病気を発症する危険性があることをご存知でしょうか? 猫の場合は一般的に「猫エイズ」と呼びますが、集団飼育での感染が多いとされているので、多頭飼いのご家庭ではとくに注意が必要な病気と言えるでしょう。 現在猫を多頭飼いされているご家庭や、今後新たに猫を迎え入れたいと考えているご家庭では、どのような対策が必要となってくるのでしょうか。

猫エイズとは

調子の悪い猫

不治の病として広く知られている「エイズ(後天性免疫不全症候群)」は、1981年にアメリカで発見され、治療法がない上に人に伝染する病気として人々を震撼させました。

「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」に感染することによって発症するエイズですが、1990年代を過ぎてから抗HIV療法が登場することにより、完治はできなくともウイルスの増殖を抑えつつ、普通の生活が送れる感染症として知られていくようになりました。

もちろん検査もせずに発症した場合や、適切な治療を行わなければ死に至る病気に変わりはないので、早期発見と早期治療が重要と言えるでしょう。

このようなエイズは人間だけに限った病気と最初は思われてきましたが、1986年にアメリカで、1987年には日本の猫からも猫エイズの原因となるウイルスが発見されたことにより、人間だけの病気ではないことが分かりました。

猫が発症する猫エイズとは、どのような病気となるのでしょうか?

◆猫エイズはどんな病気?

猫エイズとは「猫後天性免疫不全症候群」とも呼ばれ、「猫免疫不全ウイルス(FIV)」‎に感染することによって引き起こされる諸症状を指します。

人間に感染するHIVと近縁のウイルス(レンチウイルス属に分類)となりますが、人間に移ることはなく、猫のみに発症するといった特徴を持っています。

猫エイズは一度でも猫の体内に侵入してしまえば、ウイルス自体を完全に排除させることは難しく、「キャリア」と呼ばれるウイルス保有個体として生きていかなくてはいけません。

感染直後から5つの病期をたどっていきますが、1つ目の「急性期(AP)」ですでにウイルス量がピークを迎え、発熱や一時的な食欲不振下痢貧血、リンパ節腫大(リンパ節症)などの症状が見られたのち、正常な状態へと戻ることがほとんどなので、猫風邪と勘違いする方も少なくないことでしょう。

その後特別な症状が見られない「無症候キャリア期(AC)」、全身のリンパ節腫大が確認される「持続性全身性リンパ節症期(PGL)」、免疫機能の低下による口内炎や歯肉炎などが見られる「エイズ関連症候群期(ARC)」、猫エイズ末期となる免疫不全の「後天性免疫不全症候群期(AIDS)」へと進行していきます。

エイズウイルスに感染したとしてもAC期から病状が進行せずに、猫エイズに関連した症状が引き起こされることなく、数年から生涯において無症状状態が持続し、天寿を全うできる猫ちゃんも少なくありません。

エイズと聞くとどうしても不治の病と思いがちではありますが、飼い主さんが正しい知識を持つことによって、予防できる病気として再認識する必要があるのではないでしょうか。


猫エイズの感染経路

猫同士の喧嘩

猫エイズを予防するためには飼い主さん自身がしっかりと、どのような感染経路によりこの病気が発症するのかを、理解しておく必要がありますよね。

すでに多頭飼いをしているご家庭はもちろん、これから新しい猫を迎え入れる際にも、その子が猫エイズを発症している可能性は0%ではないので、1匹以上の猫を飼っている、もしくは飼う予定のある方は、以下の感染経路をしっかりと覚えておくようにしましょう。

◆猫同士の喧嘩による感染

基本的に猫エイズは、猫エイズウイルスを保有する猫の唾液や血液を介して感染します。

そのため猫同士の喧嘩による感染率はとても高く、どちらかが感染猫であれば、咬傷口からエイズウイルスが体内に侵入し、その猫ちゃんもキャリアとなってしまうのです。

疫学的な統計によると屋外が生活拠点となる野良猫は、10%以上の確率で猫エイズ陽性であると言われていることからも、生活環境の整っていない外での暮らしが、いかに過酷であるかが伝わってきますよね。

とくに縄張り意識の強いオス猫の場合、発情期シーズンには喧嘩が増えますので、とくに注意が必要と言えるでしょう。

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◆グルーミングなどの接触による感染

唾液から感染することからも、猫同士が舐め合うアログルーミングによって、猫エイズに感染してしまうこともあるようです。

1匹のみを飼育している場合は、猫自身がセルフグルーミングを行うだけですが、多頭飼いの場合はどうしても猫同士がグルーミングをし合いますので、エイズウイルスに感染している子が1匹でも居れば、すべての同居猫たちにうつってしまう可能性も否めません。

また、グルーミングだけでなく同じ食器を使うことがあれば、少なからず感染の危険がありますので、共有は避けておくに越したことはありません。

◆母猫からの感染

唾液や血液を介することによって感染するのであれば、産まれたての子猫に感染リスクはないように感じますが、母猫が猫エイズキャリアであれば母子感染を起こす可能性もあります。

しかし、母猫が猫エイズだからといって、その猫から産まれたすべての猫が確実に感染するわけではなく、移行抗体を持って産まれてくることから、早期の検査時では陽性と判断されることがあるので、生後6ヶ月齢経過してからの検査が望ましいと言えるでしょう。

母猫からの感染はまれではありますが、AP期に出産をした母猫の場合はウイルス量が多い時期のため、垂直伝播(すいちょくでんぱ)が起こる可能性も否めません。

◆空気感染はしない

猫エイズは感染力がそこまで高くないので、猫同士の大きな喧嘩に巻き込まれない限り、感染するリスクは低いと言われています。

目に見えないウイルスだからこそ、エイズと聞くだけで不安を感じる飼い主さんは多いと思いますが、空気感染はしないので、いかにどう予防するかが重要と言えるのではないでしょうか。

とくに多頭飼いのご家庭や、完全室内飼いではないご家庭の場合は、猫エイズへの感染率が多少なりと上がりますので、正しい知識を持って予防することをおすすめします。


猫エイズキャリアの子は多頭飼いできる?

猫の多頭飼い

一緒に暮らしている愛猫が猫エイズと診断されたとき、多頭飼いのご家庭であれば、ほかの猫たちにうつる危険性があることからも、どうすればいいのか悩んでしまう飼い主さんも多いことでしょう。

猫エイズキャリアの子は、ほかの猫と一緒に暮らすことはできないのでしょうか?

◆気を付ければ不可能ではない

飼い主さんがしっかりと猫たちの管理をし、感染しない対策を怠らなければ多頭飼いは不可能ではありません。

同じ食器やトイレを使用しないことはもちろんですが、キャリアの子だけを狭いケージで隔離するのは、かえってストレスを与えてしまうのでおすすめできません。

できる範囲での隔離した生活を心掛け、猫エイズ発症の元凶ともなる「ストレス」から遠ざけるようにし、快適に過ごせる環境を整えてあげてください。

◆なるべく1匹で飼うことが理想

すでに多頭飼いをしているご家庭に、猫エイズキャリアの子が居た場合は、ほかの子にうつさない対策が必須となりますが、キャリアの子だけを飼育している場合やする予定があるならば、その子の幸せを最優先に考え、今後多頭飼いをしないことが理想的と言えるのではないでしょうか。

猫エイズは発症しなければ、天寿を全うできる病気としても知られているので、飼い主さんがその子だけに時間を費やすことができますし、多頭飼いによるストレスも与えずに済みますよね。

ペットと一緒に暮らす以上、その子に対しての責任は全て飼い主さんにありますので、上手に病気と付き合いながら、穏やかに暮らすことを優先してみましょう。

◆猫エイズのワクチンもある

さまざまな感染症を引き起こさないためにも、ワクチン接種は有効と言われていますが、室内飼いの猫ちゃんに推奨される3種混合ワクチンでは、猫エイズの予防はできません。

また、外に出る機会のある猫ちゃんには、4種・5種混合ワクチンが推奨されていますが、その中にも猫エイズに対するワクチンは含まれていないので、猫エイズを予防したいのであれば、混合ではなく単体となる猫エイズ専用のワクチンを接種してください。

ワクチンに関しては賛否両論あるので、飼い主さん自身がしっかりと必要性を考えて、検討するようにしましょう。

◆猫を拾ったときは必ず検査をする

猫を拾った際や野良猫を保護した際には必ず動物病院に連れて行き、健康状態や感染症の有無を獣医師さんに確認してもらってください。

もし先住猫のいるご家庭に、猫エイズキャリアを持っている猫を迎え入れてしまえば、健康な猫にまで辛い思いをさせる危険性がありますよね。

もちろん病気だからと知って見捨てる必要はありませんし、飼育に不安があるようであれば、獣医師さんに相談に乗ってもらうようにし、どんな飼育が望ましいのかをしっかりと聞くようにしましょう。

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◆猫は室内で飼う

猫エイズだけでなくほかの感染症や、事故やケガなどから愛猫を守る意味合いでも、完全室内飼いを心掛けるに越したことはありません。

それだけ外の世界にはさまざまなリスクが多いので、愛猫に長生きしてほしいのであれば、部屋の中で快適に過ごせるような工夫をし、たくさんの危険から守る努力をしてあげてください。

野良猫との接触を避け、去勢手術・避妊手術を行うことによって猫エイズは防げますので、改めて室内で猫を飼う必要性を考えてみてはいかがでしょうか。

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まとめ

猫が発症する猫エイズは感染率が低く、死に至るケースはまれではありますが、一度でも感染してしまえば、体内からウイルスを排除させることは難しいので、感染しないような対策を心掛けておくことが一番です。

多頭飼いであったとしても、飼い主さんがしっかりと猫たちの動向を管理することにより、共存することは可能となるので、正しい知識を身に着けることが何よりも大切と言えますよね。

そして感染のリスクから愛猫を守るためにも、免役力を高く保ち、ストレスフリーな毎日を送れるように、生活環境を整えてあげることも重要です。

飼い主さんが無駄なストレスを与えないように優しく接することにより、キャリア持ちの子でも天寿を全うさせてあげられますので、一緒に過ごす時間を大事に育んでいってくださいね。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に15医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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たぬ吉

たぬ吉

小学3年生のときから、常に猫と共に暮らす生活をしてきました。現在はメスのキジトラと暮らしています。3度の飯と同じぐらい、猫が大好きです。

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