犬の口内環境と病気について
犬は、人間とは細菌などの口内環境が異なるため、虫歯になりにくくなっています。絶対にならないわけではありませんが、極めて珍しい症例です。
◆犬が虫歯になりにくい理由は?
犬が虫歯になりにくい理由はいくつかありますが、唾液が弱アルカリ性であることや、口腔内に糖分が少ないことが挙げられます。
人間の唾液は㏗6.5~7.0の弱酸性で、虫歯菌は弱酸性を好みます。人間の虫歯は、口の中の虫歯菌が作り出した酸によって、歯が溶けてしまった状態のことを指します。
これに対して、犬の口腔内は㏗8.0の弱アルカリ性で、虫歯菌が増殖しにくい環境になっています。
また、虫歯菌は糖分を栄養源として増殖します。犬のフードには糖質が少なく、またアミラーゼ(炭水化物を分解して糖分を作り出す消化酵素)が唾液に含まれていません。これらのことから、犬は虫歯になりにくいとされています。
稀に虫歯を発症する犬では、飼い主が糖分の多いお菓子を与えていたり、人間が口をつけたものを与えることで、虫歯菌が発生、もしくは飼い主から犬に移ったりするようです。
◆犬がなりやすい「歯周病」とは?
虫歯の発生の少ない犬たちですが、一方で歯周病が多発しており、3歳以上の成犬では約80%が歯周病を持っていると言われています。
歯周病とは、歯垢や歯石の中の細菌が原因となって、歯周組織(歯肉、セメント質、歯根膜、歯槽骨)に炎症が起こる病気です。
犬の歯に食べかすや細菌が蓄積すると、バイオフィルムが形成されます。バイオフィルムとは、細菌たちが協力し合って膜状のバリアを貼っている状態のこと。これが歯垢(プラーク)となり、歯垢は3日ほど放置されると歯石になります。
歯垢のうちは柔らかいので歯みがきなどで除去することができますが、歯石になってしまうと、ほとんど石のような状態ですので、飼い主さんが自力でどうにかできるものではありません。
歯石の上にさらに歯垢が重なり、歯石はどんどん大きくなっていきます。そうなると、犬の歯茎は赤く腫れ、歯の根元にまで細菌が侵入し、歯はぐらぐらになって抜けてしまいます。
歯はかろうじて残っていても、歯の根っこに感染が起こって膿が溜まり、目の下が腫れ、破裂して穴が開くことも珍しくありません。目の下ではなく鼻の中から血膿がでることもあります。
汚れがたまりやすい場所は?
歯石除去が必要になる前に、歯ブラシや歯みがきガムを使って、愛犬の口腔ケア・チェックをしっかりする習慣をつけることが大切です。
まずは、犬の歯で汚れやすいところについて確認してみましょう。
◆犬の歯の構造
一番前に並ぶ6つの小さい歯が「切歯」、その後ろの縦に大きな歯が「犬歯」、その後ろの4つの歯が「前臼歯」、その後ろにある横に大きな3つの歯が「後臼歯」です。
犬の口の中は奥に長く、なかなか一番奥まで観察できている飼い主さんは少ないようです。
◆口の奥の後臼歯を要チェック
最も汚れが溜まりやすいのは後臼歯の部分で、唇をぐーっと後ろに伸ばして観察しなければ、見落としてしまいます。
歯みがきの際は、奥歯を重点的に磨き、歯みがきガムを与える時は、飼い主さんが歯みがきガムを持って誘導するなどして、意識的に奥歯で噛ませると効果が上がります。もちろん他の歯も汚れはつきますし、歯の裏側も要注意です。
◆小型犬や特定の犬種も汚れやすい
大型犬よりも小型犬の方が、汚れが溜まりやすくなります。歯が細かく密集していて歯間が狭いことや、一回の飲水量が少ないこと、唾液の分泌量が少ないことなどが原因のようです。
また、イタリアングレーハウンドやダックスフンドなどの鼻の長い犬種や、パグやブルドッグなどの鼻がつぶれた犬種でも、その歯間が狭い歯並びなどから歯垢が付きやすくなります。
歯みがきガムとは?効果は?
歯みがきガムとは、愛犬が噛むことで歯垢を落としたり、消臭成分によって口臭の予防をするグッズのことです。
◆歯みがきガムは歯みがき効果があるの?
犬の歯みがきガムの効果については様々な意見がありますが、適切に使用すれば歯みがきに負けないくらいの効果があります。犬がしっかりと時間をかけて咀嚼することで、物理的に汚れを落とし、唾液の分泌を促して犬の口腔内を洗浄することができます。
しかし、この「適切な使用」が犬にとってはなかなか難しい場合が多い為、歯ブラシを使った歯みがきをメインにし、補助的に歯みがきガムを使うのが良いでしょう。
犬の歯みがきガムには、どんな効果があるのでしょうか。
◆唾液の分泌を促す
犬の歯みがきガムの一番の効果は、唾液の分泌を促すことです。
歯みがきガムなどの硬めのものを噛んでいる時は、食べ物を見た時などと分泌される唾液の成分が異なると言われており、ウイルスやバクテリアなどを抑制し、白血球などの免疫成分が含まれるとされています。分泌された唾液によって口腔内を洗浄する自浄作用が働き、歯だけではなく口腔内全体が洗浄されます。
◆歯垢がつくのを軽減させる
犬の歯みがきガムのほとんどは、噛んだ時にできるだけ歯の表面に接触し、歯垢をそぎ落とすように形や硬さが設計されています。犬の歯垢は3日程度放置されてしまうと歯石に変わり、毎日のケアでは落とすことができなくなってしまいますので、そうなる前に歯みがきガムやハブラシを使ってキレイにしてあげましょう。
◆口臭を予防する
犬の歯みがきガムには、消臭効果を期待できる成分が含まれているものが多く販売されています。配合されている成分により、口臭を抑えることができます。
◆健康寿命を延ばす
犬の歯が汚れていると、口腔内で繁殖した細菌が内臓にまで悪い影響を及ぼすことがあります。歯みがきガムや歯磨きによって口腔内をキレイに保つことは、健康寿命を延ばすことにつながります。適度に硬めのものをよく噛む習慣をつけることで、免疫力のアップにも役立ちます。
◆ストレス解消
適度に硬めのものをしっかりと噛むことは、犬のストレス解消にも役立ちます。遊びや暇つぶしに何かを噛みたがる犬は意外と多いようです。
誤飲に注意し、犬が歯みがきガムを食べている間は目を離さないように注意しながら、ストレス解消のために歯みがきガムを与えてみるのも良いでしょう
歯みがきガムの選び方は?
◆ゆっくり長く噛める歯みがきガムがおすすめ
犬の歯みがきガムには沢山の種類がありますが、すぐに噛みきって食べてしまう様なものではほとんど効果がありません。犬ができるだけゆっくりと長く噛んで、唾液の分泌を促すものがおすすめです。
◆愛犬に合った硬さ、大きさのものを選ぶ
調味料や着色料、保存料などを使用せず、牛皮のみを使用した大きめのガムや、大きめの生骨などが理想ですが、牛皮のみを使ったガムはあまり美味しくないため、毎日きちんと噛んでくれる犬はあまりおらず、生骨を日々入手するのはなかなか困難です。
本来はこれらを毎食後10分ほどかけて、奥歯を使って正しく噛むと効果があるのですが、現在、人間と暮らす犬たちはドッグフードを主食として生きているため、正しい顎や歯の使い方を知らない場合も多くあります。
硬いものを力任せにかじると歯を痛めることもあるので、歯みがきガムをほど良い加減で噛むことができない犬の場合は、あまりお勧めすることはできません。
また、犬が歯みがきガムを大きいまま飲み込んでしまっても危険なので、与える時は目を離さず、飼い主が歯みがきガムを手に持って与えるなどして、よく注意してあげましょう。
歯ブラシを使った歯みがきの方法は?
犬の歯垢を除去するには、飼い主さんが歯みがきをしてあげることが一番効果的だとされています。
◆最初はガーゼなどで慣れさせるのがおすすめ
愛犬の歯みがきをする際は、なるべく先の小さな歯ブラシを使用し、奥の歯までしっかりと磨きましょう。
最初から歯ブラシで磨こうとしても嫌がる犬が多いので、まずは指で歯を触る練習から始めます。指で犬の歯をぐるっと一周触ることができたら、濡らしたガーゼなどを指に巻き付け、歯を磨いていきます。
その後、歯ブラシに移行して細かいところまでしっかりケアしていくのが理想ですが、歯ブラシを使用するのが難しければ、ガーゼでぬぐってあげるだけでも効果はあります。
どうしても歯を触らせてくれない場合や、歯みがきの補助的な役割として、歯みがきガムを使用しましょう。
大切なのは毎日ケアしてあげることです。犬の歯についた歯垢が歯石に変わってしまう前に、しっかりと落としてあげましょう。
まとめ
歯が汚れていると、口腔内で繁殖した細菌が体内にまで侵入し、心臓や肝臓、腎臓などにまで悪影響を及ぼします。歯みがきや歯みがきガムによって口内環境を良好に保つことは、犬の健康寿命を延ばすことにも効果があるのです。
歯みがきの方法としては、市販の歯みがきガムだけでは、犬の歯をキレイに保つには効果が不十分であることが多いので、どうしても歯みがきができない場合や、歯みがきの補助的な役割として使用するのが良いでしょう。
一日に一度は愛犬の口の中をチェックする習慣をつけることで、歯の汚れ具合や口腔内の異変を把握することができます。犬とのスキンシップも兼ねて、ぜひお口のケアをしてあげてください。
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