心肺蘇生とは?
心肺蘇生とは、呼吸と心臓の拍動が止まっている人や動物への救急救命措置のためにとられる処置のことを指します。
主に意識の確認、気道の確保、人工呼吸(人工呼吸器など機械によるものを含む)、心臓マッサージなどが、救急救命処置として行われます。
これらの処置を心肺蘇生法(CardioPulmonary Resuscitation,/CPR)と呼びます。
◆心肺蘇生が必要になる場面は?
心肺蘇生が必要になる場面は、呼吸や心臓が止まってしまう状態に陥るときです。
持病による動物病院入院中に心肺蘇生が必要になる犬もいますが、大半は突然の心肺停止に対する処置として心肺蘇生や心臓マッサージが用いられます。
その原因は、突然の事故や、病気の発現、熱中症、痙攣など様々です。
◆心肺蘇生は犬のサイズに影響する?
心肺蘇生は、大型の犬ほど難しいといわれています。
犬は左右の肺と胸椎、胸骨に挟まれた縦隔が完全に固定されていません。そのため、胸部を心臓マッサージして心肺蘇生を行うと、心臓が一定の場所に居らず動いてしまいがちです。
そして、結果的に心臓マッサージが適切に行えないということが多く起こります。
これは、特に大型の犬ほど顕著です。特にアイリッシュセッターや、イングリッシュセッターなどのセッター種に多いです。
急に意識がなくなる病気にはどんなものがある?
急に犬の意識がなくなる病気にはどんなものがあるのでしょうか。確認してみましょう。
◆てんかん
てんかん発作は、犬にも多く発生している病気です。突然意識がなくなり、痙攣を起こす発作を不定期に繰り返します。
てんかん発作のある犬は抗てんかん薬や、外科処置などで治療することも可能です。
◆脳腫瘍
脳腫瘍は、その名の通り脳に腫瘍ができる病気です。高齢になるほど、脳腫瘍は発生しやすくなります。
また、ゴールデンレトリバーやフレンチブルドック、ボストンテリアなど遺伝的に脳腫瘍になりやすい犬種もいます
◆心臓病
心臓の筋肉の異常によって血液循環が滞る拡張型心筋症や、心臓の中央の壁(中隔)に穴が空く心房中隔欠損症などの心臓病でも急に意識をなくすことがあります。
どちらも急に意識を失い、そのまま死に至る事も多い病気です。治療には利尿剤、強心剤、抗不整脈剤などを使用します。
◆犬糸状虫症(犬フィラリア症)
犬糸状虫症(犬フィラリア症)が悪化すると、腹水が溜まったり、血を吐くなどの症状がでます。そして、意識を無くすことも起こるようになります。
死に至る事も多い、とても怖い病気です。
心肺蘇生法の前に行うことは?
犬が緊急事態に陥り、心臓マッサージや人工呼吸などの救急救命措置が必要になった時には、何より先に動物病院に連絡をしましょう。居合わせた人が多い場合には、連絡をする人と心肺蘇生を行う人に分担すると良いでしょう。
動物病院では、心電図や人工呼吸器などを用いて、適切に最短時間の心肺蘇生を処置できます。電話をしたうえで受診すれば、病院側も準備をしたうえで受け入れることができます。
連絡を行う動物病院は、かかりつけが遠い場合には最寄りの動物病院で構いません。
犬の気道確保の方法は?
意識レベルが低くなると、筋肉の緊張が無くなるため舌が喉の奥に落ちてしまい、気道を塞いでしまいます。気道が塞がると呼吸が出来なくなり、窒息し、死に至る可能性も高まります。
そのため、救急救命措置では心肺蘇生の前に行われる処置が気道の確保です。
最近では心臓マッサージを先に行うことも多いですが、人数が多い場合には複数人で同時に行うとベストな対応です。
犬の気道確保は、舌を手で引っ張ることで行います。犬の舌はザラッとしているためつかみやすいですが、唾液でつかみ辛い場合にはハンカチなどの布ごしにつかむ様にしましょう。
首をまっすぐにして、舌を口の外に引っ張ると、上から覗いた時に気道のトンネルが見える様になります。この時に、何か異物が詰まっている様ならば直ぐに取り除く様にしましょう。
犬の心肺機能の確認方法は?
心肺蘇生をするためには、まず犬の心肺機能の確認をすることから始めます。心肺機能の確認は、主に二つの項目に分かれていて、それは呼吸の確認と心拍の確認です。
犬の心肺機能の確認方法について、詳しくご紹介します。
◆心肺蘇生の姿勢
まずは心肺蘇生の姿勢を取ります。犬の場合は、右半身が下になるように寝かせます。
心肺機能の確認をする人は、犬の背中側に位置してください。
◆呼吸の確認
心肺機能の確認姿勢が確保できたら、呼吸の確認に移ります。
呼吸の確認は幾つかの方法を組み合わせて行います。心肺蘇生はスピードが命ですので、手早く行うように心がけましょう。
犬の呼吸確認方法は以下のとおりです。
・胸元が上下に動いているかを目視または、手をあてて確認。
・鼻先に手を当てて、息(呼気)が出ているか確認。
・鼻先に耳を近づけて、ヒューヒューと呼吸している音が聞こえるかを確認。
◆心拍の確認
心拍の確認は、主に触診です。
触診する場所は、心臓や、皮膚の薄い内股などの動脈です。動物病院でも後肢内股(太もも)の動脈で脈拍数を数えることもあり、犬の心拍を確認する一般的な方法の一つです。
心臓、内股の動脈のどちらでも、確認の際には手の平ではなく指先を使用します。ぐっと抑えつけるのではなく、軽く上に添う様に置くだけで心臓の拍動がある時には解ります。
心拍の確認は、慣れれば数秒で行う事が可能ですので、普段から脈拍を数える練習をしておくと良いでしょう。
犬の心臓マッサージ方法は?
◆犬の心臓マッサージとは
心臓マッサージは別名「胸骨圧迫」とも呼ばれています。
大型犬や超大型犬の場合には、体の体重をかけて心臓マッサージをする必要もあります。逆に小型犬や超小型犬の場合には、指だけで心臓マッサージをする必要もあります。
◆犬の心臓マッサージ方法
犬の心臓マッサージは、まず心臓の位置を確認するところから始まります。寝かせた状態で、左前肢を屈伸させ、ひじが当たった胸元のあたりが心臓です。
心臓の位置を把握したら、指をからませて手を組み、肘を伸ばして心臓マッサージを行います。
犬の心臓マッサージは、1分間に100回程度が目安です。強く押し付けるのではなく、大型犬であれば5から6センチ、小型犬であれば3から4センチほど胸が沈む程度の力でマッサージすることが大切です。
心臓マッサージと人工呼吸は交互に行うことが一般的です。
◆心臓マッサージで骨折する?
心臓を押すという心臓マッサージが怖い、と感じる方も多いようです。実際に、犬の心臓マッサージでは、押す力(圧迫する力)が強すぎることで骨折することもあります。
骨折は主に肋骨で起こります。また、骨折以外でも起こる可能性があるのが気胸です。
気胸は胸壁肋骨、胸椎、胸骨、横隔膜で囲まれた空間中が気体(この場合は空気)で圧迫されてしまい、肺が外気を取り込めなくなった状態を指します。
骨折や気胸にさせないためには、心臓マッサージの強さに注意することが大切です。
犬の人工呼吸方法は?
人間の人工呼吸はマウストゥマウスですが、犬の人工呼吸の場合はマウストゥノーズ(口と鼻で行う)です。
背中側から顎を掴み、わざと気道を一時的に塞ぎます。そのまま鼻先を口で咥え、プーっと息を吹き込み、人工呼吸を行います。一度に沢山の空気を入れると、肺ではなく胃などに空気が入ってしまうので注意が必要です。
きちんと空気が肺に届いているかどうかを確認するために、胸元の肺のあたりが膨らんでいるか確認しながら人工呼吸を行いましょう。
人工呼吸は自発呼吸が起こるまで続けてください。心臓マッサージと人工呼吸は交互に行いましょう。
犬にAEDは使える?
◆AEDとは?
自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator/AED)は、心停止の際につかう医療機器です。機械が自動で心電図の解析をし、心室細動(不整脈の一種)を検出した際には電気による刺激を送ります。
AEDは特に使用するにあたった資格などが不要で、一般人にも扱うことができます。最近では駅やカフェ、街中に置いてあり、必要な時に自由に使う事ができます。
◆一般的には犬に使用しない
とても便利なAEDですが、人間専用の医療機器ですので、基本的に犬には使用されません。
基本的に素肌に貼って使用するAEDは、心電図を完治するために人間でも毛深い場合には剃毛の必要があります。全身を毛で覆われた犬が使用するには、まず毛を剃る必要があるため、救急の際にそんなことを行っている余裕はないということも理由の一つです。
また、AEDは人間でも1歳未満や25キロ未満の子供には小児用パッドが推奨されています。人間の0歳児よりも体重の軽い場合のある犬に使用するには、難しいというのが現状です。
犬の心肺蘇生法を知って、まさかの事態に備えましょう!
犬の心肺蘇生では意識の確認、気道の確保、人工呼吸(人工呼吸器など機械によるものを含む)、心臓マッサージなどが処置されます。意識を無くしてから、どれだけ早く心肺蘇生ができたかで犬の生存率は変わります。
この記事で犬の心肺蘇生法を知って、まさかの事態に備えましょう。
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