パスツレラ症とは?原因は?
パスツレラ症とは、パスツレラ菌の感染症です。犬や猫などから感染し、人では皮膚症状や呼吸器症状が出ますが、犬や猫自身にはほとんど症状は表れません。
◆様々な動物が保有する菌
パスツレラ症は、フランスの学者であるルイ-パスツールに因んで命名されました。
パスツレラ症の原因菌であるパスツレラ-ムルトシダは、1878年に家禽コレラの鳥で発見され、1890年に家禽コレラの病原体としてルイ-パスツールが分類しました。
パスツレラ菌は、犬や猫に限らず、ウサギ、牛、豚、鳥なども保有することがあります。パスツレラ-ムルトシダの菌名であるムルトシダはラテン語で、「多数」を意味するmultusと「殺す」を意味するcidusからなり、多くの鳥に対する家禽コレラの致死率を表しています。
◆犬猫などのペットからの人への感染が問題に
犬や猫のパスツレラ菌の保有率は非常に高く、犬の口腔で約75%、猫の口腔で約100%、猫の爪で約70%がパスツレラ菌を常在細菌として保有しています。
犬と猫の他に鳥類からの感染も確認され、最近のペットブームにより犬や猫から人への感染が増加しています。
パスツレラ症の感染経路は?
パスツレラ菌にはいくつかの種類がありますが、人間のパスツレラ症の原因としては、パスツレラ-ムルトシダという菌が多いです。
感染経路としては、以下のものがあげられます。
◆犬や猫に咬まれた、ひっかかれた
犬や猫の口の中や爪にパスツレラ菌が存在するため、パスツレラ症は咬み傷やひっかき傷によって感染します。犬や猫に咬まれたりひっかかれたりした後、傷口が腫れ、化膿する症状が主です。
通常、感染から30分~2日間ほどで症状がでます。
◆犬や猫との過剰なスキンシップ
パスツレラ症は、犬や猫からの経口・経皮感染等の直接感染で、媒介する寄生虫などはありません。犬や猫に口移しで餌を与えたり、キスをしたりする過剰なスキンシップも危険です。稀に飛沫感染も見られます。
最近の調査では、犬や猫からの感染により、呼吸器系の疾患、骨髄炎、外耳炎等の局所感染、敗血症、髄膜炎等の全身重傷感染症、さらに死亡例も確認されています。
パスツレラ症に感染した時の症状は?
パスツレラ症に感染した場合、どのような症状がみられるのでしょうか。
◆呼吸器症状
人のパスツレラ症の60%を占め、喘息、結核、悪性腫瘍等の疾患を持っていると発症しやすく、繰り返し発症することもあります。
犬や猫に咬まれなくても、接触によりパスツレラ菌を吸い込み、呼吸器で感染することが多いようです。軽い風邪のような症状から、肺炎、気管支炎、副鼻腔炎などが見られます。
◆皮膚症状
人への感染において、犬や猫からの咬傷や掻傷により、犬では20~40%、猫では60~70%に感染が成立します。
犬や猫に咬まれたりひっかかれたりした後24~48時間ほどで、受傷部に激痛、発赤、腫脹を起こし、急性の化膿性疾患を起こします。
蜂窩織炎(ほうかしきえん)になると、皮膚の深い層から皮下脂肪組織にかけて細菌感染を起こし、傷口が小さくても広い範囲で赤く腫れ、熱感と痛み、発熱やだるさを伴います。
場合によっては著しい倦怠感、激烈な関節痛、高熱で病変が赤紫に腫れ、手術が必要になります。
免疫不全等の基礎疾患を持っている場合、敗血症や壊死性筋膜炎を起こし重症化することもあります。
◆全身感染症
敗血症、脳脊髄膜炎、脳腫瘍、心内膜炎、腹膜透析患者に生じた腹膜炎などの報告があります。一般に、糖尿病やアルコール性肝障害などの基礎疾患がある患者が重篤になる傾向があります。
しかし、明らかな基礎疾患が無い場合にも、急激な経過をたどって死に至った症例があり、健常人の敗血症による死亡例もあると報告されています。
パスツレラ症の治療法は?
パスツレラ症を発症した場合、早期に抗生剤を投与します。
犬や猫に咬まれたりひっかかれたりしたら、小さな傷であっても受診するようにしてください。傷口は小さくても、深いところまで細菌に感染している可能性があります。
抗生剤としては、ペニシリン系抗菌剤が有効であるとともに、セフェム系抗菌薬も抗菌活性が良好です。テトラサイクリン系、ニューキノロン系、クロラムフェニコールは臨床的には有効性が乏しいとされ、一方でクリンダマイシン、バンコマイシン、エリスロマイシンには耐性があります。
犬や猫に咬まれたりひっかかれたりした場合、すぐに洗浄することが大切です。早期での洗浄が十分であれば、その後の傷もキレイにふさがることが多いです。
受診する際は、犬や猫、小鳥などのペットを飼っていること、咬まれたりひっかかれたりしたことを伝えましょう。
パスツレラ症の予防法は?
持病のある人は抵抗力が低下していますので、犬や猫などペットとの過剰な接触は控えましょう。
犬や猫を寝室に入れない、爪をこまめに切る、犬や猫を触った後は手を洗う、口移し等の過剰なスキンシップは避けるなどの対策が重要で、特に乳幼児、小児がいる家庭ではこれらを必ず行うようにしましょう。
糖尿病などの基礎疾患が存在する場合には、そのコントロールを行うことも重要です。
パスツレラ症を始めとする人畜共通感染症には、病原体・伝播経路・宿主の存在が必要であり、その予防には多くの対策が必要となります。
病原体の拡散防止(隔離・治療・淘汰・駆除)
自然環境の消毒(環境整備・病原体の殺滅)
病原体の侵入防止(輸入検疫・旅行者の検疫)
感染源への接触(直接接触・経口感染・飛沫感染の回避)
中間宿主・媒介動物(媒介動物の駆除・生活環の断絶)
環境衛生の向上(汚物などからの感染防止)
予防接種による免疫の賦与
健康増進による免疫の強化
上記の対策により理論的には人畜共通感染症の予防は完全に行えるはずです。
しかし現在、ペットがコンパニオンアニマルと呼ばれるように、パスツレラ症の感染源となる犬や猫は、人と切り離せないのが現状です。
人畜共通感染症とは?
パスツレラ症を始めとした「人畜共通感染症」とは、どのようなものなのでしょうか。
◆200種類以上の病原体がいる人畜共通感染症
人畜共通感染症はズーノーシスとも呼ばれ、「ヒトと脊椎動物の間を自然に伝播しうるすべての病気または感染症」と定義されています。これには、寄生虫症と細菌性食中毒も含まれます。
人畜共通感染症を引き起こす病原体は、ウイルス、リケッチア、クラミジア、細菌、真菌、原虫及び寄生虫などです。それらは200種類以上も存在し、その数は年々増加していると言われています。
日本では少なくとも100種類近くが確認されており、このうち約半数以上は現状として公衆衛生上注意が必要であるとされています。
最近では、コロナウィルスを病原体としたSARS(重症急性呼吸器症候群)やエボラウィルスによるエボラ出血熱などが猛威を振るいました。
◆様々な動物における人畜共通感染症の被害
日本では、1960年ごろから始まった高度経済成長、さらに核家族や高齢化など、多くの要因が犬や猫などの飼育人口を増加させています。
しかし、人と犬・猫の共同生活は、人畜共通感染症の予防という観点から見ると未だに多くの問題があります。
犬についての調査では、16%の野犬がサルモネラ菌を保菌しており、猫では40~60%がトキソプラズマ抗体陽性で、人への感染源であるオーシストの検出率も0.5~1.0%に及びます。
小鳥についての飼育実数はつかみ難いですが、生産羽数で年間400万羽、輸入羽数で年間200万羽と言われ、これらの小鳥はいずれもオウム病の自然感染があるとされます。
2002年1月には、島根県の鳥獣公園に由来するオウム病が集団発生しました。1965年には、ミドリガメが原因の子供のサルモネラ症が報告されています。
また、サルの飼育では、結核・赤痢に感染する危険性が知られています。1993年にはアフリカ・ガーナから輸入されペットショップで売られていたサルによって、神奈川県の4人が赤痢を発症しています。
1996年には、Q熱によって国内で初めての死者が出ました。
◆ペットにおける人畜共通感染症の被害
犬や猫を始めとするペットの人畜共通感染症としては、小鳥のオウム病、犬のレプトスピラ症、猫のトキソプラズマ症、犬と猫のパスツレラ症と皮膚糸状菌症などが蔓延しており、人への被害が見られます。
犬などのペットは家畜や家禽との接触の機会もあり、これらの疾患は家畜にも感染するため、注意が必要です。
◆食物における人畜共通感染症の被害
牛乳、乳製品に起因する人畜共通感染症の発生は世界的にも多発しており、欧米先進国ですら牛乳を介したブルセラ症の発症が見られます。
本来、搾りたての牛乳1ccには1000個程度の細菌が存在しますが、日本では殺菌技術の進歩により、牛乳に起因する発症事例は極めて少なくなっています。
しかし、世界各国では未だに未殺菌乳を飲用する習慣があり、牛乳・乳製品による人畜共通感染症が続いています。
また、鳥獣肉の生食には多くのファンがいますが、感染症予防の観点からは問題が多く、特にクマ、シカ、イノシシ等の野獣肉、カモ、キジ等の野鳥肉の生食は、非常に危険性が高いです。
海外で多く行われる自家製ハムやソーセージについても、衛生面での配慮を欠くためかボツリヌス菌の発症例が多く見られます。
日本では淡水・海産を問わず魚介類を生食する習慣があり、腸炎ビブリオ、アニサキス等の寄生虫による事故が多発します。沢カニからは肺吸虫に感染する可能性があり、蛇やマムシの生き血の飲用、臓器の生食などの行為は、マンソン裂頭条虫が蛇やマムシにほぼ100%寄生している事実を考えると大きな危険が伴うことは確実です。
まとめ
犬も猫も室内飼育が一般化し、さらに日本では小型の犬が好まれることから犬を抱き上げる行為が多く、昔に比べると犬や猫との接触時間は著しく増加しています。
感染源である犬や猫を排除できないということを踏まえ、飼育者の衛生観念を見直し、パスツレラ症を始めとする人畜共通感染症に対する理解を深めることが重要です。
犬や猫は大切な家族ですが、動物であることや菌を保有していることを理解し、犬や猫との過剰なスキンシップは避けましょう。
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