1.犬は腰痛になる?
1-1.犬の骨格と腰痛
2.犬の腰痛の症状
2-1.疼痛
2-2.背中が丸くなる
2-3.しっぽを垂らす
2-4.歩行の異常
2-5.片脚を上げるポーズをしなくなる
2-6.階段や段差を嫌がる
2-7.部分的な麻痺
2-8.排尿ができない
2-9.腰痛の原因となる病気
3.犬の腰痛の原因
3-1.遺伝子
3-2.老化
3-3.運動の負担
4.腰痛になりやすい犬種
4-1.ハンセン1型になりやすい犬種
4-2.ハンセン2型になりやすい犬種
6.犬の腰痛の予防方法
6-1.激しい運動は控えめに
6-2.体重を適切に管理する
6-3.生活環境を整える
6-4.狭い場所に長時間入れない
6-5.ジャンプなどはさせない
6-6.抱っこは正しい仕方で
犬は腰痛になる?
犬は、人間と異なり、4本の足で歩きます。一見、腰痛には縁がなさそうにも思えますが、犬の腰痛のリスクは低くありません。胴が長いため、足腰に負担がかかりやすいのです。
◆犬の骨格と腰痛
犬の背骨は、頸椎(けいつい)、胸椎、腰椎といった脊椎からなります。頸椎以外の脊椎の間には、骨の動きを滑らかにする軟骨が挟まっています。
脊椎の中心には空洞があり、中には神経の束(脊髄)が通っています。
脊椎に強い力が加わったり、コラーゲン繊維が弱くなったりすると、脊髄が圧迫されて痛みが発生します。
これが、腰痛の起きる仕組みです。
犬の腰痛の症状
では、腰痛になった犬は、どんな症状を見せるでしょうか?
犬は、本能的に、具合の悪さを隠そうとして我慢をしてしまうことが多いため、飼い主さんが腰痛に気づくのが遅れることも少なくありません。
腰痛の症状を知っておくことで、早期発見に繋げましょう。
◆疼痛
背中や腰に痛みを感じて、散歩に行きたがらなくなったり、体を動かすことを嫌がって震えたりします。
また、背中に触れたときや、何かの拍子に、「キャン!」といった悲鳴のような鳴き声を上げることもあります。
痛がるだけでなく、元気がない、吐くなどの症状が伴うこともあり、早めに獣医師さんに相談した方がよいでしょう。
◆背中が丸くなる
犬も人と同じく、年を取ると腰が曲がることがあります。腰が曲がることで、背中が丸くなってしまいます。
見た目には分かりにくいため、他の症状と併せて観察してみてください。
◆しっぽを垂らす
いつも尻尾を垂らし、さらにお尻を落として見えることがあります。
腰の痛みから上げることができないのかもしれません。
遊んでいたのに急に動きが止まったり、元気を失くした様子が見られたりする場合は、腰の不調を疑ってみてください。
◆歩行の異常
歩くときに腰がふらついたり、足先を引きずるように歩いたりします。足先を引きずるため、その足の爪が削れていることもあります。
また、スキップのような歩き方や、片足でケンケンをするような歩き方をしたり、片足を上げて歩いたりする場合もあります。
これらの歩き方の異常は一例で、腰痛が起きている場所によって症状は異なります。
また、足腰の関節を痛めている場合も多いため、腰痛と断定せず、様子を見て動物病院を受診しましょう。
◆片脚を上げるポーズをしなくなる
オスのワンちゃんは、通常、おしっこをする時に片脚を上げます。
このポーズは、腰に非常に大きな負担をかけており、シニアになると足腰が弱って片脚を上げるポーズをしづらくなりますし、腰痛のサインの場合もあります。
◆階段や段差を嫌がる
腰に負担のかかる階段の昇り降りや、段差のある場所を歩くことを嫌がるようになります。
◆部分的な麻痺
部分的な麻痺が見られます。
歩くときに、後ろ足を使えず、前足だけで進んだり、逆に後ろ足だけで身体を支えたりします。
この時点では、排尿は自力でできます。
◆排尿ができない
全体に麻痺が広がると、運動能力が失われ、自分で排尿することができなくなります。
◆腰痛の原因となる病気
椎間板ヘルニア
愛犬に上記のような症状が見られた場合に多いのが、椎間板ヘルニアです。
「ヘルニア」はラテン語で「飛び出す」という意味の単語で、臓器や骨が本来あるべき場所からずれて飛び出している状態を指します。
背骨を形成している骨を「椎骨」と言い、椎骨の前側の半円形の部分を「椎体」と言います。椎体と椎体の間にある板状の軟骨組織が「椎間板」で、椎体間の可動性を高めるほか、クッションとしても働いています。
椎間板ヘルニアは、椎間板に何らかの原因でひびが入り、椎間板の内部にある「髄核」と言いうゼリー状の組織が一部飛び出して、神経を圧迫することで痛みが生じます。
椎間板ヘルニアが起こった場所により症状は異なり、肢に麻痺が起こり、歩行困難になったり、排せつのコントロールができなくなったりします。
ぎっくり腰
ぎっくり腰は、人でよく聞く症状ですが、犬もなることがあります。
ぎっくり腰は、正式には「急性腰痛症」と言い、腰のあたりの筋や関節などに負担がかかることによって炎症が起こると言われています。
ぎっくり腰は原因不明のため、病院に連れて行っても回復が早くなるわけではありません。このため、数日間は自宅で安静にして、様子を見てあげましょう。時間が経つと、徐々に自分で歩けるようになります。
しかし、3~4日経っても痛がる仕草がある、早く治してあげたいというような場合には、負担がかからない方法で病院へ連れて行ってあげてください。炎症を抑える薬を処方してもらえます。
犬の腰痛の原因
では、犬の腰痛は何が原因で起きるのでしょうか?
◆遺伝子
犬種によっては、椎間板ヘルニアになりやすい遺伝子を持っている場合があります。
「軟骨異栄養症」の遺伝子を持っている犬種は、本来ゼリー状である髄核が生まれつき固くなりやすいです。固い髄核が、椎間板の外側部分である「線維輪」を圧迫し、繊維輪に亀裂が入ると、髄核が繊維輪から外に出てしまい、脊髄を圧迫します。
◆老化
加齢に伴い、繊維輪が変質して亀裂が入り、そこから髄核が入り込みます。
髄核が入り込むことで、その分繊維輪が押し上げられ、この繊維輪が脊髄を押してしまい、椎間板ヘルニアが起こります。
◆運動の負担
激しい運動や、階段や椅子などの段差の昇り降りなどで腰に負担がかかることで、腰痛が起きることがあります。
腰痛になりやすい犬種
ぎっくり腰は原因不明のため、どの犬種でもなる可能性があります。
椎間板ヘルニアも犬種を問わず起こる可能性がありますが、遺伝的になりやすい犬種があります。
椎間板ヘルニアには、大きく分けて「ハンセン1型」と「ハンセン2型」の2つのタイプがあり、ハンセン1型は「軟骨異栄養性犬種」と呼ばれる犬種で発症しやすいです。一方、ハンセン2型は「非軟骨異栄養性犬種」で起こりやすいと言われています。
◆ハンセン1型になりやすい犬種
軟骨異栄養性犬種とされる犬種で、胴長の犬種に多いです。短足胴長の体型をつくるために、軟骨異栄養症の遺伝子が必要だったと言われています。
ペット保険の支払い理由から、ミニチュアダックスフンドで発症率が他の犬種よりも高いことが分かっています。
◆ハンセン2型になりやすい犬種
比較的高齢で大型の犬で見られることが多いタイプです。
好発犬種は、柴犬、ラブラドールレトリバー、ゴールデンレトリバーなどです。
犬の腰痛の治療方法
腰痛の治療方法には、主に内科療法と外科療法があります。
◆内科療法
内科療法では、安静が基本となります。
安静とは、散歩を控えたり、疲れた時には休ませたりというものではありません。「トイレ以外は狭いケージの中に、関節に負荷のかからない犬用のベッドや毛布を置いて、その中で静かに過ごす」という徹底した安静が必要です。
症状により期間は異なりますが、椎間板が安定する3~6週間が多いそうです。
この間、消炎鎮痛剤(痛み止め)やレーザー治療を併用することもあります。
外科療法に比べると再発が多く、症状が重い場合には外科療法も選択肢に入れます。
◆外科療法
脊髄を圧迫している箇所を取り除き、痛みや症状を和らげる治療法です。
脚の麻痺など、重大な症状が出ている場合に行われます。手術後は、早い段階でリハビリを始めます。
犬の腰痛の予防方法
椎間板ヘルニアもぎっくり腰にも、絶対的な予防法はありません。
しかし、背骨に負担をかけない生活を心がけることで、椎間板ヘルニアが発症するリスクを減らすことができます。
◆激しい運動は控えめに
筋力を維持することは、腰痛を予防することにつながるので、日々しっかりとお散歩に行くようにします。
一方で、激しい運動は腰に負担がかかるため、控えめに行いましょう。
◆体重を適切に管理する
肥満は腰痛の原因になりやすいので、注意が必要です。
食べ過ぎや運動不足によって体重が増えると、関節に負荷がかかります。
愛犬にとっての標準体型を維持できるよう、子犬の頃からバランスの良い食事を意識しましょう。
◆生活環境を整える
床が滑りやすいと、膝や関節にも影響が出るので、滑りにくい状態にします。
クッションフロアやマットなどを活用すると良いでしょう。また、フローリングをコーティングするワックスなどもあるので、検討してみてください。
◆狭い場所に長時間入れない
背中を丸めなければならないような狭い場所に、長時間入れないようにしましょう。
キャリーなどに入れる際には、底が固い素材で、中でおすわりができるようなものが好ましいです。
◆ジャンプなどはさせない
ソファやベッドに飛び上がることは、腰や関節に負担がかかります。また、ジャンプも同様です。
できるだけ、飛び上がったりジャンプしたりさせないように気をつけます。ジャンプをさせないためには、興奮させないようなしつけも必要です。
◆抱っこは正しい仕方で
二本足で立たせるなど、犬にとって無理な姿勢を取らせないようにします。
抱っこをする時には、仰向けや、両わきの下に手を入れて立たせるような形の「縦抱き」は、背中に負担がかかりやすいので、正しい抱き方をしましょう。
まとめ
胴が長く、4足歩行をする犬は、腰痛を起こすリスクが低くありません。特に、軟骨異栄養症の遺伝子を持つ犬種では、若くても椎間板ヘルニアを発症するリスクが高いです。また、加齢に伴い腰痛が発症することは多く、高齢のワンちゃんは、犬種に関係なく注意が必要になります。
悪化すると、歩行困難になり、排せつ介助なども必要になることがあります。
腰痛の主な原因は遺伝や老化であり、完全に予防することは難しいですが、住環境や食生活、運動を見直すことでリスクを軽減できます。
床材を滑りにくいものに替え、階段にはゲートを設置して昇り降りをさせないようにするなど、足腰に負担がかからないような生活環境を整えましょう。また、適度な運動とバランスの良い食事で、適切な体重を維持することも大切です。犬にとって無理な姿勢を取らせないようにし、抱っこも正しい抱き方で行います。
愛犬が腰痛で苦しむことがないよう、日頃から腰痛予防を意識してみてください。
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