日本には動物愛護法が定められていますが、専門的に取り締まる機関が存在しないため、法律があまり機能していません。他の先進国と比較すると、日本は動物愛護という点でまだまだ発展途上と言えるでしょう。
そこでみなさんに質問です。
「アニマルポリス」という単語をご存知でしょうか?
アニマルポリスとは、動物虐待や飼育放棄を取り締まる法的な機関のことです。
アニマルポリスの仕事の目的は、共通して主に以下の項目です。
・動物虐待、飼育放棄などの行為を発見した市民が通報できる
・現場に出向き、問題のある飼い主を注意・教育し、被害にあった動物を保護する
・動物虐待が犯罪であることを市民に知らせることで、虐待を防ぐ
今回は、ペット先進国のアニマルポリスがどのような取組みを行っているのかご紹介します。
【アメリカ】
ペット大国と呼ばれるアメリカには代表される動物保護団体が2つあります。
・Humane Society of the United States(米国動物保護協会)
・ASPCA(米国動物虐待防止協会)
HSUSは政府から一部の資金援助を受けていますが、運営はほとんど寄付金から行っています。ASPCAは100%寄付金によって運営している非営利団体です。
– ASPCAの取り組み–
ニューヨークに本部を構えるASPCAは、動物虐待にまつわる捜査や逮捕をニューヨーク市警と同等の権限で行うことができました。
しかし2014年1月、動物虐待の取り締まりをニューヨーク市警に引き継ぎ、ASPCAの部門を閉鎖しました。その理由は協会の限られた人数で行うよりも、人員・設備の規模がより大きい警察が取り締まることで、捜査の効率が大幅に上がるためです。
その後、虐待・飼育放棄から保護された動物、動物虐待の逮捕者ともに数字を伸ばしています。虐待の件数が増えたように思ってしまうかもしれませんが、そうではありません。警察に実務を移行したことで、今まで協会だけでは手が届かなかったところまで取り締まれるようになった、ということなのです。
捜査部門の閉鎖後、ASPCAは新たな取り組みを始めます。
それは、保護された動物の中でも特に残酷な虐待を受けていた犬のために、新しいリハビリ施設を開設することでした。
酷い虐待を受けていた犬は、保護された後も簡単には心を開いてくれません。人間への恐怖心から、人を襲ってしまうこともあります。場合によっては、ようやく保護されたのにも関わらず、殺処分という悲しい結果に終わってしまうことすらあります。この現状を打破するためにも、このリハビリ施設では、犬の心を癒し、また人間に心を開いてくれるようになるための様々なプログラムを用意しています。
保護されたばかりの犬は、ケガや病気で「健康」からは程遠い状態です。リハビリ施設では治療するための設備も整っているため、まずは体調改善に専念します。体調改善後は犬の心や行動面でのリハビリが始まります。
リハビリ中の犬は、施設の職員や他の犬たちと少しずつ時間をかけて触れ合うことによって徐々に元気を取り戻します。元気を取り戻し、心を開くようになった犬は新しい里親のもとで共に暮らすことができます。
ASPCAは約150年間にもおよぶ、アニマルポリスとしての歴史と経験を持つ機関です。その経験を活かすために現在は、警察学校で動物に関する犯罪捜査の指導も行っています。
– HSUSの取り組み –
一方、HSUS(米国動物保護協会)の活動も忘れてはなりません。現在は虐待・飼育放棄の捜査は警察に委ね、これまで培ってきた専門的な知識や経験をもって捜査に協力しています。加えて、各地の動物虐待捜査を行う団体を招集し、議会を行う役割も果たしています。
アメリカには、捜査員として就職するための学校や専門学科が存在するほど、アニマルポリスは人気の職業です。志望者数が多く、合格する学生はほんの一握りなことからも、動物愛護の意識の高さがよく分かります。
優先的に警察が捜査することにより、動物虐待から人への犯罪行為に移った事件の捜査も進めやすくなります。アメリカでは動物虐待は重犯罪として扱われ、すでに動物だけの問題ではないという意識が根付き始めています。
【イギリス】
イギリスに警察の組織ができる3年も早い1824年に設立された。
今ではRSPCA(英国王立動物虐待防止協会)という称号で発展しています。RSPCAにはインスペクターと呼ばれる動物の専門官がいますが、警察と同等の権限は持っていません。
アメリカ同様、イギリスでもアニマルポリスは人気の職業です。しかし、アニマルポリスになるためには、下記の項目の知識習得がお止められ、資格試験での合格が必要です。
・獣医学の知識
・動物に関した法律の理解
・緊急時、動物を救助するための訓練
イギリスのアニマルポリスは逮捕の権限がないですが告訴は可能なので、研修では3ヶ月間たっぷりと時間をかけて法律の勉強をします。
日本の「動物の愛護および管理に関する法律」はイギリスで定められた「国際的動物福祉の基本(5つの自由)」を基本的理念として定義されています。
国際的動物福祉の基本(5つの自由)
1.飢えと渇きからの自由
2.不快からの自由
3.痛み・傷害・病気からの自由
4.恐怖や抑圧からの自由
5.正常な行動を表現する自由
1960年代に定められていることから、いち早く動物愛護に関する意識に気づいた国であることが分かります。
【オランダ】
オランダでは、動物保護について集中的に指導を受けた警察官がアニマルポリスとしての活動を行っています。「144」の番号でアニマルポリスへ24時間通報することができます。
通報の詳細を聞き、緊急性が高いと判断された場合は動物愛護団体とアニマルポリス共に現場へ直行します。
動物が虐待されていた場合、その場で虐待者は逮捕され、犬は保護されます。オランダ国内に殺処分場は存在しないため、保護期間切れなどの理由で殺されてしまう心配はありません。保護施設では、健康チェック、マイクロチップの登録、その他のお世話を含め必要なことはすべて保護施設で完結することができます。新しい家族のお迎えがくるまで、処分される心配もなく、保護施設で暮らします。
一方で、緊急性が高くないと判断された場合でも、ペット先進国であるオランダが何のアクションも起こさないはずありません。
通報のあった虐待の疑いがある現地へ、後日動物愛護団体が視察に向かいます。動物の状態をチェック、虐待のレベルを判断します。注意のみであっても、定期的に動物愛護団体の視察が入るようになります。
動物愛護団体が動物虐待だと判断した場合にはアニマルポリスが出動し、飼い主を逮捕します。
通報者が伝える情報は自身の名前とメールアドレスのみです。完全守秘義務を定めているので、通報者の身元が第三者に認識されることはありません。そして、通報者にはその後の経緯をメールで伝える流れになっており、通報後どうなったのか確認することができます。
今回紹介したペット先進国では、動物への虐待・飼育放棄などが重い罪であることが多くの国民に認識されています。
国や地域、団体ごとでアニマルポリスの実務や権限に多少の違いはありますが、動物を守るために彼らが必要とされていることに違いはありません。
日本では、兵庫県警がアニマルポリス・ホットラインとして、動物虐待にまつわる相談を受け付けています。
現状では動物虐待について通報することができる専門的な機関は兵庫県警のみですが、ここからさらに動物を守るための活動が広まれば、日本もペット先進国に一歩近づくことができるかもしれません。
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