獣医師、CaFelier(東京都目黒区)院長。麻布大学獣医学部在学中、国立保険医療科学院(旧国立公衆衛生院)のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行なう。2002年獣医師免許取得後、動物病院勤務、ASC(アニマルスペシャリストセンター:皮膚科2次診療施設)研修を経て、2010年に目黒区駒場にクリニック・トリミング・ペットホテル・ショップの複合施設であるCaFelierを開業。地域のホームドクターとして統合診療を行う。
膝のお皿が溝からはずれてしまうのが「膝蓋骨脱臼」です
膝蓋骨脱臼とは、膝のお皿(膝蓋骨)が、あるべき場所からずれてしまう病気です。先天性と後天性がありますが、先天性の方が数は多いです。先天性の場合は、成長期の生後6~10カ月くらいまでに発症するケースがほとんどです。発症率が高い(75%以上)のは、膝蓋骨が脚の内側にずれる「内方脱臼」です。
好発犬種はトイ・プードル、ポメラニアン、マルチーズ、ヨークシャーテリア、チワワなどで、ペットの美容院などにシャンプーやトリミングに出したとき、トリマーさんが気付くケースも多いです。全体的に、骨が細いワンちゃんは膝蓋骨がはまる溝のつくりも浅く、膝蓋骨脱臼の好発犬種になりやすいといえます。
好発犬種のうち、チワワは、シニアになって全身の筋肉が落ちてきたときに、同時に膝関節をホールドしていた筋肉も落ち、はずれるケースがよく見られます。トイ・プードルは子犬のときに症状が出始めることが多いので、トイ・プードルとチワワは症状の出始める時期や出方が少し違うという印象があります。
膝蓋骨脱臼は、症状によってグレード1~4に分類されます。
グレード | 症状 |
---|---|
Ⅰ | 指で膝蓋骨を押すと動きますが、指を離すと自然に元に戻ります。いわゆる「膝蓋骨が甘い(ゆらゆらしている)」状態で、脱臼することは稀で日常生活にはさほど問題はありません。 |
Ⅱ | 指で膝蓋骨を押すと簡単に脱臼してしまいます。普段の生活の中で脱臼してしまうことがありますが、ワンちゃんが自分で膝を伸ばして膝蓋骨を元の位置に戻したり、人が手で整復したりすることができます。日常生活で膝蓋骨が脱臼したり戻ったりを繰り返している状態です。トリミングのときに膝が鳴るなどして、トリマーさんが気付くこともあります。 |
Ⅲ | 常に脱臼している状態です。整復は可能ですが、膝の中にある半月板や十字靭帯に負担がかかり、腱に炎症を起こしたり、断裂していたりします。当院では、グレード3を手術適応と考えています。 |
Ⅳ | 常に脱臼しており、手で整復が困難な状態です。 |
上記のグレードⅠとⅡの状態の時、ワンちゃんは時々脚を挙げて、ずれた膝蓋骨を自分で元に戻そうとします。これを、歩いている時に行うとワンちゃんが「スキップ」している状態になります。
ワンちゃんが自分で膝蓋骨をはめて治してしまうような状態でも、もともと膝蓋骨がおさまる溝が浅く、膝蓋骨が容易に動く状態になってしまっているので、後々、痛みが出てくることも考えられます。
トリマーさんに膝蓋骨が動くことを指摘されたり、時々スキップのような歩き方をしているのを見かけたりした場合は、早めにかかりつけの動物病院に相談をしてください。
飛び上がり、飛び降りの防止が膝蓋骨脱臼の一番の予防法です
膝蓋骨脱臼を完全に治療するためには、外科的な処置=手術をするしかありません。ただし、グレードⅠやⅡの状態の時は、膝関節周りの筋肉をしっかり鍛えるなどして、膝蓋骨が脱臼しにくい状態を作ってあげることで経過観察していくことも可能です。
そして、出来る限り脱臼させないようにすることが重要です。中でも、後ろ足2本でぴょんぴょん跳ばせたり、ソファーやベッドなどへの飛び上がりや飛び降りをさせたりしないことはとても大切です。外出先からの帰宅時に、ワンちゃんが大歓迎のあまりぴょんぴょんしてしまう様子はかわいらしく、とてもうれしいものですが、着地時に、膝蓋骨がずれる危険があるので出来る限りやめさせましょう。
ペットオーナー様がしゃがんであげたり、すぐワンちゃんを抱っこしたりするなどで、後ろ脚2本でぴょんぴょん跳ばないようになります。
また、室内の環境を整えることも大事です。ソファーなどに乗るのが好きなワンちゃんの場合は、シニアドッグ用の補助ステップなどをソファーの横に付けるなどして、飛び乗り、飛び降りをできるだけ防いでください。
フローリングだと着地のときに滑ったり、変な角度で着地したりしたときに膝蓋骨がズレたりすることがありますので、ラグマットなどを敷いて滑らないようにしましょう。まめな爪切りや、肉球の間から伸びている毛をカットして滑らないようにすることも大切です。
膝蓋骨脱臼を予防するには筋肉を鍛えることも大切です
一番大切なのは、膝蓋骨を上と下から引っ張る腱のまわりの筋肉を鍛えることです。とはいえ、ドッグランで走らせるのは、負荷がかかりすぎて関節を痛めてしまう危険があります。
筋肉の付きやすさには個体差がありますが、特別な運動をしなくても、日々のお散歩でも筋肉は付けられます。成犬になる前に、オシッコをさせるためのお散歩ではなく、30分から1時間の無理のないお散歩をしてなるべく歩かせて、筋肉を鍛えてあげることが大切です。無理のないお散歩で筋肉を適切に鍛えて、室内の環境を整えてあげることが一番の予防法だと考えています。
垂れ耳ちゃんやフレブルに多いのが外耳炎です
外耳炎は、耳の入り口から鼓膜までの「外耳道」と呼ばれる場所に起こる炎症です。原因はさまざまですが、ブドウ球菌や緑膿菌などの常在菌やマラセチアなどの真菌が、免疫力の低下などによって増殖することにより起こるケースが多いです。
好発犬種はシー・ズーやアメリカン・コッカー・スパニエル、ゴールデン・レトリーバーなど「垂れ耳」で耳の中がムレやすいワンちゃんや、耳道が狭いフレンチ・ブルドッグなどです。
外耳炎になると、ワンちゃんは頭をしきりに振ったり、後ろ脚で耳を掻いたりします。そういった仕草が頻繁になったり、耳が臭かったり、耳の中を見てクリーム色や真っ黒の耳垢があったりしたら、すぐにかかりつけの動物病院に相談をしてください。
膿皮症には基礎疾患がある場合がほとんどです
膿皮症は、「スタフィロコッカス・シュードインターメディウス」などの常在菌が、免疫力の低下などにより増殖することによって引き起こされる皮膚疾患です。細菌が毛穴や皮膚表面に感染したものを「表在性膿皮症」、真皮や皮下組織で感染したものを「深在性膿皮症」と呼びます。外耳炎と同じで、常在菌が問題を起こします。
表在性膿皮症では、ニキビ状にウミがたまって弾け、かさぶた状になるなどの症状が見られます。
膿皮症はあくまでも症状のひとつであり、アトピー性皮膚炎、各種アレルギー性疾患、内分泌疾患などの基礎疾患が後ろに隠れている場合がほとんどです。基礎疾患が皮膚の正常なバリア機能に異常を起こさせ、細菌が繁殖するのです。
よって、膿皮症の治療は、その基礎疾患を探っていくことが大切です。抗生物質の投与などで一時的に症状は改善しますが、あくまで対症療法でしかありません。基礎疾患を探ってアプローチしないと、膿皮症は容易に再発します。
ワンちゃんやペットオーナー様と協力をしながら、長期的に取り組む必要がある病気のひとつです。病院に行く際には、最初に症状が出たのはいつか、いつどんな場所に症状が出たか、痒みはどの程度か、天気や季節によって変化はあるか、皮膚以外に症状はないかなどのメモがあると、診察の参考になります。
ワンちゃんの腸内環境を整えることが大切です
外耳炎や膿皮症など、「常在菌が悪さをする」病気は、ワンちゃんに免疫力があればある程度は防ぐことができます。私は、腸免疫を上げるための乳酸菌などのサプリが効果的だと考えています。腸内環境を整え、小腸の吸収力を上げることで、常在菌の繁殖をある程度抑えることができます。ワンちゃんの腸の悪玉菌を減らし、善玉菌を増やす「腸活」のため、かかりつけの動物病院と相談しながら整腸サプリなどを取り入れてみてください。
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