犬猫がなりやすい「歯周病」とは?
「歯周病」という言葉をご存知でしょうか。歯みがき粉などに「歯周病予防に」と書いてあるのを見たりしたことがあるかもしれません。または、歯医者で「初期の歯周病ですね」と言われたことがある方もいるかもしれませんね。
この歯周病、実は人間だけではなく、犬猫にとっても身近な問題となっています。
◆犬と猫の歯の仕組みについて
犬と猫の歯の本数がいくつか知っていますか?犬は42本、猫は30本の永久歯が生えています。ちなみに人間は28本、親知らずを含めると32本と、本数だけだと猫に近いのです。
歯は大きく分けて3つの層で出来ており、歯の神経や血管が集まる「歯髄」、歯髄を覆う「象牙質」、歯の表面である「エナメル質」と呼ばれている部分になります。
「歯周病」の歯周はどこの部分なのかと言うと、字の通り歯の周りの歯肉や歯槽骨などを指しています。これらが炎症を起こす病気を「歯周病」といいます。
◆3歳以上の犬猫の約8割が歯周病予備軍!?
なんと驚くことに3歳以上の犬猫の約8割は、歯周病予備軍だと言われています。逆に、私達が歯医者に行く原因であることが多い虫歯は、犬や猫にはできにくいと言われています。
虫歯ができにくいのはちょっと羨ましいと思いますが、その反面歯石が形成されやすく、歯周病になりやすい口内環境なのです。
これは、人間と犬猫の口内環境が酸性寄りかアルカリ性寄りかの違いによるものです。人間の唾液に含まれるアミラーゼの働きにより口の中に酸を発生させ結果、虫歯菌が生きやすい酸性の環境になっています。
逆に、犬猫はアルカリ性寄りの口内環境なので、歯石が出来やすく、歯周病菌も活動しやすくなります。これが犬猫の多くが歯周病予備軍だと言われている原因です。
◆歯周病の原因は「歯垢」と「歯石」
歯周病の最も大きな原因は、歯垢・歯石によるものです。
歯垢とは、食べかすや唾液で作られる粘着性の物体のことです。歯垢の約7割は細菌で出来ていて、この細菌が炎症を起こし、歯茎の腫れや痛みとなって出てきます。
炎症が更に進行すると、歯と歯茎のすきまが出来てしまいます。このすきまに歯垢が溜まると、炎症はすきまの奥まで進んでいき、やがて歯がぐらついたりします。これは、歯の土台である歯周組織が細菌により破壊されているためです。
そして、歯石は歯垢が石灰化したもので、表面がざらざらしています。歯垢が更に付きやすくなり、歯周病を悪化させる大きなリスクとなってしまいます。
また、一度歯石になってしまったものは歯みがきでは落とすことが難しく、動物病院で落としてもらうこともあります。
犬や猫の口内は歯石が出来やすいとご紹介しましたが、犬の場合は5日程度、猫の場合は1週間程度で歯垢が歯石へと変わってしまいます。いかに、犬猫の口内が歯石が出来やすい環境かがわかるかと思います。
◆歯周病が悪化すると…
炎症がひどくなり歯周病が悪化するとどうなってしまうのでしょうか。
人間の場合、歯周病菌は、唾液・呼吸・歯茎の毛細血管などから身体の中に入り込み、心筋梗塞や肺炎糖尿病などを引き起こすと言われています。
犬と猫の場合も、歯周病になることで心臓や肝臓に炎症を起こすリスクが高くなると言われています。
また、炎症が歯の根の部分まで及ぶと周辺の骨が溶けてしまい、顔に穴が空いたようになってしまう「瘻管(ろうかん)」というものが出来てしまうことがあります。目の下あたりに穴が空き、そこから膿や血が出てきてしまいます。皮膚側ではなく、歯肉側に穴が空く場合もあります。
特に小型犬の場合は、顎の骨の厚さと比べて歯が大きいために、歯周病が重症化すると、物を噛んたりするだけで簡単に折れてしまったりします。
歯周病の症状チェックリスト
ここからは、主な歯周病の症状のチェックリストをご紹介します。愛犬・愛猫の口内で当てはまるものがないかチェックしていきましょう。
◆口が臭う
歯周病菌が歯と歯茎の間で繁殖すると、口臭が発生します。一番気づきやすい症状だと思います。
◆歯垢や歯石がついていないか
歯を見て歯垢や歯石がついていないか観察してみましょう。歯垢であれば、歯みがきなどの普段からのケアで防ぐことが出来ます。歯石の場合は、病院で除去してもらうことになります。
◆歯茎が炎症を起こしていないか
愛犬・愛猫の口の中を見て、歯茎が赤く腫れていたり、歯肉の近くの歯の表面に薄く黄色っぽく色がついている、歯茎が赤く腫れている場合は、中期以上の歯周病のおそれがあります。
◆硬いものを食べなくなった・食べ方がおかしい
歯周病が進行し、炎症が悪化していると歯茎が赤く腫れ痛みが出てきます。その痛みにより、硬いものが食べられず、柔らかいフードやおやつばかりを食べるようになった、以前と比べ食べ方がおかしいなどといった症状が出てくるようになります。
◆くしゃみ・鼻水など
「風邪かな?」と思うかもしれませんが、歯周病がくしゃみや鼻水を引き起こす原因になることもあります。
歯周病菌が歯の根元まで及び鼻腔まで細菌が繁殖している場合、根本部分から感染が広がり、くしゃみや鼻水、鼻血などが出ることがあります。
◆目の下が腫れている
炎症が歯の根元まで及んでおり、目の下が腫れてしまっています。さらに重症化すると瘻管が出来てしまいます。
犬猫の歯みがきトレーニング方法は?
犬猫の歯垢・歯石のつきやすさ、歯周病のなりやすさと怖さがご理解いただけたかと思います。
では、そうならないようにするためにはどうしたらいいのか。私達と同じようにオーラルケアが大切になります。
あなたのおうちの愛犬・愛猫は、口周りをおとなしく触らせてくれるでしょうか?口を開けて見せてくれるでしょうか?
大半の犬猫は、口周り、特に口を開かせて歯茎を見るのは至難の業だと思います。
飼い主の努力が愛犬・愛猫の健康に繋がりますので、歯みがきのトレーニング方法と様々なオーラルケア方法についてお伝えします。
◆ステップ①口周りを触ることに慣れさせる
愛犬・愛猫は口周りを素直に触らせてくれるでしょうか。特に猫は犬よりもマズルが短いので、歯を磨く、歯茎を見るのはなかなか難しいかと思います。猫の口なんて、上から覗かれた時かアクビをしている時くらいしか見たことがないよ…という方の方が多いかもしれませんね。
歯みがきをするためにも、口周りを触っても嫌がらないようにトレーニングしなければなりません。トレーニングして慣れさせておけば、歯みがきだけでなく薬を飲ませる際にも大変便利です。
まずは、リラックス出来る場所でやりましょう。なるべくペットも飼い主もリラックスでき、気が散らない場所がよいでしょう。
いつもどおりに撫でたり声を掛けたりしながら、耳や頬を撫でる延長で口周りを触ってみましょう。上唇を左右1回軽くめくりあげ、耳の方向へ口を軽く引っ張り、奥歯や歯茎を見てみましょう。その際に、歯に触れられたらベストです。
この時、愛犬・愛猫が嫌がったらすぐ辞めましょう。信頼関係にヒビが入ってしまいますし、何より嫌がって噛み付いたり引っ掻いたりと、飼い主さん、愛犬・愛猫ともに怪我をしてしまいます。一回でやりきろうとせずに徐々に慣らしていくことが大切です。
少しずつ歯を触れる段階になったら、おいしい味のついた歯みがきジェルを指につけて、奥歯の方まで指を入れてみましょう。ご褒美感覚で喜ばせながらトレーニングすることも大切です。
幼いうちにこのようなトレーニングを行うことで、成犬・成猫になったときでもスムーズにオーラルケア・投薬を行うことが出来ます。
出来るかどうか不安、あまりにも嫌がる、そもそもあまり寄ってこないタイプの猫である、そんな場合は、獣医師やペットトレーナーなどに相談してみてくださいね。
◆ステップ②歯みがきシートを使う
歯みがきシートとは、歯みがき用に作られた布状のシートのことです。歯みがきシートには、汚れを絡め取る構造のものから、研磨剤を含んでいるものなどがあり、汚れが見えやすく、磨けたことがシートを見てすぐに分かります。
歯みがきシートは飼い主さんの指の感触を感じられるため、歯ブラシよりも抵抗が少ない犬猫が多いようです。歯ブラシはまだ怖い、口周りは触らせてくれるけど、歯みがきまでは…という愛犬愛猫に、まずは歯みがきシートをおすすめします。
使い方は、布を指に巻いて愛犬愛猫の歯を拭き取るだけです。最初は軽く触る程度にし、慣れてきたら奥歯の方まで磨いてあげましょう。
歯みがきにチャレンジしていきたいと思った方は、まずはここからスタートしてみてくださいね。
◆ステップ③フィンガー歯ブラシを使う
フィンガー歯ブラシは、専用のスポンジなどを指にはめて使うものです。赤ちゃんがいるご家庭では、もしかしたら使ったことがある方もいるかも知れません。
波型形状や凹凸のあるものなどがあり、歯の間にフィットし、歯垢を落としやすくなっているものがほとんどです。柔らかい素材で出来ている事が多いので、歯茎を傷つけること無く優しく磨くことが出来ます。
歯ブラシと同様に洗って何度でも使えるタイプのものなどもあり、コスパもよいです。
歯みがきシートよりももっと細かく、歯の隙間や歯茎の近くを磨きたい時におすすめです。歯みがきシートに慣れたらフィンガー歯ブラシに移行するのもよいでしょう。
◆ステップ④歯ブラシを使う
最終段階、歯ブラシです。ここまで来たらしっかり磨いてあげたいですよね。
犬猫用の歯ブラシは、人間と同じように様々な種類が出ていて、普通の歯ブラシから転がすタイプ、歯と歯茎の隙間の歯周ポケットを磨きやすいもの、奥歯用など、用途・大きさと個体に合わせて選べるくらいには種類があります。
歯ブラシを使う際も、はじめからすぐに磨こうとはせずに、慣れさせることが大事です。まずは前歯や外側の歯から磨きはじめ、慣れてきたかなと思ったら奥歯や内側の方を磨いていくようにしましょう。
歯ブラシは犬猫の口内を傷つけそうで怖いなと思うかもしれません。いきなりではなく、徐々に慣らしていき、慣れてきたあとも無理に磨こうとせずに、日を開けたり時間をすこし置いてからまた再開するなどして、愛犬・愛猫と信頼関係を築きながら行っていきましょう。
◆歯みがきガム・歯みがきおやつを使ってみよう
オーラルケアの一番楽な方法は、歯みがきガムや歯みがきおやつを使うことです。ガムを噛むことで、歯みがきの補助的な役割を果たします。
歯みがきガムは、よく見てみるとでこぼこしていたり、編み込んであるような形だったりします。この形により、噛むことで歯垢を落とす効果があるのです。
また、長くよく噛むことで効果が出るので、すぐに折れたり噛み切れたりしないようになっているものが多くあります。愛犬からみたらおやつや遊びの一環として捉えて楽しく歯みがきをすることが出来ます。
「犬用のはみがきガムはよく見るけど、猫用はあるの?」と猫飼いさんは思ったと思います。もちろん、猫用の歯みがきガムもあります。味のバリエーションも多いので、愛猫の好きな味を探してあげてくださいね。
犬猫両方に言えることですが、歯みがきガムは噛まなければ意味がありません。そのため、すぐに呑み込んでしまったりしないよう愛犬・愛猫の大きさに合った商品を選ぶことが大切です。
まとめ
犬猫の口内は、人間よりも歯垢が溜まりやすく歯石が出来やすいため、歯周病になりやすいことがわかりました。
歯周病は歯や歯茎だけではなく、その周辺の骨、最終的には体全体に影響を及ぼしてしまいます。そうならないためにも、オーラルケアが大切になります。
しっかりとしたオーラルケアを行うには、幼少期からのトレーニングをすることでスムーズに歯垢を取ることが出来ます。歯みがきを嫌がる場合には、歯みがきガムなどを使い、飼い主、愛犬・愛猫ともにストレスや怪我をしないように工夫したオーラルケアも出来ます。
人間もペットも歯が大事。日々のオーラルケアで愛犬・愛猫の健康な歯を維持していきましょう。
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