【獣医師監修】犬の腎臓病とは?急性腎障害と腎不全の症状、原因、治療について

2022.12.17

【獣医師監修】犬の腎臓病とは?急性腎障害と腎不全の症状、原因、治療について

犬も高齢になると、腎臓病を発症することが少なくありません。猫の腎臓病は有名ですが、犬の腎臓病について知っている飼い主さんは少ないかもしれませんね。腎臓病には、急性腎障害と慢性腎臓病(腎不全)があります。それぞれに症状や原因、治療法が異なる腎臓病について、詳しくご紹介していきます。愛犬の不調に早く気付き、適切な治療を受けるための参考にしてみてください。

犬の腎臓病とは

元気のない犬

◆腎臓の機能

腎臓はおしっこを作る臓器ですが、それ以外の働きもあります。

犬の腎臓は、背骨の左右に一つずつ2個あり、約80万個の「ネフロン」という構造が集まってできています。ン「ボーマン嚢」が「糸球体」を包み、「尿細管」がこれらにつながって、ネフロンを構成しています。ネフロンは、原尿中の老廃物をろ過して、尿を生成します。

また、ナトリウム・カルシウム・リンなどのミネラルを一定に保つ働きや、水分や酸・アルカリ(体内のpH)を調節する働きで、体内環境のバランスを整えています。
血圧が低下した時には「レニン」という酵素を分泌し、血圧を調節するホルモンを生成して、血圧の調節をします。
骨髄が赤血球をつくるように働きかける「エリスロポエチン」というホルモンは、腎臓から分泌されます。
肝臓に蓄積されたビタミンDを活性化して「活性型ビタミンD」というホルモンをつくり、カルシウムの吸収を促進する働きもあります。

◆腎臓病とは

結石や腎炎などの理由で、腎機能が低下した状態です。腎機能が低下すると、身体に必要な水分を再吸収できなくなったり、老廃物を尿として排出できなくなったり、血圧調節のホルモンをつくれなくなったりします。

犬の腎臓病には、「急性腎障害」と「慢性腎臓病」(CKD)があり、犬の場合、慢性腎臓病が多いです。両者は原因も症状も異なりますが、急性腎不全の回復後に、慢性腎臓病に移行する場合もあります。

◆慢性腎臓病

慢性腎臓病(腎不全)は、症状の悪化と回復を繰り返しながらゆっくり進行する病態です。腎機能の低下が3ヶ月以上持続します。
主な原因は腎臓の炎症で、高齢犬が発症しやすいです。6歳以上になると罹患率が高くなるという報告や、15歳を超えると発症確率が10歳の2倍以上になるという報告もあります。
初期には症状がほとんど現れず、症状が現れたときには腎機能の75%が失われているため、「無言の病」とも言われます。
残念ながら、失われた腎機能は取り戻すことができません。このため、進行を遅らせること、QOLを維持することが治療の目的となります。

◆急性腎障害

数時間~数日の間に急激な腎機能の低下が起きるのが、急性腎障害です。
回復が見込めるため、治療目標は腎機能の回復となります。治療が遅れて病状が進行すると尿毒症になり、命の危険があるため、救急治療が必要です。


犬の腎臓病の原因

◆原因

慢性腎臓病の原因

ネフロンが傷つくことで腎機能の低下が起きて、引き起こされます。
ネフロンが傷つく原因は主に老化ですが、腎臓の病気・ケガなどの後遺症が原因となることもあります。

急性腎臓病の原因

主な原因は、次のようなものです。

一つ目は、腎毒性のあるものの誤食、レプトスピラ症などの感染症、急性腎炎などによる急激な腎機能障害(腎性)です。腎毒性があるものとして、殺鼠剤、除草剤などの農薬、鎮痛剤など人間用の薬、ユリ、ブドウなどの植物毒、不凍液、保冷剤などエチレングリコールを含むものが挙げられます。

次に、結石、腫瘍、尿道閉塞などによる尿路障害(腎後性)があります。また、事故などによる膀胱破裂などが原因で、尿が排せつできない場合もあります。

さらに、出血、脱水、血栓、循環血液量減少による腎血流量の低下(腎前性)があります。ショック状態、重度の脱水状態や、嘔吐・下痢、全身麻酔などで心臓機能が低下した時などに発症します。

◆特に気を付けた方がよい犬種

一般に、高齢になると犬種を問わず発症する病気です。
どのワンちゃんにも起こりうるので、6~7歳以降は定期的な健康診断を受けることをおすすめします。


犬の腎臓病の症状

◆急性腎障害の症状

  • 急にぐったりする
  • 下痢や嘔吐
  • 脱水症状
  • 呼吸が荒い
  • 意識の低下
  • 尿量の減少
  • 排尿がなくなる

進行すると、老廃物を十分に排せつできなくなり、尿毒症の症状が現れます。命に関わるため、すぐに動物病院を受診しなければなりません。

◆慢性腎臓病の症状

慢性腎臓病は、血液検査のCRE(クレアチニン)濃度によって4つのステージに分けられ、それぞれで症状が異なります。

初期のステージ1~2の段階では、ほぼ無症状で、体調の変化はほとんどありません。飲水量や尿が少し増えたり、食欲が少し減ったりすることもありますが、気づきにくいです。

中期のステージ3になると、食欲不振、飲水量の増加、尿が薄くなり量が増える、毛艶がなくなる、体重が少し減ってくる、元気がないなどの症状が見られます。

食欲不振は、元気さや活発さが見られなくなるより先に見られるため、飼い主さんは「元気があるから」と様子見をしてしまいがちです。

多飲多尿になるのは、腎機能の低下から尿の濃縮ができなくなるためです。症状としては、多尿→脱水→多飲の順に起きていきます。
多飲とは、体重1kgに対して1日当たりの飲水量が100mL以上になることを指します。この時、尿の色は透明に近い黄色になります。

進行すると、嘔吐の回数や頻度が増えることがあります。

脱水からくる低血圧によるふらつきや、筋力低下によるふらつきが見られることがあります。
腰回りや太ももの筋肉が痩せて骨張っているなら、筋力低下の可能性があります。脱水からの低血圧の場合は、適切な点滴治療で改善します。

末期のステージ4では、ぐったりしていたり、脱水や嘔吐が見られたりします。全く食べなくなり、貧血(腎性貧血)のために唇が白くなります。
横倒し、意識朦朧、ピクつきや痙攣は末期の症状であり、症状が見られた場合には、残念ながら先はあまり長くありません。


犬の腎臓病の治療法

犬の腎臓病の治療

◆腎臓病の治療法①点滴

点滴には、静脈点滴と皮下点滴(皮下補液)があります。静脈点滴は動物病院で行いますが、皮下点滴は獣医師さんに教えてもらい自宅で飼い主さんが行うこともできます。
犬の皮膚は人間と異なり伸びやすく、皮膚の下に空間があるため、皮下点滴ができます。
静脈点滴では輸液とともにさまざまな薬剤を入れることができますが、皮下点滴では基本的に体液補給のための生理食塩水のみです。

急性の場合、主に脱水症状の対策として、静脈点滴が行われます。脱水症状を防ぐためには、水分補給に加えて、ミネラルの補給や尿毒症の緩和が必要だからです。

慢性の場合、点滴による治療の優先順位はあまり高くありません。
腎機能の低下は高カリウム血症を引き起こす可能性がありますが、カリウムを調整しなければならない場合は末期に進行している時だからです。
高カリウム状態を防ぐには、点滴などで水分補給を行いつつ、尿と一緒にカリウムをできるだけ排泄し、ミネラルのバランスを維持する治療が必要になります。
末期になると、動物病院に入院して、静脈点滴を行います。

◆腎臓病の治療法②投薬

慢性の場合に皮下点滴を行う際には、腎不全に伴う高血圧や貧血などに対して対処する薬剤の投与などが必要です。

中期には、降圧剤やACE阻害剤(タンパク尿を改善する薬)、また、食欲不振に対して食欲増進剤を使うこともあります。

ステージ3になると、貧血対策として、鉄材の補給や造血ホルモンの注射を行います。吐き気や嘔吐に対しては、吐き気止めや胃酸を抑える薬を投与します。
ホルモンバランスの乱れも進行するため、活性型ビタミンD(カルシトリオール)などを投与することも検討されます。
余分なリンの排出ができなくなると高リン血症が起きるので、リンの吸着剤を投与します。

尿毒症の改善には、毒素を吸着するための活性炭や、胃炎の症状を緩和するための薬が処方されます。

内服薬には、抗生物質の一部や非ステロイド系抗炎症剤など、腎毒性リスクのある薬があるため注意が必要です。
腎臓病に対しては、内服薬のほかにサプリメントもあるので、獣医師さんと相談して積極的に活用することも検討します。

◆腎臓病の治療法③透析

ステージ2では、犬の体内が酸性に偏る「代謝性アシドーシス」という症状が見られることがあります。対策として、透析や点滴を行うことも考えられます。
透析は、犬の場合、感染症のリスクが高い、動かないように麻酔や鎮静剤などを使う必要があるなどの理由から、現時点ではあまり行われない治療です。
また、実施できる施設が限られていること、継続的な通院が必要なことなどから、治療費が高額になり、飼い主さんの負担が非常に大きくなります。
透析を受けさせたい場合には、まずかかりつけの獣医師さんと相談してみましょう。

◆腎臓病の治療法④食事療法

慢性の場合、腎機能の低下をできるだけ遅らせるため、初期の段階で食餌療法を始めます。食餌療法を行うと、行わなかった場合より寿命が長くなるという報告もあります。
療法食は、獣医師さんと相談して決めることが大切です。


犬の腎臓病の食事療法について

◆タンパク質の制限

タンパク質は、生命活動に欠かせないエネルギー源で、尿素に変化する窒素を含んでいます。窒素は、腎臓のろ過機能で血液中から取り除かれ、最終的に尿となり排泄されます。
タンパク質の過剰摂取は腎臓の大きな負担となるため、摂取量を制限する必要があります。

◆リンの摂取量の抑制

リンは、歯、骨、細胞を作るのに欠かせません。
腎機能が低下すると、余分なリンを排出できなくなり、リンが体内に過剰に溜まります。体内のリンが多すぎると慢性腎臓病を悪化させると言われており、リンを調整すると、生存期間が3倍に伸びるという研究結果も出ています。

◆ナトリウムの制限

ナトリウムは細胞が機能するために不可欠ですが、過剰摂取で血圧が上昇すると、腎臓に更に負担をかける可能性があります。

◆必須脂肪酸

必須脂肪酸であるオメガ3系不飽和脂肪酸は、ネフロンの毛細血管の炎症を緩和すると言われています。
腎臓のろ過機能は、毛細血管の炎症で低下する可能性があり、また必須脂肪酸は体内では作れないため、外部から補う必要があります。
食事のほか、サプリメントを活用することもあります。

◆水分の補給

腎機能が低下すると、必要な水分を体内に残せなくなり、尿として多量の水分を失って脱水症状になる可能性があります。
新鮮な水をいつでも飲めるように、複数の場所に用意しておきましょう。

◆療法食を食べないときの対処

急にフードが変わると犬が食べないことがあるので、切り替えは1~4週間かけてゆっくり行います。
療法食は嗜好性が低いため、食べてくれなかったり、飽きて食べなくなったりすることも多いです。フードを温めたり、ドライフードをぬるま湯でふやかしたりといった工夫で、嗜好性を高めましょう。フードをふやかすと、水分補給にもつながるのでおすすめです。

また、腎臓ケアを目的とした液体フードやサプリも、シリンジで直接与えたり、フードにかけたりできるのでおすすめです。

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二つの形状と口径で、ふやかしたフードや水分、ミルク、栄養剤など、使い分けができます。

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まとめ

犬の腎臓病には、急性腎障害と慢性腎臓病があり、それぞれ、原因、症状、治療法が異なります。
急性の場合、できるだけ早く治療をしなければなりません。症状が見られたら、すぐに動物病院を受診してください。
慢性の場合、失われた腎機能は回復しないため、進行を遅らせる治療を行います。
いずれの場合も、早期発見・早期治療が非常に重要です。定期的な健康診断で、血液検査や尿検査を受けることをおすすめします。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に15医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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SHINO

SHINO

保護犬1頭と保護猫3匹が「同居人」。一番の関心事は、犬猫のことという「わんにゃんバカ」。健康に長生きしてもらって、一緒に楽しく暮らしたいと思っています。

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