腎臓病ってどんな病気?
腎臓には尿を作ることによって血液中の老廃物を体の外に送り出すという機能と血圧の上昇に関わるホルモン並びに造血に関わるホルモンを合成して分泌するという機能の2つが存在します。
では腎臓の機能が弱ってしまう腎臓病とはどのような病気なのでしょうか?
◆症状
腎臓病は進行する早さや原因などによって「急性腎障害」と「慢性腎臓病」に分けられます。どちらの場合でも進行すると最終的には腎不全となってしまい、腎臓が働かなくなることで老廃物を十分に排泄できないため「尿毒症」やホルモンを合成・分泌できないことによる「貧血」などの状態が末期には見られます。
急性腎障害
数時間から数日という短い時間で急激に腎臓の働きが低下してしまうため、食欲不振や嘔吐、脱水などが見られるとともに尿量が著しく減少する「乏尿(ぼうにょう)」、尿が全く作られない「無尿(むにょう)」という症状が起こります。
そのため、早めに治療を開始しないと痙攣(けいれん)や体温の急激な低下、ナトリウムやカリウムなどの電解質異常が引き起こされてしまい、致死的な状態となってしまう場合もあります。
慢性腎臓病
数カ月から数年といった長い時間をかけて腎臓の働きが徐々に低下していく慢性疾患であり、一般的には以下のようなステージによって進行度を確認することが多いです。
ステージⅠ:症状は全く見られないことが多く、血液検査では腎臓の機能が悪くなると上昇が見られるクレアチニンやSDMAなどの数値は異常を示さない、または基準値内での昔と比べての上昇が検出されることがあります。それに加えて尿検査で尿中にタンパクが検出される、水分との水分以外の物質(尿素や塩化ナトリウムなど)の割合を算出した数値である尿比重が低下しているなどが確認されることがあります。
発見しにくい状態でもあるにも関わらず腎機能はすでにこの段階で正常の3分の1程度にまで低下しているといわれています。
ステージⅡ:症状としては水をいつもよりたくさん飲んで、薄いおしっこを大量にするという「多飲多尿」という症状が見られるようになります。それ以外には食欲や元気に変化はないことが多いでしょう。ただステージⅠで確認される尿の異常に加えて、血液検査ではクレアチニンやSDMAなどの軽度上昇が検出されます。
この段階で腎機能は正常の4分の1程度にまで低下しています。
ステージⅢ:さらに腎機能の低下が進んできていることにより、老廃物や有害物質などが尿にて排泄ができなくいため口の中の粘膜や胃の粘膜が荒れて、口内炎や胃炎になりやすくなります。これらの状態により食欲不振や元気消失、嘔吐などの症状が起こるといわれています。さらに造血に関わるホルモンの合成・分泌不足により貧血が見られることもあります。また、血液検査でもクレアチニンやSDMAなどの明らかな上昇が検出されます。
この段階ではすでに腎臓組織の75%以上が破壊されており、残る腎機能は正常の4分の1未満と「腎不全」の状態となります。
ステージⅣ:人間の医療では人工透析が導入される段階となりますが、獣医療では全身麻酔が必要となること、また多くの場合は週に3回の実施となることから一般的に透析を導入するケースはほとんどないのが現状です。症状としては著しい痩せである削痩(さくそう)並びに重度の食欲不振や嘔吐に加えて意識の混濁や痙攣などの神経障害が起きる「尿毒症」の状態が見られる末期の腎不全となります。
◆原因
急性腎障害の主な原因としてはぶどうやユリ、農薬などの腎毒性がある物質の摂取や犬レプトスピラ症などの感染症、さらには結石や腫瘍などによる尿路経路の閉塞、強い衝撃や事故などによる膀胱破裂などで排尿ができなくなったなどが挙げられます。
一方で慢性腎臓病の原因としては老化による腎臓機能の衰えなどが考えられます。
また、ブルテリア、イングリッシュ・コッカー・スパニエル、キャバリア、ウェスト・ハイランド・ホワイトテリア、ボクサー、シャーペイは犬種として腎臓病になりやすいという報告もあるため注意が必要となります。
腎臓病の治療には食事療法がある
急性腎障害治療では、まず結石などの腎機能を低下させている原因が分かればそれを取り除くとともに速やかにおしっこを体外へ排出させることが優先されます。そのため、体内の水分を増やすために血管から輸液を点滴しつつ、原因となっている疾患治療を行うことが一般的となります。
慢性腎臓病では腎臓機能自体が衰えていることが多いため、現代の獣医療では残念ながら治療をしても完治は望めません。よって投薬や食事療法、ステージによっては輸液などによって症状の進行をできるだけ遅らせる、また今起きている症状を緩和してあげることなどが行われます。
慢性腎臓病における食事療法においては、実際にご飯をあげる飼い主さんの理解がとても大切になってくるため、ここからは注意点について解説していきたいと思います。
◆タンパク質制限
慢性腎臓病においてはタンパク質の量を制限することが大切だとはよくいわれますが、初期のステージから制限を行いすぎると筋肉量が減少し、運動機能にも支障をきたしたり、カロリー不足によって体重が減少してしまったりする危険性があります。
よって、慢性腎臓病と診断されたからといって飼い主さんの判断のみでタンパク質を制限するのではなくかかりつけの獣医師とよく相談してから行うようにしましょう。
また、タンパク質を含む食材を与える場合は、化学物質などの人工的な成分が少なく、アミノ酸バランスが良い良質なタンパク質を与えるようにしましょう。
◆リン・カリウム制限
慢性腎臓病の食事管理においてはリンの制限にも注意が必要となります。リンは骨の80パーセントを占める大切な成分ですが、腎臓の機能が低下するとリンの排出がうまくできず血中濃度が上がってしまう、「高リン血症」の状態が見られることがあります。
そのため、フードに含まれるリンの量を調整することやリン吸着剤と呼ばれるサプリメントを与えることを獣医師から指示される場合が多いでしょう。
また、猫では慢性腎臓病による「高カリウム血症」が見られるためカリウムも制限するようにいわれることが多いですが、犬ではあまり起きず、カリウムを極端に制限する必要はありません。
しかし、慢性腎臓病が末期まで進行して腎不全の状態まで進んでしまうとカリウムを十分排出できなくなる高カリウム血症や、逆にカリウムを大量に排出してしまう低カリウム血症を発症することもあるため注意が必要となります。
◆オメガ3脂肪酸
腎臓を構成する組織の1つであり血液中の老廃物をろ過し、尿とともに排泄するなどの働きを担っている「ネフロン」が加齢にともない傷つくことで腎機能が低下してしまうことが慢性腎臓病の原因の1つではないかと考えられています。
そのため、ネフロンの炎症を緩和する効果が報告されているオメガ3脂肪酸(DHA・EPA)を含んだ食事を与えることで、ネフロンが傷つくことを遅らせて慢性腎臓病の進行を抑えることが期待されています。
腎臓病の犬には手作りが良い?
愛犬には市販のドックフードではなく、手作り食を与えている飼い主さんもいるかとは思いますが、慢性腎臓病において手作り食はおすすめできません。
というのも、慢性腎臓病の進行を遅らせるためには可能な限り悪化を防ぐ成分や必要なカロリーを効率的に摂取できるように配慮してつくられた、慢性腎臓病専用の療法食を与えて食事管理をすることが重要となります。
また、療法食は様々なメーカーから販売されているため獣医師とよく相談したうえで与える種類を決めるようにしましょう。
腎臓病の犬におすすめの食材
慢性腎臓病の進行を抑えることが期待されているオメガ3脂肪酸は魚油などで摂取することができるため、獣医師に相談の上、サプリメントなどで与えても良いでしょう。
また、カロリーに配慮したうえでメインに食べている療法食以外の慢性腎臓病用療法食をおやつとして与えることもおすすめとなります。
食べてはいけない食材
犬のおやつとしてよく与えられているさつまいもやバナナ、りんごなどの果物や市販の犬用のおやつなどは慢性腎臓病の悪化につながる可能性が高いため、可能ならば与えることは控えるようにしましょう。
ただステージや犬の健康状態などによっては少量ならば問題ないことも多いため、前もってかかりつけの獣医師に必ず食べてはいけない食材やその量などを確認しておくようにしましょう。
まとめ
犬の腎臓病には「急性腎障害」と「慢性腎臓病」があり、予防や完治において「急性腎障害」はある程度可能ですが「慢性腎臓病」は難しいといえます。ただ、「慢性腎臓病」は進行を抑えることはでき、投薬以外にも食事療法がとても大切となってきます。ぜひ、この記事を参考にしてくださいね。
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