【獣医師監修】皮膚病と勘違いしがちな猫の扁平上皮癌ってどんな病気なの?

2022.06.19

【獣医師監修】皮膚病と勘違いしがちな猫の扁平上皮癌ってどんな病気なの?

なかなか口元を触らせてくれない猫ではありますが、もし口腔内に何かしらの異常が発生し、飼い主さんが気付いてあげることができなければ、症状もどんどん悪化してしまうことでしょう。 猫の口の中にできるしこり(腫瘍)の約8割が悪性腫瘍だと言われており、中でも猫に多い悪性腫瘍となるのが、扁平上皮癌と呼ばれる病気です。 猫の扁平上皮癌とはどのような病気で、どのような症状が見られ、どんな治療が必要になるのかなどを、詳しく説明させていただきます。

猫の扁平上皮癌とは

ラグドール

体を構成する細胞にはたくさんの種類が存在していますが、その細胞の中には上皮の一種となる「扁平上皮細胞(へんぺいじょうひさいぼう)」と呼ばれる細胞が存在し、臓器の粘膜の構成や、外分泌物や内分泌物の構成を担っており、皮膚や粘膜を守る働きをしています。

皮膚が存在する場所であれば、扁平上皮細胞が皮膚の最上部(表面)を占め、この細胞が何かしらの原因によりがん化したものを、「扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)」と呼びます。

腫瘍化した部分を侵す進行は早く、ほかの臓器への転移が遅いことも、扁平上皮癌の特徴と言われているようです。

◆皮膚や粘膜にできる悪性腫瘍

皮膚が存在する場所であればどこにでも発生する可能性はありますが、猫はとくに「鼻の表面」「耳」「まぶた」「口腔内(歯肉や舌)」「唇」「指(爪床)」「肺」などといった場所に多く見られるようです。

被毛があまり生えておらず、色素の薄い皮膚からの発生が多いため、比較的異常に気付きやすいがんとも言えますよね。

しかし、発生する場所にもよりますが、初期症状では潰瘍(かいよう)のように傷がえぐれたり、皮膚が赤く腫れあがったりするといった症状が見られることもあり、皮膚病だと勘違いしてしまう飼い主さんも少なくありません。

なかなか皮膚の炎症が治らないと思って動物病院を受診し、検査の結果扁平上皮癌だったという可能性も否めないため、扁平上皮癌がどんな病気なのかをしっかりと理解しておくことも大切です。

◆どのような猫がなりやすい?

扁平上皮癌ははっきりとした原因が分かっておらず、遺伝的要因や環境要因といった、危険因子が複雑に絡まり合って発生していると考えられています。

とくにシニア期に突入した高齢の猫は好発しやすく、被毛の色が薄い猫などは日光といった紫外線による影響も懸念されています。

このようなことからも白猫や、淡色の猫は扁平上皮癌が発生するリスクが高くなりますが、シャム猫やペルシャ(ヒマラヤン)などの猫種は、発生リスクが低いとの報告もあるそうです。

そのほかにも、受動喫煙やノミ除けの首輪、猫エイズ(FIV)やパピローマウイルスの関与も考えられているため、どの猫でも発生する可能性があることを理解しておきましょう。


猫の扁平上皮癌の症状

猫に発症する扁平上皮癌の症状は、発生する場所によって症状が多少異なるため、一概にこのような症状が出れば扁平上皮癌だと、言い切ることが難しい病気でもあります。

動物病院でも視診で腫瘍の種類を判断することは難しいため、腫瘍の一部を切り取った後に病理診断を行い、腫瘍細胞の種類や悪性度などを評価していくことが一般的です。

必要に応じて腫瘍の広がりを診るために、レントゲンやCTといった検査を追加で行い、どのような状態なのかを見ていきます。

予後の悪いがんとしても知られている扁平上皮癌は、発症部位によって症状が異なるとしても、以下のような症状が現れた場合にはとくに気をつけておきましょう。

◆口腔内からの出血

口腔内に扁平上皮癌が好発した場合、歯肉や舌といった部位に発生することが多いため、進行していくと悪臭を放ち、腫瘍が潰れて唾液に血が混じることがよくあります。

猫がヨダレを垂らし、その中に出血が見られれば、口腔内の状態が悪くなっている証拠です。

扁平上皮癌は局所浸潤性が高いこともあり、顔周辺にできた腫瘍は顎下のリンパ節や肺などへ転移することもあるため、普段から飼い主さんは愛猫の口腔内をチェックしておくことも大切ですよね。

◆口の中の傷み

扁平上皮癌が口腔内で好発してしまうと、口の中に強い痛みを伴うこともあり、食事をとれなくなってしまう子がほとんどです。

とくに舌へ腫瘍が発生した場合は、カリフラワー状に腫瘍が広がり、腫瘍が肥大化すれば口を閉じることも難しくなるため、呼吸をするだけでも苦痛を伴います。

猫ちゃん自身も看病をする飼い主さん自身も辛い病気となりますので、日常生活での予防や早期発見に繋げることこそが、猫ちゃんの苦痛を和らげる鍵となるでしょう。

食欲不振が続けば病気の進行だけでなく、衰弱死で命を落とす可能性も否めません。

◆皮膚のただれ

皮膚に好発した場合は前述している通り、潰瘍のように皮膚がえぐれたり、皮膚の表面が赤く腫れあがったりすることが多くあります。

皮膚がただれていることから皮膚病に間違われやすいですが、時間の経過とともに完治することはなく、数ヶ月から数年かけて徐々に大きくなっていくのが、扁平上皮癌の恐ろしい特徴です。

また、多中心性の扁平上皮癌では、腫瘍が皮膚を破壊(自壊)して出血することもあり、大変な痛みを伴うために、患部を舐めて噛むといった自傷行為を起こす猫ちゃんも居るようです。

皮膚に傷やかさぶたのようなものを見つけた場合は、経過観察をするのではなく、扁平上皮癌の可能性があることも、頭の隅に入れておくようにしましょう。


猫の扁平上皮癌の治療

2匹の猫

愛猫が扁平上皮癌と診断されたとき、どんな治療が行われていくのかも気になるところですよね。

一般的に扁平上皮癌に対して、どのような治療が行われていくのでしょうか?

◆外科手術

がん細胞の範囲が小さく、転移している可能性がない状態で、体力のある猫ちゃんであれば、外科手術を行って原因となるがん細胞を取り除いていきます。

しかし、扁平上皮癌は完治が難しい病気でもあるため、腫瘍がなくなったように見えても再発することがありますし、さまざまな部位に発生するからこそ、外科的切除で取り除けない場合もないとは言い切れません。

とくに口腔内にできた扁平上皮癌は切除が難しく、効果的な治療も確立されていないため、仮に手術を行ったとしても1年後の生存率が低くなることから、外科手術以外の方法が優先されます。

◆投薬治療

がん細胞を外科的に切除できない場合や、猫自身に体力がない場合には、抗がん剤を用いた投薬治療(化学療法)が行われます。

抗がん剤も外科手術と同じように、麻酔ができない高齢の猫や、完治を目指せない状態で治療を開始する場合には、投薬治療を行えない可能性も十分にあります。

そのような場合にはQOL(生活や人生の質)の維持と、痛みを軽減する目的を第一優先に考え、緩和療法を行っていくことがほとんどです。

◆放射線治療

外科手術が難しい場合や、広範囲的に骨の中で浸潤している場合では、放射線治療が検討されます。

放射線治療も外科手術と同じように、麻酔が必要となるため、麻酔ができないと判断された猫ちゃんには行うことができず、大変な割には奏功しないケースも多々あるため、この治療を行う動物病院はあまり多くありません。

扁平上皮癌で放射線治療を検討する場合には、しっかりと獣医師さんの話を聞き、納得した上で治療を進めていくようにしましょう。


猫の扁平上皮癌の予防

早期発見ができずに外科的治療を行えなかった場合、予後が悪いことがとても多く生存期間は3ヶ月程度とも言われています。

猫と一緒に暮らす以上、責任を持ってお世話をする必要がありますし、できることなら病気を患うようなことなく、健康なまま天寿を全うさせてあげたいものですよね。

愛猫を扁平上皮癌から守るためには、普段からどんなことを意識して予防を心掛ければ良いのでしょうか。

◆室内飼いを心掛ける

扁平上皮癌の原因ははっきりとは解明されていませんが、紫外線やスモッグ(煙霧)、受動喫煙や化学薬品といった、環境因子が関与していると考えられています。

原因が分からない上に、外の世界にはさまざまな危険が溢れているため、大切な家族である猫ちゃんを守る目的でも、完全室内飼いを徹底して一緒に暮らすことが一番です。

病気だけでなく事故やケガなどの心配もなくなりますし、愛猫の健康を気遣うようであれば、外に出さずに完全室内飼いを心掛けましょう。

◆定期的に皮膚や口腔内のチェックを行う

愛猫の健康を守るためには、日ごろから皮膚や口腔内に異常がないかのチェックも大切となってきます。

普段からコミュニケーションの一環として、猫の体に触れるといったスキンシップをとることにより、少しの異変にも気付きやすくなりますよね。

そして、人間よりも歳をとるスピードが速い猫のためにも、定期的に健康診断を行うようにし、常に意識して健康を管理してあげてください。


まとめ

猫と一緒に暮らす以上、さまざまな可能性を考えながら生活をする必要がありますが、愛猫に腫瘍ができ、動物病院で扁平上皮癌だと申告されれば、ショックで悲しい気持ちになってしまう飼い主さんは多いことでしょう。

大切なのは普段から病気にならないように工夫して予防をしておき、病気が発症したとしても早期に発見できるように心掛けておけば、予後を一緒に過ごせる時間もその分長くできますよね。

せっかく出会った家族ですから、飼い主さんが一番に愛猫の気持ちに寄り添い、常に健康でいてもらえるように努め、愛猫に辛い思いをさせないような暮らしを提供してみてはいかがでしょうか。

●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に15医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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たぬ吉

たぬ吉

小学3年生のときから、常に猫と共に暮らす生活をしてきました。現在はメスのキジトラと暮らしています。3度の飯と同じぐらい、猫が大好きです。

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