がん探知犬とはどんな犬?
がん探知犬とは人間の体臭を嗅いで癌があるかどうかを見つける犬です。呼気、汗、尿、血液などのニオイから犬は癌患者を見つけ出します。
がん検査は血液や画像、内視鏡検査などたくさんの種類があります。これらには時間がかかる、体の負担が大きいといったデメリットがあります。一度は陽性と判定されても、精密検査を行うとがんでなかったという場合もあります。探知犬を使った検査であれば、どこの部位かまではわからなくても、がんがあるかどうかの判定はできます。
がん探知犬の仕事
がん探知犬が判定できるものは肺がん、食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、胆管がん、膵臓がん、腎臓がん、膀胱がん、前立腺がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、悪性リンパ腫、白血病などです。部位が違ってもがん共通のニオイが犬にはわかるようです。
検査を受ける人は呼気採取バッグに息を吐き入れ、付属の封筒に入れてドッグラボという機関に郵送します。その後届いた検体とダミーの検体を5個セットし、探知犬にニオイを嗅がせてがんかどうかを判定します。犬は陰性の検体の前では素通りし、陽性の検体の前ではおすわりをするという方法で結果を知らせます。呼気以外に尿で検査する場合もあり、犬の体調などが関係してくるので3頭で行います。
かつてがん治療をした人でも完治から1年以上経過していれば検査を受けられます。完治後1年以内ではまだ体内にがんのニオイが残っているので正確な判定ができません。
日本にいるがん探知犬
千葉県の株式会社セントシュガージャパンではがん探知犬の育成を行っており、活躍している犬がいます。代表の佐藤さんはかつて水難救助犬の訓練をしていましたが、1994年優れた嗅覚を持つ犬マリーンと出会いました。水難救助犬は泳ぐだけでなく水に沈んだ遺体を探しあてる嗅覚も試されます。マリーンは陸上でキュウリを食べた人の呼気を嗅ぎ、隠したキュウリを見つけることができる天才であることに佐藤さんは気づきます。陸上での訓練を重ねた結果マリーンはほぼ100%の的中率でがんを見つけられるようになりました。現在はマリーンの血縁であるエスパーを中心に5頭の犬が活躍しています。
アメリカでは90年代にがん探知犬の研究が行われていましたが、日本での歴史は浅く、当初はニオイを使った検査は非化学的と言われていました。しかし日本外科学会やイギリスの医学誌「GUT」にがん探知犬の論文が掲載され、今では世界中でがん探知犬の育成や実験が行われています。
山形県金山町では女性の胃がんの死亡率が全国1位だったため、40歳以上の町民を対象にがん探知犬を使った検査が行われました。犬はがんがある部位までは特定できないので、内視鏡やCTスキャン、家族の病歴なども含めて検査をします。2017年には1人、2018年には2人がん患者が見つかり、早期治療に貢献しました。
探知犬1頭を育てるには費用は500万円、時間は3年かかると言われています。犬だけでなくがんのニオイを探知するセンサーの開発も進められています。
犬を使ったがん検査のメリット
病院で全身のがん検査を受けると簡単に10万円を超えてしまいますが、犬を使った検査では3万8000円で済みます。ドッグラボでの検査は保険適用外となりますが、それでも通常の検査より安い金額で受けられます。時間がない人、妊娠中や授乳中の人でも痛みのない簡単な検査ができるので既に取り入れている病院もあります。早期がんや高度異形成でも発見できるので早期治療に繋がり、がんで亡くなる人を減らせます。
病気のニオイとは?
がん検査には犬以外にも線虫を使った方法があります。線虫とはいわゆる寄生虫のことで、土壌や海洋中に線形動物です。魚に寄生するアニサキスを食べてしまった患者の体内を調べると、早期の胃がんに虫が集まっていたのが見つかったという例があります。がん患者の尿に反応して集まり、健康な人の尿から逃げる習性を利用した検査です。線虫を入れた容器に尿を一滴落とし、動きを見てがんかどうかを判定します。
今よりも医療が発達していなかった時代、医師も治療に自分の嗅覚を使っていました。ヨーロッパでペストが流行した頃には「腐った柔らかいリンゴのようなニオイだ」という記述があります。病気になると体内の血液、汗、尿などが普段と違うので体臭も変わります。患者が身分の高い人であると簡単に触れることもできないため、鼻を研ぎ澄ませてから診察していたとされています。
がん探知犬に多い犬種
がん探知犬第1号マリーンと現在活躍している血縁犬達はラブラドール・レトリーバーです。日本ではセントシュガージャパンにしかがん探知犬がいませんが、アメリカやイギリスではゴールデン・レトリーバーも働いています。どちらも優れた嗅覚と集中力の持ち主で、人間が好きなので向いています。
その他の探知犬の種類
◆地雷探知犬
地中に埋まっている地雷をニオイで見つけ、地雷処理の手伝いをする犬です。戦争があった東ヨーロッパ、中東、東南アジア、アフリカなどで活躍しています。
地雷には金属製のものとプラスチック製のものがあり、人間が探す際には金属探知機を使用します。プラスチック製では反応しないため危険なだけでなく、ただの金属片にも反応してしまい、膨大な時間と費用がかかります。犬は離れた距離から火薬のニオイを嗅ぎつけ、安全に処理が行えるために導入されています。犬の任務中に地雷が爆発するという事故は起こっていません。
警察犬と同じくシェパードが扱いやすいのですが、地雷原は暑さ寒さが厳しい地域に多いため、ベルジアン・シェパードがよく使われています。
◆爆発物探知犬
空港や駅で乗客の荷物のニオイを嗅ぎ、爆発物を探してテロを防ぐ犬です。爆発物専門よりも警察犬や麻薬探知犬を更に訓練した犬が多いようです。東京オリンピックの前年にはJR東日本は爆発物探知犬を導入しました。改札口周辺に犬とハンドラーが巡回し、乗客の荷物を点検します。
よく使われる犬種はビーグルやラブラドール・レトリーバーです。見た目がかわいく乗客が怖がらないというのが理由です。
◆麻薬探知犬
麻薬の密輸入を防止するために働く犬です。運ばれてきた貨物のニオイが嗅ぎ、麻薬を探します。麻薬探知犬に向いている犬種はラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、ジャーマンシェパード、ビーグルです。空港や港、国際郵便局で活躍しています。
乗客が身に着けている荷物に反応しておすわりで知らせるパッシブドッグと、大量に流れてくる荷物に反応して引っかいて知らせるアグレッシブドッグの2種類に分かれます。
麻薬のニオイを覚えている犬は麻薬中毒なのではという意見がありますが、直接摂取しないので中毒になることはありません。訓練では本物の麻薬を使うため、東京税関麻薬探知犬訓練センターのみで探知犬の育成が行われています。
◆銃器探知犬
空港や港に持ち込まれる貨物のニオイを嗅ぎ、銃器や部品を見つける犬です。テロだけでなく銃器の密輸を防ぐために活躍しています。アメリカでの同時多発テロ以降、空港でたくさんの犬を使った対策がとられるようになりました。
◆検疫探知犬
海外から持ち込まれる食品の中には、検疫の対象になる肉製品や果物があります。もしこれらに病原体が付着していたら自国でも伝染病が広がってしまいます。検疫探知犬は荷物のニオイを嗅ぎ、これらの食品を発見してハンドラーに知らせます。日本では鳥インフルエンザが流行した頃に導入されました。
犬種はほとんどビーグルが使われています。嗅覚が優れている以外に、乗客の目に触れる際に見た目がかわいくて怖くないからというのが理由です。ですが体が小さいので慣れていない犬は大きな荷物に驚いてしまうといったデメリットがあります。
まとめ
最近ではがん探知犬を更に訓練して新型コロナウイルスを発見できるようにするという取り組みも行われています。医療が発達しても病気が早期発見できないことはありますし、空港などで荷物検査に機械を使っても見逃してしまうことがあります。犬の嗅覚はアナログですが正確です。人工知能が発達して人間の仕事が減ると言われていますが、犬の仕事は残っていくでしょう。