1.人獣共通感染症とは
1-1.ヒトから動物へ病気は移る?
2.人獣共通感染症の代表的な病気
2-1.一類感染症
2-2.二類感染症
2-3.三類感染症
2-4.四類感染症
2-5.五類感染症
3.ペットと触れ合う際に注意すること
3-1.過剰な接触はしない
3-2.野生動物は飼わない
3-3.手を洗う
3-4.免疫を高める
3-5.狂犬病予防接種を必ず行う
人獣共通感染症とは
世界保健機関(WHO)は、脊椎動物からヒトに自然に伝染する感染症を人獣共通感染症(ズーノーシス:zoonoses)と定義しています。人獣共通感染症は動物との直接接触、昆虫などの媒介生物、汚染環境、動物性食品を介して、細菌やウイルス、寄生虫などの病原体が伝搬されることで引き起こされます。主には以下の3つの経路で伝搬されます。
①経皮感染
病原体を保有する動物に咬まれたり、引っ掻かれたりすることで、傷口から病原体が侵入し感染します。また、ノミやダニ、シラミなどの節足動物に吸血されることで、病原体が体内に侵入し感染します。
②経口感染
病原体で汚染された水を飲んでしまうことや、感染動物の身体や排泄物に触れた手を口に持っていくことで病原体が体内に侵入し感染します。また、正しく調理されていない食肉や魚介類を食べることで細菌やウイルス寄生虫が体内に侵入、増殖し感染します。
③経気感染
鳥の糞などに混入した病原体が、風で舞い上がって空気中に拡散されます。動物のくしゃみや咳などの飛沫を吸い込むことで病原体が体内に侵入し感染します。
病原体によって環境や食品が汚染されていることは、なかなか気づくことができません。特に、病原体により汚染されている食品から引き起こされる人獣共通感染症は、私たちの食習慣上で、とても発生しやすい事象だと考えられます。
◆ヒトから動物へ病気は移る?
ヒトから動物への病原体の感染についても気になるところです。このような事象は逆人獣共通感染症(リバース・ズーノーシス:reverse zoonosis)と表現され、ヒトが感染源となる可能性があります。
過去10年の間では、2009年に、豚インフルエンザ(H1N1(pH1N1))、2019年に重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV-1)、つまり新型コロナウイルスが、世界的大流行を引き起こしました。H1N1(pH1N1)ウイルスは、インフルエンザ様の呼吸器症状を示したブタやトリ、フェレット、イヌ、ネコなどの動物から、ヒトの間で流行していたH1N1(pH1N1)ウイルスのヒト由来分離株と、非常によく似たウイルス型が検出されたと報告されています。また、現在、世界的な大流行が進行中のSARS-CoV-2ウイルスは、これまでにネコやイヌ、トラ、ライオン、アメリカミンクから、SARS-CoV-2のヒト由来分離株と非常によく似たウイルス型が検出されたと報告されています。
逆動物性人獣共通感染症の事例は、これまでのところ限られています。ですが、ヒトと罹患動物との間に接触があることや、ウイルスと宿主との間に適合性があれば、ヒトから動物へ病気を蔓延させることは十分に考えられるのです。
人獣共通感染症の代表的な病気
それでは、人獣共通感染症の代表的な病気についてみていきましょう。人獣共通感染症にはさまざまな種類があり、危険度に伴って分類されています。感染の予防や感染症の患者に対する医療に関する法律では、病原体の感染力や重症度に基づいて、感染症を一~五類感染症に分類しています。それぞれの分類ごとに措置が定められ、患者を診察した医師は、感染症の類型に応じて保健所に届け出ることが義務付けられています。
◆一類感染症
感染症の中でも極めて危険度の高いものが指定されています。
エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱、ペストなどが挙げられます。また近年、世界的に大流行している新型コロナウイルス (SARS-CoV-1)は、一種感染症に追加されました。
◆二類感染症
感染症の中での危険度の高いものが指定されています。
急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、鳥インフルエンザ(H5N1)などが挙げられます。
◆三類感染症
特定の職業に従事することによって、集団感染を引き起こす可能性のある感染症が指定されています。
腸管出血性大腸菌感染症、コレラ、細菌性赤痢、腸チフス、パラチフスなどが挙げられます。
◆四類感染症
ヒトからヒトへ感染はありませんが、主に動物や飲食物を介してヒトに感染する感染症として指定されています。
E型肝炎、A型肝炎、黄熱、Q熱、狂犬病、炭疽、ボツリヌス症、マラリア、野兎病、ウエストナイル熱、エキノコックス症、オウム病、日本紅斑熱、日本脳炎、ブルセラ症、レプトスピラ症などが挙げられます。
◆五類感染症
国が感染症の発生などを調査した結果を国民や医療従事者に公開することによって、発生や拡大を防ぐ必要がある感染症が指定されています。
ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を 除く)、クリプトスポリジウム症、性器クラミジア感染症、梅毒、麻しん、水痘、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、先天性風しん症候群、手足口病、伝染性紅斑、突発性発しん、破傷風、百日咳、風しん、ヘルパンギーナ、マイコプラズマ肺炎などが挙げられます。
人獣共通感染症はWHOが確認しているだけでも200種類以上あります。人間の社会環境の変化や交通手段の発展などによって、ヒトや物販は目覚ましいスピードで移動できるようになりました。このような背景から、未知の感染症や今まで目立っていなかった感染症が、今後、猛威を振るうことも考えられます。それらを防ぐため、国や行政が感染症対策を立て、蔓延防止の対応を担っているのです。
参考文献:厚生労働省
ペットと触れ合う際に注意すること
それでは、ペットとの人獣共通感染症についてみていきましょう。もはやペットは家族のように大切な存在に位置づけられています。かわいい愛猫・愛犬への愛情は、とてつもなく深いものでしょう。ですが残念ながら、ペットから移る病気もあるのです。
代表的な感染症には、「パスツレラ症」や「トキソプラズマ症」、「猫ひっかき病」などが挙げられます。特に注意したいのが「パスツレラ症」です。イヌやネコの口の中に常在している菌が原因であり、咬まれたり、引っ掻かれたりすることによって感染します。ヒトが感染すると傷口の腫れや気管支炎、肺炎などを起こす場合があります。「猫ひっかき病」も同様な症状を表しますが、症状が軽いのが特徴です。
また、「トキソプラズマ症」は、主にネコの糞便中に病原体が出てきます。誤って排泄物を触った手で口に触れてしまうと感染します。通常、感染しても無症状ですが、妊婦さんが感染すると赤ちゃんの先天性障害の原因となるので注意が必要です。
いずれもイヌやネコ自体は無症状ですので、知らず知らずのうちにヒトへ感染する危険性が高いのです。大切なペットが感染源となり、人獣共通感染症に感染してしまうことがあることを理解しましょう
◆過剰な接触はしない
大変ショッキングな話題ですが、2016年にはネコが感染源となり、「重症熱血小板減少症候群(SFTS)」や「コリネバクテリウム・ウルセランス感染症」にヒトが感染し、死亡するという事例がありました。いずれも、野良猫を保護しようとして咬まれたことや、野良猫の餌やりから感染したという経緯があります。
上記でも述べましたが、動物の口の中や爪には、病原体を保有した細菌やウイルスなどが存在する場合があります。愛しいからといって、口移しで食べ物を与えることや、共有の食器を使うことはやめましょう。特に愛猫・愛犬とキスをすることは控えましょう。
◆野生動物は飼わない
さて、野生動物ではどうでしょうか。自然の中で野生動物に出会ったら、つい触れ合いたくなるかしれません。ですが、野生動物はどのような病原体を保有しているかわかりません。例えば、アライグマは「狂犬病」や「E型肝炎」「レプトスピラ症」、キタキツネは「エキノコックス症」、ノウサギやげっ歯類は「野兎病」、野鳥は「オウム病」などの人獣共通感染症を引き起こします。野生動物はヒトにとって重篤な感染症を引き起こす病原体を持っている可能性があります。
もし、怪我をした野生動物がいても、自宅に連れ帰って看病するといったことはやめましょう。むやみに触れることや、餌付けをすることは絶対にしないでください。
◆手を洗う
このように、動物との生活が身近となった今日、人獣共通感染症はいつでも引き起こされる疾病であることがわかりました。感染しないようにするためには、私たちも十分な対応をしなければなりません。それでは、感染症予防対策についてみていきましょう。
人獣共通感染症は手洗いで予防することが基本です。
動物の毛にはカビなどの細菌や寄生虫の卵、ダニ、ノミなどが付着していることがあります。また、公園の砂遊びやガーデニング中に知らずに動物の糞を触ってしまったりすることもあるかもしれません。その手で食べ物を口にすることや、傷口に触ってしまうことで、体内に病原体が入ってしまうことになります。そのようなことを防ぐために、手洗い、うがいは非常に大切です。動物と触れ合った後は石鹸を使ってしっかりと手を洗い、殺菌しましょう。
◆免疫を高める
生物には、異物が体内に侵入することを防ぐ働きや、異物を体内から排除する働きがあります。生物の身体は皮膚や粘膜に覆われ、そこには常在菌が生息しています。もし、第一関門が突破され体内に病原体が侵入すると、今度はそれをやっつける様々な細胞が働きだします。このように体内に侵入してきた病原体から身体を守る仕組みを免疫機構といいます。ですが、不規則な生活や栄養バランスが崩れると、この免疫機構は簡単に崩れてしまいます。すると、病原体はこの免疫機構をやすやすと崩壊し、身体の中で栄養を奪い、細胞内に入り込んで増殖するのです。そして疾病を引き起こします。
免疫機構を高めるためには、疲れやストレスを溜めず、規則正しい生活を心がけましょう。
抵抗力のない小さな子供やお年寄り、また、体調を崩しているときなどは、更に注意が必要です。
◆狂犬病予防接種を必ず行う
最後に、日本国内において、人獣共通感染症を撲滅した事例を紹介したいと思います。「狂犬病」という病気を耳にしたことがあるかと思います。狂犬病はイヌやネコ、アライグマ、タヌキ、コウモリ、その他ほとんどの哺乳類に感染し、ヒトが感染すると錯乱・興奮などの神経症状を示して、呼吸困難で死亡する大変恐ろしいし疾病です。狂犬病に罹患した動物に咬まれた部分から唾液に含まれるウイルスが体内に侵入することで感染します。ヒトからヒトに感染することはなく、感染した患者から感染が拡大することはありません。
アジアでは特にイヌに感染していることが多く、世界のほとんどの国で発生しています。狂犬病を予防するワクチンはありますが、治療法はありません。発症した場合、致死率は100%です。
1950年以前は日本国内でも多くのイヌが狂犬病に罹患し、大勢の死亡者が発生しました。このような状況から、イヌの登録や狂犬病予防注射の施行を徹底する狂犬病予防法が施行され、現在、日本では狂犬病の発症はありません。
今もなお、他国では狂犬病が蔓延している中、日本では国が徹底して飼い犬の登録や予防接種を履行し、この恐ろしい感染症を撲滅することに成功しました。この状態を維持するためにも、愛犬の狂犬病予防接種は毎年必ず受けましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
人獣共通感染症は、身近な病気であることがわかりました。大切な愛猫・愛犬が感染源とならないよう、動物の身体を清潔にケアし、異変があればすぐに動物病院へ連れていきましょう。また、私たちも免疫力を高め、手洗いやうがいで人獣共通感染症を予防しましょう。
私たちは昔よりももっと身近に動物と共存していることを理解し、正しい知識を持って動物と接することが大切ですね。
以上、「動物から人間に病気が移る?! ~人獣共通感染症と感染予防対策について~」でした。
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