【獣医師監修】犬の目について徹底解説!目の仕組みや見え方、人間との違いとは

2023.11.17

【獣医師監修】犬の目について徹底解説!目の仕組みや見え方、人間との違いとは

犬は目が悪い、色の識別ができない、などといった情報を耳にしたことのある方は結構いるのではないでしょうか。今回は犬の目について、それらが正しい認識なのかチェックしていきましょう。犬の目の仕組みや特徴、人間との違いについて解説していきます。併せて、目の病気や健康管理についても触れていきますので、ぜひ参考にしてみてください。

犬の目の仕組みを見てみよう!

目全体図

実は犬の目の仕組みは、私たち人間と似ています。しかしその特徴や役割には、もちろん違いがあるのです。
眼球を形作る構造について、主な部位ごとに紹介していきましょう。
 

◆角膜

眼球の最外層を覆う繊維膜の前方1/4を締め、コラーゲン線維からなる部分のことを角膜といいます。
外界の光を眼球内に取り入れることができるように細胞が特殊な配列をしていて、全体が透明になっています。

角膜の役割は、光を通して網膜に届ける、外界からのホコリ・細菌などから眼球を保護することで、極めて薄い層ですが重要な役割を担っています。

◆水晶体

水晶体とは目の中でレンズの役割を担う器官で、ほぼ透明でラグビーボールの様な形をしています。

嚢(のう)と呼ばれる透明な袋の中に、水晶体細胞がぎっしり詰まった状態で構成されています。
周囲の筋肉の動きによってレンズの厚みを変化させ、見たい距離にピントを合わせることができるのです。

犬は人間と比べてこの部分の発達能力が弱いため、犬種によって遠近感の調整能力が低いといわれています。

◆瞳孔と虹彩

眼球に光が差し込む時の入り口を瞳孔といい、カメラでいうと「絞り」に相当する部分に例えられます。

野生時代に狩りをして生活していた犬の祖先は、薄暗い中での狩猟を行う動物でした。
このため、暗い環境でも多くの光を眼球内に取り入れられるよう虹彩が発達しており、光の入り口である瞳孔を大きく広げることができるのです。

ちなみに、虹彩は脈絡膜最前部に位置しており、虹彩より前部を前眼房、後部を後眼房といいます。
犬の目の色は虹彩に含まれる色素量によって黒~青までとさまざまな色が存在するそうです。

犬は基本的に虹彩の発達によって白目部分がほとんど見えない、いわゆる「黒目がち」の状態であるため、この点も人間に可愛いと思わせる大きな要因となっているのでしょう。

◆硝子体

硝子体とは、眼球の大部分を占める組織です。
99%が水分であり、卵白のようなドロッとした組織が眼球内部を満たしており、これにより眼球が球体を保つことが出来ます。

外部から加えられる力を和らげて衝撃を吸収し、デリケートな目の組織を守るクッションのような役割を果たしていて、無色透明のため、角膜を透過して水晶体で屈折し入ってくる光を目の奥までそのまま通します。
この硝子体が濁ってしまうと、視界や視力にトラブルが生じます。

◆網膜・脈絡膜・強膜

網膜とは、光受容体が存在する、眼球の最も内側にある層のことです。
光を感知する役割があり、その光が電気信号に転換されて視神経へと伝達されます。
また、網膜後部には空隙(視神経円板)があり、ここを通じて視神経や血管が眼球内に出入りしています。

網膜の外側にある脈絡膜は、眼球に酸素・栄養素などを届ける血管が張り巡らされています。
見出しにある図を見ると分かりやすいですが、脈絡膜は「虹彩」「毛様体」から続いた組織となり、これら3つを総称して「ぶどう膜」とも呼ばれています。

眼球の一番外側に位置する強膜ですが、これは一般的に言う「白目」の部分を指します。
繊維膜後方3/4を締めており、エラスチン繊維からなっています。弾力性のあります。

◆毛様体とチン小帯

先に述べた通り、脈絡膜の前方を構成しているのは毛様体という組織です。
ここから伸びる毛様体小帯(チン小帯)という細い繊維が、水晶体を定位置に固定しています。

一方の端は虹彩に繋がる毛様体を接着して、虹彩の後方及び瞳孔の中心に位置するように水晶体が固定されています。
また、毛様体からは毛様体筋という組織も出ており、これは観察す対象の距離に合わせて、レンズの厚みを調整する役割を担っています。

◆房水

眼球の前眼房と呼ばれる部分には、血液の代わりに栄養などを届ける液体が循環しています。これを房水(眼房水)といいます。
房水はぶどう膜の毛様体で作られており、出口(隅角)から眼球の外に出ていくのですが、この房水がうまく出ていけないと前眼房内に貯まりすぎてしまいます。その結果、眼圧(眼球内の圧力)が上昇し、様々な障害を引き起こす原因となるのです。


犬の視力と人間の視力の違い

こちらを見ている犬

実は人間の目から見える世界と犬の目から見える世界には、大きな差があります。

愛犬と色付きのボールで遊んでいる時など、目の前にボールがあるというのに左右をキョロキョロして探している、といった光景を見たことのある方も多いでしょう。
目の前にあるのに何で気付かないの?と不思議に思いますよね。

ではなぜ、そういった状態になってしまうのか、次は犬の目の見え方について紹介していきましょう。

◆色彩の違い

人間の視力は100万色を識別することができるといわれていますが、犬の場合、どれくらいの数を識別できるのかはハッキリ分かっていません。
少し前までは「モノクロにしか見えていない」という意見が合ったほどですが、カリフォルニア大学が行った色覚に関する実験によって以下のような研究結果が発表されています。

  • 人間から見たグリーン・イエロー・オレンジ:犬にとってはくすみがかったイエロー
  • 人間から見たパープル・ブルー:犬にとってはブルーの様な色
  • 人間から見たレッド:犬にとってはグレーの様な色

なぜこのような違いがあるのかというと、これは網膜の構造に起因しています。
人間の網膜には錐状体(色を感じる細胞)があるため、様々な色の識別が可能です。
錐状体には青・緑・オレンジに反応する3種類があり、これらが協働することで脳の中で虹の7色を再現できています。

犬の網膜には錐状体がほとんどない上に、数少ない錐状体は青と黄色にしか反応しません。
そのため、色の識別能力はほぼ2色、及びその中間色に限られていると考えられているのだそうです。

◆見え方の違い

犬の視力は0.1~0.5くらいといわれており、平均値は約0.3だそうです。

人間は成人での裸眼視力の平均が0.5とされているのですが、人間でいう0.3は少しぼやけてみえるくらいだとされています。
遠い文字が見えにくい、小さい文字が読みにくい、といった感覚ですね。

さらに犬は焦点が合わせにくく、遠視気味であるともいわれています。
70cm先のものをハッキリ見ることが難しく、2m程離れると、ほとんど見えないそうですよ。

視力だけでは70cm先にあるものを認識できませんが、その分鋭くなった嗅覚や聴覚を上手く活かして生きていると言えるでしょう。

◆犬の目が光る理由

暗い場所で愛犬の写真を撮った時に、目が光って写ることがありますよね。
これは、タペタム層という組織にフラッシュが反射するために起こります。

タペタム層とは網膜の裏側にある、『人間にはない細胞層』で、わずかな光を反射して視神経に伝える役割を持っています。
犬の他にも、猫・キツネ・鹿など沢山の動物に備わっており、暗闇でも対象の輪郭を見分けることを可能とします。

ちなみに、シベリアンハスキーなどブルー系の瞳をもつ犬の中には、タペタム層をもたない犬種もいます。


犬の目に関わる病気について

犬にはかかりやすい目の疾患が数多くあります。代表的なものをいくつかあげていきましょう。

◆白内障

白内障とは、タンパク質分子の異常によって水晶体が混濁する病気です。
水晶体が白く濁ることで目が見えにくくなるので、物にぶつかったりジャンプできなくなったりといった様子がみられます。

犬の白内障は外傷や他の病気との併発が主な原因となりますが、親からの遺伝による若年性白内障や、加齢(老化現象)による老年性白内障などもあります。
中でも若い年齢で発症する遺伝性によるものが多く、約60の犬種で白内障発生の遺伝的要因が確認されているのです。

軽度の場合は点眼薬や内服薬による治療法が試されますが、重度の場合は外科的治療が必要となります。
白く濁った水晶体を手術で取り除かなくてはいけないのですが、手術の成功率はあまり高くないようです。

予防するためにも、良い食事と運動を心掛けて、健康な生活を送ることが一番だといえるでしょう。
水分を意識的に補給させることも大切なので覚えておいてください。

◆緑内障

緑内障とは、眼圧の上昇が原因で目が突出してくる病気です。
激しい痛みを伴うため、頭を撫でられるのを嫌がる、視野が狭まり物にぶつかる、などの様子がみられたり、初期には結膜が赤くなるといった症状がでることも多いようです。

緑内障は主に先天的な目の異常から起こる「原発性緑内障」と、目の中の炎症から起こる「続発性緑内障」に分類されますが、原因不明の発症も多く確認されています。
眼圧が上昇した状態が長く続くと失明する可能性が高まり、1度失った視覚は回復しませんので、異常を感じた際には速やかに眼圧を低下させることが重要となります。

内科的治療では、点眼や内服薬、注射薬などで眼圧を下げていく処置が成されるのですが、外科的治療では房水の新しい出口を形成するなど、様々な手術法があります。

ちなみに、水分をあまり摂らないと視神経の血流が悪化して緑内障のリスクが高まるといわれています。
白内障同様、意識的な水分摂取を心掛けてくださいね。

そして前述したように、初期には結膜が赤くなる症状が出ることがありますので、愛犬の目を定期的に観察して早期発見に繋げましょう。

◆瞬膜異常

犬には目の内側に第三眼瞼である瞬膜が存在しており、これには角膜を保護する役割があります。
この瞬膜が戻らなかったり、戻りが遅いなどの異常が起こることがあるのです。

これらの直接の要因は、目や目の周囲の副交感神経の異常だそうで、神経が炎症を起こしたり、傷ついた場合にもよく起こりますし、神経伝達が年齢によって鈍くなることでもみられやすくなるでしょう。

また、これが起因して、チェリーアイや眼球を瞬膜が覆ってしまうなどの症状を発症する可能性もあります。

チェリーアイとは、涙を分泌する働きをもつ瞬膜腺が外側へ反転し、脱出してしまった状態のことで、異物感を呈するためには治療が必要となる疾患です。
アンカー法、ポケット方などの手術法を用いて整復することとなるでしょう。

瞬膜異常から併発する病気の方が怖いので、異常を感じた場合は早めに動物病院を受診してください。
そして獣医師の指導のもと、経過観察やケアをしっかり行いましょう。

◆網膜剥離

網膜が脈絡膜から剥がれ、その間に網膜下液が貯留してしまった状態のことを網膜剥離といいます。
網膜に穴が開いたことが原因の場合を『裂孔原生』、網膜に穴が開いていないケースのことを『非裂孔原生(けんいん性・滲出性)』と分類します。

その内動物の網膜剥離で一番多いのは滲出性のものだそうです。
糖尿病・緑内障・白内障ぶどう膜炎・高血圧などによって、出てきた液が網膜下に貯まり発症するという、他の病気が起因するケースも多いようです。

網膜が剥離すると、物にぶつかりやすくなったり、無表情になる、鼻を駆使して探りながら歩く、などの症状がみられるでしょう。

この網膜剥離は眼の全体に広がったとしても、早めの治療を行うことで視力が回復するケースもある病気です。
しかし、他に合併症があったり、異変に気付くことが困難で発見が遅れるということが多々あり、治すことができないまま失明してしまう、といった危険性をもつ疾患だともいえるのです。

部分的な網膜剥離の治療法には、レーザーで網膜を固定する光網膜凝固術が用いられますが、全体的に網膜剥離になっている場合は、基本的に治療は行われません。
硝子体手術で網膜をくっつけることは可能なのですが、この手術ができる獣医師、設備のある病院は限られています。

「眼科診療に強い」「当院で手術可能」などといった情報が掲げられている動物病院を探してご相談ください。
そして手術ができそうであれば、診察や検査を受けてみるとよいでしょう。


愛犬の目の健康管理の為に出来ること

安眠している犬

犬は目の疾患にかかりやすく、早期発見が重要となる病気もたくさんあります。
目の健康を守るためにも、飼い主さんができることを覚えておきましょう。

◆日常的な観察

愛犬を日常的に観察しておくことが、いち早く異常を察知するためには必要なことです。

左右の目の大きさ、瞳孔のバランス、目やにや充血の有無、目頭やまぶたの違和感、目周りの皮膚の状態、などをチェックすることを習慣づけましょう。

見た目で病変が確認できなくても、羞明や涙が多く出ているなど、行動や様子から異常に気付ける場合もあります。

紹介した病気の他にも、角膜潰瘍、マイボーム腺炎、鼻涙管閉塞、ドライアイ(乾性角膜炎)など、犬がかかりやすい目の疾患は多々あるのです。
後悔しないためにも、何らかの異変を感じた場合は早めに動物病院で診察を受けてくださいね。

近くの場所にかかりつけの病院をもっておき、定期的に通院したり、健康診断や眼底検査を受けるのもおすすめですよ。
 

◆健康な目を保つための適切な栄養と健康維持

適切な栄養素をしっかり補給させることや、日々のケアをきちんと行うことが、愛犬の目の健康を守るためにはとても重要です。
犬の目にとって良い効果をもたらしてくれる栄養素を紹介していきますので、サプリメントなどを利用してうまく摂り入れるようにしてみましょう。

【ルテイン】
水晶体などの酸化抑制、眼球内組織の保護、といった効果をもたらしてくれるルテイン。目の健康維持だけに留まらず、白内障などにも有効だといわれている栄養素です。ホウレン草などの緑黄色野菜に多く含まれているそうですよ。

【ビタミンA・C・E】
ビタミンA・C・Eには抗酸化作用があり、目の老化を遅らせる効果が期待できます。中でもビタミンAは、目の健康維持にとって重要な栄養素だといえるでしょう。
目の粘膜や網膜を健康に保つ、ドライアイや目の疲れを緩和する、暗い場所での視力を保つ、などの効力を発揮してくれるのです。
このビタミンAはβカロテンが体内で変換されることで摂取できるのですが、βカロテンを多く含む野菜としてはニンジンやホウレンソウが挙げられますよ。

【ミネラル類】
レバーや豆類などに多く含まれる栄養素のミネラル類。白血球を活性酸素から保護する働きをもっています。これより、視力を正常に保ち、目の疲れを緩和する効果をもたらしてくれるのです。

基本的な栄養バランスは総合栄養食であるドッグフードで賄うことが可能ですが、プラスして上記の栄養素を追加するのがおすすめです。目当ての栄養素が含まれる食材をトッピングとして利用したり、サプリメントを購入するなどして、愛犬に必要な栄養をサポートしてあげましょう。
また食事の他にも、目周りのケアが重要なポイントとなります。目周りの被毛やまつげが目の表面に刺激を与えて、何らかの疾患を誘発することも珍しくありません。
被毛が伸びても問題のない程度を把握して適度にカットしたり、清潔を保てるようこまめにケアすることをおすすめします。


まとめ

犬の目の見え方や人間との違いを知ることで、その分、愛犬への理解が深まったのではないでしょうか。
また、様々な目の病気について覚えておくことで、万が一に備えることもできますよね。
犬の目の疾患には先天性のものも多いですが、こまめなお手入れや健康維持に配慮した生活を送ることで、予防できるものもあります。
少しでも異常を感じたら、早めに獣医師に相談してみてくださいね。
できることにはどんどん取り組んで、愛犬の目の健康を守るよう尽力していきましょう。

※こちらの記事は、獣医師監修のもと掲載しております※
●記事監修
drogura__large  コジマ動物病院 獣医師

ペットの専門店コジマに併設する動物病院。全国に16医院を展開。内科、外科、整形外科、外科手術、アニマルドッグ(健康診断)など、幅広くペットの診療を行っている。

動物病院事業本部長である小椋功獣医師は、麻布大学獣医学部獣医学科卒で、現在は株式会社コジマ常務取締役も務める。小児内科、外科に関しては30年以上の経歴を持ち、幼齢動物の予防医療や店舗内での管理も自らの経験で手掛けている。
https://pets-kojima.com/hospital/

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壱子

壱子

子供の頃から犬が大好きです。現在はキャバリア4匹と賑やかな生活をしています。愛犬家の皆さんに役立つ情報を紹介しつつ、私自身も更に知識を深めていけたら思っています。よろしくお願いいたします!


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