感染症のしくみ
犬や人間が暮らす環境には、たくさんのウイルスや細菌が存在しています。なかには健康に重篤な影響をおよぼすものもあります。
◆感染症とは?
感染症は、ウイルスや細菌などの病原体が体内に入り込み、発生する病気のことを指します。
ウイルスは微小な病原体で、ウイルスが増殖するためには他の生きた細胞の中に侵入しなくてはなりません。
その結果、侵入された動物は重い感染症を引き起こすことがあります。特に抵抗力の弱い仔犬は感染症にかかると死亡する危険性が高まります。
これらウイルスはワクチン接種で予防できることが多く、愛犬の健康維持にも予防接種は心がけるようにしたいものです。
◆主な感染経路は4つ
①感染犬の咳やくしゃみから病原体が空気中にばらまかれそれを吸って感染する「空気感染」
②病原体が付着したものを口にする「経口感染」
③感染犬に接触してうつる「接触感染」
④出産の際の母体からうつる「母子感染」
感染しても必ず発病するわけではありませんが、発病すると症状が重くなり命にかかわることもあります。
また、人間に感染するものもあるので注意が必要です。
ワクチンにはどんな種類があるの?
犬の病気には、突発的なケガや事故、先天性や生活習慣病によるものなど様々ありますが、そのほかに細菌やウイルスの感染による「感染症」というものがあります。犬の「感染症」を予防するためには、ワクチン接種が必要です。
人間のインフルエンザ予防接種のように、犬の感染症にも予防のためのワクチンというものがあります。
主なワクチンの種類は、法律で接種が義務付けられている「狂犬病ワクチン」と、病気にならないために任意で接種する「混合ワクチン」の2つが一般的です。
感染症にはいろいろな種類があり、予防したい病気にあわせて接種するワクチンも変わります。
定期的にワクチン接種することで病気を予防でき、仮にかかったとしても軽症で済む場合が多くあります。
ワクチン接種が必要な理由は?
感染症は接触や空気感染などによって広がりを見せることが多く、症状の軽いものから重いものまであります。
「見えない病原体に負けないよう免疫力を付けておくこと」こそが、ワクチン予防接種を受ける理由の大切なところです。
また、日常生活でも、ワクチン接種の証明が必要な施設は多くあります。
ドッグランやドッグプール、ペット同伴可能の宿泊施設を利用したい場合、多くのペットが出入りをする関係上、狂犬病やワクチン接種の証明書の提示が必要な場合があります。
ペットホテルやサロンを利用したい場合にも、過去1年以内の混合ワクチンの接種を義務付け、証明書提示が必要なサロンがほとんどです。
ペット保険などで保険金を支払いすることができない事項には、「ワクチン等の予防接種により予防できる病気にかかった場合」などが記載されています。
ワクチン接種を受けさせる時期
海外では3年に1度のワクチン接種が主流の国もありますが、日本では、混合ワクチン・狂犬病ワクチン共に1年に1度の接種が一般的です。免疫を保てる期間は犬によって個体差があり、高い免疫力をキープするためにも、毎年接種しておくことが推奨されています。
また、仔犬期などは、母体から引き継いだ免疫が切れ始めるころを目安に、数回にわたり予防接種を行います。
これは、免疫力のない身体にウイルスが侵入してきた際、命に係わる重篤な症状が現れるのを防ぐためです。
感染症を予防するための「混合ワクチン」
飼い主が任意で受けさせる犬の感染症予防接種は、一般的に「混合ワクチン」と言われているものです。
人間でいうところのインフルエンザ予防接種もこのワクチンのようなもので、犬同士で広がり、症状が重篤化しやすいものを、未然に防ぐための物です。
◆混合ワクチンを受ける理由は?
任意のワクチンではありますが、それでも動物病院などで定期的にこれらの予防接種を受ける理由があります。
混合ワクチン予防接種は任意ではありますが、受ける理由として犬と人の行動範囲が広がりをみせている社会において、自分の犬だけでなく、相手の犬も感染症から守ることができるものだからです。
混合ワクチンは、組み合わせによって2種混合から11種混合まで種類があり、個体の状況や飼育環境などにより、複数の病気に効果的なワクチンを組み合わせ、一度に接種します。
コアワクチンの対象になる感染症
混合ワクチンのうち、致死率の高い感染症を防ぐため、生活環境に関わらずすべての犬が接種するべきと推奨されているワクチンを「コアワクチン」と言います。
コアワクチンの対象になる感染症には、以下のものがあります。
◆犬ジステンバー
感染力が高く、死亡率も高い病気。1歳未満の仔犬は特に注意が必要です。
– 原因 –
・感染犬の咳などによる空気感染のほか、感染犬との接触、ウイルスがついたものを口にして感染します。
– 症状 –
・初期は軽い発熱や食欲不振程度でそのまま治ることもあります。
・体力が低下した犬の場合、高熱、食欲低下、嘔吐、下痢、鼻水、せき、くしゃみなどが見られます。
・症状が進行すると、興奮、てんかん発作、体の一部がピクピク動くチック症状などの神経症状が見られます。
◆犬伝染性肝炎
離乳期以降から1歳未満の仔犬が感染し発症することが多い病気です。軽症のものから短時間で死亡するものまでさまざま見られ、混合感染で致死率が高まります。
– 原因 –
・感染力の高いウイルスで口から入ることにより、2~8日の潜伏期間を経たのち急性の肝炎になります。
– 症状 –
・元気の消失、食欲不振、鼻水などがみられます。
・40度以上の高熱が5日前後続いたりします。
・1歳未満の仔犬ではとくに症状を示すことなく突然死を起こすケースもあります。
他の感染症との混合感染によって死亡率が高くなるため、治療では二次感染を予防する抗菌薬の投与は欠かせません。ワクチンでの予防が必要です。
◆犬アデノウイルスⅡ型感染症
犬伝染性喉頭気管炎とも呼ばれ、乾燥した感じの短い咳が特徴です。
– 原因 –
犬アデノウイルスⅡ型とパラインフルエンザウイルス、マイコプラズマ、ボルテデラ菌などが原因になります。
– 症状 –
・がんこな咳が主な症状。
・運動時や興奮時などに咳は発作的に現れることがありますが、日常的には比較的元気に過ごしていることが多いです。
・微熱とともに数日間で咳が収まれば問題はありませんが、混合感染を起こすと高熱が出て肺炎へと移行するおそれがあります。
感染犬の咳やくしゃみで飛沫感染が広がっていくのでワクチン接種による予防と飼育環境を衛生的に保つことが大切です。
◆犬パルボウイルス感染症
伝染力が強く致死量が高い病気です。抵抗力の弱い幼犬では、治療が遅れると2日以内に9割が、成犬でも2~3割は死亡するといわれています。
– 原因 –
・パルボウイルスに感染した犬の便や嘔吐物などに触れたり、食べたりした場合に接触感染します。
– 症状 –
・初期症状は嘔吐と下痢が続きます。
・脱水症状などを起こして数日以内に死亡する危険性の高い病気です。
・激しい下痢に続き、血液の混じった粘血液便がでるようになります。
・白血球の減少もみられます。
犬パルボウイルスに対する薬はありませんが脱水症状や対処治療やほかの感染を予防する抗菌薬の投与などを行います。
ワクチンでの予防が重要です。
ノンコアワクチンの対象になる感染症
飼育環境によって接種を推奨されているワクチンは「ノンコアワクチン」といいます。
ノンコアワクチンの対象になる感染症には、以下のものがあります。
・犬パラインフルエンザウイルス感染症
・犬コロナウイルス感染症
・犬レプトスピラ(イクテモヘモラジー)
・犬レプトスピラ症(カニコーラ)
法律で義務付けられているワクチンがあるって本当?
法律で犬への接種が義務付けられているワクチンがあります。それは、「狂犬病ワクチン」です。
日本では狂犬病予防法に基づき、91日齢以上の犬は1年に1回の狂犬病ワクチンの接種と登録が以下の通り義務付けられています。
◆狂犬病予防法に基づく飼い主の義務
◇市町村に犬を登録すること(その犬を所有してから30日内に市町村に犬の登録)
◇犬に毎年狂犬病の予防注射を受けさせること
◇犬に鑑札と注射済票を付けること
◆狂犬病とは?
狂犬病とは、狂犬病ウイルスを病原体とする人獣共通感染症です。
犬はもちろん、私たち人間を含むすべての哺乳類に感染し、発症すると100%が死に至るおそろしい病気です。
◆狂犬病のワクチンを受ける理由は?
法律で予防接種の義務化をしたことで、日本では1957年以降狂犬病の国内発生はみられません。
しかし、狂犬病は「日本では起きない感染症」ということでは決してありません。
アジアやアメリカなど日本の周辺国を含む世界のほとんどの地域では狂犬病が発生しており、海外旅行などの際に狂犬病ウイルスが国内に持ち込まれる可能性は十分考えられます。
万が一国内で狂犬病が発生した際、飼い主一人一人がしっかり愛犬にワクチンを接種させ、狂犬病をまん延させないことが重要です。年に1回の狂犬病ワクチンの予防接種を受けることは、国レベルでの狂犬病対策となります。
◆狂犬病の症状
- 一般的に食欲不振などの全身症状を経て狂暴になります。
- 異常に吠えたて、人間でも動物でも見境なく噛みつくようになります。
- 顔つきも狂暴になります。
- この時期を過ぎると大量のよだれを流し徐々に体が麻痺してきます。
- やがて起きあがれなくなり死亡します。
- 発症から死亡までは5~7日ですが発症後にすぐに麻痺状態に移行し2~4日で亡くなるケースもあります。
◆狂犬病ワクチンの接種時期は?
一般的には、4~6月に登録の自治体より狂犬病ワクチン接種の案内が届きます。
公園などの会場で集団接種を行う場合と、動物病院を受診し受ける場合があります。
また、仔犬期はほかのワクチン接種もあるので、獣医師と相談のうえでワクチンプログラムを進めていきます。
室内犬でもワクチンは必要?
室内飼育でもウイルスに感染する可能性はあるので、狂犬病ワクチン接種は当然のこと、任意の混合ワクチンにおいても接種しておくことが望ましいでしょう。
室内飼育だからといって、必ずしも大丈夫だと安心することは出来ません。
散歩や動物病院に連れていったり、トリミングサロンやペットホテルなどを利用する機会は少なからずあると思います。
公共施設や動物を取り扱う施設では、細菌やウイルスの感染を防ぐための消毒は常にしています。
しかし、不特定多数の犬と接触する機会がある公共施設では、そこを利用しに来ている犬たちが、感染症を患っているかどうかということまではわかりません。
ワクチン接種を受けるのは、1頭の命を守るということと、全体の接種率を高めて病気を減らすということでも大切なことだと言えます。犬を飼っている人たちみんなが、飼っている他の人や犬たちのことも考えて予防していく、社会的責任ともいえます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
かかってからでは治せない、手遅れになってしまう感染症も多くある中で、ワクチン接種予防はそれらを未然に防ぐことができる唯一の方法です。
混合ワクチンと狂犬病ワクチンを受けることは、愛犬だけの命だけでなく、他の犬の命、そして人間の命も守ることにつながります。不要な病気感染を予防するためにも、必ず愛犬に予防接種をうけさせるようにしましょう。
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