1.塩分の役割は?
1-1.細胞の電気情報を伝達する役割
1-2.浸透圧を調整する役割
3.塩分不足に要注意!
3-1.塩分不足の場合に犬がみせる行動例
3-2.塩分不足になるとどうなる?
3-3.手作り食による塩分不足
【掲載:2019.04.01 更新:2020.07.14】
塩分の役割は?
人間においても塩分の過剰摂取は健康に良くないとされており、犬にとってもそれは同じです。
一般的にも、犬に塩分は良くない!との考え方が浸透しているので、犬にとって塩分が悪い存在であるように感じてしまいますよね。
しかし、塩分にも大切な役割があり、人間と犬の両者にとって必要不可欠な成分といえるのです。
まずは、塩分が持つ主な役割をみていきましょう。
◆細胞の電気情報を伝達する役割
細胞膜は、細胞内部にカリウムイオン、細胞外部(血液)にナトリウムイオンの多い状態を仕切る働きをしています。
情報の伝達は電流を起こして行われるのですが、これは細胞膜が一時的にイオンの透過性を変化させることで、ナトリウムを細胞内部へ、カリウムを細胞外部へと逆転させることで起きています。
この電流は微細なもので、細胞外液のナトリウムイオン・カリウムイオンが、一定のレベルに保たれていないと上手く発生しません。電流の発生が上手くいかなければ、神経の情報伝達、心臓の収縮などに不具合が生じます。
細胞の電気情報が伝達されなければ、生物は生きることができないのです。
ナトリウムとカリウムがとても重要な成分である、細胞の電気情報の伝達が生きる上で必要不可欠である、ということが分かりますね。
ここで大切な成分の一つとして、塩分が挙げられます。
塩分はナトリウム濃度を維持するために欠かせない成分であり、電気情報の伝達にとっても重要な存在だといえます。
塩の主成分は塩化ナトリウムであり、代表的なミネラルです。電気情報伝達の他にも、栄養素(アミノ酸など)の吸収や運送に関わっており、ミネラルバランスを保つためにも必要不可欠な存在といえるでしょう。
◆浸透圧を調整する役割
塩分の主成分であるナトリウムには、カリウムと共に水分バランスを維持したり、細胞外液の浸透圧を調整するという大きな役割も担っています。浸透圧が一定の状態でなければ、細胞がしぼんだり、水膨れとなってしまうのです。
水中毒と呼ばれる病気を知っているでしょうか?これは一度に多量の水を摂取することで、血液の浸透圧低下を招き、結果、赤血球が膨らんでパンクすることで、溶血性貧血を起こすものです。
血液の浸透圧の調整は、水の量とナトリウムでされています。この場合に塩分を摂取すると、ナトリウムが浸透圧を調整するので、赤血球の破壊を防ぐことができます。
塩分の過剰摂取はもちろん危険ですが、塩分不足も健康にとっては良くないことだということが分かりますね。
犬は人間と比べると、塩分に対して鈍感だといえます。塩分に対する感覚が人間ほど発達していないのです。
そのため、塩分不足や過剰摂取に関しては、飼い主さんがしっかりと管理する必要があります。
犬は1日何グラムの塩分が必要?
それでは、犬にとって必要な塩分の量はどれくらいなのでしょうか。適切な管理をするためにも、チェックしておきましょう。
犬の身体に必要なナトリウムの摂取量は、成犬一日の推奨値で体重1kgあたり50mgといわれています。
体重が10kgの犬の場合、500mgのナトリウムを必要としているということですね。
ちなみにこれに対して、成犬一日の推奨食餌許容量は体重1kgあたり25~50mgだそうです。
このナトリウム摂取量を塩分に換算すると、愛犬の体重が10kgであれば1.27gとなります。食材で例を挙げると、ロースハムの薄切りであれば2枚半(1.25g)、ちくわが2本で約1gです。
ナトリウムを塩に変換する場合は、以下の計算式を使用します。愛犬の体重を当てはめて、一度チェックしてみましょう。
人間の場合、一日に必要な塩分量目標値は5g未満とされています。これはWHO(世界保健機関)が推奨する数値であり、厚生労働省による目標値の場合は、男性8g、女性7gとされています。
ここで、上記の計算式を使用して体重が60kgある犬の食塩相当量を計算してみましょう。
ex:体重60kgの成犬
① 60kg×50mg=3000mg
② 3000mg×2.54÷1000=7.62g
この数値の結果から、成人男性が60kgである場合に、犬と人間とでの塩分推奨量に大差ないことが分かりますね。
一般的に広まっている「犬に塩はよくない」される考え方は、犬がもつ感覚が塩に対して鈍いため、適切な管理が必要だからだということが正当な理由といえるでしょう。決して、犬に塩を与えてはいけない、ということではありません。
更に、「塩分は汗をかくことで排出される」という知名度の高い体のメカニズムからも、「犬は汗をかかない分、塩分を与えてはいけない」と考える方も多いでしょう。
しかし、実は人間も犬も、摂取した塩分の多くは尿により排出しているのです。
確かに、人間と比べて犬はほとんど汗をかきませんが、塩分排泄能力は人間よりも高い、といわれているそうですよ。
塩分不足に要注意!
塩分は犬にとって悪者ではなく、必要不可欠な成分であることが認識できたでしょうか。飼い主さんは日頃から、愛犬に与える塩分の調整について、頭に入れておかなければなりませんね。
犬が塩分不足となった際にみせる行動がありますので、参考までに覚えておきましょう。
◆塩分不足の場合に犬がみせる行動例
①頻繁に足の裏を舐める
②人の手足をやたらと舐める
③コンクリート・土・オシッコなどを舐める
④排尿後に陰部を入念に舐める
これらの行動が愛犬にみられたら、塩分不足を疑う必要があります。日頃の食事やおやつなど、食生活を思い返してみましょう。
◆塩分不足になるとどうなる?
塩分の不足によりみられる症状には、倦怠感や食欲不振、血液濃縮、筋肉痛などがあります。悪化すれば精神障害を引き起こす可能性も考えられます。
慢性的に塩分不足が続いた場合、下痢や嘔吐の症状もみられ、自力で立ち上がるのが難しくなるケースもあるのです。
重症化すれば、シュウ酸カルシウム結石ができやすくなったり、尿の色が濃い黄色となります。更に、腎臓の数値も上がり始めてしまいます。
少しでも異常がみられたり、塩分の不足が疑われる場合は、早めに獣医さんに相談しましょう。意識が朦朧としていたり、運動能力の衰えがみられる場合は、迅速な対応が必要となります。
普段の愛犬の様子を把握しておくこと、食生活の管理をきちんとすることが重要です。
◆手作り食による塩分不足
ちなみに犬が塩分不足に陥るケースには、普段のフードを手作り食にしている場合が多いようです。塩分を抑えるために塩を全く使用していない、という方も中にはいるかもしれませんが、栄養分の見直しは必要かもしれません。
犬にとって塩分は、適切な量の摂取が必要不可欠な成分であり、塩分不足は健康被害に繋がると紹介してきました。普段の生活から塩分を遠ざけるのではなく、あくまでも適量の摂取が必要だということです。
塩分の摂りすぎにも要注意!
不足とは反対に、塩分の過剰摂取に対しても同様に気を付けなければなりません。犬が塩分を過剰に摂りすぎた場合、大きなリスクを招く可能性があります。
◆腎臓や心臓の疾患がある犬
健康状態の犬の場合、塩分の適切な量を摂取していれば、排泄機能がきちんと働いています。
しかし、塩分過剰摂取に対してより注意が必要なのは、愛犬が腎臓や心臓の疾患を持っている場合です。腎臓・心臓に疾患がある場合、排泄機能が制限されてしまい、病気が悪化するという大きなリスクがあるのです。
特に慢性腎臓病の場合、病状の早期発見は難しくなります。塩分の摂取に対して、十分な注意を払いましょう。
愛犬が腎臓・心臓疾患を患っているという飼い主さんは、塩分の過剰摂取によって病状が進行しないよう気を付けてくださいね。
ちなみに人間の場合、塩分の過剰摂取は高血圧・胃がんを引き起こしやすくなるといわれています。これに関しては、犬の場合、現在までに認められてはいないようです。
高血圧に関しては、過去に塩分過剰摂取によるリスクが指摘されていたこともありましたが、多くの研究結果によって高血圧が認められないと報告されています。
愛犬の食生活を管理しよう!
塩分の摂取不足、過剰摂取を防ぐためには、食生活をきちんと管理することが大切です。
手作り食を普段のドッグフードとして与えている場合は、使用している食材の栄養バランスや、成分を把握して栄養不足を招かないよう注意することが必要となります。
市販のドッグフードを与えている場合には、加えて塩分を与える必要はありません。一般的なドッグフードには元々塩分が添加されていることがほとんどです。
愛犬のおやつの場合、塩分量が多く含まれるものは沢山あります。塩分を抑えたい個体はもちろん、健康体である場合にも与えすぎには注意しましょう。
ちなみに、犬用ジャーキー・犬用ビスケットで100gあたり1~3g、犬用煮干しで100gあたり3~5g、食パンが100gあたり1.3g、チーズの場合は100gあたり2.8gほどの塩分が平均的に含まれているようです。
愛犬の健康状態や体格、食事の摂取量を把握して、長生きできるように努めてあげたいですよね。
犬に必要な塩分に関するまとめ
塩分は決して不必要なものではありません。しかし、与える量は適切でなければいけません。
細かい計算は苦手だ…という方も中にはいるでしょう。しかし、一度愛犬にとっての塩分推奨量の計算にチャレンジしてみてください!大体の数値がみえてくるだけでも、今後の食生活に注意しようという意識が芽生えてくると思います。
愛犬は大切な家族の一員です。末永く日々を共にするためにも、いつまでも健康でいてほしいですね。
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